転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

564 / 564
第10章ー21

 「風の防御魔法。ふん。こんなものか」

 

 吐き捨てるような声が響いた――その直後だった。

 

 空気が、裂けた。

 

 「くっ!?」

 

 「……ウソ」

 

 次の瞬間、ブラムの姿が視界から消える。

 

 いや――消えたように見えただけだ。

 

 直後、自分とマヒロの間を、一つの影が突き抜けていった。

 

 あまりにも速い。

 

 視界に捉えられたのは、残像とも呼べないほど僅かな一瞬だけだった。

 

 もし、あと一歩。

 

 ほんの僅かでも判断が遅れていたら――自分達は、ミオの防御魔法ごと貫かれていた。

 

 そう考えた瞬間、背筋を冷たい汗が伝う。

 

 だが――

 

 魔力感知を使っていて正解だった。

 

 攻撃の直前、一瞬だけブラムの気配を見失いかけた。

 

 それでも、完全に見失ったわけではない。

 

 奴が直線的に突っ込んでくる可能性は、最初から想定していた。

 

 真正面から迎え撃つのは危険。

 

 それは、先ほどマヒロの【鳴雷】を指二本で易々と受け止めた光景を見た時点で、嫌というほど理解していた。

 

 だからこそ、自分は僅かに身体を横へずらしていた。

 

 完全な回避じゃない。

 

 攻撃を避けきるためではなく、死角へ回り込み、反撃へ繋げるための最低限の判断だ。

 

 ――それでも。

 

 ここまで簡単に防御を破られるとは、思っていなかった。

 

 素手で、だぞ?

 

 あの強固な【乱気流の城壁】を、拳一つで。

 

 魔法を展開したミオも、言葉を失ったまま立ち尽くしている。

 

 「…………」

 

 その顔には、明らかな動揺が浮かんでいた。

 

 無理もない。

 

 あれほどの防御魔法を、一撃で粉砕されたんだ。

 

 どれほどの膂力を秘めているんだ、こいつ。

 

 改めてブラムの姿を見る。

 

 細身の身体。

 

 筋骨隆々とは程遠い。

 

 むしろ余分なものを削ぎ落としたような、引き締まった体躯だ。

 

 グリムフィッシャーの時とは、明らかに違う。

 

 あいつは一目見ただけで、圧倒的なパワーを持っていると分かる巨体だった。

 

 だが、ブラムにはそうした分かりやすさがない。

 

 見た目だけなら、そこまで異常な怪力を持っているようには見えない。

 

 ――なのに。

 

 マヒロの一撃を、指二本で止めた。

 

 そして今しがた、ミオの防御魔法を拳一つで打ち砕いた。

 

 その二つの光景が、頭の中で繋がりかけた――その時だった。

 

 「ッ!?」

 

 視界の端に、ブラムの右腕が飛び込んできた。

 

 赤い。

 

 異様なほどに、赤い。

 

 腕そのものが赤く膨張している。

 

 まるで大量の血液が一箇所に集まっているようにも見える。

 

 それでいて、皮膚の内側から何かが発光しているようにも見えた。

 

 通常より一回りほど太くなった腕。

 

 その表面には無数の血管が浮かび上がり、脈打つたびに赤い色が濃くなる。

 

 「……」

 

 ――これか。

 

 マヒロが見たと言っていた、あの赤い光。

 

 恐らく、これがその正体だ。

 

 強化魔法……?

 

 いや。

 

 それにしては、何かがおかしい。

 

 魔力の流れが、通常の強化魔法とは明らかに違う。

 

 身体の表面に魔力を纏わせているわけじゃない。

 

 魔力によって肉体そのものを強化している――というより。

 

 肉体そのものが、別の何かへと変質しているように見える。

 

 まるで――

 

 「サダメ!」

 

 「ッ!?」

 

 思考を断ち切るように、マヒロの叫び声が響いた。

 

 反射的にそちらへ視線を向ける。

 

 マヒロは、すでに刀を納めていた。

 

 いつでも抜刀できるように腰を落とし、全身に張り詰めた緊張を纏っている。

 

 次の一撃へ備えた構え。

 

 ――そうだ。

 

 考えている場合じゃない。

 

 今の自分は、何もできていない。

 

 防御魔法は破られた。

 

 ブラムの動きにも、まだ完全には対応できない。

 

 このまま受け身に回っていたら、ただ一方的に蹂躙されるだけだ。

 

 なら――

 

 せめて、一撃。

 

 何でもいい。

 

 傷一つでもいい。

 

 まずは、こいつにダメージを与えなければならない。

 

 そうしなければ、突破口すら見えてこない。

 

 「はあっ!」

 

 自分は即座に方針を切り替えた。

 

 業火剣を強く握り締める。

 

 迎え撃つんじゃない。

 

 こちらから攻める。

 

 逃げるのではなく、踏み込む。

 

 「抜刀! 【水龍】!!」

 

 ほぼ同時だった。

 

 反対側から、マヒロも地面を蹴る。

 

 左右からの挟撃。

 

 二人で同時に距離を詰め、ブラムに反撃する暇を与えない。

 

 狙いは単純だ。

 

 腕でもいい。

 

 脚でもいい。

 

 とにかく、どこか一つ。

 

 部位を斬り落とす。

 

 いくら不死身だろうが、攻撃するための身体がなければ意味がない。

 

 再生能力への対策は――その後で考えればいい。

 

 今は、とにかく一撃を通す。

 

 「はあっ!!」

 

 短く、力のこもった声を上げる。

 

 業火剣を振り抜く。

 

 同時に、マヒロの刀も閃いた。

 

 左右から迫る、二つの刃。

 

 逃げ場はない。

 

 これなら――!

 

 そう思った。

 

 次の瞬間。

 

 「なっ!?」

 

 「ぬっ!?」

 

 キィィィィンッ!!

 

 甲高い金属音が響き渡った。

 

 ――止められた。

 

 自分の刃も。

 

 マヒロの刃も。

 

 ブラムには、届いていない。

 

 奴は両腕を交差させるように構え、左右から迫った二つの斬撃を――真正面から受け止めていた。

 

 「…………」

 

 理解が追いつかない。

 

 いや。

 

 それ以前に、目の前の光景を信じられなかった。

 

 左右からの同時攻撃。

 

 しかも、全力で踏み込んだ一撃だ。

 

 それを――

 

 防いだ。

 

 ただの両腕で。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

俺がカードゲームで無双できる都合のいい世界 〜カードゲームアニメの世界に転移したけど、前の世界のカード持ち込めたので好き放題します〜(作者:鴨山兄助)(オリジナル:現代/ノンジャンル)

「ハズレSRの買取価格が1枚100万円超えるとか嘘だろ!?10枚あるよ!」▼ 転移先は、カードゲーム至上主義世界でした。▼ TCG『モンスター・サモナー』が好きな大学生主人公、天川ツルギ。▼ ある日彼は、目が覚めると中学生時代に戻っていた。▼ しかも、戻っていたのはツルギの家族もである。▼ 状況確認のためにつけたテレビから流れるのは、大量のモンスター・サモナ…


総合評価:4866/評価:7.89/連載:281話/更新日時:2026年11月04日(水) 19:27 小説情報

人とはこの世で最も醜悪な獣の総称である。(作者:顔のない女@人外ものしか書けない人)(オリジナル:現代/恋愛)

人付き合いがとても苦手で、教室の隅で息を潜めて震えながら生きてきた少女には、画面越しにしか愛せない推しがいた。▼ところがその推し——超大手VTuberの彼女は、偶然にもクラスに在籍していて、しかも彼女は少女が自分のガチ恋だと知ったうえで、距離を詰め、からかい、やりたい放題してしまう。▼やがて限界を超えた少女は、ある日の教室で魔が差し、最推しの彼女の唇を奪って…


総合評価:658/評価:8.47/完結:111話/更新日時:2026年08月03日(月) 23:05 小説情報

「力が欲しいか?」と言いたくて!(作者:桃たろす)(原作:魔法少女リリカルなのは)

「力が欲しいか?」▼ ただ、その一言が言いたかった。▼ 黒衣に身を包み、黒鍵を振るい、意味深に笑う。▼ そんな男が転生したのは、魔法少女たちが愛と勇気で奇跡を起こす世界だった。▼ これは、正義の味方でも悪の化身でもない、一人の魔術師が『根源』を目指す物語。▼ なお、本人に世界を救う気はない。▼【挿絵表示】▼


総合評価:835/評価:6.59/連載:59話/更新日時:2026年10月27日(火) 22:53 小説情報

正体不明な拾った少女が実は闇堕ちした推しヒロインだってことを俺はまだ知らない〜「ごめん、俺は聖女が好きなんだ」「……それ、私ですよ?」〜(作者:水葉わいん)(オリジナル:ファンタジー/恋愛)

▼RPG世界のモブに転生した俺は、路地裏で横たわる正体不明の少女リアを拾った。▼しかし――リアの正体は闇堕ちした推しヒロインだった。▼「えへへ、ぎゅ〜っ!♡」▼俺は正体に気付かずに家にリアを住まわせていくと……なんだか、デレ始めて……?▼「あ、あの……好きです!」▼「ごめん、俺は聖女が好きだから……」▼「聖女? それ、私ですよ?」▼「……え?」▼結果、両想い…


総合評価:1017/評価:8.38/連載:43話/更新日時:2026年10月11日(日) 07:18 小説情報

俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど!(作者:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!)(オリジナル:ファンタジー/コメディ)

『ドラゴ・マギカ・クロニクル』 ▼ ドラゴン娘を育てて世界を救うという何とも特徴のない擬人化ゲーの世界に『カラバ・イルマイト』として転生して来た俺は特に波乱も無くモブとして生きていた。▼ シナリオの端っこでいつの間にか殺されているという様なことが無いことを願いつつ、ゲームのチュートリアルイベントで召喚したドラゴン娘は『R』でも『SSR』でも『UR』でも無かっ…


総合評価:1766/評価:8.36/連載:49話/更新日時:2026年11月04日(水) 23:35 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>