転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第10章ー23

 「ぐあっ!?」

 

 耳を裂くような叫びが、戦場に響き渡った。

 

 「サダメ!?」

 

 反射的に視線を向けた瞬間、胸が強く締め付けられる。

 

 ブラムと名乗る吸血鬼の男。

 

 あやつは拙者とサダメ、二人から同時に攻撃を受け止めた直後――迷うことなく、サダメただ一人へ狙いを定めていた。

 

 そして。

 

 拳を振り抜いた。

 

 速い。

 

 否――速いなどという言葉では、到底足りぬ。

 

 拳を振るった、というより。

 

 気付いた時には、もうそこに拳があった。

 

 まるで――最初から、そうなることを知っていたかのような動き。

 

 「ッ……!」

 

 サダメも咄嗟に剣を構え、防御の姿勢を取る。

 

 判断そのものは正しい。

 

 だが――

 

 「ガァンッ!!」

 

 鈍く、凄まじい音が響いた。

 

 ブラムの拳が、サダメの剣へ真正面から叩き込まれる。

 

 金属が悲鳴を上げた。

 

 火花が散る。

 

 そして次の瞬間――

 

 「ぐあっ!?」

 

 衝撃に弾き飛ばされ、サダメの身体が宙を舞った。

 

 「サダメ!」

 

 思わず叫ぶ。

 

 だが――すぐに意識を切り替えた。

 

 まだだ。

 

 あやつは、サダメを“殺しに行った”わけではない。

 

 吹き飛ばされたサダメを見れば分かる。

 

 致命傷ではない。

 

 だが、確実に戦線から排除するための一撃だった。

 

 ――生きてはいる。

 

 それだけは間違いない。

 

 しかし、あの男が追撃を選べば話は別。

 

 今のうちに止めなければ、サダメは――

 

 「おのれ!!」

 

 怒号と共に、拙者は地を蹴った。

 

 その瞬間だった。

 

 サダメが吹き飛ばされた直後――ブラムの意識が、一瞬だけ拙者から外れた。

 

 「……!」

 

 好機。

 

 考えるより先に身体が動いていた。

 

 一気に間合いを詰める。

 

 正面ではない。

 

 背後へ回り込む。

 

 二人を相手にしていたからこそ、あやつは一方を先に排除した。

 

 ならば――そこには必ず隙が生まれる。

 

 その隙を逃すほど、拙者は甘くない。

 

 「抜刀!」

 

 魔妖を一度、鞘へ戻す。

 

 水龍では通らぬ。

 

 鳴雷も見切られた。

 

 ならば――今度は小細工なし。

 

 正面から、力で叩き潰す。

 

 「【赤鬼】!!」

 

 名を叫んだ瞬間、魔力が全身を駆け巡った。

 

 髪が赤く染まり、瞳が燃えるような色へと変わる。

 

 筋肉が軋む。

 

 骨が震える。

 

 そして――全身から湧き上がる膂力が、明確に増していく。

 

 【赤鬼】。

 

 純粋な身体強化。

 

 余計な技巧など必要ない。

 

 ただ力を高め、目の前の敵を叩き斬る。

 

 これならば。

 

 この力ならば――

 

 いくらあやつの腕が硬化していようと、叩き潰せる。

 

 そう、確信した。

 

 ――はずだった。

 

 「なっ!?」

 

 背筋に悪寒が走る。

 

 背後を取った。

 

 確かに、そのはずだった。

 

 なのに――

 

 ブラムが、こちらを向いている。

 

 「……ッ」

 

 速すぎる。

 

 いや。

 

 これは、反応速度などという次元ではない。

 

 まるで――

 

 拙者が背後へ回り込むことを、最初から分かっていたかのような動き。

 

 「はあっ!」

 

 もう迷っている暇はない。

 

 振り抜く。

 

 魔妖の刃が、ブラムへ迫る。

 

 対するあやつは、腕を構えた。

 

 次の瞬間――

 

 「ガキィィンッ!!」

 

 刃と腕が、正面から激突した。

 

 「ぐっ!?」

 

 火花が散る。

 

 凄まじい金属音が鳴り響いた。

 

 反撃に出たはずだった。

 

 なのに――

 

 鍔迫り合いに持ち込まれている。

 

 「くっ……!」

 

 力を込める。

 

 さらに押し込む。

 

 だが――刃が食い込まない。

 

 傷一つ、付けられない。

 

 つい先ほどまでなら、何度も斬り裂いていたはずの腕。

 

 それが今は、まるで別物だ。

 

 ――硬い。

 

 あまりにも、硬い。

 

 これが――三割。

 

 ブラム自身がそう言っていた。

 

 まだ三割しか力を出していない。

 

 それなのに。

 

 【赤鬼】を発動した拙者の一撃が、まるで通じぬ。

 

 「どうした?」

 

 ブラムが、余裕のある声で問いかけてくる。

 

 「貴様は見たところ、一対一の戦いでこそ実力を発揮する者だと思っていたが?」

 

 「……ッ!?」

 

 その言葉を聞いた瞬間――腑に落ちた。

 

 そういうことか。

 

 あやつは、最初から――

 

 「なるほど……それで、最初にサダメを」

 

 ブラムは、拙者と一騎打ちをするつもりなのだ。

 

 そのために。

 

 邪魔になるサダメを、先に排除した。

 

 最初から、狙いは決まっていた。

 

 拙者と戦うために。

 

 この状況を、意図的に作り出したのだ。

 

 「……ふっ」

 

 思わず、口元が僅かに緩む。

 

 なんとも皮肉な話でござる。

 

 敵に気に入られ、わざわざ一騎打ちの相手として選ばれるなど。

 

 普通ならば、笑えぬ冗談だ。

 

 だが――

 

 胸の奥が、静かに熱を帯びていく。

 

 久しい。

 

 これほどまで明確に、“戦う相手”として選ばれたのは。

 

 強者が、拙者を敵として認めている。

 

 それも、ただ倒すべき相手としてではない。

 

 自分と一対一で戦う価値がある者として。

 

 その事実が――武人としての心を、強く刺激していた。

 

 恐怖はある。

 

 目の前の男が、自分より遥かに強いことも理解している。

 

 それでも。

 

 だからこそ――燃える。

 

 この程度の実力差で、退くなど。

 

 剣士の名が泣く。

 

 「よかろう」

 

 拙者は鍔迫り合いのまま、決して視線を逸らさない。

 

 刀を握る手へ、さらに力を込める。

 

 「貴殿との果し合い――」

 

 赤鬼の魔力が、全身で猛る。

 

 押し返されそうになる身体を踏ん張り、真正面からブラムを睨み据える。

 

 「このマヒロ・トーエンが、受けて立とう!」

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