「『作戦会議は終わりましたか?』」
自分がミオへ策を伝え終えた時、エイシャはすでに魔法を放てる体勢でこちらを見据えていた。
余裕そのものの態度。――当然だ。純粋な実力差だけを見れば、こちらが勝っている要素など皆無に等しい。
奴にとって自分たちは、逃げ回る兎程度の存在なのだろう。
だが――その慢心こそが、こちらの唯一の勝機。
見せてやる。
舐めた兎が、牙を持っていることを。
「いくぞ、ミオ!」
「うん!」
背後で自分にしがみつくミオへ合図を送る。
同時に、彼女の周囲から渦巻く風が発生し、自分たちを包み込んだ。集中しているせいか、抱きつく腕の力が強まり、肋が軋む。しかし今は気にしていられない。
「『黒影《ダーシャ》……』」
詠唱が始まる。
それを見た瞬間、自分は脚へ魔力を叩き込み――
「はあっ!!」
脱兎跳躍《ラジャスト》。
地面を蹴り抜くようにして、真上へ跳び上がる。
「ううっ!!」
直後、ミオの風魔法が解放され、暴風が背中を押す。
自分たちは夜空へと射出されるように上昇し、空気抵抗が肌を切り裂く。
――速い。想定以上だ。
「『多槍《メニスピア》!』」
「ッ!?」
エイシャの声と共に、黒い槍が空を裂いて現れる。
しかも正面だけではない。背後、真下――影の中から無数に湧き出していた。
気づくのが一瞬遅れていれば、背中から貫かれていた。
「『なるほど。上へ逃げましたか』」
エイシャの影魔法は、地面を媒介に発動する性質が強い。
不意打ち、死角攻撃、魔力感知のすり抜け――厄介極まりない。
父はそれを読み切って戦っていた。
だが、今の自分に同じ芸当はできない。
ならば発想を変える。
地面を捨て、空へ逃げる。
空中なら、影は「見てから」対処できる。
「『しかし、上へ逃げたところで――この数を避けきれますか?』」
「くっ……!」
問題はそこだ。
黒い槍は執拗に追尾してくる。射程は不明。高度はすでに十階建ての建物を超えているはずだが、それでも追ってくる。
これ以上上へ逃げれば、寒さと酸素の薄さで自滅する。
――ここで決めるしかない。
「業火の炎よ。鉄より硬き剣となり、我が元に顕現せよ――
【業火剣《ヘルファード》】」
詠唱と共に、灼熱の剣が掌に現れる。
「ミオ、解除!」
「う、うん!」
風魔法が解除され、身体を包んでいた暴風が消える。
一瞬の浮遊感の後、自分たちは重力に引かれ下降を始めた。
「……ふぅ」
息を整え、視線を迫り来る黒槍へ向ける。
――ここからは自分の仕事だ。
空中で槍を捌き、隙を作り、奴へ一撃を叩き込む。
夜空の中、無数の黒い槍が自分たちへ殺到してきた。