「はああああああ゛っ!!」
迫り来る黒い槍を、一つ、二つ、三つ――業火剣で弾き返す。
火花と黒影が空中で交錯し、夜の大地に乾いた衝突音が連続して響いた。
なんとか捌けてはいる。
だが、槍は尽きることなく地面の影から生まれ、まるで生き物のように自分たちを追い詰めてくる。
少しでも気を抜けば即死。
息を吸うたび、肺の奥が焼けるように痛む。
それでも――この嵐の中で、奴へ一撃を叩き込まなければならない。
冷静に考えれば無謀もいいところだ。
父ですら命を賭して挑んだ相手。
その背中を、ただ見ていただけの自分が勝てるはずもない。
だが、正面から勝てる力がない以上、賭けに出るしかない。
「サダメ、上っ!」
「ッ!?」
ミオの悲鳴に反応し、咄嗟に視線を上げる。
弾いたはずの黒槍が、今度は上空から落雷のように迫っていた。
「くぅっ!」
頬を掠め、熱い血が流れる。
皮膚が裂ける痛みよりも、死の距離が近い恐怖が背筋を冷やす。
だが、致命傷は避けた。
――まだ、動ける。
次の瞬間、今度は下から別の槍が突き上がってくる。
「ん゛ん゛ん゛っ!」
身体が悲鳴を上げる。
回避が間に合わない――そう思った刹那。
「『なにっ!?』」
先ほど弾いた槍の一本が、直下へと落下していた。
自分はその中腹へ足をかけ、脱兎跳躍《ラジャスト》で踏み台にする。
空中で方向を変える無茶な機動。
骨が軋み、内臓が浮く感覚。
だが、そのおかげで槍の包囲網からわずかに距離を取れた。
――今だ。
この一瞬を逃せば、次はない。
賭けに出るなら、ここしかない。
「ミオ! 目を閉じろ!」
「う、うん!?」
背後のミオに叫び、右手の平を地上へ向ける。
鼓動が耳を打ち、魔力が指先に集束していく。
「瞬く光耀よ、我らを照らす道標となりて――」
普段なら火球を選ぶ。
扱い慣れた、破壊の魔法。
だが今回は違う。狙うのは攻撃ではなく、“封殺”。
影を操る者にとって、最大の天敵は――光。
通じる保証はない。
この世界の理すら、確信しているわけではない。
だが、やるしかない。
「【
放たれた光球は、照明用の穏やかな灯りでは終わらなかった。
魔力を限界まで注ぎ込んだそれは、巨大な光柱へと変貌し、夜空を裂いて地上へ降り注ぐ。
白。
ただひたすらに白。
月明かりすら霞むほどの、純白の輝き。
「『ッ!? なんだ、この魔法は?!』」
光柱はエイシャを呑み込む。
その瞬間――黒槍が歪み、震え、影が輪郭を失っていく。
一つ、また一つと、影の槍が霧散して消えていった。
地面に刻まれていた黒い紋様すら、焼き払われるように薄れていく。
――やはり。
影は光によって生まれる。
だが、この光は影を許さない。
影を“映させない”ほどの過剰な輝度。
「よし……効いてる!」
自分は右手を高く掲げる。
心臓が胸を突き破りそうなほど打ち鳴らされる。
今なら――当てられる。
「爆ぜる焔よ。火の球として聚合し、眼前に移りし標的へ――猛る一投を撃ちかけん!」
左手を添え、詠唱を完成させる。
魔力が渦を巻き、掌の上に凝縮していく熱の塊。
空気が歪み、周囲の温度が一気に跳ね上がる。
――忘れるものか。
父が命と引き換えに暴いた、奴の弱点。
“影ごと消し飛ばせ”。
それが、唯一の勝ち筋。
唯一の、生き残る道。
「【火球《フレール》】ゥゥッ!!」
灼熱の火球が、
復讐と希望を乗せ、エイシャへ向かって一直線に放たれた。