転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第3章ー10

 「はああああああ゛っ!!」

 

 迫り来る黒い槍を、一つ、二つ、三つ――業火剣で弾き返す。

 火花と黒影が空中で交錯し、夜の大地に乾いた衝突音が連続して響いた。

 

 なんとか捌けてはいる。

 だが、槍は尽きることなく地面の影から生まれ、まるで生き物のように自分たちを追い詰めてくる。

 

 少しでも気を抜けば即死。

 息を吸うたび、肺の奥が焼けるように痛む。

 それでも――この嵐の中で、奴へ一撃を叩き込まなければならない。

 

 冷静に考えれば無謀もいいところだ。

 父ですら命を賭して挑んだ相手。

 その背中を、ただ見ていただけの自分が勝てるはずもない。

 

 だが、正面から勝てる力がない以上、賭けに出るしかない。

 

 「サダメ、上っ!」

 

 「ッ!?」

 

 ミオの悲鳴に反応し、咄嗟に視線を上げる。

 弾いたはずの黒槍が、今度は上空から落雷のように迫っていた。

 

 「くぅっ!」

 

 頬を掠め、熱い血が流れる。

 皮膚が裂ける痛みよりも、死の距離が近い恐怖が背筋を冷やす。

 

 だが、致命傷は避けた。

 ――まだ、動ける。

 

 次の瞬間、今度は下から別の槍が突き上がってくる。

 

 「ん゛ん゛ん゛っ!」

 

 身体が悲鳴を上げる。

 回避が間に合わない――そう思った刹那。

 

 「『なにっ!?』」

 

 先ほど弾いた槍の一本が、直下へと落下していた。

 自分はその中腹へ足をかけ、脱兎跳躍《ラジャスト》で踏み台にする。

 

 空中で方向を変える無茶な機動。

 骨が軋み、内臓が浮く感覚。

 だが、そのおかげで槍の包囲網からわずかに距離を取れた。

 

 ――今だ。

 

 この一瞬を逃せば、次はない。

 賭けに出るなら、ここしかない。

 

 「ミオ! 目を閉じろ!」

 

 「う、うん!?」

 

 背後のミオに叫び、右手の平を地上へ向ける。

 鼓動が耳を打ち、魔力が指先に集束していく。

 

 「瞬く光耀よ、我らを照らす道標となりて――」

 

 普段なら火球を選ぶ。

 扱い慣れた、破壊の魔法。

 だが今回は違う。狙うのは攻撃ではなく、“封殺”。

 

 影を操る者にとって、最大の天敵は――光。

 

 通じる保証はない。

 この世界の理すら、確信しているわけではない。

 だが、やるしかない。

 

 「【揺らめく炎の光球(フレア・ライト)】ォォォ!!」

 

 放たれた光球は、照明用の穏やかな灯りでは終わらなかった。

 魔力を限界まで注ぎ込んだそれは、巨大な光柱へと変貌し、夜空を裂いて地上へ降り注ぐ。

 

 白。

 ただひたすらに白。

 月明かりすら霞むほどの、純白の輝き。

 

 「『ッ!? なんだ、この魔法は?!』」

 

 光柱はエイシャを呑み込む。

 その瞬間――黒槍が歪み、震え、影が輪郭を失っていく。

 

 一つ、また一つと、影の槍が霧散して消えていった。

 地面に刻まれていた黒い紋様すら、焼き払われるように薄れていく。

 

 ――やはり。

 

 影は光によって生まれる。

 だが、この光は影を許さない。

 影を“映させない”ほどの過剰な輝度。

 

 「よし……効いてる!」

 

 自分は右手を高く掲げる。

 心臓が胸を突き破りそうなほど打ち鳴らされる。

 

 今なら――当てられる。

 

 「爆ぜる焔よ。火の球として聚合し、眼前に移りし標的へ――猛る一投を撃ちかけん!」

 

 左手を添え、詠唱を完成させる。

 魔力が渦を巻き、掌の上に凝縮していく熱の塊。

 空気が歪み、周囲の温度が一気に跳ね上がる。

 

 ――忘れるものか。

 父が命と引き換えに暴いた、奴の弱点。

 

 “影ごと消し飛ばせ”。

 

 それが、唯一の勝ち筋。

 唯一の、生き残る道。

 

 「【火球《フレール》】ゥゥッ!!」

 

 灼熱の火球が、

 復讐と希望を乗せ、エイシャへ向かって一直線に放たれた。

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