転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

59 / 63
第3章ー11

 全力で放った火球は、光球の倍近い大きさまで膨れ上がっていた。

 目くらましも効いている。これほどの質量と熱量なら、たとえエイシャでも無傷では済むまい。

 

 「はああぁっ!!」

 

 光球が消滅する、その刹那。

 自分は火球を叩き落とすように振り下ろした。

 

 地上へ到達するまで、わずか数秒。

 向こうはまだ視界を奪われ、状況を把握しきれていないはずだ。

 その間に着弾すれば――決まる。

 

 「『うっ、うぅっ…』」

 

 着弾までおよそ三秒。

 エイシャはまだ動かない。

 ――逃げられない。

 

 「『くっ、そぉぉぉぉぉっ?!』」

 

 火球は狙い違わず、エイシャへ直撃した。

 

 次の瞬間。

 地面が爆ぜ、轟音とともに灼熱の爆風が噴き上がる。

 大気が揺れ、炎の柱が夜空を焦がした。

 

 「ぐっ!?」

 

 衝撃に身体が浮かされ、熱風が全身を打つ。

 熱が目に入り、反射的に瞼を閉じた。

 涙が滲む――いや、これは熱によるものだ。

 

 危なかった。

 もう少し近い距離で放っていれば、爆風で自分たちごと焼かれていたかもしれない。

 それほどまでに、圧倒的な熱量。

 

 やがて爆風が収まる。

 

 「ミオ!」

 

 「う、うん!」

 

 地上まで十メートルもない。

 合図と同時に、ミオが風魔法を再び展開する。

 さっきは上昇のためだったが、今度は落下速度を殺すためだ。

 そのまま墜ちれば、二人とも潰れて終わりだった。

 

 「……ふう」

 

 風に包まれ、身体が羽のように軽くなる。

 ゆっくりと降下し、二人は無事に地面へ着地した。

 

 小さな衝撃。

 だが、生きている。

 

 「や、やったのかな……?」

 

 「さあ――う゛っ?!」

 

 答えかけた瞬間、両手に激痛が走った。

 

 「サダメ?!」

 

 慌てて手のひらを見る。

 皮膚がめくれ、赤い肉が露出している。

 全力の魔法行使による反動。

 風が触れるたび、ヒリヒリと焼けるように痛んだ。

 

 ――この程度で済んだのは、幸運と言うべきだろう。

 

 「今、治すね」

 

 「ああ……悪ぃ」

 

 ミオの治癒魔法が淡く光り、傷が塞がっていく。

 本当に、何から何まで世話になってばかりだ。

 

 「……そういえば、皆は?」

 

 「えっ?」

 

 治癒を受けながら問いかける。

 あれほどの爆発だ。

 馬車も、人も、吹き飛ばされていてもおかしくない。

 

 皆には悪いことをした。

 だが、あの状況で気を配る余裕などなかった。

 

 「あっ、あそこ!」

 

 ミオが指差す。

 

 「ッ!?」

 

 視線を向けると、少し離れた場所に馬車の残骸が見えた。

 そこに、人々の亡骸が寄り集まるように横たわっている。

 

 爆風の中心から外れていたのだろう。

 奇跡的に、ほとんど飛ばされていなかった。

 

 「……はあ、よかった」

 

 安堵が胸に落ちる。

 助けられなかった命。

 だが、せめて弔うことはできる。

 

 それが、自分なりの償いだった。

 

 ――しかし。

 

 「『…うっ、う゛う゛っ』」

 

 「……!?」

 

 安堵は、一瞬で凍りつく。

 

 誰かの呻き声。

 生存者――そうであってほしいと願った。

 だが、この声の質感は違う。

 

 「はあ…はあ…ぅっ、嘘だろ……?」

 

 嫌な予感が背骨を這い上がる。

 呼吸が荒れ、心臓が早鐘を打つ。

 

 恐る恐る振り返る。

 

 火球が抉った大地。

 焦土の中央から、薄く揺らめく人型の影が――立ち上がっていた。

 

 ――エイシャ。

 

 まだ、終わっていない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。