全力で放った火球は、光球の倍近い大きさまで膨れ上がっていた。
目くらましも効いている。これほどの質量と熱量なら、たとえエイシャでも無傷では済むまい。
「はああぁっ!!」
光球が消滅する、その刹那。
自分は火球を叩き落とすように振り下ろした。
地上へ到達するまで、わずか数秒。
向こうはまだ視界を奪われ、状況を把握しきれていないはずだ。
その間に着弾すれば――決まる。
「『うっ、うぅっ…』」
着弾までおよそ三秒。
エイシャはまだ動かない。
――逃げられない。
「『くっ、そぉぉぉぉぉっ?!』」
火球は狙い違わず、エイシャへ直撃した。
次の瞬間。
地面が爆ぜ、轟音とともに灼熱の爆風が噴き上がる。
大気が揺れ、炎の柱が夜空を焦がした。
「ぐっ!?」
衝撃に身体が浮かされ、熱風が全身を打つ。
熱が目に入り、反射的に瞼を閉じた。
涙が滲む――いや、これは熱によるものだ。
危なかった。
もう少し近い距離で放っていれば、爆風で自分たちごと焼かれていたかもしれない。
それほどまでに、圧倒的な熱量。
やがて爆風が収まる。
「ミオ!」
「う、うん!」
地上まで十メートルもない。
合図と同時に、ミオが風魔法を再び展開する。
さっきは上昇のためだったが、今度は落下速度を殺すためだ。
そのまま墜ちれば、二人とも潰れて終わりだった。
「……ふう」
風に包まれ、身体が羽のように軽くなる。
ゆっくりと降下し、二人は無事に地面へ着地した。
小さな衝撃。
だが、生きている。
「や、やったのかな……?」
「さあ――う゛っ?!」
答えかけた瞬間、両手に激痛が走った。
「サダメ?!」
慌てて手のひらを見る。
皮膚がめくれ、赤い肉が露出している。
全力の魔法行使による反動。
風が触れるたび、ヒリヒリと焼けるように痛んだ。
――この程度で済んだのは、幸運と言うべきだろう。
「今、治すね」
「ああ……悪ぃ」
ミオの治癒魔法が淡く光り、傷が塞がっていく。
本当に、何から何まで世話になってばかりだ。
「……そういえば、皆は?」
「えっ?」
治癒を受けながら問いかける。
あれほどの爆発だ。
馬車も、人も、吹き飛ばされていてもおかしくない。
皆には悪いことをした。
だが、あの状況で気を配る余裕などなかった。
「あっ、あそこ!」
ミオが指差す。
「ッ!?」
視線を向けると、少し離れた場所に馬車の残骸が見えた。
そこに、人々の亡骸が寄り集まるように横たわっている。
爆風の中心から外れていたのだろう。
奇跡的に、ほとんど飛ばされていなかった。
「……はあ、よかった」
安堵が胸に落ちる。
助けられなかった命。
だが、せめて弔うことはできる。
それが、自分なりの償いだった。
――しかし。
「『…うっ、う゛う゛っ』」
「……!?」
安堵は、一瞬で凍りつく。
誰かの呻き声。
生存者――そうであってほしいと願った。
だが、この声の質感は違う。
「はあ…はあ…ぅっ、嘘だろ……?」
嫌な予感が背骨を這い上がる。
呼吸が荒れ、心臓が早鐘を打つ。
恐る恐る振り返る。
火球が抉った大地。
焦土の中央から、薄く揺らめく人型の影が――立ち上がっていた。
――エイシャ。
まだ、終わっていない。