「がっ――!?」
「サダメッ!?」
ダークボルトの一撃が腹を貫いた瞬間、視界が白く弾けた。次の瞬間、自分の身体は宙を舞い、地面へと叩きつけられる。背にしがみついていたミオも巻き添えとなり、共に転がった。
「ヒュー……ヒュー……ヒュー……」
息を吸うたび、喉の奥から空気が漏れるような音がする。
腹の内側が焼け爛れているように熱い。いや、熱いというより、灼かれている感覚だ。酸素が肺に届いているのかすら分からない。
恐る恐る腹部へと視線を向ける。
そこには、裂けたような穴が穿たれていた。
溢れ出す血が草を濡らし、土に黒く染み込んでいく。
――これは、致命傷だ。
「ほおぉぉ? 胸を穿ったつもりだったが、後ろへ跳んで即死だけは避けたか」
ダークボルトが悠然と歩み寄る。まるで勝利を確信した捕食者のような足取りだった。
まずい。
このままでは、ミオまで殺される。
「俺の紅天画撃《こうてんかげき》を躱そうとした根性は褒めてやる。だが、その傷は人間には致命だ。つくづく脆い生き物だな」
「ぐっ……ごはっ……!」
わずかに身じろぎしただけで血が喉を逆流し、地面へと吐き出される。声すらまともに出ない。
――ミオだけでも、逃がさなければ。
「サダメ、しっかりして! 今、治すから!」
ミオが必死に立ち上がり、両手を自分へとかざす。震える声で詠唱を紡いだ。
「聖なる風の精よ、癒しの力を――【小さき癒しの温風《リトルヒート》】!」
淡い光が舞い、温かな風が傷口へと触れる。だが、それは致命の裂傷を塞ぐにはあまりにも弱い。
「ミ……オ……」
無駄だ。
今のミオの魔力では、この傷は癒せない。
それどころか、魔力を使い切れば、彼女自身が次の獲物になる。
――逃げろ。生きろ。
そう言いたいのに、言葉にならない。
「私だって、サダメが生きてる限り、絶対に諦めないから!!」
その必死な叫びに、視界が滲む。
自分も、同じ言葉を胸に誓ったばかりだったというのに。
「ほう……小娘、治癒魔法が使えるのか」
ダークボルトの瞳が、獲物を見つけた獣のように細く鋭くなる。
――まずい。
「いいぜ。治せるもんなら治してみろ。だがその前に――」
赤い槍が、ミオの額へと向けられる。寸分の迷いもない殺意。
「俺の紅天画撃が、てめぇの脳をぶち撒けるかもしれねぇがな」
「や……め……」
止められない。
届かない。
考える時間すらない。
――頼む。誰でもいい。
神でも、悪魔でも、死神でも。
どうか、ミオを――。
その瞬間。
世界が、止まった。
ほんの一瞬の瞬き。
しかし、その刹那の間に、目の前の光景は塗り替えられていた。
「なっ……!?」
そこにいたはずのダークボルト。
だが今、彼の眼前に立つのは――見知らぬ男の背中。
紅天画撃を、一本の剣で受け止めている。
火花が散り、衝撃が大地を震わせる。
ボロボロのマントが風に揺れ、顔は影に隠れて見えない。
だが、その声だけははっきりと届いた。
「遅くなってすまない」
若い男の声。
不思議と胸の奥に、安堵が満ちていく。
「もう大丈夫だ。俺が必ず――君たちを助ける!」