転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

63 / 70
第3章ー15

 「がっ――!?」

 

 「サダメッ!?」

 

 ダークボルトの一撃が腹を貫いた瞬間、視界が白く弾けた。次の瞬間、自分の身体は宙を舞い、地面へと叩きつけられる。背にしがみついていたミオも巻き添えとなり、共に転がった。

 

 「ヒュー……ヒュー……ヒュー……」

 

 息を吸うたび、喉の奥から空気が漏れるような音がする。

 腹の内側が焼け爛れているように熱い。いや、熱いというより、灼かれている感覚だ。酸素が肺に届いているのかすら分からない。

 

 恐る恐る腹部へと視線を向ける。

 そこには、裂けたような穴が穿たれていた。

 溢れ出す血が草を濡らし、土に黒く染み込んでいく。

 

 ――これは、致命傷だ。

 

 「ほおぉぉ? 胸を穿ったつもりだったが、後ろへ跳んで即死だけは避けたか」

 

 ダークボルトが悠然と歩み寄る。まるで勝利を確信した捕食者のような足取りだった。

 

 まずい。

 このままでは、ミオまで殺される。

 

 「俺の紅天画撃《こうてんかげき》を躱そうとした根性は褒めてやる。だが、その傷は人間には致命だ。つくづく脆い生き物だな」

 

 「ぐっ……ごはっ……!」

 

 わずかに身じろぎしただけで血が喉を逆流し、地面へと吐き出される。声すらまともに出ない。

 

 ――ミオだけでも、逃がさなければ。

 

 「サダメ、しっかりして! 今、治すから!」

 

 ミオが必死に立ち上がり、両手を自分へとかざす。震える声で詠唱を紡いだ。

 

 「聖なる風の精よ、癒しの力を――【小さき癒しの温風《リトルヒート》】!」

 

 淡い光が舞い、温かな風が傷口へと触れる。だが、それは致命の裂傷を塞ぐにはあまりにも弱い。

 

 「ミ……オ……」

 

 無駄だ。

 今のミオの魔力では、この傷は癒せない。

 それどころか、魔力を使い切れば、彼女自身が次の獲物になる。

 

 ――逃げろ。生きろ。

 

 そう言いたいのに、言葉にならない。

 

 「私だって、サダメが生きてる限り、絶対に諦めないから!!」

 

 その必死な叫びに、視界が滲む。

 自分も、同じ言葉を胸に誓ったばかりだったというのに。

 

 「ほう……小娘、治癒魔法が使えるのか」

 

 ダークボルトの瞳が、獲物を見つけた獣のように細く鋭くなる。

 

 ――まずい。

 

 「いいぜ。治せるもんなら治してみろ。だがその前に――」

 

 赤い槍が、ミオの額へと向けられる。寸分の迷いもない殺意。

 

 「俺の紅天画撃が、てめぇの脳をぶち撒けるかもしれねぇがな」

 

 「や……め……」

 

 止められない。

 届かない。

 考える時間すらない。

 

 ――頼む。誰でもいい。

 神でも、悪魔でも、死神でも。

 どうか、ミオを――。

 

 その瞬間。

 

 世界が、止まった。

 

 ほんの一瞬の瞬き。

 しかし、その刹那の間に、目の前の光景は塗り替えられていた。

 

 「なっ……!?」

 

 そこにいたはずのダークボルト。

 だが今、彼の眼前に立つのは――見知らぬ男の背中。

 

 紅天画撃を、一本の剣で受け止めている。

 火花が散り、衝撃が大地を震わせる。

 

 ボロボロのマントが風に揺れ、顔は影に隠れて見えない。

 

 だが、その声だけははっきりと届いた。

 

 「遅くなってすまない」

 

 若い男の声。

 不思議と胸の奥に、安堵が満ちていく。

 

 「もう大丈夫だ。俺が必ず――君たちを助ける!」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。