転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第3章ー16

 「なっ、なんだてめぇ……!」

 

 「ふっ!」

 

 「ぬぅっ!?」

 

 ダークボルトの紅槍を受け止めた男は、そのまま体勢を崩さぬまま一歩踏み込み、衝撃と共に敵を弾き飛ばした。

 吹き飛ばされたのか、あるいは自ら距離を取ったのか――どちらにせよ、あれほど余裕を見せていたダークボルトが押し退けられた事実が、目の前の男の実力を雄弁に物語っていた。

 

 「炎々《えんえん》燃ゆる不死鳥の、温和に包まれし古巣に永遠の恩恵を――

 【不死鳥の羽休め《フェザー・レスト》】」

 

 男は間髪入れず魔法を詠唱する。

 

 その瞬間、周囲の空気が柔らかく温まり、地面の感触が変わった。

 藁のような、乾いた草の感触。

 そして、わずかな浮遊感。

 

 「……な、なんだ……?」

 

 重い首をどうにか横へ向ける。

 そこにあったのは、枯草で編まれた大きな巣。

 皿のように湾曲したその巣が、わずかに宙へ浮かび、そこへ自分とミオが寝かされていた。

 

 巣を包むように、茜色の光が薄い結界となって広がっている。

 全身を包む温もりは、蒸気浴にも似た心地よさだった。

 焼けつく痛みも、恐怖で乱れていた呼吸も、少しずつ落ち着いていく。

 

 「す、すごい……あったかい……」

 

 ミオが呟いた。

 

 その直後。

 

 「うわっ!?」

 

 驚いた声に、今度は必死に視線を上へ動かす。

 

 「――ッ!?」

 

 視界いっぱいに現れたのは、炎で形作られた巨大な鳥。

 翼を広げれば空を覆い尽くしそうな、不死鳥の幻影。

 

 ――この巣の主。

 

 「安心してくれ。こいつは俺の魔法で呼び出した“使い魔みたいなもの”だ。

 そこにいれば、こいつが君たちを守る。だから今は大人しくしていてくれ」

 

 男は淡々と説明する。

 だがその声には、確かな信頼が宿っていた。

 

 「で、でも! サダメの腹の傷が……!」

 

 ミオが必死に訴える。

 

 「大丈夫。その魔法には治癒効果もある。

 即死や四肢欠損でもない限り、数分で回復する」

 

 「ほ、本当ですか!?」

 

 「ああ。ほら、もう治り始めてる」

 

 言われて腹部を見る。

 

 ――血は止まっていた。

 裂けていたはずの傷口が、確かに塞がりつつある。

 全身に広がっていた痛みも、いつの間にか消えている。

 

 どうりで、あれほどの致命傷を負ったはずなのに、今こうして意識を保てているわけだ。

 

 「ほおぉ? 随分と便利な魔法を持ってやがるじゃねぇか」

 

 不意に、殺気が割り込む。

 

 「ッ!?」

 

 ダークボルトが再び踏み込む。

 だが――

 

 「ふっ!」

 

 男は振り向きざまに剣を走らせ、紅天画撃を正面から受け止めた。

 

 ――速い。

 目で追えないほどの剣閃。

 負傷している自分では、今の一撃を見切れるかどうかすら怪しい。

 

 それを、男は当然のように捌いていた。

 

 「へっ……俺の速さについて来れるとは、面白れぇ!

 てめぇ、ナニモンだぁ!?」

 

 狂気混じりの笑みを浮かべ、ダークボルトが問いかける。

 

 男は剣を構えたまま、わずかに口角を上げた。

 

 「俺か?」

 

 そして――

 

 「俺は、勇者だ」

 

 その一言に、胸の奥が強く脈打った。

 

 恐怖ではない。

 希望という名の、新しい鼓動だった。

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