「なっ、なんだてめぇ……!」
「ふっ!」
「ぬぅっ!?」
ダークボルトの紅槍を受け止めた男は、そのまま体勢を崩さぬまま一歩踏み込み、衝撃と共に敵を弾き飛ばした。
吹き飛ばされたのか、あるいは自ら距離を取ったのか――どちらにせよ、あれほど余裕を見せていたダークボルトが押し退けられた事実が、目の前の男の実力を雄弁に物語っていた。
「炎々《えんえん》燃ゆる不死鳥の、温和に包まれし古巣に永遠の恩恵を――
【不死鳥の羽休め《フェザー・レスト》】」
男は間髪入れず魔法を詠唱する。
その瞬間、周囲の空気が柔らかく温まり、地面の感触が変わった。
藁のような、乾いた草の感触。
そして、わずかな浮遊感。
「……な、なんだ……?」
重い首をどうにか横へ向ける。
そこにあったのは、枯草で編まれた大きな巣。
皿のように湾曲したその巣が、わずかに宙へ浮かび、そこへ自分とミオが寝かされていた。
巣を包むように、茜色の光が薄い結界となって広がっている。
全身を包む温もりは、蒸気浴にも似た心地よさだった。
焼けつく痛みも、恐怖で乱れていた呼吸も、少しずつ落ち着いていく。
「す、すごい……あったかい……」
ミオが呟いた。
その直後。
「うわっ!?」
驚いた声に、今度は必死に視線を上へ動かす。
「――ッ!?」
視界いっぱいに現れたのは、炎で形作られた巨大な鳥。
翼を広げれば空を覆い尽くしそうな、不死鳥の幻影。
――この巣の主。
「安心してくれ。こいつは俺の魔法で呼び出した“使い魔みたいなもの”だ。
そこにいれば、こいつが君たちを守る。だから今は大人しくしていてくれ」
男は淡々と説明する。
だがその声には、確かな信頼が宿っていた。
「で、でも! サダメの腹の傷が……!」
ミオが必死に訴える。
「大丈夫。その魔法には治癒効果もある。
即死や四肢欠損でもない限り、数分で回復する」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ。ほら、もう治り始めてる」
言われて腹部を見る。
――血は止まっていた。
裂けていたはずの傷口が、確かに塞がりつつある。
全身に広がっていた痛みも、いつの間にか消えている。
どうりで、あれほどの致命傷を負ったはずなのに、今こうして意識を保てているわけだ。
「ほおぉ? 随分と便利な魔法を持ってやがるじゃねぇか」
不意に、殺気が割り込む。
「ッ!?」
ダークボルトが再び踏み込む。
だが――
「ふっ!」
男は振り向きざまに剣を走らせ、紅天画撃を正面から受け止めた。
――速い。
目で追えないほどの剣閃。
負傷している自分では、今の一撃を見切れるかどうかすら怪しい。
それを、男は当然のように捌いていた。
「へっ……俺の速さについて来れるとは、面白れぇ!
てめぇ、ナニモンだぁ!?」
狂気混じりの笑みを浮かべ、ダークボルトが問いかける。
男は剣を構えたまま、わずかに口角を上げた。
「俺か?」
そして――
「俺は、勇者だ」
その一言に、胸の奥が強く脈打った。
恐怖ではない。
希望という名の、新しい鼓動だった。