「はっはっはっはっはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
狂気じみた笑いが戦場を揺らす。
勇者とダークボルトの一騎打ち。始まってまだ一分も経っていない。それにもかかわらず、目の前で繰り広げられるのは――常識を完全に逸脱した戦いだった。
剣と槍がぶつかり合う音だけが響く。だが肝心の“動き”が見えない。視界に映るのは、残像と衝撃波だけ。ほぼ零距離で応酬される超高速の攻防。互いの反応速度は、人の域を遥かに超えている。
「へっ……これじゃ埒が明かねぇな」
ダークボルトが不意に距離を取った。今のままでは決着がつかない――そう判断したのだろう。
「こっからは魔法ありでいかせてもらうぜぇぇぇぇぇッ!!!」
再び、黒い雷のオーラが噴き上がる。しかし先ほどまでの威嚇とは違う。これは――発動の前兆。
「【疾風迅雷・黒死《こくし》】!」
詠唱と同時に、ダークボルトの姿が消えた。
疾風迅雷――風と雷のごとき速さ。消えたのではない。“見えなくなるほど速くなった”だけだ。
「おらぁぁッ!!」
「つっ!?」
次の瞬間、黒雷を纏った槍が勇者の側面へ突き込まれる。右ではない。剣を握る利き腕の逆――左脇腹。防御が一瞬遅れ、槍先が肉を掠めた。
「へっ。俺の本気の速度の前じゃ、その魔力感知も役に立たねぇみてぇだなぁ」
ダークボルトは勝ち誇る。確かに勇者は、完全には対応しきれていなかった。
「……勇者さん……」
ミオが不安げに名を呼ぶ。軽傷――だが、この領域の戦いでは致命に等しい一撃。
「ふっ」
勇者は、笑った。
「んん?」
「どうしたぁ? 絶望しすぎて頭がイカれちまったかぁ?」
嘲るダークボルト。しかし勇者の表情は崩れない。むしろ余裕すら漂っている。
「いや。かすり傷程度で得意になっているのが、少し滑稽でな」
「あ゛あ゛っ?」
立場が反転する。怒気がダークボルトの全身を焦がす。
「もう一度来い。今度は――確実に反応してやる」
「……んだとぉ?」
ダークボルトは再び距離を取る。次は殺す――そう言わんばかりの構え。
「お望み通りだぁ! 今度はてめぇの身体を内臓ごと串刺しにしてやる!! 【疾風迅雷・黒死】ッ!!」
黒雷が爆ぜ、姿が掻き消える。
また見えない。魔力感知すら追いつかない超加速。
――だが。
「……上か」
「ッ!?」
勇者は微動だにせず、呟いた。
次の瞬間。
頭上から振り下ろされる紅天画撃。ダークボルトは空から突き刺そうとしていた。
だが――
「くうっ!?」
勇者の剣が正確にそれを受け止める。火花が散り、衝撃波が地を割った。
「言ったはずだ。今度はきっちり反応してやると」
剣を押し返しながら、勇者は静かに笑う。
――戦局は、完全に逆転し始めていた。