転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

66 / 73
第3章ー18

 「はっはっはっはっはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 狂気じみた笑いが戦場を揺らす。

 

 勇者とダークボルトの一騎打ち。始まってまだ一分も経っていない。それにもかかわらず、目の前で繰り広げられるのは――常識を完全に逸脱した戦いだった。

 

 剣と槍がぶつかり合う音だけが響く。だが肝心の“動き”が見えない。視界に映るのは、残像と衝撃波だけ。ほぼ零距離で応酬される超高速の攻防。互いの反応速度は、人の域を遥かに超えている。

 

 「へっ……これじゃ埒が明かねぇな」

 

 ダークボルトが不意に距離を取った。今のままでは決着がつかない――そう判断したのだろう。

 

 「こっからは魔法ありでいかせてもらうぜぇぇぇぇぇッ!!!」

 

 再び、黒い雷のオーラが噴き上がる。しかし先ほどまでの威嚇とは違う。これは――発動の前兆。

 

 「【疾風迅雷・黒死《こくし》】!」

 

 詠唱と同時に、ダークボルトの姿が消えた。

 

 疾風迅雷――風と雷のごとき速さ。消えたのではない。“見えなくなるほど速くなった”だけだ。

 

 「おらぁぁッ!!」

 

 「つっ!?」

 

 次の瞬間、黒雷を纏った槍が勇者の側面へ突き込まれる。右ではない。剣を握る利き腕の逆――左脇腹。防御が一瞬遅れ、槍先が肉を掠めた。

 

 「へっ。俺の本気の速度の前じゃ、その魔力感知も役に立たねぇみてぇだなぁ」

 

 ダークボルトは勝ち誇る。確かに勇者は、完全には対応しきれていなかった。

 

 「……勇者さん……」

 

 ミオが不安げに名を呼ぶ。軽傷――だが、この領域の戦いでは致命に等しい一撃。

 

 「ふっ」

 

 勇者は、笑った。

 

 「んん?」

 

 「どうしたぁ? 絶望しすぎて頭がイカれちまったかぁ?」

 

 嘲るダークボルト。しかし勇者の表情は崩れない。むしろ余裕すら漂っている。

 

 「いや。かすり傷程度で得意になっているのが、少し滑稽でな」

 

 「あ゛あ゛っ?」

 

 立場が反転する。怒気がダークボルトの全身を焦がす。

 

 「もう一度来い。今度は――確実に反応してやる」

 

 「……んだとぉ?」

 

 ダークボルトは再び距離を取る。次は殺す――そう言わんばかりの構え。

 

 「お望み通りだぁ! 今度はてめぇの身体を内臓ごと串刺しにしてやる!! 【疾風迅雷・黒死】ッ!!」

 

 黒雷が爆ぜ、姿が掻き消える。

 

 また見えない。魔力感知すら追いつかない超加速。

 

 ――だが。

 

 「……上か」

 

 「ッ!?」

 

 勇者は微動だにせず、呟いた。

 

 次の瞬間。

 

 頭上から振り下ろされる紅天画撃。ダークボルトは空から突き刺そうとしていた。

 

 だが――

 

 「くうっ!?」

 

 勇者の剣が正確にそれを受け止める。火花が散り、衝撃波が地を割った。

 

 「言ったはずだ。今度はきっちり反応してやると」

 

 剣を押し返しながら、勇者は静かに笑う。

 

 ――戦局は、完全に逆転し始めていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。