転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第3章ー19

 「な……んでだ?」

 

 攻撃を防がれ、ダークボルトは茫然とその場に立ち尽くした。

 つい数秒前まで勝利を確信していた表情は消え失せ、今は理解不能な現実を前にした困惑だけが残っている。まるで、あの余裕に満ちた姿が遠い過去の出来事だったかのようだ。

 

 「簡単な話だ。どれだけ速くなろうと、“どこから来るか”が分かれば対処はできる」

 

 淡々と語る勇者の声には、揺らぎがない。

 

 「予測だと? んな馬鹿な。そんなこと出来るわけがねぇ!」

 

 吐き捨てるように言うダークボルト。その反応は当然だった。

 落雷のごとき速度で四方八方から襲いかかれる攻撃。それを読み切るなど、常識的な戦闘感覚では不可能に思える。

 

 「出来るさ。――お前の足元を見ればな」

 

 「足元ぉ?!」

 

 勇者は静かに、ダークボルトの両足を指さした。

 

 「人は走る前、必ずどちらかの足に重心を乗せる。左へ行くなら左足、右へ行くなら右足。お前の魔法も同じだ。移動方向へ踏み出す瞬間、その足に魔力が集中する。今回は両足に強い魔力が溜まっていた。だから“上へ跳ぶ”と判断できた」

 

 「なっ……!」

 

 ダークボルトは思わず自分の足元を見下ろす。

 意識していたのか、無意識だったのかは分からない。だが、図星を突かれた表情がすべてを物語っていた。

 

 「だ、だがよ! 前に突っ込んでくる可能性だってあったはずだろ!」

 

 「それはない」

 

 勇者は即座に言い切る。

 

 「お前はさっき、“埒が明かねぇ”と言った。つまり、正面からの近接戦は不利だと判断したということだ。なら次に選ぶのは“死角からの一撃”。正面突撃は、最初からお前の選択肢に入っていない」

 

 「ッ……!」

 

 心理まで読み切られ、ダークボルトの顔がわずかに歪む。

 

 「そしてもう一つ。どれだけ速く動こうと、運動には必ず“止まる瞬間”がある。その一拍を読むだけだ。だから一度、お前の攻撃を受け、タイミングを測った。それだけの話だ」

 

 あまりにも淡々とした説明。

 まるで、すでに勝敗は確定していると言わんばかりの口調だった。

 

 ダークボルトは沈黙する。

 

 圧倒されたからではない。

 ――理解してしまったからだ。

 

 「……はは」

 

 喉の奥から、低い笑いが漏れる。

 

 「……はははっ」

 

 次第にそれは、理性を振り切った狂気の笑いへと変わった。

 

 「んだぁぁはっはっはっはっはぁぁぁっ!!」

 

 再び黒雷のオーラが噴き上がる。

 いや、先ほどの比ではない。大気は震え、地面は焦げ、周囲の空間すら歪む。

 

 「小手調べは終わったかよぉ、勇者さん?」

 

 ダークボルトの瞳は、獲物を見つけた獣のそれだった。

 

 「その程度で勝ったつもりか? こっからはな――」

 

 黒い稲妻が全身を覆う。

 

 「んなこと考えてる暇すら与えねぇぞ!!」

 

 戦場の空気が、さらに一段深く沈み込む。

 

 ――本当の殺し合いが、今この瞬間から始まる。

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