転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第3章ー21

 「はっ、炎魔法か。面白れぇ」

 

 勇者の剣に燃え盛る紅蓮の炎を見て、ダークボルトは愉快そうに口角を吊り上げた。

 殺し合いの最中だというのに、その表情はまるで強敵と出会えた喜びに満ちている。

 ――本当に、戦いそのものを楽しむ狂戦士だ。

 

 「不死鳥《フェニックス》、下がっとけ」

 

 「くえぇっ!」

 

 「うわっ?!」

 

 勇者の指示を受け、不死鳥は自分たちを乗せた巣を大きな翼で優しく包み込み、そのまま後方へと運んだ。

 高空へと距離が取られ、戦場全体が一望できる位置へ移動させられる。

 

 「聖なる守護神よ。絶対の防御を誇る御身の防壁で、親愛なる者達を守りたまえ。【絶防結界《アブソディ・セマ》】」

 

 勇者が祈りの言葉を紡ぐと、半透明の光のドームが巣を覆った。

 淡い金色の膜が脈動し、外界の熱と衝撃を完全に遮断する。

 

 ――自分達を守るためか。

 それとも、この後起こる“何か”から周囲を守るためか。

 

 「俺の炎で、この辺り一帯を焼け野原にするわけにはいかねーからな。あの子達も巻き添えには出来ない。……構わねえだろ?」

 

 勇者が肩越しに問いかける。

 

 「はっ。本気でやれんなら別に構わねえよ。逃げも隠れもしねぇ」

 

 ダークボルトは紅天画撃を肩に担ぎ、獣のような笑みを浮かべた。

 互いに、もう引き返す気はない。

 

 「そうか。なら……」

 

 勇者は炎を纏わせた剣を正眼に構え、地を蹴った。

 

 「はあっ!」

 

 「うらあっ!」

 

 次の瞬間、二人は再びゼロ距離へと踏み込む。

 剣と大刀が激突し、火花と黒雷が交錯する。

 爆音が連続し、空気が震え、大地が悲鳴を上げる。

 

 先程までとは明らかに違う。

 ダークボルトは神武流《かぶる》による強化で、速度も力も常軌を逸している。

 普通なら、炎の剣一本で対抗できる相手ではない。

 

 ――だが。

 

 「ふっ!!」

 

 「くっ!?」

 

 「……」

 

 息を呑んで戦いを見守る。

 しかし予想に反して、押されているのは勇者ではない。

 ほぼ互角――いや、ほんの僅か、勇者の方が優勢に見える。

 

 「……そうか」

 

 理由はすぐに理解できた。

 勇者は、剣から噴き出す炎の反動を利用している。

 斬撃のたびに炎が噴射し、その推進力が剣速と踏み込みを強化しているのだ。

 速度を炎で補い、威力を熱で上乗せする――まるで炎そのものを身体の一部として扱っている。

 

 父がかつて脱兎跳躍と炎噴射を併用し、強敵と渡り合っていた光景が脳裏をよぎる。

 炎魔法は攻撃だけではない。

 機動力、防御、加速――用途は無限。

 万能に限りなく近い力だ。

 

 「へっ……俺とここまでやり合える奴は、人間じゃあてめぇが初めてだぜ」

 

 ダークボルトは笑う。

 息は荒いが、余裕はまだ消えていない。

 

 「だが……」

 

 その声が、低く沈んだ。

 

 「■■■、●●、▲▲▲▲」

 

 聞いたことのない言語。

 人間の発音器官では再現できない、歪んだ音の連なり。

 それだけで背筋が粟立つ。

 

 「ッ!?」

 

 勇者が即座に距離を取る。

 本能が叫んでいる――これは危険だ、と。

 

 「【黒雷天《こくらいてん》】!!」

 

 紅天画撃の槍先へ、黒雷が渦を巻く。

 雷光が絡み合い、凝縮し、やがてサッカーボールほどの黒い球体へと収束していく。

 それは雷でありながら、光を吸い込む“闇”のようだった。

 

 「これは……」

 

 「ッ!? 勇者さん?!」

 

 観戦しているこちらの結界の内側にまで、嫌な振動が伝わってくる。

 まるで空間そのものが悲鳴を上げているようだ。

 

 「喰らえやぁぁぁっ!!」

 

 ダークボルトが球体を投げ放つ。

 黒い球は飛翔の途中で形を変え、細長い破壊光線へと転じる。

 闇色の雷槍が、大気を引き裂き、一直線に勇者へ迫る。

 

 ――避けきれるのか。

 ――受け止められるのか。

 

 誰もが息を止める。

 

 次の瞬間、戦場は黒雷の閃光に呑み込まれようとしていた。

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