転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第3章ー22

 「勇者……さんっ」

 

 破壊光線が地面を穿ち、黒雷と炎が入り混じった爆煙が結界の内側へと流れ込んでくる。視界は白く霞み、外の様子がまるで見えない。そのせいで、胸の奥に冷たい不安がじわじわと広がっていく。

 

 ――今の一撃、まともに受けて無事でいられるはずがない。

 避けることすら困難な速度と威力。仮に回避できたとしても、致命傷は免れないはずだ。

 

 まさか。

 十死怪の一角を討ち倒した勇者でさえ、あの魔物には敵わないのか。

 

 そんな最悪の想像が、頭の中をよぎる。

 

 「あっっっぶねぇ……」

 

 「ッ!? ほぉ?」

 

 やがて煙が晴れる。

 そこに立っていたのは――勇者だった。

 

 ボロボロになったマントを前に翳し、まるで盾のように構えている。布の下半分は黒く焼き切れ、ところどころ穴が開いている。しかし、その身体には目立った血は見えない。

 

 ――防いだのか?

 あの破壊光線を、このマント一枚で?

 

 「なるほど。そのオンボロマント……魔道具の類か」

 

 ダークボルトが感心したように唸る。

 

 「まあな。だいぶ使いまわして耐久力も限界だったが……今のでトドメ刺しちまったみたいだ」

 

 勇者はそう言うと、役目を終えたマントを無造作に後方へ投げ捨てた。

 長年の戦いを共にしてきたであろう相棒は、静かに地へ落ちる。

 

 「はっ、それはつまり……二度目は防げねぇってことだよなぁ?」

 

 ダークボルトが嗤う。

 勝機を見出した獣の目。

 

 「俺に、同じ技が通用すればの話だがな」

 

 勇者は平然と言い返す。

 防具を失ったにも関わらず、その声に焦りは一切ない。

 

 「はーはっはっはっ、いいやがる」

 

 互いに笑い合いながら、殺意だけが濃くなる。

 結界の中で空気が張り詰め、心臓の鼓動がやけに大きく聞こえた。

 

 「なら、もういっぺん――」

 

 「撃てる余裕があればいいがな」

 

 「ぐっ!?」

 

 再び黒雷を集めようとしたダークボルト。しかし、その動きを許さぬように、勇者が一気に距離を詰める。

 至近距離での斬り結び。剣と大刀がぶつかり、火花が散る。

 

 その最中。

 

 勇者は低く詠唱を紡ぎ始めた。

 

 「爆ぜる焔よ、火の球として聚合し、眼前に移りし標的に猛る一投を撃ちかけん――」

 

 「……あ゛あ゛っん?」

 

 ダークボルトの目が見開かれる。

 剣戟を交えながら詠唱を完成させる――常人には不可能な芸当。

 

 「【火球《フレール》】!」

 

 勇者の左手に、凝縮された炎が生まれる。

 それは手のひらサイズの小さな球体。だが内部には、圧縮された灼熱が渦巻き、太陽の欠片のように輝いていた。

 

 右手の剣で攻撃を捌きながら、勇者は左手を突き出す。

 

 「はぁっ!」

 

 「くっ!?」

 

 ゼロ距離で放たれた火球。

 ダークボルトは慌てて後方へ跳ぶ。辛うじて回避したが、腹部をかすめた部分が黒く焼け焦げ、煙を上げていた。

 

 「ッ……!」

 

 火球は結界の端へ到達した瞬間、轟音と共に爆ぜる。

 圧縮された炎が一気に解放され、衝撃波が結界全体を揺らした。

 

 「うっ……!」

 

 思わず身体が跳ねる。

 あの小さな火球で、自分の全力魔法の七、八割に匹敵する威力。

 ――桁が違う。

 

 「どうした? お前のさっきの魔法に比べりゃ、大したことねぇだろ?」

 

 勇者が挑発する。

 

 「……んにゃろう!」

 

 ダークボルトの瞳に、黒雷と炎の火花が交錯する。

 

 互いに譲らぬ二つの魔力。

 戦場は、次の激突を待つ嵐の前の静寂へと沈んでいった。

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