転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第3章ー24

 「……」

 

 「んな゛っ!?」

 

 二人の全力が激突した決着は――思いのほか、あっけなかった。

 

 ダークボルトが放った黒雷天。

 結界いっぱいに膨れ上がる、絶望そのもののような一撃。

 あれをまともに受ければ、逃げることすら叶わない。誰もがそう確信する威力だった。

 

 だが。

 

 勇者は、その黒雷天を――一刀で斬り裂いた。

 

 轟音と共に雷が割れ、炎が奔流となって押し返し、結界そのものが縦に裂ける。

 次の瞬間、ダークボルトの身体は胸から肩にかけて深く斬り裂かれ、膝を突く。

 

 「悪ぃな」

 

 勇者が、静かに言った。

 

 「全力を使うまでもなかった」

 

 信じられない光景だった。

 理解が追いつくまで、ほんの数秒――いや、それ以上の時間が必要だった。

 

 空には、勇者の炎魔法の残り火が舞い散り、赤い灰となって降り注ぐ。

 地面は草一本残らぬ荒地へと変わり、熱で揺らいでいた。

 

 「……すごい」

 

 気づけば、そんな言葉しか出てこなかった。

 語彙が尽きたわけじゃない。

 ただ――現実が、それ以上の言葉を許さなかった。

 

 「さてと…」

 

 勇者は剣を手放し、こちらへ歩いてくる。

 剣は地面に触れた瞬間、光の粒となって消え去った。

 ――あの剣自体が、魔法で形作られていたのだろう。

 

 「傷の方は大丈夫かい?」

 

 優しい声だった。

 つい先ほどまで、世界を焼き裂く炎を操っていた人物とは思えないほど穏やかだ。

 

 「は、はい。もう大丈夫……みたいです」

 

 確かに腹の傷は消え、痛みもほとんどない。

 治癒結界の効果か、それとも不死鳥の加護か。

 

 「助けてくれて……ありがとう、ございます」

 

 起き上がろうとするが、身体がまだ言うことを聞かない。

 結局、半身を起こしたまま頭を下げる。

 

 「無理しなくていいよ」

 

 勇者は苦笑しながら言った。

 

 「完治してても、身体は“ついさっきまで死にかけてた”って記憶してる。戸惑って当然さ」

 

 その笑顔は、不思議と安心感を与えるものだった。

 汗と泥で汚れ、決して整った身なりではない。

 それでも、どこか爽やかで、真っ直ぐな印象を受ける。

 

 「それはさておき――」

 

 勇者は周囲を見渡す。

 

 「君たちには色々聞きたいことがある。だが、その前に休める場所を――」

 

 「あ、あの!」

 

 思わず声を上げる。

 

 「俺たちは大丈夫です。それより……仲間たちの遺体を……」

 

 あのまま放置すれば、風化するか、魔物の餌になる。

 せめて、弔う時間だけは確保したい。

 

 勇者は少しだけ表情を曇らせ、頷きかけた。

 

 ――その時だった。

 

 

 

 「『【黒影双槍《ダーシャ・ペスピア》】!』」

 

 背後から聞こえた、忘れもしない声。

 

 「ッ!?」

 

 勇者が振り返る。

 だが、間に合わない。

 

 地面から突き出した二本の黒槍が――

 

 「がぁっ!?」

 

 勇者の腹部を、正確に貫いた。

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