「……」
「んな゛っ!?」
二人の全力が激突した決着は――思いのほか、あっけなかった。
ダークボルトが放った黒雷天。
結界いっぱいに膨れ上がる、絶望そのもののような一撃。
あれをまともに受ければ、逃げることすら叶わない。誰もがそう確信する威力だった。
だが。
勇者は、その黒雷天を――一刀で斬り裂いた。
轟音と共に雷が割れ、炎が奔流となって押し返し、結界そのものが縦に裂ける。
次の瞬間、ダークボルトの身体は胸から肩にかけて深く斬り裂かれ、膝を突く。
「悪ぃな」
勇者が、静かに言った。
「全力を使うまでもなかった」
信じられない光景だった。
理解が追いつくまで、ほんの数秒――いや、それ以上の時間が必要だった。
空には、勇者の炎魔法の残り火が舞い散り、赤い灰となって降り注ぐ。
地面は草一本残らぬ荒地へと変わり、熱で揺らいでいた。
「……すごい」
気づけば、そんな言葉しか出てこなかった。
語彙が尽きたわけじゃない。
ただ――現実が、それ以上の言葉を許さなかった。
「さてと…」
勇者は剣を手放し、こちらへ歩いてくる。
剣は地面に触れた瞬間、光の粒となって消え去った。
――あの剣自体が、魔法で形作られていたのだろう。
「傷の方は大丈夫かい?」
優しい声だった。
つい先ほどまで、世界を焼き裂く炎を操っていた人物とは思えないほど穏やかだ。
「は、はい。もう大丈夫……みたいです」
確かに腹の傷は消え、痛みもほとんどない。
治癒結界の効果か、それとも不死鳥の加護か。
「助けてくれて……ありがとう、ございます」
起き上がろうとするが、身体がまだ言うことを聞かない。
結局、半身を起こしたまま頭を下げる。
「無理しなくていいよ」
勇者は苦笑しながら言った。
「完治してても、身体は“ついさっきまで死にかけてた”って記憶してる。戸惑って当然さ」
その笑顔は、不思議と安心感を与えるものだった。
汗と泥で汚れ、決して整った身なりではない。
それでも、どこか爽やかで、真っ直ぐな印象を受ける。
「それはさておき――」
勇者は周囲を見渡す。
「君たちには色々聞きたいことがある。だが、その前に休める場所を――」
「あ、あの!」
思わず声を上げる。
「俺たちは大丈夫です。それより……仲間たちの遺体を……」
あのまま放置すれば、風化するか、魔物の餌になる。
せめて、弔う時間だけは確保したい。
勇者は少しだけ表情を曇らせ、頷きかけた。
――その時だった。
「『【黒影双槍《ダーシャ・ペスピア》】!』」
背後から聞こえた、忘れもしない声。
「ッ!?」
勇者が振り返る。
だが、間に合わない。
地面から突き出した二本の黒槍が――
「がぁっ!?」
勇者の腹部を、正確に貫いた。