転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第3章ー26

 「『そうですか。ならば――遠慮は無用。やっておしまいなさい』」

 

 エイシャの声が冷たく響いた。

 

 「オッシャアァァァァァ!!」

 

 魔物たちが一斉に吠え、地を蹴って襲いかかる。

 

 「くっ!?」

 

 思わず息を呑む。

 これは――本気でまずい。

 

 勇者の右手はまだ血を滴らせている。

 あの状態では剣を握ることも、印を結ぶこともままならない。

 魔法の発動すら危ういはずだ。

 

 「勇者さん、ここは逃げた方が――」

 

 言いかけて、勇者の背中を見る。

 

 「大丈夫。一撃で終わらせれば問題ない」

 

 あまりにも平然とした声。

 

 「え……一撃?」

 

 十体を超える魔物。

 その奥には十死怪エイシャ。

 それらすべてを――一撃で?

 

 いくら勇者でも、それは無茶だ。

 しかも、その負傷した手で何ができるというのか。

 

 だが、勇者は構えも取らず、ただ空を見上げた。

 

 「降りそそげ、残り火の塵芥たち」

 

 低く、しかし確かな詠唱。

 

 「『……?』」

 

 エイシャが訝しげに眉を動かす。

 

 次の瞬間だった。

 

 空が、赤く染まった。

 

 夜でも朝でもない。

 まるで天そのものが燃え始めたかのような色。

 

 「……あっ」

 

 思わず声が漏れる。

 

 上空――

 無数の火球が生まれていた。

 

 「【降火灰塵《ディセイア・ダスト》】」

 

 火球は流星の群れとなり、轟音を引き連れて降り注ぐ。

 熱風が結界内を焼き、空気が震える。

 

 なぜ、こんな短時間でこれほどの火球を生成できる?

 

 疑問はすぐに答えを得た。

 

 ――残り火。

 

 先ほどのダークボルトとの死闘。

 勇者が放った炎魔法の余熱が、上空に微細な火の粒子として残っていた。

 それを“素材”として再構築し、瞬時に魔法陣へと組み替えたのだ。

 

 新たに火を生むのではない。

 すでに存在する火を、支配し、再配置する。

 

 ――なんて応用力だ。

 

 「『ちっ……!』」

 

 エイシャが舌打ちする。

 

 魔物たちもようやく異常に気づく。

 

 「な、なんだありゃあ!?」

 

 「おい、やべぇぞ! 逃げろォォ!!」

 

 「ま、待ってくれ――!」

 

 だが、遅い。

 

 火球は半径数百メートルを覆う密度で降り注ぎ、逃げ場など存在しない。

 

 「もう遅せーよ」

 

 勇者が吐き捨てる。

 

 次の瞬間。

 

 ――ドォォォンッ!!

 

 大地が爆ぜた。

 炎柱が立ち上がり、衝撃波が結界を揺らす。

 草原は瞬く間に焦土へ変わり、魔物の叫び声は次々と掻き消えていく。

 

 「くっそぉぉぉぉ!!」

 

 「『……覚えておけよ、勇者』」

 

 爆炎の中、エイシャの怨嗟がかすかに響いた。

 

 やがて炎は静まり、残ったのは黒く焼けた大地と、熱で歪む空気だけ。

 

 まるで――

 戦争の終わった後の世界のようだった。

 

 そしてその中心に、勇者は立っていた。

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