爆撃が始まってから数分後――ようやく勇者の猛攻は終息した。
「……ふぅ」
勇者が大きく息を吐く。
「……」
自分は言葉を失っていた。
地面はえぐれ、割れ、焼き焦がされ、かつて草原だった面影は一切ない。
そこかしこに魔物の死骸が転がり、中には胴体だけ、腕だけ、あるいは黒く炭化した塊と化しているものもある。
鼻を突く焦げ臭さと、魔力の残滓が肌を刺すように漂っていた。
――すごい。
その一言すら、喉の奥で形になる前に消えた。
ただ、呆然と立ち尽くすことしかできない。
「……奴の姿はねぇな」
勇者が周囲を見渡しながら呟く。
「野郎、うまく逃げやがったか。しぶとい野郎め」
エイシャの影は、どこにもない。
地中に潜んでいる様子もなく、勇者の魔力感知にも引っかからない。
これだけの範囲を徹底的に焼き払われてなお、姿を見せない――。
考えられるのは、最初から逃走経路を確保していた可能性。
――あの男なら、やりかねない。
「まあいい」
勇者が肩を回し、力を抜く。
「次に会った時に仕留めりゃいい。それより――君たち、無事か?」
「は、はい!!」
慌てて返事をする。
そのとき、ようやく気づいた。
勇者の右手から、まだ血がぽたぽたと滴り落ちている。
「それより勇者さん、その手の怪我が……!」
「ん? ああ、これか」
勇者は何でもないように笑った。
「これぐらいの傷なら問題ないさ」
……嘘だ。
剣を握れば、確実に痛むはずの傷。
それでも平然としてみせるのは、きっと――自分たちを不安にさせないためだ。
「ミオ」
思わず名を呼ぶと、
「うん!」
返事と同時に、小さな影が鳥の巣から飛び出した。
「えっ?」
自分が止めるより早く、ミオは勇者の元へ駆け寄る。
どうやらこの巣の魔法は、外からの攻撃を防ぐが、内側から出るのは簡単らしい。
「聖なる風の精よ、癒しの力をお恵みください――」
ミオが小さな両手を掲げる。
「【小さき癒しの温風《リトルヒート》】!」
柔らかな温風が吹き、勇者の手を包む。
赤かった傷口がゆっくりと塞がり、血が止まっていく。
「おっ……?」
勇者が少し目を丸くした。
「治癒魔法か」
「はい。サダメみたいな深い傷は治せないけど、これくらいなら……」
「そっか。それは助かる」
素直に礼を言う勇者。
その表情は、どこか安心したようにも見えた。
――やっぱり、無理してたんだ。
だが、ふと自分は気づく。
「……あ」
「ん?」
「この巣の中に入れば、勇者さんの傷も治せたんじゃ……」
口にしてから、しまったと思う。
ミオに余計な魔力を使わせてしまったかもしれない。
しかし勇者は首を横に振った。
「いや。この手の結界型魔法ってのは、大抵“自分自身”には治癒効果が乗らねぇんだ」
「そう、なんですか?」
「うん。お父さんもそう言ってた」
ミオが思い出したように頷く。
なるほど。
だからミオ自身が巣の中で治癒している場面を、これまで一度も見なかったのか。
「へぇ……便利だけど、完全無敵ってわけじゃねぇんだな」
勇者が感心したように笑っていた。