転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第3章ー27

 爆撃が始まってから数分後――ようやく勇者の猛攻は終息した。

 

 「……ふぅ」

 

 勇者が大きく息を吐く。

 

 「……」

 

 自分は言葉を失っていた。

 

 地面はえぐれ、割れ、焼き焦がされ、かつて草原だった面影は一切ない。

 そこかしこに魔物の死骸が転がり、中には胴体だけ、腕だけ、あるいは黒く炭化した塊と化しているものもある。

 鼻を突く焦げ臭さと、魔力の残滓が肌を刺すように漂っていた。

 

 ――すごい。

 

 その一言すら、喉の奥で形になる前に消えた。

 ただ、呆然と立ち尽くすことしかできない。

 

 「……奴の姿はねぇな」

 

 勇者が周囲を見渡しながら呟く。

 

 「野郎、うまく逃げやがったか。しぶとい野郎め」

 

 エイシャの影は、どこにもない。

 地中に潜んでいる様子もなく、勇者の魔力感知にも引っかからない。

 

 これだけの範囲を徹底的に焼き払われてなお、姿を見せない――。

 考えられるのは、最初から逃走経路を確保していた可能性。

 

 ――あの男なら、やりかねない。

 

 「まあいい」

 

 勇者が肩を回し、力を抜く。

 

 「次に会った時に仕留めりゃいい。それより――君たち、無事か?」

 

 「は、はい!!」

 

 慌てて返事をする。

 

 そのとき、ようやく気づいた。

 勇者の右手から、まだ血がぽたぽたと滴り落ちている。

 

 「それより勇者さん、その手の怪我が……!」

 

 「ん? ああ、これか」

 

 勇者は何でもないように笑った。

 

 「これぐらいの傷なら問題ないさ」

 

 ……嘘だ。

 剣を握れば、確実に痛むはずの傷。

 それでも平然としてみせるのは、きっと――自分たちを不安にさせないためだ。

 

 「ミオ」

 

 思わず名を呼ぶと、

 

 「うん!」

 

 返事と同時に、小さな影が鳥の巣から飛び出した。

 

 「えっ?」

 

 自分が止めるより早く、ミオは勇者の元へ駆け寄る。

 どうやらこの巣の魔法は、外からの攻撃を防ぐが、内側から出るのは簡単らしい。

 

 「聖なる風の精よ、癒しの力をお恵みください――」

 

 ミオが小さな両手を掲げる。

 

 「【小さき癒しの温風《リトルヒート》】!」

 

 柔らかな温風が吹き、勇者の手を包む。

 赤かった傷口がゆっくりと塞がり、血が止まっていく。

 

 「おっ……?」

 

 勇者が少し目を丸くした。

 

 「治癒魔法か」

 

 「はい。サダメみたいな深い傷は治せないけど、これくらいなら……」

 

 「そっか。それは助かる」

 

 素直に礼を言う勇者。

 その表情は、どこか安心したようにも見えた。

 

 ――やっぱり、無理してたんだ。

 

 だが、ふと自分は気づく。

 

 「……あ」

 

 「ん?」

 

 「この巣の中に入れば、勇者さんの傷も治せたんじゃ……」

 

 口にしてから、しまったと思う。

 ミオに余計な魔力を使わせてしまったかもしれない。

 

 しかし勇者は首を横に振った。

 

 「いや。この手の結界型魔法ってのは、大抵“自分自身”には治癒効果が乗らねぇんだ」

 

 「そう、なんですか?」

 

 「うん。お父さんもそう言ってた」

 

 ミオが思い出したように頷く。

 

 なるほど。

 だからミオ自身が巣の中で治癒している場面を、これまで一度も見なかったのか。

 

 「へぇ……便利だけど、完全無敵ってわけじゃねぇんだな」

 

 勇者が感心したように笑っていた。

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