教会を飛び出した後、自分は村人に頭を下げて頼み込み、なんとか一頭の馬を貸してもらった。
事情を話すと、皆が快く背中を押してくれたのが、今でも胸に沁みている。
リーヴ村を出発し、ドレーカ村の方角へ。
道中、何度も休息を挟みながら、それでも馬を走らせ続けた。
気が付けば、すでに二日が経っていた。
「ふぅ……あと、もう少しか」
親切な村人から渡された簡素な地図。
それを頼りに進み、ついに見覚えのある地形へと辿り着く。
「……ここには、いないか」
馬を止め、周囲を見渡す。
荒れ果てた大地。草木は焼け、土は黒く焦げついている。
――ここだ。
自分とミオが魔物に襲われ、勇者が現れたあの場所。
異様なまでの荒地が、戦いの激しさを今も語っていた。
だが、そこに勇者の姿はない。
「となると……あとは、あそこか」
勇者が“急ぎの用”で向かった場所。
真っ先に思い浮かぶのは、やはりドレーカ村だった。
魔物の群れは勇者が討ち果たしたはず。
村人は……自分とミオ以外、生存者はいないだろう。
本来なら、それを勇者に直接伝えるべきだった。
だが、自分たちは眠っていて、勇者は先へ進んでしまった。
時間は有限。
特に勇者にとっては、一秒の遅れが誰かの命に繋がる。
それでも、確認は必要だったはずだ。
村が空になれば、そこを新たな魔物や盗賊が根城にする可能性もある。
だから勇者は向かったのだろう。
――自分が伝えられなかった代わりに。
「……居てくれ。頼むから」
胸の内に、正直な願いが滲む。
話したいことがある。
伝えなければならないことがある。
そして何より――あの人に、ちゃんと礼を言いたい。
すれ違えば、もう二度と会えないかもしれない。
そう思うと、心臓が嫌に早鐘を打った。
「急ぐか」
本当なら、ラエルたちの墓にももう一度手を合わせたかった。
だが、今は一刻も惜しい。
自分は馬腹を蹴り、再び走らせた。
――どうか、間に合ってくれ。
「はあ……はあ……」
さらに半日。
ようやく、ドレーカ村が視界に入った。
しかし――
それは“村”と呼べるものではなかった。
建物は崩れ、柱は炭のように黒ずみ、地面は一面の焼け野原。
かつて人の営みがあった痕跡だけが、無惨に散らばっている。
「……本当に、変わってしまったな」
自分が派手に戦ったせいもある。
だが、それ以上に――ここで多くの命が終わったのだと、風景が語っていた。
これでは、盗賊ですら住み着かないだろう。
完全な死地だ。
――それでも。
「あっ……!」
焼け野原の中央。
その中に、一人の人影が立っていた。