「勇者さん!」
声を張り上げると、焼け野原の中央に座していた男がゆっくりと顔を上げた。
「ん? ……君は……」
振り返ったその姿は、間違いない。
あの戦場で、自分たちを救ってくれた勇者だった。
――間に合った。
胸の奥で張り詰めていたものが、ようやくほどける。
「わざわざここまで来たのか? 遠かっただろう。……一人か?」
勇者は少し驚いたように目を丸くし、すぐに柔らかく笑った。
その問いかけに、自分は小さく首を縦に振る。
「えっ、えーっと……はい」
子供が一人で三日近い旅をしてきたなど、普通なら信じがたいだろう。
自分でも、よく辿り着けたものだと思う。
「……あの、勇者さんは、ここで何を?」
今度は自分から問いかける。
「ん?」
勇者は少し視線を足元へ落とした。
そこには小さな土の盛り。
その前で、細い煙が静かに立ち昇っている。
「この村の人たちの墓を作ろうと思ってな。……だが、数が多すぎてな。せめて手を合わせるくらいしか出来なかった」
「……そう、ですか」
視線を巡らせる。
焼け落ちた家屋。崩れた柵。黒く焦げた大地。
そして、この村の至るところに放置されたままの亡骸。
女性たちはゴミのように捨てられ、子供たちは道端に転がされたまま。
――あまりにも、無惨だった。
「じゃあ……俺が、皆の遺体を集めてきます」
自分でも驚くほど、自然に言葉が出た。
「いいのか? 正直、あの時よりキツいぞ」
勇者は冗談めかして言うが、その目は本気でこちらを気遣っている。
「大丈夫です。……皆を助けられなかった分、これくらいはやらないと、罰が当たりますから」
それは自分に向けた言葉でもあった。
弱かった自分。何も出来なかった自分。
だからこそ、せめて最期くらいは人として弔いたい。
勇者はしばらく黙り込み、やがて軽く息を吐いた。
「……よし。じゃあ、ちゃっちゃと済ませよう」
「えっ?」
勇者は立ち上がり、腰の埃を払う。
「一人でやるつもりだったが、君がやるって言うなら手伝わないわけにはいかないだろ。やるなら効率よくいこう、効率よく」
その言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなった。
「い、いいんですか? 勇者さんは忙しいんじゃ……」
「確かに忙しい。だがな、命を弔う時間を惜しむほど、俺は偉くないさ」
さらりと言ってのけるその背中は、やはり大きく見えた。
「向こうに荷車が残ってるはずだ。君はそれを使え。俺はこっち側から回る。反対側で合流しよう」
「……はい!」
自分は力強く頷き、馬小屋の方へ駆け出す。
そこには確かに、逃げ出した時に使わなかった荷車が残っていた。
これなら、一人ずつ運ぶ手間は減る。
勇者は素手でやるつもりらしいが、あの人なら問題ないだろう。
それから――
自分と勇者は、半日以上をかけて村中を回った。
静まり返った焼け野原に、二人分の足音だけが淡々と響く。
誰もいない村。
風の音だけが、死者の代わりに語りかけてくるようだった。
やがて、一つ、また一つと土の山が増えていく。
小さな墓標。
名も刻めぬ、せめてもの弔い。
それでも――
この世界で生きた証を、確かに地に刻むために。
――転生勇者が死ぬまで、残り7797日。