転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第3章ー33

 遺体を回収し終えた頃には、すでに空は夕焼けに染まり、太陽は地平線へ沈みかけていた。

 村の中心付近――かつて人々が集い、笑い声があったであろう広場に、集められた遺体が山のように積まれていく。

 

 数は二十を優に超える。

 中には腐食が進み、形を留めていないものすらあった。

 運ぶたび、鼻を刺す異臭と、崩れ落ちそうな肉体の感触が手に残る。

 

 正直、何度も吐き気をこらえた。

 それでも、途中でやめるわけにはいかなかった。

 

 ――これは、せめてもの贖罪だから。

 

 これほどの人数を土に埋めるのは現実的ではない。

 ラエルたちの時は、勇者の魔法で地面が大きく抉れ、埋葬が可能だった。

 だが、今回は違う。

 

 「……火葬にしよう」

 

 勇者の判断で、遺体の下に薪が敷かれ、簡易的な火葬の準備が進められた。

 

 「よし、これで準備完了だ。危ないから、少し下がってて」

 

 「は、はい」

 

 言われるまま、勇者の背後へと下がる。

 風が止み、辺りは不自然なほど静かだった。

 

 勇者は小さな炎を手元に灯し、それを薪へと投げ入れる。

 

 「……今度こそ、安らかに眠ってくれ」

 

 ぱちり、と音を立てて火が広がる。

 一人、また一人へと炎が移り、やがて山全体を包み込む。

 

 黒煙が立ち上り、焦げた匂いが辺りを満たす。

 鼻の奥がつんと痛み、思わず涙が滲みそうになる。

 

 「……」

 

 自分と勇者は、並んで手を合わせた。

 

 黙祷。

 

 炎の揺らめきの向こうに、母の姿が重なる。

 助けられなかった後悔。

 父と共に眠らせてあげられなかった罪悪感。

 

 ――父の遺体は、結局見つからなかった。

 

 一年以上が経過し、骨すら残っていない。

 魔物に捨てられ、どこかで踏み砕かれたのかもしれない。

 

 回収できた遺体は、この村の住人の三分の一にも満たない。

 残りは村の外へ投げ捨てられ、野の魔物の餌となったのだろう。

 

 考えただけで、胸の奥が煮えたぎる。

 憎悪と吐き気が同時に込み上げる。

 

 ――なんて惨いことをする連中だ。

 

 やがて炎が落ち着き、赤い熾火だけが残った頃、勇者がぽつりと口を開いた。

 

 「本当は、このあとすぐに出立する予定だったんだがな。……君を、こんな場所に一人残すわけにもいかないし」

 

 肩をすくめるような声音。

 

 「まったく、予定が崩れちまったな」

 

 「す、すいません……」

 

 勇者はただ笑っただけだった。

 それが余計に申し訳なく感じる。

 

 けれど――

 

 自分は、ここへ勇者を追いかけてきた本当の理由を思い出す。

 

 「あの……勇者さん。どうしても、会ったら聞きたいことがあって」

 

 「ん? 俺にか?」

 

 「はい」

 

 勇者は少しだけ目を細める。

 

 「わかったわかった。で? 何を聞きたい?」

 

 炎の残光が、勇者の横顔を赤く照らす。

 その姿は、あまりにも遠く、眩しく見えた。

 

 だからこそ――

 

 自分は、胸の奥にずっと抱えていた言葉を、震える声で口にする。

 

 「……どうしたら、貴方みたいな勇者になれますか?」

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