転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第3章ーおまけ

 「『はあ……はあ……はあ……』」

 

 勇者の魔法の嵐から辛うじて逃れ、気が付けば私は十キロ以上離れた山の麓まで退避していた。全身にまとわりつく焦げ臭さと痛みが、あの一撃の凄まじさを否応なく思い出させる。

 

 ――十死怪にまで登り詰めたこの私が、人間風情に敗走するとは。

 

 屈辱。

 それ以外の言葉が見つからない。

 

 「『……その上、成果はこれだけか』」

 

 乱れた呼吸を整えながら、影魔法を解く。

 地面の影が蠢き、その中から一つの影が形を成す。

 

 「『おい。いい加減起きろ、ダークボルト』」

 

 「っ……はぁ、はあ……」

 

 影の中から現れたのは、黒い鎧を纏った長身のコボルト。

 私と同じく十死怪に名を連ねる魔将――ダークボルト。

 

 勇者の一撃を真正面から受けながらも、こいつはまだ生きていた。肩から下腹部まで一直線に裂けた傷は深いが、十死怪級の生命力なら時間をかければ回復できる範囲だ。

 

 だから拾った。

 ただそれだけの理由だ。

 

 こいつに恩を売ったところで、私に得はない。

 だが、これ以上魔王軍の戦力を失えば、軍全体の損耗は取り返しがつかなくなる。そして、その責任は確実に私へ降りかかる。

 

 ――私の地位を守るためだ。

 

 本当に、不本意極まりない。

 

 「だぁぁっ……てめぇ、なんで俺を助けやがった……? 助けねぇって言ってたはずだろ……!」

 

 瀕死の状態でも、真っ先に飛び出すのは感謝ではなく怒声。

 相変わらず、救いようのない戦闘狂だ。

 

 「『勘違いするな。今回の失態は私の指揮の問題だ。自分の問題は自分で処理する。それだけの話だ』」

 

 「はっ……! 結局、自分の保身が第一ってわけか。さすが雑魚らしい発想だなぁ……」

 

 「『……好きに言え』」

 

 いちいち腹を立てる気にもならない。

 こいつが皮肉しか吐けない生き物であることなど、今に始まった話ではない。

 

 「『私は一時撤退する。言っておくが、貴様の面倒を見るのはここまでだ。その辺の魔物に喰い殺されようが、偶然人間に見つかって捕まろうが、私の知ったことではない』」

 

 「へっ……雑魚に介抱されるくらいなら、野垂れ死んだ方がマシだぜ……。帰るなら、とっとと帰りやがれぇ……」

 

 最後の最後まで減らず口。

 呆れるほど一貫している。

 

 私は影をまとい、魔王城への帰還準備を整える。

 

 ――それよりも問題は。

 

 「『……魔王様に、どう弁明するか、だな』」

 

 今回の作戦失敗。

 勇者の生存。

 十死怪二名の敗走。

 

 どれ一つ取っても、魔王軍にとっては致命的な失態だ。

 

 胃の奥が重くなる。

 

 さて――

 どんな言葉を選べば、首が繋がるだろうか。

 

 影が私を包み込み、山の麓に闇だけが残った。

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