転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第4章ー2

 「はい、これで注文の品は全部そろったよ!」

 

 「ありがとうございます」

 

 村の商店の主人に、エリカさんから預かったメモを差し出すと、彼は迷いのない手つきで次々と商品を買い物かごへ放り込んでいく。手際がよすぎて、見ていて小気味がいい。ものの数分で晩ご飯の買い出しは終了した。

 

 さすがは常連客を何人も相手にしている商人だ。値段を見ただけで即座に計算し、しかも間違えない。前世でも今世でも、暗算と暗記が壊滅的に苦手な自分からすると、心底うらやましい才能だった。こういう人こそ、まさにプロフェッショナルなのだろう。

 

 「全部で銀貨一枚と銅貨三枚ね」

 

 「銀貨一枚と銅貨三枚ですね。ちょっと待ってくださいよっと」

 

 爽やかな笑顔で会計を告げる主人。その表情には、長年この村で商いをしてきた自信と余裕が滲んでいる。

 

 この世界の通貨はすべて硬貨だ。銅貨一枚がだいたい百円、銀貨一枚が千円、金貨一枚で一万円――前世の感覚で無理やり当てはめるなら、そんな具合になる。もっとも、この世界の誰一人として日本円など知らないのだから、これはあくまで自分だけの換算基準に過ぎない。

 

 税金の概念はあるらしいが、消費税のように価格に上乗せされているのかどうかはよく分からない。経済の仕組みについて考え始めると頭が痛くなる。前世でもこういう話は避けてきたし、今さら勉強したところで急に賢くなれるわけでもないだろう。……いや、もういい年齢なのだから、そろそろ最低限は知っておいた方がいいのかもしれないが。

 

 「はい、銀貨一枚と銅貨三枚、ちょうどね。毎度あり!」

 

 「どうもー」

 

 「今日は少しおまけしておいたよ。シスターによろしく伝えておいてくれ」

 

 「はい。伝えておきます」

 

 巾着袋から銀貨一枚と銅貨三枚を取り出し、木のカウンターの上に置く。

 袋の中に残っているのは、銀貨が五、六枚と銅貨が十枚ほど。前世の感覚で言えば、だいたい七千円程度。それがこの教会の一週間の生活費だ。今日はやや奮発気味だが、普段はもっと慎ましくやりくりしている。

 

 金貨など、この世界に来て十年以上経つが、実物を見たことは一度もない。貴族の間では金の延べ棒で取引している、などという噂も耳にしたことはあるが、庶民が縁を持てる代物ではないだろう。もっとも、前世でも本物の金貨などテレビの中でしか見たことがないのだから、結局どこへ行っても自分には縁遠い存在らしい。

 

 会計を終えて店を出ると、主人は相変わらず爽やかな笑顔で手を振って見送ってくれた。おまけまでしてくれる気前の良さには感謝しているが、その親切の理由がなんとなく分かってしまうのが少しだけ苦笑ものだ。

 

 ――エリカさんへの好感度稼ぎ。

 

 あの人は昔から美人で、今でも村の男たちの視線を集める存在だ。以前、一緒に町を歩いたときも、すれ違う男たちは大抵、鼻の下を伸ばすか、やたらと愛想よく声をかけてきた。美人とは、それだけで得をするものらしい。

 

 もっとも、彼女は聖職者。現実的に考えて、恋愛など望むべくもない。……とはいえ、昔の自分もまた、淡い期待を胸に抱いていた側の一人だったわけで。

 

 その事実を思い出し、心の中でひっそりと自分自身にも戒めの言葉を投げかけながら、買い物かごを抱えて帰路についた。

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