「きゃあぁぁぁぁぁ!!」
悲鳴が、村の通りを切り裂くように響いた。
騒ぎの中心から、大勢の人々が叫び声を上げながらこちらへ逃げてくる。村中が一瞬にして混乱に包まれていた。何が起きているのか確かめようと、自分は人の流れとは逆方向へ踏み込む。しかし、恐怖に駆られた人波を逆流するのは想像以上に難しく、なかなか前へ進めない。
大きな爆発音は聞こえなかった。火事でもなさそうだ。
ならば――魔物か?
もし魔物が村へ侵入してきたのなら、自分でも対処できるかもしれない。魔物を殺すことには、十年前に嫌というほど慣れた。野生の獣だろうと、魔王軍の手先だろうと、村の人々に危害を加えるつもりなら容赦はしない。
不意に、十年以上前の光景が脳裏に蘇る。
目の前で父が殺され、母が引きずられていき、村の人々が次々と屠られていったあの日。悲鳴と断末魔、そして魔物たちの嗤い声が、耳の奥で再び鳴り響く。
あのときの自分は無力だった。
いや――無力である以前に、何もしようとしなかった。父を失った衝撃で思考が止まり、ただ立ち尽くしていた。
二度と、あんな光景は見たくない。
記憶こそ薄れつつあるが、「強くなりたい」というあの誓いだけは今も胸に残っている。だから、誰にも言わず剣術と魔法の鍛錬は続けてきた。どこまで通用するかは分からない。だが、あの頃の自分よりは確実に前へ進めているはずだ。実戦はしていない。エリカさんが心配するからだ。だが――今はそんなことを言っている場合ではない。
「誰か、騎士団に知らせろ!」
「でも、今からじゃ間に合わないんじゃ……!」
「馬鹿! 何もしないよりマシだろ!」
逃げながら怒鳴り合う村人たち。
騎士団に報告するほどの事態……?
魔物が一、二匹入り込んだ程度なら、村に滞在している冒険者へ依頼すれば済む話のはずだ。ということは、もっと深刻な何かが――。
「いやぁぁぁぁぁ!!」
「ッ!?」
ひときわ大きな女性の悲鳴が聞こえた。逃げ遅れた人が襲われているのか。間に合え――そう願いながら、人混みをかき分け、必死に前へ進む。
「はぁ……はあ……!」
ようやく人の流れを抜けた。押し合いへし合いで息が上がっているが、構ってはいられない。早く、状況を――。
「はっはっはっはっはっはぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ッッ!?」
視線を上げた瞬間、自分は凍りついた。
そこにあったのは、野生の魔物でも、魔王軍の魔物でもない。
村を襲っていたのは――
紛れもなく、人間の姿だった。