転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第4章ー8

 先ほどまで微笑んでいた塩顔の男は、突如として右手を目の前の賊へ向けた。

 

 「創造せよ。悪事を働く不届き者を制する捕具を」

 

 「は?」

 

 賊が間抜けな声を漏らした瞬間。

 

 「――【拘束《リストゥレイン》】」

 

 短い詠唱と共に、空間がわずかに震えた。

 次の瞬間、賊の身体を鉄製の鎖が絡め取るように出現し、四肢をがっちりと縛り上げた。

 

 「う゛っ?!」

 

 「んなっ!?」

 

 「がっ!?」

 

 連鎖するように、他の賊たちの身体にも同じ拘束具が生まれる。

 逃げる暇も、抵抗する隙も与えられない。

 

 「きゃあっ!?」

 

 「ッ!?」

 

 人質にされていた女性たちは、何が起きたのか分からず、ただ目を見開いていた。

 

 ほんの数秒。

 それだけで、十数人の賊は完全に制圧されていた。

 

 ――圧倒的。

 自分が剣を抜く暇すらなかった。

 

 「よし。これで制圧は完了かな」

 

 淡々とした声。

 拘束された賊の一人が、歯噛みするように呻く。

 

 「ク、クソォ……」

 

 男はそのまま、捕らわれていた女性たちの元へ歩み寄る。

 

 「大丈夫ですか?」

 

 「え……?」

 

 優しく差し出された手。

 女性は戸惑いながらも、その手を取って立ち上がる。

 

 「あ、ありがとうございます……」

 

 混乱と安堵が入り混じった表情。無理もない。

 

 女性たちを安全な距離まで下がらせた後、拘束された賊の一人が叫ぶ。

 

 「な、なにもんだ、てめぇ……!」

 

 男は静かに視線を向ける。

 

 「先ほど、“ヤベーブツに手を出している”と言っていたね。それは違法魔法薬物のことかな?」

 

 「……まさか、騎士団か?」

 

 「騎士団に知り合いがいてね。旅のついでに、怪しい連中を見かけたら対処してほしいと頼まれていただけさ」

 

 その言葉で、ようやく理解する。

 この男は偶然居合わせた旅行者ではない。

 ――最初から、賊を追ってここへ来ていたのだ。

 

 「騎士団にはすでに連絡してある。駐在所の者なら、明日には到着するだろう。悪いが、それまで大人しくしていてもらうよ」

 

 「ちっ……クソが……」

 

 賊は悪態をつくが、鎖はびくともしない。

 

 手際が良すぎる。

 事前に情報を掴み、準備し、そして確実に仕留める。

 ――プロだ。

 

 「さて」

 

 男は振り返り、自分の方へ視線を向けた。

 

 「君も怪我はないかい?」

 

 「……えっ?」

 

 不意に声をかけられ、少し間が抜けた返事になる。

 

 「は、はい。大丈夫です」

 

 「そうか。それなら良かった」

 

 胸の奥に、ようやく溜まっていた息を吐き出す。

 この人が現れなければ、自分は確実に殴られ、さらに人質の女性たちも危険に晒されていた。

 

 「……あ、あの」

 

 「ん?」

 

 「助けてくれて、ありがとうございます」

 

 素直な感謝。

 男は少しだけ目を細め、穏やかに笑った。

 

 「いや。君が勇気を出して声を上げなければ、状況はもっと悪化していたかもしれない。むしろ、私の方こそもっと早く動くべきだった。怖い思いをさせてしまって、すまない」

 

 「い、いえ……俺は何も……」

 

 フォローされればされるほど、自分の浅はかさが胸に刺さる。

 英雄気取りの行動が、結果として人質を危険に晒した。

 反省すべきは自分の方だ。

 

 それでも――この人に助けられた事実は変わらない。

 

 「……あの。お名前を伺ってもいいですか?」

 

 「ん?」

 

 一度は勇者に憧れた身だ。

 ならば今度こそ、恩人の名をきちんと覚えておきたい。

 

 男は静かに微笑み、手を差し出す。

 

 「私はリーフ。リーフ・エンドレッドだ」

 

 差し出された手は、驚くほど温かかった。

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