「なるほど。その歳で、あそこまでの勇敢さを秘めている理由がようやく分かったよ。随分と大変な人生を歩んできたんだね」
それからしばらくの間、近くの酒場でリーフさんと向かい合い、酒とつまみを囲みながら様々な話をしていた。
さっきまで村中を巻き込んでいた大騒動も、リーフさんが賊を制圧したことで徐々に沈静化していった。逃げ惑っていた村人たちは落ち着きを取り戻し、営業を止めていた店も次第に再開し始めている。酒場の店主も「恩人へのせめてもの礼だ」と言って、酒とつまみを無料で提供してくれた。ついでに自分の分のジュースまでご馳走してくれたのは、正直ありがたい反面、少しだけ申し訳なさもあった。
だが、店主は「気にするな」と豪快に笑い、断る隙すら与えてくれなかった。こういう人情の厚さが、この村の良いところだ。
なお、例の賊たちは騎士団が到着するまで馬小屋に拘束されている。昔、自分に馬を貸してくれたあのおじさんが、今度は馬小屋を提供してくれたらしい。本当に頭が下がるほどの善人である。
そんなこんなで、酒を交えながら互いの身の上話をする流れになった。
驚いたことに、リーフさんはソワレル魔法学園の教員を務めているらしい。各地の村を巡り、優秀な人材を見つけては声を掛け、時にはスカウト枠で学園へ迎え入れることもあるという。
――つまり、教師でありながら、才能発掘の役割も担っているわけだ。
(授業はどうしてるんだろう? 担任とか科目担当じゃないのか? ……スカウト専門の教員?)
疑問は浮かんだが、今は黙っておくことにした。
「とはいえ、ああいう連中に勇気を出して立ち向かうのは簡単なことじゃない。君は本当に、勇者に憧れているんだね」
「はい。俺……勇者みたいに、強くて、優しくて、威厳のある人になりたいんです」
リーフさんとの会話は、不思議と居心地が良かった。
普段は胸の奥にしまい込んでいる想いまで、自然と口にしてしまう。それほど、この人には安心感があった。
十年前。
自分は勇者に憧れ、強くなるために必死で特訓を続けていた。だが、ある日を境に――勇者は忽然と姿を消した。
理由は分からない。
一時期、新聞には『勇者死亡説』などという見出しまで踊り、世間を騒がせたこともあった。それほど、勇者の失踪は世界にとって衝撃的な出来事だったのだ。
最初は信じられなかった。
どこかで今も魔物と戦っているのだろう――そう信じて疑わなかった。
しかし、あの日から今日まで、勇者の目撃情報は一切ない。
やがて村の人々も話題にしなくなり、勇者という存在は「昔話」になりつつあった。
今となっては、正直なところ――死亡説を完全には否定できない。
あれほどの人物が、何の痕跡も残さず戦い続けているとは考えにくい。自分も中身はいい歳した大人だ。それくらいの現実的な推測はできる。
それでも。
勇者に憧れたあの日の気持ちは、今も消えていない。
あの人のようになりたいという願いは、ずっと胸の奥に残り続けている。
たとえ勇者がこの世にいなくなっていたとしても――
次は自分が、その意思を受け継ぐ。
(……まあ、本人が聞いたら「勝手に背負うな」って笑いそうだけどな)
そんなことを考えていると、リーフさんが静かに顎に手を当て、何かを思案するような顔をした。
「ふむ。それなら……」
「はい?」
自分の言葉を茶化すでもなく、真剣に考え込むその姿勢に、思わず背筋が伸びる。
そして、リーフさんは穏やかに微笑んだ。
「魔法学園の入学試験――受けてみないかい?」