数時間後。
一人で教会へと戻る道すがら、俺はリーフさんとの会話を何度も思い返していた。
――俺が、魔法学園の入学試験?
「俺が入学試験に?! 本当にいいんですか?」
「受けるかどうかは君の自由さ。受けたからといって、必ず受かるわけじゃないけどね」
「……」
まさかこんな形で学園関係者と出会うとは思ってもいなかった。
それどころか、入学試験への招待まで受けるとは。
父も、勇者も、学園への入学を勧めてくれていた。
ならばこれは、逃すべきではない好機だ。
「ただし、一つだけ条件を付けさせてほしい」
「……条件?」
すでに気持ちは決まっていた。
だが、リーフさんは穏やかな声のまま、はっきりと言った。
「教会の人たちと、きちんと話をすること。それだけだよ」
「……」
確かに、家族同然のエリカさんたちに何も告げずに決めるわけにはいかない。
「もし教会側が反対したら、この話はなかったことにする」
「なっ――!?」
「悪いけどね。保護者の承諾なしに、子どもを学園へ送り出すことはできない決まりなんだ。
それに、学園へ入れば全員が寮生活になる。……そして、ソワレル魔法学園は、決して安全な場所じゃない」
「危険、というのは……規則が厳しい、とか?」
「いや……」
それまで柔らかかったリーフさんの表情が、一瞬で消える。
その声は静かで、しかし鋭かった。
「最悪の場合――命を落とすこともある」
――その言葉だけが、胸に深く沈んだ。
ソワレル魔法学園は、優秀な人材でなければ入学できない。
それは有名な話だ。だが、それ以上に困難なのは“卒業”だという。
厳しい座学と実技訓練。
そして定期的に課される、実践形式の依頼任務。
素材採取や護衛、見張りといった比較的安全なものが多いものの、現場では何が起こるか分からない。
アクシデント、魔物の暴走、予期せぬトラブル――。
その中で命を落とした学生も、過去には確かに存在したらしい。
数は多くないが、重傷を負い、そのまま学園を去る者は決して珍しくないという。
だからこそ、リーフさんは言ったのだ。
――必ず、家族と話し合ってから決めなさい、と。
正直、それまでは少し甘く見ていた。
父は楽しげに語り、勇者も笑って勧めてくれた。
きっと華やかで、輝かしい学園生活が待っているのだと、どこかで思い込んでいた。
だが現実は違う。
楽しいのは表向きだけで、その裏には、自分の想像を超える厳しさがある。
(……あの二人、よくこんな所を軽い調子で勧めてくれたな)
そう思いつつも――。
自分の決意は、揺らがなかった。
強くなると決めた以上、楽な道など存在しない。
どれほど過酷な環境であろうと、それを越えなければ、憧れた人たちの背中には届かない。
「……よし」
覚悟は決まった。
あとは――話すだけだ。
「ただい――っ!?」
教会の扉を開けた瞬間、視界いっぱいに飛び込んできた影。
「おかえりなさい! あんなことがあったのに帰りが遅いんだもの、心配したじゃない! もう少しで皆で村中探し回るところだったんだから!」
エリカさんの熱烈な抱擁。
息が詰まるほどの力強さに、思わず情けない声が漏れる。
「ご、ごめんなさい……」
十年経っても衰えを知らない豊満な体躯が、物理的にも精神的にも圧をかけてくる。
昔なら別の意味で危険だったかもしれないが、今はただありがたくも恐ろしい。
(賊の件はもう村中に広まってるはずなのに……帰りが遅いだけでここまで心配されるとは)
申し訳なさが胸に刺さる。
「すみません。俺が遅くなったせいで、晩ご飯まだですよね? 今日は俺が作ります。それと……」
「ん?」
エリカさんが首をかしげる。
俺は息を吸い込み、言った。
「皆に、話したいことがあります」
――今夜、人生が動き出す。