「サダメ……」
自分にできることは、土下座で覚悟を示すことだけだった。
これほど真剣に頭を下げたのは、前世を含めても初めてかもしれない。
「……」
エリカさんの悲しげな表情も、神父の深く思案する顔も、頭を上げずとも容易に想像できた。
二人は、適当に願いを却下するような人ではない。
だからこそ――この程度の覚悟では伝わらないと思い、土下座を選んだ。
少し卑怯な手段かもしれない。
けれど、それほどまでに本気だった。
尊敬する人に近づくためには、学園に行くしかない。
学園で得られる知識と経験は、独学とは比べものにならないと勇者からも聞いていた。
「……神父様……」
「ふむ……」
重い沈黙が続く。
床の木目を見つめたまま、時間だけが過ぎていく。
ここまで長いと、不安が胸を締めつけた。
「サダメ、顔を上げなさい」
「っ……はい」
ようやく神父が声をかけてくる。
言われるまま、ゆっくりと顔を上げた。
「勇者になりたい、と言ったね?」
「……はい」
「勇者様は、国王より命を受け、魔物の脅威を退け、魔王を討つ大義を背負われる存在だ」
「はい」
「しかし――十年前、この村を訪れたのを最後に、その行方は分からなくなってしまわれた」
「……」
「千年に一人の逸材と称されたお方が、誰にも看取られず姿を消した。
これが何を意味するか、分かるかね?」
「……」
「勇者様でさえ手に負えぬ存在が、この世界のどこかに未だ潜んでいる可能性がある。
勇者とは、そうした“人知を超えた脅威”と向き合う宿命を背負わされる者なのだ」
淡々と語られる現実。
それは、子供の夢を壊すための言葉ではなく――
本当にその道を選ぶ覚悟があるかを問う試練だった。
――分かっている。
夢と現実は違う。
勇者とは、格好いい称号ではなく、死と隣り合わせの役目だ。
前世の自分なら、きっとここで引いていただろう。
「無理だ」と、笑って諦めていたはずだ。
だが――今の自分は違う。
「お前は、それでも勇者になりたいのかい?」
神父の眼差しが、真正面から射抜いてくる。
圧倒されそうになる。
冷や汗が背を伝う。
けれど、もう迷いはなかった。
「はい!」
思わず声が大きくなる。
「学園で学んで、鍛えて、強くなります。
魔物から人を守れて、誰かの涙を止められる――
そんな勇者になりたいんです!」
言葉は拙い。
理想論かもしれない。
それでも。
「だから……どうか、学園へ行かせてください!」
再び、深く頭を下げる。
それは少年の夢であり、
同時に、人生を賭けると決めた大人の覚悟でもあった。