転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第4章ー12

 「サダメ……」

 

 自分にできることは、土下座で覚悟を示すことだけだった。

 これほど真剣に頭を下げたのは、前世を含めても初めてかもしれない。

 

 「……」

 

 エリカさんの悲しげな表情も、神父の深く思案する顔も、頭を上げずとも容易に想像できた。

 二人は、適当に願いを却下するような人ではない。

 だからこそ――この程度の覚悟では伝わらないと思い、土下座を選んだ。

 

 少し卑怯な手段かもしれない。

 けれど、それほどまでに本気だった。

 

 尊敬する人に近づくためには、学園に行くしかない。

 学園で得られる知識と経験は、独学とは比べものにならないと勇者からも聞いていた。

 

 「……神父様……」

 

 「ふむ……」

 

 重い沈黙が続く。

 床の木目を見つめたまま、時間だけが過ぎていく。

 ここまで長いと、不安が胸を締めつけた。

 

 「サダメ、顔を上げなさい」

 

 「っ……はい」

 

 ようやく神父が声をかけてくる。

 言われるまま、ゆっくりと顔を上げた。

 

 「勇者になりたい、と言ったね?」

 

 「……はい」

 

 「勇者様は、国王より命を受け、魔物の脅威を退け、魔王を討つ大義を背負われる存在だ」

 

 「はい」

 

 「しかし――十年前、この村を訪れたのを最後に、その行方は分からなくなってしまわれた」

 

 「……」

 

 「千年に一人の逸材と称されたお方が、誰にも看取られず姿を消した。

 これが何を意味するか、分かるかね?」

 

 「……」

 

 「勇者様でさえ手に負えぬ存在が、この世界のどこかに未だ潜んでいる可能性がある。

 勇者とは、そうした“人知を超えた脅威”と向き合う宿命を背負わされる者なのだ」

 

 淡々と語られる現実。

 それは、子供の夢を壊すための言葉ではなく――

 本当にその道を選ぶ覚悟があるかを問う試練だった。

 

 ――分かっている。

 夢と現実は違う。

 勇者とは、格好いい称号ではなく、死と隣り合わせの役目だ。

 

 前世の自分なら、きっとここで引いていただろう。

 「無理だ」と、笑って諦めていたはずだ。

 

 だが――今の自分は違う。

 

 「お前は、それでも勇者になりたいのかい?」

 

 神父の眼差しが、真正面から射抜いてくる。

 圧倒されそうになる。

 冷や汗が背を伝う。

 

 けれど、もう迷いはなかった。

 

 「はい!」

 

 思わず声が大きくなる。

 

 「学園で学んで、鍛えて、強くなります。

 魔物から人を守れて、誰かの涙を止められる――

 そんな勇者になりたいんです!」

 

 言葉は拙い。

 理想論かもしれない。

 

 それでも。

 

 「だから……どうか、学園へ行かせてください!」

 

 再び、深く頭を下げる。

 

 それは少年の夢であり、

 同時に、人生を賭けると決めた大人の覚悟でもあった。

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