自分の声だけが教会の天井に反響していた。
皆が真剣に耳を傾けていたせいもあるが、気づけば声量が必要以上に大きくなっていたらしい。少し熱くなりすぎたかもしれない。
「ふむ……」
神父は顎髭を撫でながら、再び深く考え込む。
この沈黙は何を意味するのか。
考えを改めようとしているのか、それとも別の形で諭そうとしているのか――読み取れない。
胸の奥が不安でざわついた、その時だった。
「……わかった。許可しよう」
「……っ!?」
「ッ?! 神父様?!」
あまりにあっさりと告げられた承諾の言葉に、思わず目を見開く。
正直、半ば諦めかけていた。
だからこそ、心臓が跳ね上がるほど驚いた。
隣のエリカさんも、同じように口を開けたまま固まっている。
「宜しいのですか、神父様?」
「うむ。子供の夢を力ずくで折るのも、あまりに酷だと思ってな」
神父は穏やかに笑い、続ける。
「それに聞いた話だが――今日、この子は賊に立ち向かい、人質を助けようとしたそうじゃないか」
「ええっ?! それは本当なの、サダメ?!」
「う、うん……」
どうやら、村の誰かから既に話が伝わっていたらしい。
エリカさんは初耳だったようで、驚いた顔でこちらを見る。
この状況で嘘はつけない。素直に頷くしかなかった。
……後で確実に怒られるな、これは。
「今回の件に関しては、保護者として叱るべきところだ。だが――」
神父の声が、少しだけ柔らかくなる。
「その勇敢さは、いずれ誰かを救う力になると私は思っている」
「……」
「大人にも負けぬ力と、物事を正しく見極める判断力を身につければ、たとえ勇者になれずとも立派な人間として生きていけるだろう。
サダメ、私は――君の“覚悟”を確かめたかったのだ」
「……神父様」
胸の奥に溜まっていた不安が、ゆっくりと溶けていく。
あの厳しい問いかけは、拒絶ではなく試練だったのだ。
子供の夢を軽く扱わぬための、大人の責任。
そう思うと、自然と背筋が伸びた。
「ただし――条件がある」
「条件……?」
「受験は今年一度きりだ。今年の試験で不合格だった場合、勇者の夢はきっぱり諦めること。それでよいな?」
「……はい!」
一度きりの挑戦。
逃げ道はない。
だが、それでいい。むしろ望むところだ。
――絶対に合格する。
そう心に誓った、その瞬間。
「ねえ、神父様ー」
「ん? どうしたんだい、ミオ?」
今まで静かに成り行きを見守っていたミオが、唐突に声を上げた。
嫌な予感が、背筋を駆け上がる。
「私も――サダメと一緒に、入学試験を受けたい!」
「……」
一瞬。
教会の空気が、完全に止まった。
誰も言葉を発せず、ただ静寂だけがそこにあった。