転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第4章ー13

 自分の声だけが教会の天井に反響していた。

 皆が真剣に耳を傾けていたせいもあるが、気づけば声量が必要以上に大きくなっていたらしい。少し熱くなりすぎたかもしれない。

 

 「ふむ……」

 

 神父は顎髭を撫でながら、再び深く考え込む。

 この沈黙は何を意味するのか。

 考えを改めようとしているのか、それとも別の形で諭そうとしているのか――読み取れない。

 

 胸の奥が不安でざわついた、その時だった。

 

 「……わかった。許可しよう」

 

 「……っ!?」

 

 「ッ?! 神父様?!」

 

 あまりにあっさりと告げられた承諾の言葉に、思わず目を見開く。

 正直、半ば諦めかけていた。

 だからこそ、心臓が跳ね上がるほど驚いた。

 

 隣のエリカさんも、同じように口を開けたまま固まっている。

 

 「宜しいのですか、神父様?」

 

 「うむ。子供の夢を力ずくで折るのも、あまりに酷だと思ってな」

 

 神父は穏やかに笑い、続ける。

 

 「それに聞いた話だが――今日、この子は賊に立ち向かい、人質を助けようとしたそうじゃないか」

 

 「ええっ?! それは本当なの、サダメ?!」

 

 「う、うん……」

 

 どうやら、村の誰かから既に話が伝わっていたらしい。

 エリカさんは初耳だったようで、驚いた顔でこちらを見る。

 この状況で嘘はつけない。素直に頷くしかなかった。

 

 ……後で確実に怒られるな、これは。

 

 「今回の件に関しては、保護者として叱るべきところだ。だが――」

 

 神父の声が、少しだけ柔らかくなる。

 

 「その勇敢さは、いずれ誰かを救う力になると私は思っている」

 

 「……」

 

 「大人にも負けぬ力と、物事を正しく見極める判断力を身につければ、たとえ勇者になれずとも立派な人間として生きていけるだろう。

 サダメ、私は――君の“覚悟”を確かめたかったのだ」

 

 「……神父様」

 

 胸の奥に溜まっていた不安が、ゆっくりと溶けていく。

 あの厳しい問いかけは、拒絶ではなく試練だったのだ。

 

 子供の夢を軽く扱わぬための、大人の責任。

 そう思うと、自然と背筋が伸びた。

 

 「ただし――条件がある」

 

 「条件……?」

 

 「受験は今年一度きりだ。今年の試験で不合格だった場合、勇者の夢はきっぱり諦めること。それでよいな?」

 

 「……はい!」

 

 一度きりの挑戦。

 逃げ道はない。

 だが、それでいい。むしろ望むところだ。

 

 ――絶対に合格する。

 

 そう心に誓った、その瞬間。

 

 「ねえ、神父様ー」

 

 「ん? どうしたんだい、ミオ?」

 

 今まで静かに成り行きを見守っていたミオが、唐突に声を上げた。

 

 嫌な予感が、背筋を駆け上がる。

 

 「私も――サダメと一緒に、入学試験を受けたい!」

 

 「……」

 

 一瞬。

 

 教会の空気が、完全に止まった。

 

 誰も言葉を発せず、ただ静寂だけがそこにあった。

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