周りはド派手なのにどうして俺だけこんなに地味なんですか!!   作:メルクーリさんウッス

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はじまり

 魔法ってのは憧れだ。

 幼い頃から、今の俺と変わらないくらいの人間が使っているのをテレビで見てきたし、それを見て目を輝かせない日はなかった。

 そしてその後自分の手からド派手な炎や氷を出す妄想をすることまでがワンセットだ。

 

 そんな俺という奴は人一倍、魔法に対する熱意が高いという自覚はあるのだが、やはり才能という壁は熱意だけでは越えられない。

 

 

 

 結論から言うと俺の魔法適正、足から翼が生えるだけでした。

 

 

「いやいやいやいや何でだよっ!?」

 

 

 嘘だろとか、どうしてだとかが第一声にならない辺りに俺の自尊心が垣間見えているわけだが。

 ぶっちゃけまあこうなるよねって思ってた自分も居なくもない。

 

 この魔法社会というのはめちゃくちゃシビアで、いわゆる才能ゲーに分類される。

 親の家系は大した魔法一族でもないのに突然変異的にド派手な魔法適正が生えてきたらビビるわ。

 それを望んでたのが俺なんだけど。

 

 

「何だよチックショー! ……ちくしょう」

 

 

 心も体も疲れ切って、俺はお手本の様に膝から崩れ落ち床に手をついた。

 心のどこかで分かり切っていたとしてもそりゃあショックなもんはショックである。

 翼が足から生えるって何だよ、背中じゃないのかよとは俺が言いたい。

 

 

「俺自身が貧弱過ぎてお話にならねー」

 

 

 おまけにこの魔力量の少なさ。

 一応この翼、走ったりすると加速するっておまけ効果があるんだけど、その代わり加速するのにも魔力を消費するらしい。

 なんと俺、ちょっと走るだけで魔力が枯渇して息が荒くなりました。

 

 

「体力作り意味ねーじゃん」

 

 

 魔力に希望を持ち過ぎた俺は、普段から走り込みの様な基礎体力作りを欠かさなかったのだが……見事にアテが外れましたね。

 誰だよ魔力だけじゃなくて体力鍛えろって言ったの、俺だね。

 

 テレビで見る様なド派手な魔法を望んでいた俺にとって、地味めな魔法適正と少ない魔力量というのは、理想を紙切れの如くちぎり捨てるには十分だった。

 

 

「まだだ、まだ……!」

 

 

 わけもなく。

 醜くそして泥臭く抗おうと意気込んだ俺に降ってかかったのは、友人達のド派手な魔法だった。

 

 

「なっ、あぁぁ……!?」

 

 

 友人達は慣れた手つきでド派手な魔法を操り、俺を絶望させた。

 その時は流石に脳が壊れる様な音がしたね。

 最後の意地で表情と態度には出さなかった俺を褒めて欲しい。

 

 なんだよみんなしてド派手なことしやがって、羨ましいなこんちくしょー! ……と、実際はこんなもんじゃないくらい悔しかった、悔しかった俺は    

 

 

「くそっ!」

 

 

 台パンしたんだよね、夕暮れ時の空っぽな教室で。

 すっごく痛かった。

 

 

「……何が何でも、のし上がってやるっ」

 

 

 とまあ今省みてみると中々に危なっかしい思想をしてたな、あの出会いがなかったら闇堕ちしてたかもしれない。

 

 

「ん?」

 

 

 

 

 

 

「魔道具は要らんかね、今なら安いぞ」

 

 

 そうして悔しさと焦りに背中を押された俺は、クソ怪しい魔道具の露天商へと訪れていた。

 もう一度言うぞ?

 

 クッッッッソ怪しくて格好が小汚い爺さんが売り手の露天商を訪れていた。

 

 だって台パンした教壇から落ちてきたんだもんここのメモが。

 どんな願いでも叶える魔道具ありますって触れ込みが目に映っちゃったんだもん!

 

 

「おや、買っていくかい?」

 

「いっ、いやぁ俺は……ははは」

 

 

 流石の俺も焦っていたとはいえこの風景には躊躇いを覚えた、当たり前だよなどっからどう見ても怪しいもんこの爺さん。

 

 

「……ふぅむ」

 

 

 戸惑う俺を、遠慮ない爺さんの舐め回す様な視線が襲う。

 何見てんだよ男だし可愛くもねーぞ俺。

 

 

「ほほ、魔法に憧れてきたのに肝心の魔法と魔力に見放されたかな?」

 

「は」

 

「それで一縷の望みをかけて儂の所までやってきたと、青いのぅ」

 

 

 ふぇっふぇっふぇといかにも老人らしい笑い方で、爺さんは髭を撫でながら笑っている。

 な、なぜそのことを知っている!

 

 

「客の需要を見抜くのも売り手に必要なスキルじゃて。この程度は容易いわい」

 

「へ、へー」

 

 

 この時点ではまだ信用しきってない、ちょろいとか言うな。

 まあ心の内を見抜かれたことで、この爺さん実は凄い奴なのでは? という疑念が湧いたのも事実。

 

 

「疑うのも無理はないのう」

 

「……」

 

「そうじゃ、何せ儂は見ての通りで胡散臭いからのう。今までは客に逃げられてばっかりなんじゃわい」

 

「だろうな」

 

 

 おやつい本音が出てしまった、ごめんね爺さん。

 ……というか怪しまれたくないならまずこんな風にお店やるんじゃねぇよと思う。

 

 

「ふぉっふぉ、素直でよろしい。そんなお主にはこれをやろう」

 

 

 そう言って爺さんがごそごそと袋の中から取り出して見せてきたのは……一本の黒い十字架の様なもの。

 え俺無神論者だけど大丈夫なのそれ。

 

 

「ただの魔道具に神も悪魔も憑くわけがあるまいよ。こいつはお主の願いを叶える魔道具じゃて」

 

「えっ」

 

 

 爺さんそれマジ?

 ほんとにそんな道具……いや待てよ、そんな都合のいい話あるわけない。

 

 

「ただ、その効力を発揮するにはこの釘を手のひらに突き刺さねばならん。とても痛い筈じゃ」

 

「やっぱり」

 

 

 そんなもん刺してまで欲しがる奴いるわけねぇだろ!

 ……。

 

 やっぱ欲しいかも。

 

 

「やっぱり欲しいかね?」

 

「うぐ……」

 

 

 欲しくないわけないじゃんか! 長年追い求めて来た魔法があんな状態なんだぞ可能性に縋りたい!

 普通ならコツコツと地道な努力を重ねていったりするもんなんだろうけど、友人達に才能という俺にとって100点満点の回答を見せつけられてしまった以上、俺にはもう選択肢がなかった。

 

 

「ほれ」

 

 

 爺さんが十字架……じゃなくて釘を手渡して来た。

 ……あれ、代金まだ払ってないんだけど。

 

 

「初回無料キャンペーンじゃ」

 

「えぇー……?」

 

「ふぉふぉ、在庫処分とも言うのう」

 

「絶対そっちが本音じゃん!」

 

 

 おいこの爺さん都合がいいと言わんばかりの押し付けして来たぞ。

 俺まだ買うって決めた訳じゃないんだけど?

 

 

「まあ、考えるより先に動かねばならん時もあるじゃろうて。思い切りぐさりとやってみてはどうじゃ?」

 

「いやそんな軽く刺さる大きさじゃないからな!?」

 

 

 見ろよこの釘、普通に大きい。

 刺したら俺の手のひらに5円玉くらいの穴が開くんだが。

 

 

「その辺りも刺せばわかるじゃろうて、ほらぐっとやってみるがいい」

 

「っ……何かあったら祟るからな爺さん」

 

 

 まあ藁にも縋りたい思いだったこの時の俺は、胡散臭いと思いつつも提案に乗ってしまうんだけども。

 ……皆は、焦ってる時ほどこう言う提案は断る様にしような!

 

 

「ぐ……どうにでも、なれっ!」

 

 

 そうして、俺は自分の手のひらに思い切り、釘を振り下ろしたのでした。

 めっちゃ痛かった。

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

 

 振り下ろす時、あんまり怖かったのか俺は目を瞑ってしまっていた。

 

 

「あれ、釘……ん?」

 

 

 俺の手から釘がなくなっていることに気付いて、声を出した時に違和感は訪れた。

 なんか俺、声高くない?

 

 

「お、おい爺さ  っていねぇ!?」

 

 

 さっきまでそこにいた筈の爺さんは、その他の魔道具と共にすっかり消えてしまっていた。

 1枚のメモ書きを残して。

 

 

『悪いのう少年、お主がその魔道具を使ってくれて助かったわい。その魔道具は確かに魔力を大幅に高めてくれるが、代わりに性別が変わるという妙な代償を抱えておってな、変なことに使われるわけにもいかぬと売るに売れなかった代物なんじゃ』

 

「は?」

 

 

 つまり今の俺って。

 

 

『逃げる様な真似をしてすまんが、こうやって書き置きは残しておくから許してくれると    

 

「許すとかじゃないが?」

 

 

 ここで衝動的に書き置きをぐしゃぐしゃに丸めてしまった俺は悪くない筈だ。

 騙されてんじゃん結局、胡散臭い爺さんだなほんっと!

 

 

「……それはそうとして、魔力は上がったんだよな」

 

 

 そうして少し考えたのち、俺は女になったと言う都合の悪い部分から目を逸らした。

 しょうがないだろ受け入れられないんだから。

 

 

「よしっ」

 

 

 靴を脱いで魔法を発動させると、足から翼が生えてくる。

 さっきそれで靴下と上履きをダメにしたからな、もう同じ過ちは繰り返さない。

 

 

「よっ、ほっ」

 

 

 試しに軽く走ってみる。

 魔力量が上がっていると言うのなら、俺は加速しても問題ない筈だ。

 

 

「うわっ!?」

 

 

 そしたらめちゃくちゃ加速してしまい壁にぶつかりかけた。

 いやだぞ魔法を手に入れてすぐ死ぬなんて、据え膳にも程がある。

 

 

「本当に魔力は上がってるんだな……」

 

 

 デメリットから目を背ければとても良い貰い物をしたと思う、デメリットから目を背ければ!

 

 

「これだけ加速できるんなら、もしかして」

 

 

 魔法への想像力という点において俺は一家言あるんだ、できるかもしれないという欲求を見つけられないわけがない。

 

 

「これくらい距離があったら行けるかな」

 

 

 そして、先ほどよりもとても長い直線がある道までやって来た。

 ここなら十分加速できそうだったからな。

 

 

「構えて」

 

 

 構えるのはクラウチングスタート呼ばれる方式。

 

 

「よーい……」

 

 

 俺の考えが合ってるなら、めちゃくちゃ加速すればいいんだから、これでいい筈!

 

 

  どんっ!」

 

 

 駆け出した俺は、他のことを一切考えずに前へ前へと一歩を踏み出す。

 もっとだ、もっと!

 魔力が足りないとなるのであれば途中で失速するし、あんな少しの間にあれだけ加速ができるならその問題もないという謎の確信がこの時の俺にはあった。

 結果    

 

 

「はは」

 

 

 俺は凄まじいまでの風と、輝かしいまでの街並みを拝むことができていた。

 

 

「あっ……はははは! これだよ、これ!」

 

 

 一時はしょぼ過ぎて絶望していたが、俺がやりたかったのはこういうことだ。

 デメリットはアホくさ過ぎるが、それでもやっぱり超楽しい!

 

 

「ひゃっほーーーいっ!!」

 

 

 足から生えた翼ということで操作感の癖はすごい、けど今の俺ならなんとでもなる(ような気がする)。

 そう、今の俺は無敵だ、こんなに空を自由に駆けて……

 

 ……?

 

 

「あ、あれ?」

 

 

 ん、あれっ。

 ……なんか、風に巻き込まれてない?

 

 

「うえっ!?」

 

 

 あ、まずいつむじ風!?

 この街この季節の名物だけどなんで今ぁ!?

 

 

「う、くぁ……せ、制御効かね〜!?」

 

 

 翼のおかげか洗濯物みたいになることは避けられているが、それでも俺の意思ではない方向に俺が進んでいるのは確かだ。

 

 

「え、ちょ、どこ行くのー!?」

 

 

 つむじ風、ということでそう長くは続かないと踏んでいる。

 ……だめだ、風に遮られてて外の景色見れない。

 

 

「……あ、弱まってきた」

 

 

 な、なら今がチャンスだよな?

 この風の壁を蹴り破って、地面に着地する、すると俺は助かる。

 

 ……うん、完璧な作戦だ。

 

 

「いっ……」

 

 

 そうと決まれば話は早い。

 足を大きく振りかぶる、支点がなくて少々難しいけど。

 

 

「せぇ……!」

 

 

 次に狙いを定める。

 くるくると回転しているとは言え狙う場所くらいは見定められるのだ。

 

     今だ!

 

 

「のっ!! おらあぁぁぁっ!!」

 

 

 そうして俺は、がむしゃらに込めた魔力の蹴りを解き放った。

 俺の蹴りは見事につむじ風を突き破り、地上へと向かい始めた。

 ……ものすっごい速度で。

 

 

「あやば」

 

 

 キィンという音と風圧のせいでほとんど前が見えないけれど。

 と、とにかく誰にも当たらないでくれよーっ!?

 

 

「っ     !!!」

 

 

 そうして、次に俺が、色と音をようやく認識した頃には。

 

 

「だ、誰なんだ君は!?」

 

「……?」

 

 

 驚愕の表情に染まった、俺のド派手な魔法を使う友人達だった。

 ……ええ?

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