剣豪、という呪い   作:カピバラバラ

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助かったぞ、強き人

 

──斬った。ああ確かに、斬るつもりで振るったとも。しかし、

 

「──夏油殿」

 

「……夏油殿?」

 

「〜〜〜〜〜っ…。良いね、君。本当に面白い」

 

「悦ぶのは何よりだが、先程の──理が伴わぬ、斬撃はなんだ」

 

こんくりーとが幾ら脆きモノとはいえ、腕の間合いの外、拳圧で抉れる程の代物では無かった筈。そして俺とて背後の柱を斬るつもりで腕を振るわなかった。

つまり、俺に認識出来ぬ別の理。別の合理。呪力、とやらの力が働いた。と考えるのが必然。

 

「ああ、アレね……。本来は呪力は一心同体、魂から捻り出され腹で廻り、身体を巡るモノだけど……君、まだ魂が定着しきってないからさ。本来遅れることの無い呪力が、君の速度に置いてかれて──結果、軌跡をなぞるように斬撃の形として出力されたんだ」

 

「大丈夫。そう遠くない内に治まるよ。いやしかし…迅いね。理解の及ばない捷さだ。呪力による身体強化?いやいや──技、か。磨きあげられた技の極地」

 

「武、とも言う。まだ極みでは無いがな」

 

呪力──まるで、元来この肉に備えられし機能の様に。腕が在り、足が在るように、そこへ血液が如く呪力が流れている。

先程とは違い、不愉快さは無い。寧ろ心地よい感触が全身を巡り、極上の馳走を喰らった後の様な快楽が訪れる。

 

「────」

 

毒を食らわば皿まで、皿を食らわば盆まで、盆を食らわば──人まで喰らおう。といきがったはよいものの、見事振り払われたあの仕合い。

ああ、ここならば、こっち、ならば。

 

──人を喰ろうて、呪いまで。

 

往ける、どこまでも往けそうな感覚。溺れる程の快楽。斬る、とはこれ程に心地よいものだったか?斬っても、斬っても斬っても斬っても倒れぬ相手を欲しがった事はあるが──。

 

「む」

 

「──。ははッ!この俺を持っていこうとするか!!黄泉路の向こうを見させるとは、いやはや、中々御せるものでは無いと、侮るなと?」

 

「好い。良いぞ、これは面白い」

 

幾千もの『武蔵』への想い、怒鳴るだけでは、叱るだけでは言う事を聴かぬ。ある程度躾が必要──血沸いてきたぞ。

 

「ん?…あー、ホントだ。呪力増えてるよ…。なるほどね、そういう性質(タチ)か。術式とは別……やっぱり無理してでも取り込んどけば良かったかな?」

 

「そう邪悪な顔をするでない、夏油。そのような戯れの言葉、元より手綱を握れる相手だとは思っていない、そうだろう?」

 

「──それもそうだね、良いものを見せてくれてありがとう。二天一流、素晴らしく面白いモノを見せてくれた事に礼は出来ないが、賞賛を」

 

ソレ(賞賛)な、そういうのが一番好きだ。飯も肉欲も必要無くなった今では、尚更」

 

身を支配する昂り、心を焼く焦燥、早う斬れ、もっと斬れと喚く内側。この世の民が想う武蔵とはこれほどに『人斬り』なのか。

 

「────」

 

──そうか。

これほどに、期待していたのだな。

 

「────」

 

──そうかそうか。

拳士達が求めていたのは、この『俺』か。

 

「────」

 

焦がれ、期待し、結果が見えても辞めなんだ。斬れと申して止まれなんだ。解るとも、理解したとも。孤独は耐えるが、そういうのは案外───。

 

「歯がゆいものよ。ままならぬものよ」

 

「──夏油!先程の提案、受けよう!この剣で届かぬ場所があるのなら、呪力、術式、呪霊……全て修めてからが『武』であり『途』だ」

 

「まずはこの喚き、一滴残らず飲み干してみせよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ある程度現代を心得てるみたいだし、後は放任で』

 

『──よいのか?この武蔵を野に放って』

 

『抑えてても、勝手にどこか行ってしまうだろうし…困ったら手助けしてあげよう、時が来るまで私が回す依頼で遊んでおくといい』

 

『……ふむ』

 

『まっ、少しの間退屈かもだけど…もう少しすれば、君でも楽しめるような状況が来る。それまでに慣らしを済ませておくことだね』

 

『──それと、契約する上で、誠実さを示す為に真名を教えておこう。私の名は羂索、夏油はこの身体の名前だ。決して口外はしないように』

 

『君には必要ないかもだけど…。一応縛りはさせてもらう』

 

 

 

──羂索。

名を偽った事に、事を荒立たせる気は無いが。

 

「名を偽る者は、相応に理由(意味)がある」

 

煮え返さずに、掌、受け取った紙幣を見つめる。

以前は不便しないモノだったが、徳川の爺が居なければコレも必要不可欠。普段なら、この欲も斬って手に入れ満たそうとしていた。

 

しかし──好奇、興味が尽きぬのは『呪力』だ。

剣が、『刃』が、誰の手にあっても『斬る』ものである事は変わらない。故に斬れる、故に断てる。ぴくるも、彼奴は備えた肉の宮があるからこそ圧が消えたが、それでも振れば斬れるものだ。

 

ならば呪力とて同じ事。これが人を呪う『力』であり、殺しの為の『力』である限り───一切合切を識らずとも、コレは人を『殺せる』代物。

 

「──さて」

 

呪いが疼いている間は『宮本武蔵』が希薄になる。ひたすらに『斬る』を求める妖に近づいていく。

それは本意では無い、そして嬉しくもない。『斬る』は手段、『得る』が目的。根底が変わっては型なし。

 

「………『窓』とやらは何処に…」

 

羂索の計らいで、衣食住を寄越してくれるそうで、必要なくは無いがやはり習慣というものは抜けない。朝餉をとり、鍛錬を行い、瞑想を重ね、書を書く。その連なりを止めてしまうのは好かん。

この紙幣、札に付けた呪力による…まーきんぐ、それを見せれば良いと聞いたのだが、目当ては何処か。

『呪い』の世界へと身を落としながら、忍者の如く世に忍ぶ。それが『窓』。ならばあの楽しげな遊具を多く魅せてきた黒装束の童子(わっぱ)に似た輩でもいるのだろうか?

 

「──ふぅむ…やはり、コレでも目立つか」

 

──視線、視線、相次いで突き刺さる視線。

扮装をしたとはいえ、街の人々はその男から目線を外せはしなかった。

 

──一目で分かる。分からないが、解る。ギョロリと剥かれた目ん玉に、筋骨隆々を超える鋼の肉体。オラオラと、道の真ん中を突き進んでいた若人が肩を窄めて静かに横を通り過ぎる。

 

──絶対、ヤバい人だ。──絶対、有名人だ。

──絶対、何処かで知っている。──絶対、知らない筈が無い。

 

有する威圧感が、遠目で見ても気圧される存在感が、好奇の嵐を向けられる対象となる。皆が関心を向ける、盗み見をし、振り返らぬ者はいない。

 

「ん〜〜〜〜〜────」

 

「────!」

 

──そこで思い出す、強き人の装い。

そうかアレだ、あれがあった。アレならば、幾らかはマシになろう。

 

「────」

 

街往く人々の視線は、全て白シャツを胸筋で裂かんばかりの、一ミリも似合わないジャンパーを、一ミクロンも似合わないジャージを着こなしたと勘違いしていそうな…………一般……?成人……男性……。

 

その男が何処に足を運ぶのか、次に何をするのか、口からはどんな言葉が、音が出るのか、あらゆる箇所に、あらゆる要素に興味津々で、そして遂に男が足を踏み入れたのは、

 

「「「「「……え〜〜〜〜〜〜〜…?」」」」」」

 

──コンビニ──エンス──ストア──?

 

仕事がある、家事がある、買い物に行く所だった、遊びに行く所だった、出勤途中だった、待ち合わせ途中だった。だからなんだ、あの男の動向を見逃せば、二度と手に入らないモノを失いそうな予感がして、大勢が普通のコンビニエンスストアの前で立ち止まった。

 

「「「「「─────」」」」」

 

そして、数十秒、数分?少しして、男が自動扉の向こうから現れれば、

 

「これで、ヨシ」

 

サングラスを掛け、帽子を被り、不格好に不格好を掛け合わせた異質な──もっと言えば、壊滅的なセンスを持った怪人が、コンビニエンスストアから産まれ落ちたのであった。

 

『『『『『ヨシ──!?』』』』』

 

鬼の様な男の、凄まじい気配が無ければ言葉を漏らしていただろう文句は、しかし皆の心の中にしか在らず。

 

──結局、目立ちに目立ち、『窓』が見かねて声を掛けるまで、その怪人は街を練り歩いたとさ。

 

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