剣豪、という呪い   作:カピバラバラ

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基本の路線はギャグなのかもしれない。


頂を奪る

 

「あのお金は目印なんすよ!どーして使っちゃったんですか!?いやまぁ目立ってしょうがない所もありましたけど、回収も大変だし、そもそも余計目立っちゃってません!?」

 

「す、すまんすまん。咄嗟の事だったのでな……つい…」

 

「サングラス外す!帽子も外す!ジャンパーも脱ぐ!属性渋滞してるメリケンのごった煮を辞める!!匿名の依頼者側からお金を貰ってるので、今から着替えますよ!」

 

「──。ははは…」

 

なんと、『窓』は女子(おなご)であった。

驚くべき事だ、悲しむべきなのか、その齢にして既に戦場に立ち続けているとは。呪力が『力』である以上、ああ確かに、女人にも平等だ。

染め髪の女子に手を引かれ、路地の先、寂れた───、

 

「おぉ、もしやここが?」

 

「普通のアパートっすけどね、立地悪すぎるし古すぎるし、オンボロ過ぎるから貴方以外入居者いませんけど。えーっと211…211…」

 

寂れに寂れ、忘れ去られた家屋。あぱーとが出迎える。

鉄錆がこびりついた階段、柱。手入れのされない玄関口には緑が栄えていて、よくもまぁ潰れぬものだと、素材が軋む音を耳で捉える。

人目にも、それどころかあの生れ落ちたはいびる、よりも人気の無い場所。これならまだ、江戸の頃の方が良い家が建っていた。

 

「にしても、凄い身体してるっすね。人生で初めて見るレベル、仕事上鍛えた人にはよく会うんですが……──その、気配?なんというか、圧が……次元が違うような…?」

 

「ふむ。仕事。…つかぬ事をお聞きするが、じゅじゅつしとは女子でもなれるものなのか?」

 

「あー。そこら辺は、色々ハンデはあるっちゃありますけど沢山居ますよ。ウチは『窓』っすけど、学校の補助監督してる子だったり、普通に呪術師として生きてたり」

 

「──。呪術師の生業は聞いている、人の世から、人の業から溢れた呪霊を討つ。……その様な所業を、女子に任せるのか、この世は」

 

「えっ、なんすか急にド級の性差別?」

 

「せいさべ……──いやなに、護るべき、護られるべき『側』にコレを押し付けるとは不甲斐ないと……」

 

「だーかーら、今はそういうのも差別っす!実入りが良いからやってるだけで、同僚の男共は誰も気にしてませんよ?──まぁ、気に掛けられて悪い気は全然しませんけど!てか見るからに山篭りしてたおっちゃんでしたが、中身もそのまんまっすね」

 

「──むぅ…………」

 

──元気は良いが、過ぎても困るな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それじゃコレお着替えと、お部屋の鍵、そしてスペアっす。任された事に対して報酬バカ高くて、クソ怪しいこういうのには絶対頭突っ込まないと決めてるんでこれっきりですが、お元気で!』

 

──嵐のような女子だったな。

前の世界でも、女の拳士は居なかった。江戸なら尚更、女人に武器を持たせるなど言語道断。漢ならば、家内に刃を持たせるのならば腹を斬れ。そう考える者は多い。

 

──生憎、俺には縁が無かったが。

そも、選ばなかった、そして気にもとめなかった。

しかし『呪力』は平等だな。なるほどなるほど、正しく『呪い』だ。女子供でも握れる『刃』だ。

 

「これはこれは…長襦袢に、羽織り、金…──」

 

この身、既に人に非ず。剃刀だの、鬢付け油だのは必要ないが、体躯を程よく隠せる着物は欲しかった。

食事も必要ないとはいえ、味は感じる、それによる悦もある。なら、食わぬ理由も無い。金も、有難い。

 

「──ぉ」

 

それにこれは──書物?

古びた、この家屋以上に古ぼけた書だ。歴史書──には見えぬ、分厚さが足りぬ。ならば『呪力』にまつわるもの、もしくはその(すべ)

 

「名は無いが、見るに──指南書だな」

 

「指南書、指南。この歳で、初段とは」

 

「──はっ、愉快愉快」

 

ペラり、と触り覚えのある古書の紙質に触れ、捲り、中身を一瞥する。

呪力、呪霊…呪……術…?呪術、『呪術家伝書』。

 

「……………」

 

「──ふむ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──書を書く、必然と、筆で書いたソレを『読む』。

真白な紙を見つめて、筆に墨を付けるまでもなく、そこに文字を思い浮かべる。最初の内は筆先を走らせ、畳一面足の踏み場も無いほどに書いたものだ。

 

紙に書かず──ならば次は瞼の裏。目を閉じていても、脳裏に文字を描く。──次は風景に。──次は滝に。──次は空に。

 

書いて書いて描き連ねる。ならば読んで読んで読み綴る。

まぁ、なんだ。つまるところ、読む事は得意であり、『好き』でもあった。

 

「────」

 

結末を先に話すとするなら。

──分からん。全くもって分からん。

 

呪力の理屈、術式の理屈、縛りの存在、魂と『呪い』。呪術の歴史。読み込んで、理解出来る所は理解したが、この身体に流れる透明な『力』は意識せずとも動かせるせいで、道を飛ばして終わりに立ってしまっている。

終着しておきながら、道の歩き方が分からない、と言ってもいい。

 

「〜〜〜〜〜〜〜……」

 

後ろ頭を掻き、大きく息を吸い、鋭く吐く。

蛍の光が頼りになるような夜中まで、読みふけたものだがしかし、この肉体が──とっきゅう……、

 

「………………」

 

兎も角として、人では無い為に『使う』という思考に至らない。常、コレは蠢き、熱を持つ血液に等しい。勝手に巡るモノを止めるには、呼吸を変えるか心の臓に負担をかければよいのだが、

 

「……………」

 

この身体には何も無い。

妖が人の皮を被っているだけだからか、呪力を自覚する為のきっかけが産まれない。人としての感性(ガワ)、呪霊としての性質(なかみ)が相いれぬ。

 

呪力が使えぬ訳では無い、ただ、道端にて小僧(ジャリ)が枝を振り回し、剣術と名乗った所でそれが『剣術』でも『武』でも無いように、理を心得ぬ者が如何様に力を示そうと、それは『呪術』では無い。

 

「──知らねばな」

 

「我が無刀、呪術無くして、如何程のモノか」

 

誰を斬れば上へと往ける?どれを斬れば辿り着ける?そも、『宮本武蔵』に『呪術』が必要か?

 

否、とは言いきれない。

そうだ、とも口にはしない。

必要ならば、身に修めるだけ。必要無いのならば、既に斬り登る『刀』は五体に備わっている。

 

ただ、兵法者として──使えるモノは、骨の髄まで使ってしまおう。その性根に、多少ばかり引っかかったのみ。使えなければ、それまでだ。

 

「落胆させてくれるなよ、『呪術』」

 

本を閉じ、ちゃぶ台の上へと置き、与えられた着物を纏い、姿見で己を一瞥する。外出だ。この高揚感は、ああそうだな──烈海王を断ち、国を相手取ろうとしたあの瞬間に、よく似ている。

 

鍵を手に取り、用意されてあったすにーかーを履き、そして一声。

 

「──出るぞ、夏油」

 

あの様な男が、本気で『放って』おく筈が無い。

煩わしい気配が、あのこんくりーとの部屋から出た直前から付きまとっているのを知っていた。

 

彼奴は武士では無い、好奇心を抑えられぬ臆病、軍師だ。コレはその臆病の現れ、そして期待の形。

 

軍師は皆、思い描く通りの戦場を求めて筆を走らせておきながら、いつも、いつもだ、いつも──その策が、戦陣が、打ち破られるのを楽しそうにしておった。そういう類の人間(怪物)だ。

 

ワクワク、ワクワクと、少年(ぼん)らの様な視線を受けて──『宮本武蔵』は────。

 

 

「──馳走を、用意しておけぃ!!」

 

 

渇きに渇き、渇き果てたその喉に、鮮血を呑もうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──東京の闇に紛れ一人、ニタニタと内心の悪辣さを隠しもしない若人が、電灯の明かりも届かない夜道をふらり、暗がりを怖がらずふらりふらりと歩いている。

 

本来、夜闇とは人の『恐怖』が募る場所だ。暗闇に妖を見つけ、暗闇に狂気の影を落とす。だが、若人は、楽しげそうに歩いている。

となれば、その若人は『恐怖』をものともしない勇気ある者か、『恐怖』を知らない愚か者か──『恐怖』を与える側であるか。

 

面を見れば────ああ、言わずとも。

 

その若人、男にとって、夜闇とは己を隠す衣でしかない。

恐怖も畏怖も何も無く、闇から何も奪われないと信じきった顔でいるのは、自らが奪う側だと自負しているからだろう。

 

「──。ヒヒッ」

 

口の端を歪め、笑いから漏れる空気が宙を漂う。

それは餌を見つけた笑みだ、狩場に迷い込んだ小鹿を、舌なめずりして吐いた息だ。

 

──東京は良い、いや、夜は良い。誰が居なくなっても、誰が消えても、増えすぎた人間は何一つ気づかない。

群れる蟻、蟻、蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻。呪術も使えない蟻を、小鹿を、餌を、平らげた所で誰も己には手が出せない。

 

「あー美味しかった〜!やっぱ黒そうな現ナマはささっとパチンコに溶かして、焼肉で消すのが一番だな〜……マネロンマネロン〜」

 

「あのおじさん、クソ怖かったし…。なんかきな臭さもあるから暫く東京からは離れて旅行でも───」

 

ああいう、元気な女は特に、好み。

活発で、瑞々しい、活力溢れる女が、自らの手によって汚され、穢れて泣いて、メソメソと死んでいくのを眺めるのが大好きなんだ。

 

「イヒっ」

 

どんな泣き声を、鳴き声を聞かせてくれるのか。一歩一歩忍び寄る、闇に紛れて、近づいていく。

 

「ひひヒッ」

 

一体どれだけの悦を、己に与えてくれるのか。ああ──楽しみで楽しみで、笑いが止まらな

 

 

 

 

 

「──愉しそうだな、で、何がそんなに愉悦(おもし)ろい?」

 

 

 

 

────。

その晩、夜、闇の中で。

若人が、男が一つ、理解していない事があるとすれば。

本物の『闇』は、何隔て無く、全てを呑み込む事だった。

 

「───!?!?」

 

反射的に術式を起動する、男が生れ持った生得術式は、身体の弓の軸として腕先から呪力を放つモノ。声が聞こえた方向へ振り向き、拳を放ち射殺そうとして───、

 

「ふむ。──殴打を目的としていない。だが拳を放った…何故に?」

 

「ぇあ…ぁ…あ?」

 

「──何故に?」

 

「────」

 

腕の先が、闇に呑まれる。感覚が無い、痛い、痛い痛い痛い、痛い(熱い)灼熱(いた)い。

 

何が──何で──なん──斬られ───?

 

「答えんか、小僧(じゃり)

 

「ぁ───ひ、ひぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!!??」

 

「………。ふぅむ……」

 

「仕方なし、か」

 

逃げ出そうとした男は、首根っこ捕まれて。

──闇に切り裂かれた。八文字、喉を突き、大袈裟、面割り本胴敷き袈裟太々、両の腕諸共…………『宮本武蔵』の思うまま。

 

「…………」

 

「………ククッ」

 

「凄まじいな、呪力というものは。ろくに鍛えてもない此奴の、なんとなんと、今の拳の速さ、重さだけなら──痛手になりかねん」

 

所詮、それだけだったがな。

何も脅威では無い、下を押し上げるには役立つが、真に『呪力』は──『上』を、教えてくれるのだろうか?

 

「さて」

 

「夏油、後何人斬れば───」

 

「ごじょうさとる、とやらは、俺を見つけに来てくれるのだ…♡」

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