幾度も語ろう、呪いとは想いだ。
想いには力が宿る。この世界でなくとも、呪いを振るう人間にはそれなりの圧がある。燃え盛る殺意、冷たき潮風が如く痛々しい願いが。
「それを押さえつけては、万全とは言えぬ」
「しかし解き放ってはむやみやたらに飛び散るのみ」
つまるところ、俺の願いと腹にうずく想いを揃えればいい。
どんな膨大な力もただ広がっているだけでは弱い、もしも凡人が花山に憑りついて思うが儘に力を振るおうとして、心が『武』に、『然』に無くては──頭蓋を粉みじんにする拳骨すら、ただ大きなコブを作るだけで終わるだろう。
『殴る』という想い。『殴る』為の心。『殴る』だけの身体。
一心同体を真に叶えているのは、花山だけやもしれぬ。
「──。ふッ」
あぱーとの外、塀に囲まれた敷地の内にて素振りをする。
鋼の重さを感じることは無い、コレは瞳の内、そして常に手の内に在るもの、今更感じようがない。
『斬る』為に振る。『斬る』事を想う。──斬りたい。そう願う。
何を、誰を、どれぐらい、どれほど、どう斬って、どう奪って、どう伏せさせる。なぁ、お前らはどうしたい。アレを斬りたかったか?アレを、天上を落とさせたかったか?
──『斬りたい』だけでは、何も分からんぞ?
「────」
「だんまりか」
「俺は愉しめる。楽しくて、愉しくて仕方がない。けれどまぁ、出世欲だわな。不要と言えば不要、だが刀を握る理由にはなった」
「折り合いをつけたくないのは分かる。怨霊、怨念の類がその在り方を変えてはどうにもならないのも」
「──だが、俺は変わってみせた。『宮本武蔵』は確かに拳士によって変わってみせた。そして新たな道となった」
望まぬといえば望まぬことでも、存外俺は満ち足りている。
呪いが呪いであることに意味があるのは否定しない、そう在ることが本懐で、そう在る事が道であるなら否定しない。
しかしそれしかない、という訳でもなさそうだぞ。
「…にしても」
「ここまできて、やる事が『対話』とはなぁ……」
「少しは、道場の子供らとこみゅにけーしょんを練習しておけば良かった、という事か?いやはや、何が活きるか分かったものではない」
「……。────」
「──。斬れ斬れと騒いでた割には急に静かだな…こやつら少しは話さんかッ──!」
■
──一ヶ月。
五条悟との立ち合いによって何か起きた、訳でも無く。
暫くは刀に呪力を流し、明鏡止水、流れるように鍛錬を続けた。
己が呪霊である自覚を強め、僅かに滲み出ている呪力を手繰る。
呪いに対する感覚が研ぎ澄まされるにつれて、己が内に秘めている呪いの膨大さを腹で感じるようになった。
身の毛もよだつ殺意だ。戦場を思わせる悪意だ。
剣気が形になったような、呪力。夏油が面白がっていたのはコレだと。
確かにコレに変われ、と申すのは──ん~~~~~~~~。
…ん~~~~~~…。
「先は長いな」
「呪力も碌に練れない状態で五条悟と戦えただけ十分だと思うけど」
「アレが戦いだったか?」
「……ああ、十分」
「ふむ」
望みは高く、遠い場所を見つめ過ぎれば、近きも遠きも曖昧になる。といっても、天上に単身で挑む志を持つ狂人でなければ、測る意味も無いか。
「それで、急に外出に誘ってどうした。それも食事の誘いとは」
「特に?君と食卓を囲みたいだけ──は、少し嘘が過ぎるね」
「色々君の事を測りかねてる。とでも」
「そうだわな。良くしてもらった恩はあるが、別にこちらに立つか向こうに立つかは、斬れるもの次第だ」
「──ほんと困った呪いだよ君は」
「困らない呪いがあるものか」
最後の言葉を鼻で笑う夏油、その後を追う武蔵。
二人が並べば袈裟と着物、一聞は古めかしい、落ち着いた衣服に思えても、現代の街並みからすれば派手も大派手。
──袈裟を着た塩顔のイケメンと、着物を着たヤクザを思わせる強面。
注目を集めて当然の二人が交差点を堂々と歩いて、撮影かなんだと取り囲まれないのは、人はみな違いすぎるものからは目を背ける習性故か。
「それで、俺をどうしたい」
「最終的には協力して欲しいかなぁ…」
「何故だ?」
「──。あー…」
「クックック、そうかそうか、言っては離れらる事。お前が望んでいる景色と重ねるに、五条悟を長らく封じたい。そうだろ」
肯定も否定もしないが、凡そは的中しているな。滅多に歪まないだろう眉が困り気に曲がっているのがその証拠。
なるほどなるほど、排するには手間がかかり、引き入れるにはそりが合わない。干渉してくる癖、出方に困っていたのはそういう事。
「ハハハハハッ!安心せいっ、解決法はある」
「五条悟と釣り合う者を俺に差し出せ、それから登る為の贄を用意し続ける限り…夏油、お前の力になろう」
「但し、出来ぬとあらば──な?」
「………性格悪くない?」
「そっくりそのまま返すぞ」
と、なれば、この外出の目的も割り出せる。
さしずめ有利を作り出すために用意した仲間で、飯屋に入った後取り囲む。手綱を、首輪をつけて五条悟との決戦に使い倒そうと。
先に話を切り出しておかねば、かなり面倒な殊になっていた。よほどの警戒と価値を見られているともいえるが、広まらない賞賛は好みではない。
策を弄するのも弄されるのも楽しいが──この男相手に興じられる程、賢くは無いというのもある。
「さぁ、どんな飯屋に連れて行ってくれるんだ。前世では結局、徳川に世話になりすぎてイマの食などに手に付けてなかったものでな、結構楽しみにしている」
「残念、行先は普通のファミレスだよ」
「ふぁみれす」
「そう」
「ふぁみれす?」
「──。安くて早くてある程度美味しい飯が出てくる所」
「おお!」
「毒気抜かれて仕方がないなぁ、本当に」