ホーゼンフェルト武芸帳 シュヴァルツェスマーケンEXTRA 作:燈夜4649
実験が失敗したのは、我らの歴史が教えるとおりである。
しかし、その実験に、夢と希望を持つ者が確かに存在した。
彼らは歴史にその偉大さを刻んだのだ。
そんな彼らが、一番輝いていた時代。
米ソ冷戦。それは一つの時代の産物である。
マブラヴシュヴァルツェスマーケンEXTRA ホーゼンフェルト武芸帳
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プロローグ
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時は一九八三年、東ドイツ。ベルリン。
あたしはアネット。
アネット・ホーゼンフェルト。
東ドイツの学生ね。
ほんの普通の……いえ、ほんのちょっとだけ剣術が得意な女の子。
え? そんな物騒な? 女の子はおしとやかに?
ああ、あんたって思想に偏りがあるのね。
でも、黙っておいてあげる。だってあたし、密告者、つまりコラボレーターじゃないもの。
で、自己紹介はこの程度にして、っと。
え? 物騒な自己紹介だ?
もう! あんたって本当に失礼ね!
こうなったら嫌でもあんたに付き合ってもらうわ。
そう。
もし良かったら、ではないの。
あたしの秘密の独り言、聞いてくれる? いや、聞いてもらうわよ?
あ、話の前に一つ断りを。
これってば創作だからね? 全部嘘の作り話と思って聞いてほしいんだ。
ちょっと友達っていうか、親友の事で考えちゃってね。
え? 面倒そう?
いいから黙って聞いてよ! 女の子の話を聞いてくれる男の子はもてるわよ?
あ? 俺は知らねえ?
はいはい、あんたの意見は今度の参考にするわ。それにしても口が悪いわねあんた。
でも、今はあたしの話を聞いてよね!
で、そのお話なんだけど。
早く話せ? 一々うるさいわねあんたホントに!
黙って聞く!
そう、そうして大人しくしていればいいのよ。
あたしのね、今度、親友が極東の日本へ留学することが決まってね?
日本? そう、極東よ。昔の同盟国なんて言ったら殴るわよ? あの国は本気で国家社会主義、ファシズムを捨てていないんだから! そんなに嫌っているのなら行くなと引き止めろ? そうはいかないわよ。
どうしてって? 理由があるのよ。海よりも深く山よりも高い理由がね!
そこまで言うなら迷うな?
まあ、それはそう。うん、それはそれでいいんだけど、問題が。
え? どんな問題かですって?
よくぞ聞いてくれました! その親友の留学にあたしも付き合うことになりそうなのよ。
え? 話が長い?
あんた、本当に女の子の扱いが下手ね!
え? 文句を言うなら聞かない?
まあそう言わずに! お願い聞いてよ、誰かに話しておかないと頭の中がおかしくなりそうなのよ!!
あ、続き聞いてくれるんだ。ありがと。
で、その留学の話ね、もう半ば決定で決まっちゃってるのよ。
はあ。だからね、あたしはなんだか気分が重いの。
困ったよこんなの。
こんなこと、あたしに考えさせないでよ。
もう! 断れるはずないじゃない。不安はいっぱいだけど。
胸が押しつぶされるっての? うん、そう言うの。
断れないよ。
だって、話を持ってきたのはあの国家保安省だよ? 無理無理! ただの密告者でも嫌いなのに!
嫌だけど、断れるわけないじゃない!
どうしてあたしなんかに。
ううう、もう!
断ったら最後、あたし、どうなっちゃうんだろう。
都市伝説のように、人知れず消されちゃうのかな。
それとも再教育施設?
冗談じゃないってば。
で、あたしの家族もまた例外じゃないんだよきっと。
ねえ、あんただったらどうする?
ね、答えられないでしょ?
そうなのよ、相談しようにも、そんな気軽で安全な相手、どこにもいないよこの国に
は。
本当に。
──本当に。