ホーゼンフェルト武芸帳 シュヴァルツェスマーケンEXTRA   作:燈夜4649

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誰かさんとの決戦前。

 

 

イングヒルトは日本人クラスメイトに溶け込んでいるようだ。

あたしもたまに、そこそこ話に加わったりもしていたが。

でも、シュタージのこと、お目付け役の事を思うと、素直に留学を楽しめない。

 

だから、日本人達と楽しそうに会話しているイングヒルトをついつい羨望と心配の目で見てしまう。

でも、危ないこと、言ってないわよね? と、冷や汗をかくことも少なくなった。

正直、あたしも肩の荷を降ろして、いい加減、無垢に留学を楽しみたいのである。

イングヒルトを見るとその気にさせてくれる。

 

ええ、ホント。

で、あの西ドイツ人の振る舞いを見ても、そう思うのだ。

あのバカ女もクラスに溶け込み始めている。

東と西で手を取り合えたなら──いやいや、ありえないって。バカな発想はハイ、ここまで!

 

そう。

考えすぎは、自分だけではないのだろうかと。

 

「内緒の話?」

「そう、女の子だけの内緒の話」

 

「でも、そんな話をして大丈夫なの?」

「何を心配してるの?」

 

「あ、あたし何もしゃべることない! あたしは悪いことなんてしてない!」

「えー? 何々? 私たちの話を誰かがこっそり聞いているってこと? そんなスパイ映画みたいな?」

 

「ゆっくりうなずく」

「あはは! いくらなんでもそれは無いわよ、いくらこの日本がスパイ天国って言われるほど各国のスパイがいるなんて都市伝説はあるけどね! 気にしすぎだって、気にしすぎ。禿げるわよ? そんなことばかり考えていると! ね!」

 

誰かが日本はスパイ天国だって言っていた。

日本人が言っていた。

あたしは思うのだ。

日本人って、実はバカ? いや、全てはお見通し?

ああ、あたしは納得する。

 

そう。

サムライ以外の日本人は全員ニンジャなのだろうと。

そう思うとすっと、あたしは腑に落ちた。

 

サムライ、ニンジャ、オンミョウジ……。

東洋の島国は、やっぱり神秘の国なんだ。

 

 

ついに西の女と勝負の日である。決戦だッ!

 

あたし達は体育館にいた。

あたしが練習を続けていたように、あの西の女も毎日練習を重ねていたのは知っている。

 

お互いに口も聞かないばかりか、無視しあっていたけれど。

練習の合間にチラリと盗み見たところ、得意と言うこともあって、素人の動きでは無い。かなりの腕前とみた。

あたしとイングヒルトは、向かいに座り剣道部員達と談笑するキルケを横目に、なんとなく眺めつつ体を動かす。

 

「西側に負けるわけにはいかないわ。もっともあたしはあのキルケって女に負ける気はこれっぽっちもないけれど」

「うふふ、それは私も同じよ? アネット」

 

今は試合を前にイングヒルトが相手を務めてくれている。軽い練習である。

イングヒルトは竹刀を一本だけ持っていた。

 

右へ左へ摺り足で円を描きながら。二人は竹刀と竹刀を打ち合わせる。

あたしとイングヒルトはお互いをそれぞれ一振りの剣に見立てて一つ一つ確認するよ

うに、己らを磨き上げていく。

基本動作だけでも流れ落ちる汗。

そして休憩を挟んでは。

飲むいつもの清涼飲料、不二家ネクターを頂く。

あたしってば、すっかり気に入っちゃった。

故郷に帰っても、たまに飲みたくなるかも。

 

……判らないけど。

 

で、時間だ。

剣道部員がズラリといる。

否応でもあの西の相手と試合う緊張感は高まってくる。

日時をおかずにいきなりこれかい! と思わなくもない。

 

思うのだ、まさか試合をする羽目になろうとは。

対日本人でなく、西ドイツ人となどと。

だが、対応は決まっている。

 

絶対勝利。

 

もし負けたとするならば、それは東側の負け。

祖国での扱いがどうなるか、考えると、たまったものではない。

そんなの考えたら、勝つしか無いじゃん……と思うのだ。

 

「アネット、私があの西の方に勝つのは当然ですから、あなたがあの西の方に勝利して始めて東側の勝ちですわ。勝利なさったならば、今日は私があのジュースをまた奢って差し上げます」

「ああ、不二家ネクターね」

「イングヒルト、結局あんたは戦わないの?」

 

あたしは改めて聞いてみた。

答えは聞かなくとも、おおよそ予想はつくけれど。

 

「え? 私は大将。但し、戦わない大将ですわ!」

 

自分は日本人と戦ってもいないのに、大口を叩くイングヒルトがいる。

 

「はあ?」

「そう、今回も日本人相手のときと同じく、先鋒のあなたが勝てばいいのです! 私の出番は無し頑張ってくださいましね、アネット」

 

わたしは見る。

満面の笑顔のイングヒルトを。

やっぱりそのつもりだったのか、このアマ。

 

そして、ついに勝負の時間がやってくるのである。

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