ホーゼンフェルト武芸帳 シュヴァルツェスマーケンEXTRA 作:燈夜4649
◇
街はいつものようにゴミひとつ無く、雑草もほぼ見かけない清潔そのものの道路を通り。
キルケに連れられて、あたし達は街の一角までやってきていた。
そして、暖色の壁をもつ、中から食欲を掻き立てる芳香を漂わせる店の前で止まる。
すかいてんぷる。
食べ物屋らしい。市場や後衛食堂などとは違う雰囲気。
洋風の外観が目立つ、ファミリーレストランだそうだ。
うん、フランチャイズのチェーン店だそうである。
西では知らないが、東にはもちろん、個々の系列店など存在しない。
「ささ、入って入って」
文字通り、キルケに押されて入る。
たちまちあたし達の鼻を芳香がくすぐる。
──ぐぅ。
あたしの腹の虫が鳴っていた。
「あはは、正直ね、アカは。まさか食事の前に、既に資本主義に負けるだなんて」
「ち、違うわよこれは!」
あたしがキルケに噛付く。
何言っちゃってくれてるのよこの女!
「まあまあ」
と、イングヒルトが二人を抑え。
「食事に誘っていただいたんでしょ? そうならば、早く食卓に付かれませんこと?」
あたしとキルケはお互いの顔を見合わせ無言となる。
──ぐぅ。
そう。
キルケの腹も鳴っていた。
「さ、好きなもの頼みなさいよ。今日は私があなたたちに奢るわ」
と、カラフルなメニュー表を広げつつ、キルケは得意そうに言うのだった。
◇
「ショルフハイデ風イノシシのロースト……でございますかお客様ぁ」
「そうよ。三人前ね」
キルケが注文している。
肉料理。ありがたい。はっきり言ってご馳走だ。
ただ、あたしもイングヒルトも顔には出さないが。
「お客様、そちらの商品は当店では取り扱っておりません。このメスガキ外人ども、日本に来たなら日本料理頼めやボケェ」
「は?」
あたしは空耳を聞いたような気がした。
「いえ、同じクラスの肉料理でしたら、こちらの和牛ロースステーキがお勧めです」
「そ。ええと、二人は?」
「あたし達が日本食に詳しいとでも?」
「剣道やってるんでしょ? 剣術でしょ? 忍法まがいも」
キルケが東ドイツ組をバカにして言う。
「それとこれとは別」
「そうです。日本の料理は馴染みがありませんわ」
「ステーキって和食なの?」
「おいしそうだけど、確かに違うわね」
などとキャイキャイ揉めていると、店員がキレ出した。
実に日本人らしくない行為であったといえよう。
「このバカたレェ! ここは洋食レストランじゃい! 日本の料理は和洋中、全て日本風に置き換えられて、日本人好みの味になるように改良されとるんじゃい! 早よう決めぃ、この外人ども! こちとら忙しいんじゃい!!」
と、あたしは小柄な店員が、その体の大きさに似合わぬ大声で叫ぶのを聞いた。