ホーゼンフェルト武芸帳 シュヴァルツェスマーケンEXTRA   作:燈夜4649

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ドリンクバーの罠

 

やがてやってきたステーキのあまりの美味さに舌鼓を打ちつつ、あたしらとキルケのトークは弾む。

 

「日本人って、ドイツ人はソーセージとジャガイモばかり食べている印象があるみたい」

「へえ」

 

確かにドイツのソーセージは美味しい。

世界中探しても、ソーセージはドイツ産が最高である。

東と西のソーセージを比べると……喧嘩になるのでここでは発言を控えよう。

 

「日本のソーセージって、メーカーによって味の違いが凄いわ。中には母国より美味しいものもあるの。悔しいけどね」

「西より美味しいとなると、私たちの故郷のものは敵わないかも?」

 

「ちょ、イングヒルト! 祖国のソーセージが一番よ!」

「そうでしたわね。死んだおばあちゃんも故国が一番です」

「日本人も好きみたいよ? ソーセージ」

 

うん、三人ともソーセージは祖国が一番だという意見で一致した。

 

「死んだおばあちゃんと言えば……それでいて、ブラッドソーセージは見かけませんね」

「あー、あれは日本人お口には合わないんじゃないの?」

 

「工夫してでも食べようとはしないのかも」

「そうね、日本はあれこれと料理のバリエーションが多いし」

 

「そうそう」

「で、桃果汁なんだけど」

 

そう。

あの飲み物は最高だと思うあたしがいる。

 

「ああ、あたし本気でこの桃果汁が好きになっちゃった」

「アネットったら、すっかり嵌っちゃって!」

 

「なるほど。この苦に、食べ物も飲み物も美味しいから。しかも新鮮、そして清潔」

「うん、日本人は異常ね」

 

「そうね、ご馳走と住処と社会性。それを言い出したら日本人はドイツ以上よ」

「ちょ、またイングヒルトォ!」

 

危険な発言ありがとう!

全体練習とか行進や整列の授業があるとはいえ、思っていたファッショには程遠い今の日本人達。

 

ファシズムの国、と言っていたのは取り消さないといけない。

それに、個人個人だけでなく、助け合いの社会も素晴らしいといえよう。

ただ、ここで祖国と日本、どちらが良いかと言われると……危険すぎる。発言禁止!

 

「あ、当然祖国の社会性は別格よ」

 

と、イングヒルトが祖国万歳をしてくれた。

よかったと喜ぶと共に、あたしは胸を撫で下ろす。

シュタージさん、どうか今ので勘弁してください。

あたしが存在もしないであろう神に祈っていると、イングヒルトが聞いてくる。

 

「アネットはまだ日本の飲み物に興味が? その秘密、日本の技術本にあるかもね」

「それっとどんな暇人が書く本よ。やっぱり西側の人間は暇人ばかり」

 

「なんですって!?」

「社会主義が一番だと言ったのよ!」

 

「このアカがぁ!」

「何よこの拝金主義者の犬が!」

 

あたしとキルケはお互い掴みかからんと言うような勢いでお互いの文句を言いまくる。

この前、仲良しになる約束したのを忘れたのか。

ともあれ慌てたイングヒルトがあたし達を引き剥がしに掛かって。

彼女が立ち上がったとき、あたしとキルケの二人は自然と離れた。

そう、いい加減あたしも空気を読んだのだ。

 

「はあ、疲れた。あんたたち見てると本当に疲れるのよ。私、ジュース汲んでくる。何が良い?」

「メロンソーダ」

 

「ファンタオレンジ」

「そ、じゃあ私お汁粉」

 

あたし達はそれぞれ好みを言う。

こ、コイツらは不二家ネクター命! じゃなかったのかよって話は置いておいて。

まあ、キルケは『ドリンクバーだからね、あの桃果汁、不二家ネクターは後日のお楽しみにするといいか』と思ったのかどうなのか。

ともあれ今日の接待役のキルケが席を立つ。

そしてしばらく。

そして遠くで。

 

「どうしてドリンクバーにお汁粉が無いのよ! ここって日本じゃないのお汁粉って日本のソウルフードじゃなかったの!?」

「黙れこのクソ外人がぁ! 何度言わせるんじゃドアホゥ! 無いものは無いんじゃボケェ!」

 

との怒鳴り声が聞こえてくるのであった。

 

──これが、あたしら東ドイツ組が西ドイツ出身のキルケと楽しんだ、ほんの小さな、でもとても大きな、素晴らしい時間だったのだ。

 

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