ホーゼンフェルト武芸帳 シュヴァルツェスマーケンEXTRA   作:燈夜4649

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イングヒルトと言う少女

 

◇

 

あれだ。

彼女、イングヒルト・ブロニコフスキーは笑顔だった。

 

「アネット! あなたも日本への留学生に選抜されたんですって? おめでとう! そして、嬉しいわ」

 

あたしは彼女の満面の笑顔を見る。

困るってば。

作り笑いではない、本当のイングヒルトの笑顔である。

あたしの頬は引きつった。

自覚するも、するよ、する! だって当然じゃない! 今の今までどうやって親友を裏切ることばかりを考えていたのに!?

 

そう、でもでも。

こんなのでは親友なんて呼べないよ、と。

だがしかし。

あー! しっかりするんだあたし!

なんとか場を持たせなくては!

あたしは自分の頬を張って自信を奮い立たせる。

そうそう! 頑張れあたし!

 

「どうしたのアネット? ほっぺたなんて叩いて」

 

あああ、あんたってばどうしてそんなに鈍感なのよ!

いやいや、このままでは終始イングヒルトのペースに!

そして、彼女の考えが喜びで染まらないうちになにか言い訳を! そう、言い訳を!!

 

で。

ででででで。

しかたがないのであたしは口を開く。

 

「あーイングヒルト。そのことなんだけど──」

 

うん、低音の響き。あたしの声だよ、うん、あたし、嘘吐くの下手なんだ。

でもでも、そんなあたしにイングヒルトは天真爛漫に眩しく答えて。

 

「私、正直心配だったの。日本って見知らぬ国、さらに言えば西側の国でしょ?」

「そうね」

「そんな中、私一人でやっていけるのか、それはもう、心配で心配で」

 

「……あはは」

 

それはそうだ。あたしだってドン引きだ。

日本? 冗談じゃないし。

あたしは思わずの苦笑い。だってそうでしょう? 思うんだけど、これはすでに完璧なまでにイングヒルトのペースでは!?

 

どどど、どうしよう。ヤダヤダヤダ、あたしは日本なんかに行きたくないんだけど!

でもイングヒルトは続けて言うのだ。

 

「日本って、あのファシストの国でしょう? 未だにそうなんでしょ?」

「それは違うと思うな、さすがに」

 

そう、ナイナイ。

ファシストは国家の敵。でも、日本はたぶん国家の敵ではない……米帝にこっぴどく

やられて改心したって噂だけど。表面上はね?。

 

そうよ、イングヒルトの知識は偏ってるに違いない。とはいえ、あたしの認識もイングヒルトと似たり寄ったりなんだよね、アハハ。ファシスト疑惑。ここは否定しておこう。そう、でもね?

うん、あたしたちの日本に対してのイメージに大きな差は無いんだよ。

教師らは言っている。ファシストの尻尾。それが日本なんだと。

 

「でも、そうでなくても西側だもん」

 

イングヒルトは心配げに。

 

「そうねイングヒルト」

 

でも、あたしは頷くに留めて。

 

「だからね、アネットには感謝してる。いまはその、その事を一番にあなたに伝えたく

て!」

「あはは……」

 

あたしにグイグイ迫るイングヒルト。思わず仰け反るあたし。

これは困った。これでは引っ込みがつかないではないか。

イングヒルトはすっかりあたしが日本への留学に付き合うと思ってる!

きっと、いやいや、それどころか確信してるんと思うのだ!

あたしは脳内で頭を抱える。

あー、どうしよう、と。そう思うことしかできないのあたしには!?

 

そんなこんなで、あたしは今日も混乱の渦へと沈むのだ。

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