ホーゼンフェルト武芸帳 シュヴァルツェスマーケンEXTRA 作:燈夜4649
◇
「隙アリィ!!」
あたしは速攻を仕掛けた。
試合開始の合図と共に正面突貫。竹刀と竹刀を打ち合わせると、そのままスピードを載せて下方から体当たり。
相手の男の子があたしの甘い体臭を嗅いだ頃……? いやいや、あたしはこれでも年頃の乙女なのだッ!
ドゴゥ! という全然大丈夫では無い音を響かせ、彼は派手に後ろに吹っ飛ぶ。
「あたしの勝ちね」
誰が見てもそうである。
男子は吹き飛びまだ起き上がれず。
一方のあたしは仁王立ち。
で。
次の瞬間、あたしは竹刀を転んだ相手の喉元に竹刀の先を押し付ける。
勝負あり。
ルール上は未だなのだろうが、もはやどちらが強者であるのは明確であった。
「はっはっは! 日本男子、口ほどにもないわね! 大和民族の誇りと武士道はどこにいったの? さあ、次は誰!」
まあ、因みに日本側は東ドイツの二人に一切悪口も嫌がらせも、マウント取りもして
なかったのではあるが。
勝ちは勝ち。あたしは初戦の勝利に上機嫌なのであった。
◇
「イングヒルトォ!」
あたしが主将の連打を二本の竹刀で弾きながら外野に叫ぶ。
「ええい、やりにくい! ちょっとイングヒルト、なにが二刀流よ! やってみたは良いものの、二本の竹刀なんて邪魔すぎるんですけど!」
「それで主将戦まで連続で勝ってるんだから良いじゃない! ミヤモトムサシに謝れ!」
「だから誰よそれ!」
「日本の戦国時代の剣豪よ! 剣聖! もう忘れたの?」
「あたしは剣聖でもなんでもないんですけど!」
「何言っているのよ、あなたは国内チャンピオンじゃないの!」
「ジュニアのね!」
「チャンプならチャンプらしく、挑戦者を選ばない!!」
「それでどうしてあたしが、その剣聖のマネをしなきゃいけないの! 青龍刀持ってきなさいよ青龍刀! それも一本で良いから木刀ぐらい無いの!?」
「ダメですー。アネットには日本の剣道で日本のサムライに勝ってもらわなきゃいけないんですー」
「何よそれ?」
あたしはノリノリのイングヒルトに呆れる。
全く調子いいこと言うんだから!
とは思うものの、一方のイングヒルト当人はさらに調子に乗っていて。
「相手の土俵で買ってこそ真の勝者! それであって初めて英雄よ!!」
「何が英雄よ!」
「アネット、英雄ベオウルフは最後まで弱音を吐かなかったわよ!?」
「それダメじゃん! ベオウルフって最後死んじゃわなかったっけ!?」
「死んでこそ英雄! アネット頑張れ!!」
「嫌よ! あたしってばまだ死にたくないってば」
「えー?」
イングヒルトの顔の笑みには消える気配が全く無い。
あたしってば、完全にイングヒルトに遊ばれているよね!?
で、あたしは聞いてみた。
「どうして疑問系!?」
「だってアネット、もう思い残すこともないでしょ?」
「あるわよ! あたしだって夢はあるの! それにまだ、恋らしい恋もまだ! あたしも大人の恋の一つもしたいの! 竹刀を振り回して男子全員に勝っちゃう女の子なんて、どこの男子も相手してくれなくなっちゃう」
──静寂。
イングヒルトの両眼がこれでもかと見開かれ。
「……え?」
と、イングヒルトの口から地の声が漏れた。
「なによイングヒルト、今の間わぁ!!」
あたしは外野に大声で叫ぶ。
「がたがたうるせぇぞお前!!」
あ、怒られた。
主将、日本のサムライは吼えている。
そして、試合開始の合図と共に、彼は飛び出してきた。
が、流石のあたしである。
突っ込んでくる日本人、大口を叩く腕前はあるのかもしれないが。
その証拠に──。
彼の持つ竹刀の先は常にあたしを捕えていて。
隙あらば打つ。
そんな構えである。
少々はこいつは出来るかな?
「うるさいのはあんたよ、丸刈り君!」
叫んだあたしは左手に持つ竹刀を投げ捨て前に飛ぶ。。
両手で残った竹刀を握って大上段に打ち下ろす。
相手は竹刀で弾こうと試みるが──。
バキィ!
うん、信じたくない音がした。
面に当たった竹刀が二つに折れる。
「ぎゃあ!?」
折れた竹刀は彼の脳天を強かに打っていた。
余りの痛みに大将が吼えたのだろう。
あたしは目を見開いた。
「あ、ついやっちゃった」
あたし、強すぎたみたい。ごめんね、サムライ君。
水を打ったように静まり返る体育館。
「あ、あはは……ま、まあ? 真剣じゃなくてよかった? ええと、竹製でよかったね? 青龍刀ならミンチだったよ」
あたしは正直に恐ろしい事を呟いて。
つい、本音が漏れちゃった。
「ま、あたしの勝ち?」
場の静寂は続く。
あたしは今だ彼を睨みつける。
しかし、彼が動く様子は無い。
あたしは面を取って脇に抱える。
赤髪が汗と共にはらりと舞い落ちて。
瞬間。
「あの留学生、一人で五人抜きしやがった!」
と、唸りのような怒号と歓声が体躯館内に満ちて行く。
なーんだ、日本人達の中にもあたし達を応援してくれている人たちがいたんだね。
ま、興味は国境を越える。
それをあたしは実感したんだよ。
うん、あたしってば強すぎたのに、日本人の男子に避けられることなんて杞憂だったみたい。