ダンジョンから帰ったら五十年経ってたんだが。~え?昔の仲間が今や大手ギルドの代表?なにそれ知らん……こわ……~ 作:蝉時雨
修正遅くて申し訳ないです!!
コツコツと、石畳を歩く。
迷宮の道は意外と覚えていないもので、幾度か行き止まりにかち合ってしまっていた。
「ううむ、どこがどこに通じていたか……」
: 埼玉ラビリンスの名は伊達じゃない
: 迷子になるよね、ここはね
: でもなんだかんだ中層なんだよね
: パパの進行速度がエグすぎんよ〜
: 迷子とは
『埼玉・第四扉』に入ってから、かれこれ数時間。
悩みながら、迷子になりながらではあるが、なんとか浅層を通り過ぎて中層に至ることが出来ていた。
以前入った時に比べ、道が変化しているようにも感じる。どこかで時が進むごとによって『扉』の内部構造が変化していくと聞いたことがあるが、今体験しているものがそれに該当するのかもしれない。
「前に一度順路を覚えたのだがな。記憶違いが多いようだ」
: 迷路はまじしゃーなし
: うむうむ
: ある意味ASMRみたいでこれはこれでよき
: 時々モンスターを吹き飛ばすしな
: 平和でええ
基本的には迷路を歩き、時折現れるスライムのような異形を吹き飛ばしているだけの道中。
あまり面白くないのではとも思っていたが、視聴者――いや、子供らは存外楽しんでくれているようで一安心だ。
それにしても、異形についてもここまでスライムと呼ばれるものが多かった印象は薄い。もっとゴブリンと呼ばれるものや、狼などの異形も出現していたかのように思う。
時間が経つことによって、出現する異形にも変化があるのやもしれない。
「それにしても、スライム系統しか出てこないな」
: 基本天井に張り付いてるからね
: 頭に張り付かれてそのままってこともあるから要注意や
: ↑なにそれこわい
: なんかココ最近まじでスライムばっかりなんだよな
: 前はウルフ型とかもいたような気がする
「うむ、警戒を怠るつもりはないさ。子供たちもありがとう」
: へへっ、いいってことよ!
: 認知されたぞ!!
: 今日はお赤飯よ!!!!
: 祭りだー! 祭りを開けー!
: 認知もなにも、無理やり認めさせてましたよね
こうしてコメントと話をしつつ探索を続けていると、『NY・第八扉』を攻略していた頃を思い出す。
まだ仲間が犠牲になり始めていなかったあの頃も――皆で警戒はもちろんしながらだが――他愛のない話で盛り上がったものだ。
「ふふふ、子供らと話をしながらの探索は楽しいな」
: 俺らも楽しいぞ!
: パパってすごい話しかけてくれるよね
: 実質初配信とは思えないのよ
: 探索中ってそっちにみんな集中するからな
: 実質初配信(通算三回目の配信)
そうか、すっかり忘れるところだったことがひとつあったな。
「思えば、これが実質的な初配信? なるものになるのか。先程も今も同じ子がコメントをくれているものな」
そうなのだ。
たしかにこれまで総計二回――これを合わせれば三回ではあるが――の配信を経験している。
一回目は花依殿を救出した際、そして二回目は地獄と闘争のコラボの時。ひとりでやるのは、これで初めてであるのだ。
: お気づきになられましたか
: ソロ配信嬉しいけどソロ探索は心配という二つの心
: ていうかさ
: うん
: パパってもしかして、この流れてるコメント名前まで全部見えてる?
: ↑なにをばかなことを
「ん? 見えているぞっと。本当にスライムが多いな」
今度は角から現れた紫色をしたドロドロの異形を吹き飛ばす。ここのダンジョンはいつからスライムの温床になったのか。
少しばかり気になるな。
: ああ……みんなのトラウマアシッドスライムが……
: あいつに何度装備を溶かされたことか
: え? まじで見えてるの? これが?
: なんだかんだ結構な速度で流れてますわよ???
: 一万人が見てるからねそりゃコメントも早くなる
このコメントの向こう側に一万人もいるというのか。
ということは、今のオレのただ歩いているだけ――浅層から中層に降りる時にボスは倒したが――の配信を観ているのか。
なんだか申し訳ない気持ちが芽生えてくる。なにか面白いことでもやった方が良いのだろうか。
ふむ、今は中層の二層目あたりか。
となると、変わっているかもしれないが配信に面白いものを載せられるかもしれないな。
いや、最後に入ってから五十年以上経っているのだ、さすがに見つかっているのかもしれない。
たしかこの突き当たりを左、そして曲がった先の真ん中の通路――。
: なんか考えながら歩いてる?
: その先行き止まりじゃないっけ
: ……ん?
: おいおい、それ公開するのか
: なんか探索者らしき人らが騒ぎ始めてるな
ふむ、やはり知られているものらしい。
なんせ隠された道で三層分は先に進める階段だからな。
『扉』の中は実に摩訶不思議と思うが、こういった秘密の階段のようなものは男心的にも非常に惹かれるものよな。
「やはり諸君も知っている場所か。先に進むと考えると、通りたくなる道だ」
: そりゃもちろん
: 中層探索するなら常識っしょ。公開配信じゃ見ること滅多にないがな
花依牡丹 : 知らない道!? あ、おじさま初配信おめでとう!
: 牡丹ちゃんもよー見とる
: なお知らなかった模様
「おお、花依殿か。いつか『埼玉・第四扉』に来ることがあれば、使ってみるといい」
花依牡丹 : はい! じゃなくてあたしも誘ってくださいよっ!
: これは拗ね牡丹ですね
: 声掛けられなかったんだね
: ワンチャンコラボあったのか
: ていうかなんでソロなの?
: そーいや金策なら人集めたほうが効率よかろうに
ソロの理由か。
ただ単純に動きやすいというのもあるが、訛った体を叩き起こすなんてつまらん事にほかの者を巻き込みたくなかったというのもある。
だが、一番は――。
「たしかに、人数が入れば狩りの速度も上がって効率は良くなる。しかし、翻って分配の問題がある」
: んあーそうよな
: 探索者分配で揉めすぎ問題
: すーぐ決闘しがち
: 探索者野蛮問題
: ↑言うて野良だけやろうが!
そして、単純に実績作りという面。
ここまで降りてきて、だいたい誠一郎の思惑が見えてきたというもの。
恐らく、いや間違いなく、このスライム型異形の大量発生の原因探しあたりを仕込んでいるのだろう。
まったく、それならそうと一言なにかしらの手段で伝えてくれても良いだろうに。
さて、完全に迷路の突き当たりまで歩いてくることが出来た。
ここの壁――黒い煉瓦上のもの――の、中央下から五段目、そこから左へ二列の煉瓦を押し込む。
すると、壁の右寄りに煉瓦の出っ張りが三点出来る。これを、上下真ん中の順番で押して、最後に壁の中央あたりに出てきた棒型のスイッチを押せればクリアだ。
: なんかパズルゲームやってるのまでは見えた
: 遠隔いねーとあのスイッチ押せなくて泣く泣く引き返すんだよなぁ
: パパどうするんだ
: ふっ、そりゃおめー、あれよ!
: あれしかねーわな!!
その辺に落ちてる石ころを拾い、いつもの感覚で魔力を宿して指先で弾く。軽い音が辺りに響くと、目の前の壁の一部が突如として動き出して人ひとり通れる程度の道と、螺旋階段が現れる。
「謎解き成功、だな」
: 随分と手馴れてましたね
: うーん、期待してたもの違ったっていうかー
: それはそれとしてっていうかー
: ひゅんひゅん飛ぶアレが見たかったっていうかー
: 番人ボスも一撃だったから配信の見せ場っていうかー
: ↑十分な見せ場なんだよなぁ……
ふむ、エイギスの展開が見たかったのだろうな。
深層や深淵まで行けば出番があるだろうが、現状は魔力を載せた衝撃波を出す媒介となっている。
無理に消耗するよりも、こうして節約した方が良いように思うが配信を観ている層への配慮も必要なのかもしれないな。その辺の塩梅がよくわからんものだ。
中に一歩踏み込めば、背後から壁が閉まる重厚な音。
本当によく出来ているものだ。
暗闇だからと、インベントリからランタンを取り出して腰帯に括り付ける。
暗いかもしれないが、我慢をして欲しい。懐中電灯などが普通かもしれないが、ここは男の浪漫だ。
淡く周囲を暖かな光で照らすランタンを持った冒険……ふふ、やめられる気がしないな。
「さて、今日はこの下り終えた所で野営をしようと思う。他の探索者がいれば話が変わるが、子供らの反応からするにここは知る人ぞ知るレベルなのだろう?」
: ランタンとか渋すぎるんだよなあ
: もしかしてキャンプ配信ですかー!?
: パパの手料理!?
: マ!?!?
: 一緒に料理作ろうそうしよう
「あー、すまんがオレは料理はしないぞ。『扉』に入る前にもらった携行食品だ」
そう言えば、コメント欄は阿鼻叫喚の嵐となる。それ程までにオレに料理をしてほしかったのだろうか。
と、そうだ。
このまま階段を降りるのもいいが、先程エイギスを見れられなかった詫びでもしようじゃないか。丁度鎧も着ていないから、面白いものになるだろう。
手すりに手をかけ、下をのぞき込む。暗くて見えないが、問題は無いだろう。念の為、道中に異形がいるかもしれない点を魔力を操作して確認していく。
いくつか魔力に載って反応があったが、どれもこれも脅威にならない程度のもの。以前コラボの時にもやったように、丁寧に魔力で潰していけば襲われることもないだろう。
さて、少しばかり心が踊るな。
こういった場所を飛び降りるなどという経験をしたことがないから、どうなるか実に楽しみである。
足をかけ、そのまま飛び降りる。
空間内に停滞していたであろう風が全身を撫で、ある種の気持ちよさに包まれる。暗い中を飛び降りるのも、なかなかに面白いものだ。
地面に着くのはあっという間で、どんっという音と共に片手をついて着地をする。全身を魔力で覆っていたが、軽い鈍い痛みが走った。
「はっはっはっははははっ! 実に楽しいな!」
: ????????
: なにをしてるの????
: 声出たじゃん!!!
: ランタンの明かりだけで周りなんも見えないのによく飛んだね????
: 怖すぎるから二度とやらないで????
花依牡丹 : おじさま!?!?!?!?
おかしい、大変不評であった。
皆目見当がつかん。
高所からの飛び降りの浪漫がわからんのか。
ふっ、子供らもまだまだということか。
さて、一番下――記憶違いがなければ中層の五階層あたりだろう。ここの中層は何階層まであったか記憶が定かではないが、悪くはない進捗だろう。
インベントリから簡易的な寝袋を取り出し、壁に近いあたりに敷く。ダンジョンの壁は時間が経つと元に戻る性質があるため、腰帯に括ったランタンも共に地面へ。
本当は壁に釘かなにかを打ち付けてそこに掛けたいものだが、以前やった時に痛い目を見たものだ。
「よし、これでいいな。あとは飯を食って今日は――」
: 野営とは
: 実質寝袋だけじゃないですかやだー!
: これはきっと片付けとかそういうのを考えた結果なんだ……
: せめてテントはろう??
: 俺たちの知ってる野営じゃない
風を感じる。
いや、たしかに降りる前に魔力で探った時に一瞬だけ違和感を感じたのだ。時たま大きな岩などで微妙に違和感を感じることはあり、今回もそういうものだろうと思っていたが。
周囲を見渡す。
しかし、穴もなければ、扉のように開いてる場所もない。当然だ、まだ出口のギミックは解除していないのだからな。
では、なぜ風を感じるんだ。
いや、本当に微弱なものであるから、普通は違和感を抱かないのかもしれない。
オレが降りてきた時の衝撃が残っている可能性だってある。
ランタンを手に取り、壁を一箇所一箇所確認していく。
丸い空間を形成している黒い煉瓦の壁は、どれもしっかりと手応えがあり違和感を感じない。
警戒のし過ぎかと思った矢先、すぅっと手が壁に飲み込まれた。抵抗などなく、まるで初めから壁などなかったかのような手応え。
どうやら、当たりを引いてしまったらしい。
: なんか壁触り始めた?
: ご飯まだでござるかー、拙者おにぎり準備したでござるよー
: 武士もよー見とる
: !?
: え……なにそれ……
「――子供らも見たか」
手を引き戻し、寝袋を片付けるために広げた壁付近へと戻る。コメントでは、すわ未発見エリアだと騒いでいるが、そうとも思えない。
未発見エリアであるならば、壁を腕が通過した時点で煙のように壁がなくなっているはずなのだ。
念の為、寝袋を片した手でそのまま黒い鎧を取り出しては足から身につけていく。以前の竜種にダメにされた鎧よりも前に使っていたものだ。
前のものが総合力に優れていたのに対し、今回のものは魔力や魔法防御に優れている。オレの持つ中で、二番目に――いや、今では一番良い鎧だ。
全身に装備し、胸元を二度叩いてから右手にエイギス、左手にウルティマを握ってすり抜けた壁へと戻れば。
壁に見える場所は元の状態のまま、やはり未発見エリアなどではないと推測する。
「面白くなってきたな、そうは思わないか?」
: パパ呪われてる?
: コラボの時も中層だったじゃん!!!
: 未発見エリアだああああうおおおおおお!
: こんな所に未発見エリアなんてあるもんなのか?
: 撤退して報告なんていかがでしょうか!!!
たしかに、なんだか中層で絡まれることが多いように思うな。と言っても、前回と今回とで二回ではあるが。
撤退も視野であるし、深淵で金策をして地上に上がってからの報告という線もある。
だが、本能は進めと言っている。
やはり、冒険をするのが男の性であるべきであると、嬉々として暴れているのだ。
我ながら、いい歳をして子供らしいとも思ってしまうが、オレはこういうものに浪漫を感じるのだ。秘された先にあるもの、金銀財宝かもしれなければ、なにか特別な武器が眠っていたりするかもしれない。
ならば、オレは――。
「ふっはははっ……この先に面白いものがあるかもしれんな。進んでみようじゃないか」
一歩、壁の中へと踏み込めば。
そこには、淡い緑の光で照らされた通路が長く伸びていた。
いかにも――いや、決めつけはよくないだろうが――。
壁際に規則正しく並べられた、見覚えのあるマーク。
――二つの扉が描かれ、真ん中に人の姿が描かれたものを一瞥し。
道の奥へと、足を進めた。
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