ダンジョンから帰ったら五十年経ってたんだが。~え?昔の仲間が今や大手ギルドの代表?なにそれ知らん……こわ……~   作:蝉時雨

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週一更新になります。


第十六話は報せと共に

 打ち合う剣から、火花が迸る。

 

 鍔迫り合いに持ち込むが、僅かにこちらが押されてしまう。

 ひとつ笑いを零して、力を抜くことで相手の勢いを利用する形に持っていく。

 僅かに相手――清吾の体が流れるが、すぐ堪えるように剣を止めていた。

 

 その顔には笑みが浮かんでおり、どうやらオレとの模擬戦――死合いを楽しんでくれているようだ。

 あの時の初級者がよくもまぁここまでのものになったものだ。

 

 右手の模擬戦用の盾の先端を、がら空きになっている肩を目掛けてぶつけるように殴りつける。

 魔力が瞬時に集まる気配と共に、清吾の肩に分厚い魔力の防壁が張られた。

 

 盾で殴りつけること自体には成功したが手応えはなく、土煙を巻き込みながら清吾を吹き飛ばすにとどまった。

 

「――まったく……随分と手こずらせてくれるようになったな、清吾」

 

「――先生にそう言って頂けただけで、この五十年は無駄ではなかったとわかりますなぁ! 猛進ノ楯っ!」

 

 土煙の中から盾と共に、オーラを纏って突っ込んでくる清吾。

 しっかりと殺意も乗った、実に良い攻撃だ。

 模擬戦はやはり実戦さながらでやらなければ、意味がないからな。

 

 自分の盾にも魔力を纏い、突進を真正面から受ける。

 足を踏ん張ったが、少しばかり押されてしまう。

 

「くっふふ……本当に、強くなったな」

 

「なにを。まだまだここからですぞ?」

 

「ふっ――シールドバッシュ」

 

「――ぬぅっ!」

 

 スキルを使い、清吾の勢いをそのままに再度吹き飛ばす。

 

 すまんな清吾。

 いくら、お前のほうが年季の入った戦士になっていようとな。

 まだ、負けてやるつもりはないのだよ。

 

「一点魁」

 

 刺突のスキルを発動し、追撃としてそのまま左手の剣を突き出しながら突撃する。

 そのまま受け止めるか、受け流すか、どうする。

 個人的には受け流してくれれば――。

 

「――それを待っていたぁ!」

 

「おぉっ!?」

 

 軸をズラされ、オレの剣の下を清吾の剣が走る。

 そう来たか、滾るじゃないか。

 

 無理やり盾を差し込み、刺突の勢いそのままに剣撃を受けながら交差する。

 鉄と鉄が激突し、そのまま擦れて耳に残るような嫌な音が響き渡る。

 

 本当に、よくここまで成長をした。

 清吾、お前が鍛錬を続けてきた痕を感じるぞ。

 

「ふっ、今ので一撃入れるつもりだったのですがな」

 

「くっ、ふははは。少し、汗をかいたぞ」

 

「それはなによりで」

 

 清吾は臨戦態勢を取りながらも、どこか満足そうにしている。

 そろそろ準備運動には十分だろう。

 

「もう少し上げても良さそうだな」

 

「ええ、望むところです」

 

 同時に駆け出す。

 盾を突き出しているところを見るに、また防御からとでも考えているのだろう。

 ならば、こちらのやることは決まっている。

 

 先程までお行儀よく剣と盾を使ってやったのだ。

 そろそろ本気の殺し合いと洒落込もうじゃないか、なあ清吾。

 お前も、そろそろ行儀のいいマネは飽きただろう。

 

 剣を振り上げる動作と共に、上体を後ろに逸らす。

 狙うは、蹴撃。

 的は、嗤いながら盾を構える清吾。

 

 走った分の勢いと共に魔力をこれでもかと載せ、足の裏で思いきり蹴り飛ばす。

 

「――――!」

 

 漏れたのはどちらの声だろうか。

 足にはたしかな手応えと、僅かな痺れ。

 視界に映るのは舞い上がる土煙と、脇を締めて両手で盾を支えながら凄絶に嗤う姿。

 

「ふっ、良い表情をするようになったじゃないかっ! 若造っ!」

 

「はっはっ! そう呼ばれるのはいつぶりでしょうなぁっ!」

 

 蹴り飛ばした足の勢いをそのままに、さらに肉薄して左手に握った剣を振り下ろす。

 すると当然の如く、清吾の盾にぶつかった。

 火花が飛び散るかに思われたが、オレも清吾も魔力を載せている関係上、傍から見れば何も無い空気の層を介して拮抗しているように映るだろう。

 

 そのまま弾かれるが、オレも清吾もそのような些事はどうでもいいと言わんばかりに斬り結ぶ。

 

 時には、どっしりと根を下ろし、互いの剣と盾を用いて。

 時には、駆けながら数度、数十度とぶつかり合い。

 時には、地面の石ころや砂、魔力の塊を直接浴びせ合い。

 

「――はっはっはははははっ!!!」

 

「――ふはっ! ははははっはっはぁっ!!」

 

 互いに嗤う。

 

 嗤い合う。

 

 本当に、出来るようになった。

 実に、愉しいじゃないか。

 

 思い出すのは、『扉』の前でキラリとした瞳を輝かせる青年の姿。

 探索者――冒険者としてはまだまだひよっこで、駆け出しとも言えなかったあの頃。

 たまたま新人冒険者支援に乗り出し始めた政府からの依頼で、引き受けた中にいた若造のひとり。

 

 剣を満足に振るうこともままならず、異形の攻撃にいちいち怯んでいたな。

 それでも最後には、オレのようになりたいと、そう言ってくれたな。

 昨日の事のように、憶えているとも。

 

 その軽鎧の下には、どれほどの傷が出来た。

 その心に、どれ程のモノを背負った。

 その魂に、どれほどの研鑽が宿った。

 

 お前の積み上げてきたものを。

 お前のくぐり抜けてきた死線を。

 お前が屠ってきたモノを。

 

 もっと、オレに教えてくれ。

 もっと、オレに伝えてくれ。

 もっと、オレに響かせてくれ。

 

 もっと、もっと、この死合いを。

 この心躍る、素晴らしい時間を。

 共に、続けようじゃないか。

 

 剣と剣が幾度目かのぶつかり合いの果てに、再び鍔迫り合う。

 より力を込めて押し返そうと――。

 

「ふたりともっ! そこまでにしてくれいっ!」

 

 ――する寸前に、オレと清吾の間を掠めるように飛んだ魔力の矢で止められてしまった。

 まったく、良い具合になってきたというのに。

 こんな時に水を差すとは、良い身分だな誠一郎。

 

「……誠一郎」

 

「へーへー、悪いな旦那。良いところで止めてよ」

 

「……………………構わん」

 

「めっちゃ不満そうじゃねえか……」

 

 そんなことはない。

 決して、決して、そのようなことはない。

 

「はっはっはっ。先生、いかがでしたかな」

 

「……ふっ、聞くまでもないだろう?」

 

「はっはっ! それもそうですなぁ!」

 

 清吾と笑い合う。

 今度は殺意などない、純粋なもの。

 

「また、死合いましょう」

 

「ああ。次も楽しみだ」

 

「清吾もすまねえな。ほんじゃ、俺の部屋まで行くぞ旦那」

 

「ふふ。いえ、儂のことはお気になさらず。これから先生との死合い――模擬戦を見ていた若い衆を、揉んでやらねばならんのでね」

 

 頷きを返しながら、清吾に手を上げる。

 ギャラリーのほうに目を向ければ、数名の『Snow』所属の探索者の姿。

 どこか顔が青いように見えるあたり、清吾のしごきはそれなりにキツいのだろう。

 

 だが、それで強くなれるなら安いものだろう。オレが願うとしたら、実戦さながらの雰囲気でやってほしいということくらいだ。

 オレと清吾の模擬戦――死合いがなにかの足しになっているなら、それが一番いい。

 

 『第二修練場』――清吾に言わせれば初中級者向け教導場らしいが――の出口に誠一郎と向かう。

 エレベーター前に用意されたラックに剣と盾を片付け、彼に続いてエレベーターに乗り込む。

 

 わざわざ誠一郎が修練場にまで来たのだ、緊急の要件か何かなのだろうか。

 この二、三週間は『扉』に行かず、大人しく鍛錬をしていたのだが。

 

「しばらく様子見してたんだが、あそこで止めないと長引きそうだったからよ」

 

「……いや、まさにその通りだ」

 

 感情論はさておき、先ほどの誠一郎の判断は正しいと思う。

 あそこで止まらなければ、あと小一時間は戦っていたのではなかろうか。

 そうなるのはオレとしても、きっと清吾のやつとしても願ったりではあるが、修練場がすさまじい被害を被っていたのかもしれない。

 

「まあ、旦那の性格はよく知ってるからな。その不満に見合う報せを持ってきたってわけよ」

 

「ほう。もしや以前に話をしていた内容か?」

 

「そゆこと……あと聞きたいこともあるんだ」

 

「聞きたいこと」

 

 なにかしでかしたかと一瞬考えるが、特段心当たりは無い。

 

「……重要なことだ、旦那」

 

「…………」

 

 誠一郎のあまりに真剣な表情に生唾を飲み込む。

 エレベーター内の空気が張り詰めていくのが――。

 

「――牡丹ちゃんと野薔薇ちゃんと出掛けたらしいなぁ、旦那」

 

 ――思わず身体が前につんのめるのを食い止めることに必死となってしまう。

 いきなり何を言い出すんだ、こいつは。

 

「あ、ああ。たしかに出掛けたが……」

 

「銀爺のとこに行ったのは聞いたが、そのあとなんにもしてねえよな?」

 

「食事をしてから駅で別れただけだが……」

 

 誠一郎、オレは時々お前の考えていることがわからなくなるぞ。

 なんでそんなに心底安心したような表情を浮かべているんだ。

 

「……ふぅ。旦那からも同じこと聞けてよかったよ。今回は殴らずに済みそうだな」

 

「……プライベートに踏み込みすぎやしないか?」

 

「……社員のプライベートにも気を配るのが、社長の務めなんだよ。特に旦那は罪な男なんだからな」

 

 そうなのか。

 いや、本当にそうなのか?

 少なくともこいつは踏み込みすぎているように思うのだが。

 

 罪な男だなんだというが、オレが年若い女性に手を出すとでも思っているのかこいつは。

 なによりこんな戦うだけしか取り柄のない男より、もっと良い男が世の中にはごまんといるだろうに。

 むしろオレに惚れるという女性がいるなら連れてきてみてくれと思うぞ。

 

「ま、あとは俺の個人的な趣味ってぇやつかな」

 

「……七十越えた爺がなに言ってやがるんだ」

 

 誠一郎の笑い声と共に、エレベーターが電子音を鳴らして目的の階に到着したことを知らせる。

 

「ま、この件についてはこれ以上ないわな。今後も気をつけるように」

 

「……なんだかどっと疲れた気分だ」

 

「旦那でも疲れることがあるんだなぁ。俺ぁ知らなかったよ」

 

 誰のせいだ、誰の。

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 ギルド長室に入り、相も変わらず沈み込みすぎるソファに座る。

 松山殿が用意してくれたコーヒーを飲み、正面で難しい顔を浮かべている誠一郎を見遣る。

 すると、オレの視線に気づいた誠一郎が表情を崩してからひとつ頷いた。

 

「さて、一息つけたかい旦那」

 

「ああ、このソファは相変わらずで慣れんがな」

 

「はは、そいつぁすまねえな」

 

 ため息をひとつ吐き、手を振って本題を話すよう促す。

 きっと、こいつにはそれで伝わるはずだ。

 

「焦るなよ、旦那。世間話にでも花を咲かせようや」

 

「お前が難しい顔をしているからだろう。とっとと話して楽になれ」

 

「……あり、バレてたか」

 

 バレバレだぞ、誠一郎。

 お前がオレの顔色を読めるように、オレもお前の顔色くらいは読める。

 

「良い報告と悪い報告、どっちから聞きたい?」

 

「お前が話したいほうからでいい」

 

「かーっ! 旦那は本当にまぁ……いやまぁ、悪いほうもそこまで悪いってわけでもなぁ……」

 

 悩む誠一郎を尻目に、コーヒーの苦みを堪能する。

 オレと清吾の死合いを邪魔した罰だな、良い気味だ。

 とはいうものの、オレに関することだから少しばかり複雑ではある。

 

「じゃあ、あれだ。まずは文句なしの良い報告からだ。ほれ――」

 

 誠一郎が自身のインベントリから黒を基調とした一枚のカードを取り出して、目の前のテーブルに置く。

 見覚えがあるが、どこかデザインが洗練されたようにも見えるカードだ。

 

「これは……」

 

「おう、旦那のSSランク探索者証だ。ようやっと旦那を元の鞘に戻せたぜ」

 

 カードを手に取る。

 オレの手元にあるSランクのものよりも、硬い手触り。

 黒――というよりは漆黒を基調とし、赤で所々にラインを、そして名前などを白で彫り込んでいる。

 

「感謝する、誠一郎。苦労をかけた」

 

「あんま嬉しそうじゃねえなぁ。もっと、よっしゃー! とかって喜んでくれてもいいんだぜ?」

 

「……お前はオレをなんだと思っているんだ」

 

 誠一郎なりの冗談を聞きつつ、受け取った探索者証をインベントリへ仕舞う。それと同時に、古くなったSランクのものを取り出して誠一郎の前まで滑らせる。

 

「葛城殿の言葉を否定するわけではないが、やはりランクなどあまり興味がないのだ。これがあればアリアやジェイ、ローズの元に行けるのか、という考えしか湧かん」

 

「さすがの旦那だわな。なにはともあれ、これで諸々の障害はもう旦那の邪魔を出来なくなった」

 

 誠一郎はイタズラが成功した子供のような、あどけない笑みを浮かべている。

 きっと、政治家連中を相当な綱渡りで黙らせたのだと思うが、こいつはそれも含めてイタズラなどと思っていそうだ。

 

「そうなのか?」

 

「おう。まず、『扉』に入る時にゃ邪魔されん。なんなら、この探索者証は今じゃ世界中どこでも通用するもんだ。まぁ、だからこそ最初に旦那を戻せなかった訳だが」

 

 彼は手元でオレのSランクのカードを弄びながら話を続ける。

 

「パスポートの役割も持ってるから、旦那の言ったようにこれで向こうに行けるってぇ寸法だ。空港で面倒なあれやこれや全部すっ飛ばせるぞ? 便利なもんだよな」

 

「止められたりしないのか?」

 

「はっはっ! するわけないだろ。なんなら連絡取って専用のジェット機でひとっ飛びだ。そもそも、SSランクを止められるのは物理的にも同格だけだ。これはピンキリだけどな」

 

 誠一郎、相変わらず指先が器用だな。

 Sランクの探索者証が宙を舞うなんて、誰が想像するんだ。

 お前、魔力で糸まで作って楽しんでいるな。

 

「これで、俺の目的の三割だか四割はクリアしたわけだ」

 

「……お前の目的というのは?」

 

「なんだ旦那。薄々勘付いてるもんだと思ってたが」

 

 「別に隠してたわけじゃねえが……」と、頭を搔く誠一郎。

 

「ひとつは旦那の自由行動の保証。SSランクに戻せたから、これはクリアだ」

 

「うむ。聞いている限り、随分と自由が認められていると思う」

 

「おう、なにしたっていい。それが犯罪だと色々面倒にゃなるが、そうじゃなけれりゃなんだってしていい。政府が再制定をした時にこうなるように、俺がした」

 

 空いた口が塞がらないというのは、こういう時に使う言葉なのだろうか。

 過去のものも――特段覚えてはいないが――それなりの特権を与えられていたような気がするが、ここまでのものではなかったはずだ。

 

「まっ、政府の特務には拒否権なく絶対服従っていう条件は付けられたがな。それも大抵は特別禁忌の討伐が主だったものだから、気にするほどのことでもない」

 

「たしかに特別禁忌は未熟な者が戦うには危険だから納得だ」

 

「そゆこと。どっかの誰かさんはソロでやりやがったみたいだがな。『NY・第八扉』の時に似たようなもん見なけりゃ確証なかったわ」

 

「…………すまん」

 

「今はアリアだっていないんだから、マジでこれ以上無茶しないでくれよ。どうせあのスキル使ったんだろうが、アリアがいない中で切るにはリスクが高すぎる」

 

 おかしいな。

 オレはなぜまた説教を受けているのだ。

 戻ってきてからというもの、一体これで何度目なんだ。

 

「まあいいや。それはそれとして、俺の他の目的は旦那もわかるだろ」

 

「……アリアの救出――解放と教団の殲滅あたりか」

 

「大正解。今んとこ、旦那の獅子奮迅の活躍で後者はかなりの進展があった。姫野椿が少しずつ口を割ってくれてるのもあって、いくつかの拠点を潰せてる」

 

 誠一郎のことだ。

 ため息でも吐きながら、姫野を上手いこと手のひらで転がしているのだろう。

 こんなにも早く口を割ったのは――いや、オレと戦っていた時も饒舌だった女だ。彼女の欲望を満たすことが出来るのであれば、ペラペラと回るあの口が喋ることは容易に想像がつく。

 

「だが、些か上手く行き過ぎてるようにも思う。研究者っていう大事であろう人材を失った教団――ヤーナとかいう幹部が動いていないのが懸念点って所か」

 

「それが悪い報告か?」

 

「んや、それもあるが本題じゃない。とにかく、姫野椿を向こうに運ぶのも問題なしだ。ファーストクラス級を所望されてるが、専用ジェット機で一緒に飛ぶんだから変わらんだろ」

 

 相も変わらず、よくわからん要求をしていることはわかった。

 

「んで、悪い報告の本題だが――」

 

「言ってみろ」

 

「……旦那が元の鞘に収まったのもあって、周りが騒がしくなる」

 

 なるほど。

 騒がしくなるのは勘弁願いたいが、こればかりは仕方の無いことだろう。

 

「なに。その程度は飲み込むべきものだろう」

 

「……SSランク昇格の告知はやっとかないと意味がないからな。旦那が過去の俺の仲間だって話は止められたんだがよ。てか、荒唐無稽すぎて公表できないってのが政府側の見解だわな」

 

「姫野椿との戦闘で散々『時を越えし者』と呼ばれたがな」

 

「それもあって世間が騒ぐのが目に見えてる。俺たちの例の呼び方含め、面白おかしくするのが世間ってもんではあるからな」

 

 例の呼び方――『第八の英雄』とかいうものだろう。

 世間というのは、なぜこういうものを付けたがるのだろうか。

 

「まあ、あいつらは爆笑しながら俺たちの背中を叩くんだろうがよ」

 

「ああ、容易に想像が出来るな。しかし――」

 

「――俺たちは別に英雄になりたくて『NY・第八扉』を攻略したわけじゃねえ」

 

 オレの探索者証を弄ぶのを辞め、コーヒーに口をつける誠一郎。

 その目は、どこか遠くを見ているかのようだ。

 

「あいつらの残して逝ったもんも全部背負って、最後に悔いなくあいつらのとこに逝けりゃそれでいいんだがな。おまけに土産話のひとつやふたつ持っていけりゃ、儲けもんだ」

 

 雲ひとつない青空のように笑う、その顔。

 

 その通りだ。

 オレたちは決して英雄などではない。

 当時のアメリカ政府の要請に従ってかき集められた、言わば傭兵集団のようなものなのだ。

 

 攻略を通して友情が芽生え、共に背中を預けあってきたものではあるが、決して英雄になるためにやったことではないのだ。

 持ち上げられても、正直困るというのが本音だ。

 

 そんなオレたちが逝く時に、悔いがないのが一番だ。

 アリアの言った綺麗な景色も、先に逝った者たちに話せるひとつになればどんなに嬉しいことか。

 

 ああ、まったく同感だ誠一郎。

 

「んで、だ。旦那」

 

「ああ」

 

 いよいよか。

 ジェイとローズに、なによりアリアの元に行けるのか。

 

「――明日からアメリカはロサンゼルスに行くからな」

 

 準備を――待て、こいつはなんと言った。

 明日と言ったのか。

 

「…………すまん、オレの耳がおかしくな――」

 

「だから明日な。朝七時に飛ぶから、そのつもりでよろしく」

 

 にこやかに笑いやがっているな誠一郎。

 まったく、なにもかもが早いやつだ。

 心の準備というものがあるだろうに。

 

 だが、荷物はインベントリに入ってるからな。

 

 アリア、待たせすぎてしまったな。

 

 小言のひとつやふたつ、甘んじて受けよう。

 

 また共に、皆と一緒に笑い合おう。




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