ダンジョンから帰ったら五十年経ってたんだが。~え?昔の仲間が今や大手ギルドの代表?なにそれ知らん……こわ……~ 作:蝉時雨
たく、ザマァねえな。
痛む体に鞭を打ち、震える膝に力を込めて立ち上がる。
どこまで吹き飛ばされたかと周囲を見れば、斜め前にスティーブのスキルの壁と、その奥に炎の壁。
遠くて細かくは見えないが、スティーブの顔がこちらを向いていることはわかる。
余計な心配をかけてしまったか。
しばらく前線から引いていたとはいえ、無様な所を見られてしまった。
「ぺっ……なかなか、カッコよく行かねえわなぁ」
こんなことになるなら、政府の役人やらギルドの連中の言葉は無視して、ジェイやローズのように前線で戦い続けるべきだった。
魔力は衰えていないが、如何せん戦闘勘が鈍ってる。
老いには勝てないと長年思っているが、あのタイタンとかいうヤツの間合いすら見誤るとは、いよいよ俺ももうダメかもわからん。
「――イチロー! 無事かぁ!?」
ジェイの野太くデカイ声が聞こえる。
「……あいっかわらずデケェ声してやがる。んな吠えんでも聞こえてらぁ」
はて、旦那やアリア、ローズに姫野の嬢ちゃんは無事だろうか。
吹き飛ばされた影響か、少しふらついている。
幸いなことに――というより、染み付いた癖で武器は手放していない。
頭に手をやれば、ぬるりとした感触。
直撃は避けたはずだが、どこかにぶつけてしまったか。
本当に、上手くカッコつけられないもんだ。
ていうか、マサのヤツの声が聞こえてこねえぞ。
お前の師匠の一大事だってのに、デカブツなんかに恋焦がれてんじゃねえよ。
「聞こえてんなら少し休んどけ! こっちは俺とマサでどうとでもなる!」
再びジェイの大声。
「……それに頷きてぇ気分だぁなぁ」
足を踏み出す。
ふらりとよろけ、慌ててなんとかしようとするも、気がつけば地面とキスをしてしまっていた。
「はぁ――とんだ間抜けじゃねえか」
威勢よく啖呵を切り、雑魚どもをこれでもかと射抜いた。
だが想定外の敵が現れれば、すぐに使い物にならなくなる。
なにが、背中は任せなだ。
こんなんじゃ、炎の中にいる旦那も――。
「――誠一郎!」
旦那の声が聞こえ、体を動かしてなんとか視線だけをそちらへ向ける。
ちょうど南側に、旦那が――武器を構えてどこか見覚えのあるローブの人物と対峙していた。
旦那の顔は目の前の敵に固定されていて、俺のことは視界の端にでも見えたから声を掛けたところだろう。
旦那にもみっともねぇところを見られてしまったなぁ。
それにしても、あの黒ローブはどこで見たんだったか。
そうだ、旦那の――牡丹ちゃんと野薔薇ちゃんとコラボした時の配信だ。
慣れてない配信で、それもいきなりのコラボで序盤は顔面蒼白になっていた旦那に大爆笑していた。
炎の中で氷を割っていたはずの旦那がここにいるってことは、中はローズと姫野の嬢ちゃんが残っているのか。
「死んでいないのなら、少しでも休んでおけ」
「……おいおい、旦那までなんだってんだ」
本当に、俺の仲間たちと来たら過保護すぎやしないか。
これが終わったら、アリアも交えてそこんとこ話し合わなきゃいけねえなぁ。
ああ、そうだな。
これが終わって、ジェイやローズを含めた家族、旦那にアリア、おまけに頑張ってるであろう姫野の嬢ちゃんの皆でパーティしないとな。
師匠の心配をしないで切り結んでるマサのヤツは知らん。
隅の方で鍋でもつつかせてりゃいいわな。
そんで日本に帰ったら、絵里にうまいもん作ってもらって。
どうせ駄々こねて俺らと一緒に日本へ来るであろうアリアにも、俺の嫁を紹介しないといけない。
美人な俺の自慢の嫁さんに、腰抜かしてもらわねぇとなぁ。
それで少し旦那たちにはゆっくりしてもらいながら、俺のほうでジェイたちと連携しつつ教団を潰して回って。
そん時にゃマサのヤツもまたこき使ってやらなきゃぁな。
いや、その前に絵里と旅行にでも行きてぇなぁ。
終ぞ子宝には恵まれなかったし、結婚してからも忙しくてなかなかゆっくりする時間も取れなかった。
ジェイとローズの子供や孫を、彼女が腕に抱いたときの表情を覚えている。
本人はなんでもないことのように話すが、やっぱり子供が欲しかったんだろうと思う。
絵里はそれでもいいと――それでも十二分に幸せをもらっていると言ってくれている。
ほんと、俺ぁどこまでも情けない男だ。
そうかぁ、なんて頷くことしかできないダメな男だ。
不自由な暮らしはさせなかったとは思うが、子供のこととなると顔向けできねぇってのが正直なところ。
外面の良さで隠しちゃいるが、内面は結局どうしようもない男なんだ俺は。
連れ添って四十年以上、なるべく寂しい思いをさせないようにと考えてはきた。
政府の連中やらギルドの連中を脅して無理やり時間を作って、ふたりの思い出を何度も作った。
だが、いかんせんそれもかなり前だ。
そろそろもう一度、なんなら今度は年単位で絵里と一緒に過ごしたいもんだ。
なにも考えず、ただ愛する女と最高の時間を過ごしたいもんだ。
そんで、それが終わりゃ皆に自慢してやるんだ。
最高な嫁さんと、また最高の思い出を作ったぞってな。
そしたら、そうだ、そうだな。
旦那とアリアの――。
旦那も、流石に自分の気持ちに気づいているだろう。
気づいてないってんなら、俺が一発どついてやるからな。
そっちの祝いの準備も、しないといけないわな。
祝辞はなにがいいだろうか。
そこんとこ、ローズにでも相談するかね。
ああ、やりたいことも、やらなくちゃあならんことも、たくさん残ってらあな。
さて、休憩もこのあたりにしておかないといけないか。
ジェイとマサのヤツがタイタンを抑えてくれているが、その援護に行かねえとな。
なんてったって、俺ぁまだ――。
耳に入ったのは、硬質なナニかにナニがぶつかる音。
それと――。
「――オレが目の前にいるというのに、仲間を傷つけられるとでも思ったのか?」
「なぜ、止めたのか。イアヌス神の導きの下、気高き魂を――」
「その神経を逆撫でする言葉こそ、止めるべきだ」
――旦那の――『NY・第八扉』の頃からずっと変わらずにあり続ける、俺たちの盾の声。
最近じゃ、死に急いでんのか無茶ばっかりしやがる俺たちの盾。
帰ってきただけでお釣りが来るってんのに、どこまでも背負い込んじまう不器用な盾。
俺としたことが、危うくお陀仏するところだったか。
歳はとりたくないもんだな。
死ぬのは別に構いやしないが、こんなとこでくたばってたら向こうで騒いでるヤツらに叩き返されちまう。
絵里にも、顔向けが出来ねえ。
「くく……俺ぁ、枢木誠一郎だぞ」
『NY・第八扉』を、旦那と俺、ジェイにローズ、そしてアリアと共に踏破した男だぞ。
今や日本一のギルドを率いる男だぞ。
日本の探索者どもを引っ張ってきた男だぞ。
これまでに散った仲間たちの屍の上に生きてるってのに、こんな無様な死に方、納得できるはずがない。
体に、腕に、足に、力を込めて立ち上がる。
旦那が――俺たちの最強の盾が戻ってきた現代で、この俺が誰よりも先に向こう側に行くなんざ、認められるはずがない。
別にいつ死のうが、向こうで騒ぐヤツらに土産話を聞かせられるならそれでいい。
旦那やアリアを残して先に逝くのは、確定しているんだ。
俺ぁもうすっかりジジイになっちまったからな。
だが、だがな。
大雑把に顔を拭い、見えづらくなった視界を確保する。
いつもより、よく視える。
なぜだか、懐かしいとさえ思える感覚だ。
俺ぁ、エゴの塊なんだよ。
向こうに最高の土産話を持っていくまで。
仲間たちの、旦那の、アリアの、絵里の。
最っ高な笑顔を見るまでは――。
「――死ぬわけにゃ行かねえわな」
背中は、俺たちの盾が――随分と遅れて帰ってきやがった男が死守している。
その隣に、俺たちの寝坊助な――どこまでも美しく咲くであろう花を。
なにより、俺の隣でずっと笑ってくれてる最高の女の――絵里の笑顔を死ぬまで見てぇんだよ。
ならば――。
「よくもまあ、俺にバカみたいな無様を晒させやがったな」
たった今、マサのヤツに四つあるうちのひとつの腕を斬り飛ばされたデカブツを。
――殺しに行かねえとな。
■■■
「おいマサ! あんまり突っ込むな!」
誰かの野太い声が届いている。
だが――。
「ちっ、冷静になれバカ野郎! お前まで――」
――今は、少しだけでいい。
デカブツを斬りつける。
刀を一振りして、幾筋も幾筋も、無数の傷跡をそのでかいだけの巨体に刻み付ける。
四本の腕の一本を切断したが、デカブツもまだまだ元気だ。
残った三本の腕――そのうちのひとつである、鉤爪のような腕で狩り取ろうとしてくる。
「――――」
正面から弾き、駄賃代わりの傷跡をこれでもかとつけてやる。
足りない。
足りない。
足りるわけがない。
こんな程度で、己の師匠を――。
刀に大量の魔力を流す。
暴走したって構うものか。
俺の魔力を、好きなだけ持って行け。
――大恩ある方に、傷をつけたのだ。
その報いを、貴様の体にこれでもかと刻み込んでやる。
デカブツの竜の頭から火炎が放たれる。
素早く動く俺を巻き込むためだろうが、そんなものに乗ってやるつもりはない。
片手で振っていた刀を両手で握りしめ、宿した魔力のすべてを剣圧に乗せて兜割の要領で解放する。
吐き出された炎が縦に割れ、デカブツの体に真っ直ぐの線が奔る。
まだだ。
まだ、こんなものではない。
この程度で終わらせてなるものか。
ほら、まだ動けるだろう。
狼の頭のほうはまだ牙を剥いているな。
ああ、いい度胸だ。
とことんまで切り刻んでやろう。
細切れでは生温い。
文字通り、貴様の存在を塵芥と同等にしてくれる。
俺は未だ刀を振ることしかできない未熟者だ。
俺は頂にいると、見当違いの評価を受けている半人前だ。
俺は師匠のように人を導くことの出来ない若輩者だ。
だが、だがな。
貴様ごとき、切り刻むことはできる。
この刀をどれだけ振るってきたと思っている。
この力は、この剣線は。
貴様のような異物を、切り刻むために磨いてきたのだ。
師匠は――幼い頃にスタンピードから俺のことを救ってくれたあの方は――俺の生まれる前から日本という国を背負ってきたのだ。
本人は覚えていないだろう。
たまたまだと、笑うことだろう。
俺のようなヤツはごまんと見てきたと、そう話すだろう。
そんな方が、気兼ねなく話をする姿を見た。
そんな方が、どこか楽しそうに過ごし始めた姿を見た。
そんな方が、どこまでも真剣に動く姿を見た。
師匠の望み――そして、それに連なる方々の望みを叶えるために、俺の剣はあるのだ。
ギルドを脱退したのも、剣を磨きながらいつなんどきでも師匠が望めば駆けつけられるようにするためだ。
大義名分なんぞ知らん。
俺は、俺のやりたいことのためだけに、ここまで生きてきたのだ。
やりたいことを貫くために、ここまで歩んできたのだ。
その師匠の歩みを――俺のやりたいことを、貴様ごとき巨大なだけのノロマが。
――邪魔を、するな。
肉薄し、さらなる刀傷を刻みこもうとした瞬間。
幾筋も刻み込んだ傷跡へ無数の矢が的確に、傷口を広げるかのように突き刺さった。
見たことの無いほどの、精度――。
「――おうバカ。もうお前バカでいいよな」
デカブツの叫びが響く中、静かな声が誰の邪魔も受けずに聞こえてくる。
「ジェイの顔見ろ。こんなにドン引きしてんの俺でも久々に見たぞ」
「イチロー、お前の弟子どうなってんだ……よっ!」
「バカなんだよ。見りゃ分かんだろ?」
巨大な衝撃波が生まれ、デカブツを吹き飛ばしていく。
こちらに歩み寄ってくるおふたりの顔は、呆れと共にどこか楽しそうであった。
「てかイチロー、お前大丈夫なのか?」
「おう、余計な血が流れて逆に気分いいわな。旦那の背中も久々に見れて大満足よ」
「ジローのヤツ、我慢できずにこっち来やがったのか。たしかにさっき中央で知らねえ魔力感じたな」
衝撃波を飛ばした大剣を巨大化させるジェイ殿に、面倒くさそうに弓を構える師匠。
「なんか言えよバカ。師匠の一大事でもあのデカブツとランデブーしてやがってよ」
「……すいませ――」
「んだよ、その喋り方。今更戻したってどっちにしろ気持ち悪いだけだぁな」
この方は、本当に。
結局、『Snow』にいた頃の喋り方でも、脱退してからの喋り方でも、どちらにしろ小言を挟むのか。
「――面目次第もござらぬ」
「おう。それでいいんだよ、それで」
血を流しながらも、快活に笑う師匠とジェイ殿。
それに釣られ、ついつい口角が上がってしまう。
「うし、んじゃぁとっととあいつ殺すか」
「おう。俺だって久々にジローの背中見てえんだよ。ひとりだけ良い思いしやがってコノヤロウ」
「やっぱ良いもんだぜ、旦那の背中。旦那の背中がこっちにないってことは、あいつは雑魚ってことだぁな」
「くっくっ、違いねぇ」
獰猛に笑うおふたりと、吹き飛ばされてから起き上がるのに時間をかけているデカブツ――タイタン。
おふたりの話すジロー殿の背中。
実に、良い背中なのであろうな。
■■■
耐える。
ただただ、耐える。
「貴君はさすがであるな。しかし、守ってばかりでは――」
距離を詰め、左の剣で斬りつける。
だが、敵はすぐに離脱して魔法――魔力の起こりを感じないものを連発してくる。
炎、氷、水、風と属性は様々変化し、時折背後の壁へと狙いをつける時すらある。
「――ふむ。まさかこれ程とは思っていなかった」
展開される炎の海の中を、スキルで広範囲をカバーできるようにした盾で突き進む。
飛来するいくつもの氷の塊を、右の盾で、左の剣で全て叩き落とす。
水を、風を、すべてを自身よりも後ろには通さない。
場合によっては受け流すが、それも軌道を読み切る。
あの死ぬ覚悟を固めて蜥蜴と戦った時とは、違う。
情報のため、アリアのためにと無傷での確保を目指した姫野の時とも、違う。
オレの背中には、守護るべき者たちがいる。
脅威を、悪意を、殺意を。
すべて、オレが貰い受ける。
これこそが、オレという盾だ。
これこそが、オレの真価だ。
手の届く範囲の者たちを。
オレの背中に居る守護るべき者たちを。
すべて、すべて。
必ず、守護りきる。
「――これでは埒が明かないな」
幾度目かの肉薄。
しかし、魔力の起こりを感じない衝撃波。
足を踏ん張り、同じ轍は二度踏まないよう押し留まろうとする。
そのすべては殺せずに踏ん張った足ごと後退を余儀なくされたが、最初に比べれば上出来であろう。
「貴君を突破するのは至難の業であると、理解した。ならば――」
突如、ヤツの背中から一対のコウモリにも似た翼が生える。
「――狙うは、先程の傷つき衰えた気高き魂だ」
羽ばたき、徐々に宙へと浮き始めるヤーナ。
このままヤツの行動を止めなければ、誠一郎たちが狙われるだろう。
オレは遠隔攻撃手段に乏しい盾。
やろうと思えば魔力を操ることも、剣圧や盾での衝撃波を飛ばすこともできるが、どちらにしろ止めることは難しいだろう。
しかしな。
オレを、オレという盾を――。
「ではな、時を越えし者よ。また後ほど――」
「――死出ノ鎖」
「なんだとっ」
――ナメるなよ。
オレの体から生じた赤黒い輝きを放つ鎖が、ヤーナを縛り付ける。
そのまま浮かび上がった高さ丸ごと、オレの立つ地へと引きずり下ろす。
「この鎖は、繋がれた者のどちらかが死ぬまで決して解かれない」
盾を構え、一歩を踏み出す。
「ヤーナよ。貴様が死ぬまで――」
立ち上がるヤーナを見据え、さらに一歩距離を詰める。
「――オレから逃げられると、思うな」
「――――く、くくく……」
構えた盾を立ち上がったヤツにぶつける。
吹き飛ばされ、オレと繋がった鎖の影響で再び地へと堕ちる。
「……素晴らしい。実に素晴らしい。だが、良いのかね?」
拍手の音が聞こえてきたと同時、複数の属性――炎と氷――が合わさったかのようなレーザーが襲いかかってくる。
盾――エイギスを構え、その衝撃を逃がしながら受ける。
盾の横に、火の粉と氷の結晶が混ざった幻想的な欠片たちが見える。
「ワタシよりも、貴君のほうが傷を負っているように見えるが」
魔法が止み、盾から視線を上げれば目の前にヤーナの姿。
衝撃が突き抜け、今度はオレが吹き飛ばされる。
足を踏ん張れば、鎖の伸びきる音が耳に残る。
「貴君に、付き合おうではないか。ワタシの――イアヌス神の威光を知れば、貴君も変わるやもしれん」
ヤツの言う通り、オレの体は実の所傷だらけだ。
エイギスを使っても、受けきれない攻撃がいくつもあった。
鎧には傷がつき、疲労も蓄積している。
ヤーナの方といえば――。
「貴君、考え直すならば今のうちだ」
いつの間にやら生やしたのか、毛むくじゃらの筋骨隆々の一対の腕と、本来の腕を隙なく構えてこちらを見据えている。
その口は楽しげに歪んでいるが、二対の形の異なる目は笑っていない。
幾度か斬りつけることに成功はしているが、致命傷を与えられたとは到底思えない。
エイギスを展開し、ウルティマを解放すれば傷をつけること自体容易ではあろう。
しかし、この戦いは死に物狂いで突っ込めば良いというわけではない。
排除――ヤツを殺すことが出来ればなにも言うことはなかったが、いかんせん仲間たちに比べればオレは攻撃面では遥かに劣っているのだ。
ならば、ここはただただ耐える。
これで良いのだ。
これが、オレという盾の戦いだ。
守護るべき者たちを確実に守り、彼ら彼女らを信じて背中を預ける。
彼ら――誠一郎、ジェイ、マサは必ずそちらの戦いを制するだろう。
彼女ら――ローズに姫野は、必ずアリアを助け出してくれるだろう。
ちらりと視界の端に映ったスティーブは、必ずアリアを包む炎の壁と、炎の壁を抜けた時に視界の端に映ったコア殿を守るだろう。
そうだ、オレという盾は。
ただ、仲間たちを信じ切ればいい。
「さぁ、守ってばかりでは死んでしまうぞ。ワタシも貴君を殺すのは本意ではないのだ」
地面を突き破って生える動物の牙のような氷の柱に対し、飛びあがりそのまま地上へ落下する勢いを利用して盾で衝撃波を生む。
氷の割れる小気味いい音と共に進撃は止まり、再びエイギスを構えて正面を見据える。
「ふむ、戦況は火を見るより明らか。そろそろ理解していただけないだろうか」
今度はオレを挟み込むように黒い腕が二本伸びて来る。
右の盾で片方を防ぎつつ、左の剣でもう片方を防ぐ。オレの動きを止めるためのものだろう。
予想通り両方握りしめられ、広げられようとするそれに抵抗する。
膂力はそれなりにあるつもりだ。
魔力で出来た魔法腕なんぞに負けるものか。
「埒が明かんな。ならば――」
腕が霧散し、ヤーナが低空で飛びながら突っ込んでくるのが見える。
振り上げられた腕の一撃を盾で打点をズラし、衝撃を和らげながら受ける。
そのまま拳の嵐をひとつひとつ的確に捌き続ける。
こうしていれば、ほら。
いくら腕が四本あろうが、大振りになるだろう。
そこを狙いすまし、ウルティマで斬りつける。
硬い皮膚――まるで鋼を斬ったときのような感覚が左腕に残る。
ヤツがニヤリと笑ったように見えた。
「貴君はやはり攻撃力に難があるようだな」
そのまま再度拳の嵐。
先程は受け流していただけだが、そういうならばオレに拳で攻撃する意味を教えてやろう。
降ってくる拳のひとつ――ヤツの四本あるうちの一本、左の異形の腕に合わせてこちらも盾を全身で突き出す。
それを数度繰り返した頃、鈍い音と共に、緑色の液体が見える。
「ふむ、貴君は近接戦――特に防御については相当だな」
鎖の伸びる音と共に、ヤツが距離を取った。
「こちらはただ貴君にわかって欲しいだけなのだがな。なぜ我らの考えを理解してくれないのだ」
ヤーナの、教団の考えなぞ理解するわけがない。
他人の命を微塵も尊ばない連中だ。
己の体すらも道具とする連中だ。
洗脳し、己が目的のために利用する連中だ。
ここで退く訳には行かない。
退く理由がない。
オレは、盾だ。
皆を守る最後の砦であり、罅を入れるための金槌だ。
自分自身がボロボロになろうと、決して倒れないことこそがオレの役割だ。
敵を――仲間たちの脅威になるものをオレが堰き止めるのだ。
さぁ、とことんまでやりあおう。
オレが死ぬのが先か、それとも貴様が死ぬのが先か。
この鎖を、どちらが切ることになるのか楽しみじゃないか。
一歩を踏み込もうとした、その時――。
「――――ジロー様」
――ああ。
その声を聞くのを、心待ちにしていた。
オレの後ろに、背中に。
確かに、そこにいるのがわかる。
ローズと姫野が、やり遂げてくれたのだな。
「私がいないと、本当にダメなんですから――」
「――ああ、まったくだな」
「ふふっ、少しは反論してください」
頬を撫でる、今度はたしかなあたたかい風。
全身を包み込む、あたたかな光。
魔力を通して伝わる、背中に置かれたあたたかな手。
――オレの盾は、砕けることは微塵もない。
すまないな、ヤーナよ。
死ぬのはやはり、貴様だ。
感想、評価、お気に入りなど痛み入ります。
非常にモチベーションにつながっております。
次回更新は、8/23を予定しております。