ダンジョンから帰ったら五十年経ってたんだが。~え?昔の仲間が今や大手ギルドの代表?なにそれ知らん……こわ……~   作:蝉時雨

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第二十六話は北の地と共に

「この度の『北海道・第十九扉』遠征隊への参加、誠にありがとうございます。統括を任されました、ダンジョン庁北海道支部、ダンジョン管理局所属のSランク探索者、辰巳と申します」

 

 壇上から聞こえてくるのは、静かな男――辰巳と名乗った者の声。

 

「我々からの認可遅れの影響で皆様に御足労いただき、誠に申し訳ございません。一探索者として、私自身腸が煮えくり返る思いです」

 

 最前列から見える彼の瞳には剣呑な色が映っており、本心であることは明白だ。

 事実、関係者と思われるスーツ姿の男性から睨まれている。

 だが当の本人は気にする素振りを見せず、何食わぬ顔で言葉を続けている。

 

「日本各地の主要ギルドの皆様、ソロで活動されている皆様。過去のスタンピード事例を知っているのにも関わらず、このようなあるまじき怠慢。ダンジョン庁の代表として、ひとりの探索者として、心からの謝罪を申し上げます」

 

 辰巳殿が頭を下げるが、数人の関係者は目を逸らすか睨みつけることを継続するかのどちらかだ。

 なんというか、辰巳殿に同情を禁じ得ない。

 

「この作戦の後に、私にはなにかしらの罰が降ることになるとは思いますが、皆様のご協力の元成功すれば些細なことです。では、作戦の詳細と『扉』の内部についてご説明いたします」

 

 そうして壇上――辰巳殿のすぐ横に大きなホログラムが浮かび上がる。

 階層ごとに分かれ、それが『扉』の内部であることがわかった。

 

「件の『扉』内部は山岳型となっており、溶けない雪――そして氷に包まれています。皆様に置かれましては問題ないとは思いますが、季節外れの雪山の行軍となるため防寒のほうも気を配っていただきたく」

 

 辰巳殿の説明に合わせ、ホログラムに内部温度と外部温度の比較が表示される。

 マイナスが基本のようだが、今の時代には『扉』に突入する前にここまでわかってしまうものなのか。

 

「そうして山岳型と言ったこともあり、浅層から深淵に至るまで広々としております。モンスターの殲滅は現実的ではないと判断しておりますが、スタンピードを引き起こさないためにも浅層から中層の上層部までは間引きをしていきます」

 

 ホログラムがさらに変化し、浅層と中層が大きく映し出される。

 出現する異形の情報から、弱点の部位、予測される行動などといった細かいものまで網羅されている。

 

「浅層から深層に至るまでは、私を含めたAランクからSランクの探索者で担います。この作戦に参加してくださったSSランクの方々には、深淵以降を担っていただけますと幸いです」

 

 辰巳殿がSSランクと口にした際、僅かではあるが緊張とも敬意とも取れるような、どこか複雑な感情を感じた。

 

「当初の予定よりも参加人数は減ってしまったと聞き及んでおりますが、作戦自体に変更はございません。減った分につきましては、私が一層――」

 

「――いや、こっちの責任だ。俺がやるから気にするな」

 

「……承知いたしました。SSランク探索者である楢原様のお手を煩わせて――」

 

「――だぁから、あんたは悪くねえからあんまり低く出んなよ。こっちの教育の問題でうちのバカどもの自業自得だ」

 

 声を上げたほうへと視線を向ければ、ひらひらと手を振る片目が眼帯に覆われた男。

 

「そのケツを持つのは当然のことだろ。なぁ、辰巳の後ろに立ってるお偉いさんがたよ」

 

 楢原殿――ギルド『サテライト』の代表であり、この集まりの前にあったいざこざを制してくれた男。

 制したというよりは、叱咤したと言ったほうが正しいか。

 

 ぶっきらぼうな声の裏に、辰巳殿への労いの気持ちとその背後に控えているスーツ姿の者たちへの煽り。

 歳は三十そこそことオレと近いようだが、器の大きさとしては誠一郎と同じものを持っているように思う。

 

 オレの背後にいる涼原殿をちらりと見れば、視線を下げて地面を見つめていた。

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 ダンジョン庁の支部近くに停まった車から降り、手を差し出す。

 

「ふふ、ありがとうございますジロー様」

 

 嬉しそうにオレの手を握ったアリアを伴い、扉へと歩いていく。

 東京にある『Snow』ビルに比べれば幾分か小さなものだが、それでも立派な建屋に関心する。

 

「こんな立派な場所に集まるなんて、なんだか身が引き締まりますね」

 

「ああ、そうだな」

 

 誠一郎と葛城殿と共に日本に到着したその日のうちに、オレとアリアは北海道へと向かうこととなった。

 当初は『Snow』の精鋭と共に、との話はあったのだが、清吾のやつがすでに向かっていたというのだ。

 

 伝言として「先生はアリア様とゆっくり旅行気分でお越しください」とのことだったが、緊急事態だというのに随分と間の抜けた教え子だ。

 

 アリアと繋いだ手はそのままに、エントランスへとは入る。

 

 広く、清潔で公的な施設として好感が持てる。

 だがこういった場所は静かすぎて、個人的には落ち着かな――。

 

「――んでこんなとこに『Snow』の『人殺し姫』がいるんだよ」

 

「…………なにそれ」

 

 なにやら物騒な言葉と、聞き覚えのある声が聞こえた。

 そちら――エントランス左手側にある小休止スペース――へと目を向ければ、座って本を読んでいたのであろう涼原殿と、彼女を囲む数人の男女の姿。

 

「新しくSSになった田中って人に剣を向けてたじゃない。勘違いだかなんだか知らないけれど、あたしらにやられてたらたまったもんじゃないわ」

 

「バケモノ同士だからよかったんだよな。俺らにやられてたら死んでたぜ?」

 

「…………」

 

 耳に入ってくるものは、嘲り笑うような言葉たち。

 彼らの話していることは、恐らく花依殿を助けた際に涼原殿が強襲してきた一件だろう。

 

 襲われたのはオレであるが、特別な感情はなにもないというのに。

 むしろ、よく鍛錬された素晴らしい技の冴えだったはずなのだがな。

 

 ダンジョン配信という文化もそうだが、世間というものはどうしてこうなのだろうか。

 

「ジロー様?」

 

「アリア、すまないが寄り道をしても良いか?」

 

 語りかければ、当然のごとく微笑んでくれる彼女。

 

「あそこのよくわからない人たちのことですね。ダンジョン内のことなんて、自己責任が常識でしょうに」

 

「はは、オレたちの常識が間違っている可能性もあるぞ?」

 

「あらっ」

 

 ふたりで笑い合いながら、彼ら彼女らに近づいていく。

 当事者でもないというのに、首を取ったように群れるのはどうかと思うのだが。

 

「涼原殿」

 

「……あっ」

 

 声を掛ければ、俯いていた顔を持ち上げる彼女。

 どこか不安げに揺れるその瞳には、SSランクというのに年相応のものを感じる。

 

「おっ、噂をすれば本人じゃん! あんたも『Snow』だろうけ――」

 

「――道に迷ってしまってな。良ければ案内してくれないだろうか」

 

「えっ、あの……」

 

 雑音を無視し、涼原殿の座る一人用のソファ近くまで歩いていく。

 本の近くにノートとペンもあるあたり、読書というよりは勉強をしていたのだろう。

 エントランスの静けさは、たしかに勉学に打って付けなのかもしれない。

 

「はじめまして。涼原、様で良いですか?」

 

「あ、英語……涼原、野薔薇……です」

 

「あっ、そうですよね!? もう、イチロー様もジロー様も当然のように英語だから私ったら……」

 

 涼原殿と目線を合わせたアリアに一瞬睨まれたが、果たしてオレが悪いのだろうか。

 まったく遺憾である。

 

「アリア・アルデルテと申します。これからよろしくお願い致しますね?」

 

「えっと……」

 

「ああ、本などはお任せ下さい。この程度魔力で運べますから、道案内をお願いします」

 

「……あっ」

 

 ふわりと浮かんだ涼原殿の持ち物は、そのまま他の誰も手が届かない位置まで上がる。

 アリアが涼原殿の手を取り立ち上がらせれば、オレの背中を盾にして入り込む。

 なぜそうなったのかと言えば――。

 

「おい、無視してんじゃねえよ!」

 

「案内なら俺たちが代わりにやっからよ。あんたの話も聞かせてくれよ」

 

 ニヤついた顔を隠そうともせず、行く道を阻む有象無象。

 もしかしたらこの者らも今回の件で共に戦うのかもしれないが、冗談ではない。

 

 探索者というよりはチンピラ、いやチンピラというのも失礼なのではなかろうか。

 同一の羽織りを着ているあたり、どこかのギルド所属だということはわかる。

 その羽織りにあるギルドの看板とも言える印に泥を塗っていると気づかないのだろうか。

 

「いや、結構だ。道を開けてくれ」

 

「そうはいかないな! 俺たちはあんたの為にも言っているんだぞ!」

 

「そうよ! 身内にいつ襲ってくるのかもわからないヤツがいるのよ?」

 

「…………ふぅ」

 

 こいつらは本気で言っているのだろうか。

 感じる魔力は大したことのないものばかりだから、実力も良くてそこそこだろう。

 それで絡んでくるとは余程の度胸があるのか、はたまた考える頭がないのか。

 

 どちらかは知らないが、オレたちはバケモノなのだろうに。

 その蛮勇に応えるためにも、多少の魔力でも使って痛い目を見せるべきなのだろうか。

 

「――おい、なにしてやがる」

 

「あ、代表!」

 

 道が開け、そこから見えたのは猫背の男。

 右目は眼帯に覆われ、黒い羽織りを乱雑に着込んでいる。

 左目の眼光は鋭く、抑えきれないのであろう魔力がゆらりと揺れている。

 

「あん? 田中次郎さんじゃねえか!」

 

「むっ、オレのことを知っているのか?」

 

「誠一郎さんから話は聞いてる! いやぁ、こんなとこで会えるとはな!」

 

 大股で近づいてきた彼はオレの手を両手で掴むと、縦に大きく振る。

 ごつごつとした、よく使い込まれた手だ。

 漏れ出る魔力もそうだが、実力も相当のようだ。

 

「代表、田中さんが呆れてますよ」

 

「おっと、こいつぁいけねぇ! 第一印象は大事だからな!」

 

 なすがままされていれば、彼の後ろに控えていたメガネ姿の男が声をかけた。

 

「改めてだ。ギルド『サテライト』の代表やってる楢原恭二だ。ランクはあんたと同じ、よろしく頼むぜ」

 

「……ああ、よろしく頼む」

 

「んで、こっちは副代表を任せてるSランクの墨谷哲治。腕はいいんだが、頭でっかちでな」

 

 頭を下げ、こちらに会釈をする墨谷殿に頷きを返す。

 どうやら、代表と副代表は真面目なようだ。

 

「んで、こいつぁどういう状況だ? うちのバカどもがなにかやったか?」

 

「代表、聞いてくださいよ! 俺たちは善意で――」

 

「お前にゃ聞いてねえ。ちょいと黙ってろ」

 

 さて、どう説明すれば良いだろうか。

 悩むが、ひとまずオレの背後にいる涼原殿を見てもらった方が早いだろう。

 

 体を傾け、その姿が見えるようにする。

 

「ありゃ、野薔薇じゃねえか。いつかの会合以来だな」

 

「…………」

 

「……相変わらず愛想ねえな!」

 

 両手を上げた大袈裟な仕草をする楢原殿。

 涼原殿へ悪感情はないようで、一安心する。

 

「『人殺し姫』、だそうだ」

 

「……は? こいつらが言ったのか?」

 

「ああ、オレと涼原殿の間に禍根はないのだがな」

 

 そう言えば、楢原殿は大きくため息を吐いた後に墨谷殿の名を口にする。

 なにをするのか察したのであろう墨谷殿はメガネを外し、楢原殿に近づいていく。

 

 そうして――。

 

「――ぐぅっ!」

 

 墨谷殿の腹目掛けて、楢原殿の膝蹴りが炸裂した。

 

「なぁ、スミよ。どうなってやがる?」

 

「……ぐっ、うぅ……すんません、代表……っ!」

 

「謝らんでいい。どうなってるって聞いてんだよ」

 

 まさかの行動に驚くが、これが恐らく彼らなりのやり方なのだろう。

 その証拠に、先程までうるさく喚いていた外野は静まり返っている。

 

「私の、教育が……っ!」

 

「教育の問題か? あ?」

 

 膝をつく墨谷殿の髪を乱雑に持ち上げ、その整った顔に凄む楢原殿。

 外部のオレが口を出すのもどうかと思うが、随分と凄絶なやり方だ。

 

「どう落とし前をつけりゃいい? 野薔薇の一件は知っちゃいるが、そもそも外野の俺らがとやかく言うことじゃねえよな? 関わらねえようにするならわかるが、突っかかるのは意味がわかんねえな」

 

「その通りです」

 

「『扉』内での争いは自己責任、俺ぁ常々話してるよな? 身内が揉めたならケツ持ちくらいいくらでもやってやるが、他所さんのことに頭突っ込むように教えてんのか?」

 

 以前、誠一郎は腑抜けた探索者が多いと話をしていた。

 だが、葛城殿のほかにも居るではないか。

 苛烈で強烈なリーダーである者が。

 

「つうか、実力差があるってのに絡むなんて、うちのヤツらは随分と偉くなったもんじゃねえか。群れりゃ勝てるとでも思っていやがるのか?」

 

「私が残りの人員を連れて再教育に努めます」

 

「おう、頼むぞ? こいつら、俺らの看板に泥を塗ったこともわかっちゃいねぇだろうからよ」

 

 楢原殿が立ち上がってこちらを向いたかと思えば、両手を膝について大きく頭を下げた。

 

「この通りだ。今回の件は俺の教育、統率不足だ。本当に申し訳ない」

 

「その謝罪を受け取るのは、オレではないだろうな」

 

 一歩横にズレれば、俯いた涼原殿がそこには居る。

 アリアも察したのか、オレのように横へとズレた。

 

「野薔薇、心からの謝罪だ。すまん」

 

「……いえ、そのっ。私が、悪いので……頭を上げてください」

 

 周囲の者どもは状況について行けていないのだろう。

 手を握る者や、楢原殿と涼原殿を交互に見る者、俯く者と様々だ。

 

「だ、代表…………」

 

「何度目かわからんが、お前らにもう一度言うからな」

 

 頭を下げたまま、楢原殿は言葉を続ける。

 

「たしかに野薔薇がやったことは褒められたことじゃねぇ。むしろそこにいる田中さんに手を挙げたんだから厳罰もんだ。俺んとこにいる人間で同じことしたんなら、その場で探索者証を粉微塵にしてる」

 

 背後から息を呑む気配がする。

 

「だが、やられた田中さんは欠片も気にしてねぇってのも見たし聞いた。なら、部外者は口を挟む権利はねぇ。関わりたくねぇとか思う分にはいくらでもいいけどよ」

 

 唐突に襲われるなど、腐るほどある世界だ。

 いや、今は違うのかもしれないが、オレの感覚としては可愛いものだと変わらず思っている。

 

「『扉』の中で殺傷は法で取り締まられてるわけじゃねぇ。いくら配信があろうが、誰も守っちゃくれねえんだ」

 

 その言葉には力が宿る。

 

「じゃあ助け合えと言われるか? ノーだ。むしろ見捨てるのが一番だと、あの誠一郎さんの時代からずっと言われてる」

 

 彼の言葉に、心の中で頷きを返す。

 『扉』内で仲間以外の他者を助けるのは酔狂のやることだ。

 過去にオレに手を貸してくれた者たちも、常識と照らして考えると狂人の部類なのだ。

 

「最近じゃ助け合いを声高に叫ぶ風潮はあるが、そんなのただの綺麗ごとだ。あわよくば配信に乗ってやろうってやつらしかいやがらねぇ」

 

 乱暴な言葉は、オレ個人としては本質を突いているのではないかと思う。

 オレも助け合うのが良いという考え自体は持ち合わせてなるべく実践を心がけてはいるが、果たしてどんな時でも助けるかと言われれば頷くことが出来ない。

 花依殿を助けた時も、己が追い込まれている状況であったなら話は違っていたであろう。

 

「この考え方が俺たちの普通だ。社会的にどうとか、時代的にどうとかは関係ねぇ。それを言い始めたら昔っからやってる人らは全員捕まえなきゃならん」

 

 おかしい、急に居心地が悪くなってきたな。

 

「探索者が冒険者だった頃なんざ、殺し合いが当たり前だったって話だ。お前らも大好きな誠一郎さんたちだって、どんだけ手を汚してるかわからん」

 

 思わず肩を竦めそうになる。

 オレも含めて、あの頃を生きた者たちにとっては反論の余地すらない事実だ。

 誠一郎たちに聞いたことは無いが、想像するのは容易い。

 

「探索者学校でどう教えてんのか知らねぇが、お前らはそんな世界で生きてんだよ。嫌なら探索者なんて辞めて普通の世界に戻りな」

 

 楢原殿の言葉は厳しく突き放すようなものだ。

 

「仮にもここに連れてきたやつらはAよりも上だってのに、まだ甘ちゃん揃いだ。俺ぁ、このスタンピードが起こるか起こらない中のギリギリを経験してほしかった」

 

 しかし、そこには深い愛情が込められていることを感じる。

 

「お前らは群れて気が大きくなったんだろうが、んなの知ったこっちゃねぇ。てめぇらはやっすい罵詈雑言で、自分らの看板に泥を塗ったんだぞ」

 

 彼の言葉が周囲に響いているのかはわからない。

 だが、彼の優しさという鋭い剣が、なにかに刺さることを祈る他あるまい。

 

「……あの、わかりましたから……頭を上げて……」

 

「おう! すまねぇな、無理やり言わせたみたいになっちまって」

 

 頭を上げた楢原殿は申し訳なさそうにもう一度頭を下げ、オレに対して快活な笑みを浮かべた。

 

「田中さんもすまん! なさけねぇとこを見せた! お連れの美人さんもすまん!」

 

「次郎で構わんさ」

 

「ふふふ、美人だなんて。照れてしまいますね、ジロー様」

 

「アリアが美人なのは事実だろう」

 

 そう返せば、頬を抑えて身悶えるようにオレへとくっつく彼女。

 こういった所が非常に可愛らしい。

 

「かーっ! お熱い! ……おら、スミ。こいつら連れて帰れ」

 

「あ、あの代表! 俺――!」

 

「もう一回勉強してこい。今回は俺ひとりでいい」

 

 声を上げた男へ視線もくれず言い捨てる楢原殿。

 

「次郎さん、もうすぐブリーフィングがあります。そこまでご一緒しましょうぜ」

 

「ああ、世話になる」

 

 アリアの手を取り、先導する楢原殿の後に続いて歩いていく。

 

 涼原殿も幾分かマシになった顔色をしているあたり、なんとかなったようで一安心だ。

 

 さて、ブリーフィングとやらがどういうものか、実に楽しみだな。

 

 

 

 ■■■

 

 

 

「――では、最後に補給体制についてです」

 

 浮かび上がるホログラムが変わり、浅層のひとつを大きく映し出す。

 

「今回の遠征は『扉』の規模から推定して五日間。さらに不足の自体が起こる可能性も踏まえ、一週間分の食糧他を準備しています」

 

 一週間分の食糧まで出してくれるとは、随分と太っ腹に――。

 

「――同行する後方支援部隊が野営の準備から撤収までを担うため、前線に出られる皆様のお手を煩わせることはありません」

 

 後方支援部隊。

 過去には聞いた事もない部隊だが、今では常識なのだろうか。

 周囲の椅子に座る者たちの顔色は――オレのように驚いているアリアを除けば――変化はない。

 

「深淵に至るまでは、SSランクの皆様にこちらの護衛もお願いしたく思います。危険な遠征に我こそはと立候補してくれたCからBランク程度の探索者たちですので、何卒」

 

 完全なバックアップメンバー、と言ったところなのだろう。

 さすがに深淵にまで同行させることはないと思うが、深層までであれば守りながら野営も可能だろう。

 

 なにより、アリアがいる。

 ほかに癒し手がいるのかはわからないが、死んでいなければ彼女が癒しきるからなんとかなるだろう。

 

「では、説明は以上となります。これから専用の車両で移動し、『扉』内の掃討へとすぐ移行します。その際の先陣は――」

 

「――それも俺がやる。皆さん方に迷惑かける分、働かなきゃいかん」

 

 手を挙げたのは、これまた楢原殿であった。

 

「しかし、楢原様……」

 

「いい。あと辰巳、こっから行くなら車使っても時間かかるよな。走ったほうが速いからそれでもいいか?」

 

「は、はい。移動の際になにかしらの被害が出た場合は、ダンジョン庁にて全責任を負いますので――」

 

「――それが聞けりゃ十分だ。先行くわ」

 

 楢原殿は立ち上がると、振り返ることなく講堂から出ていく。

 魔力の起こりを感じ、よくよく見れば彼の眼帯から雷のような魔力が迸っている。

 

「で、では皆様は専用車で――」

 

 それに続くようにひとり、またひとりと立ち上がっては我先にと扉へと向かっていく。

 

 オレやアリアを含めて、座ったままの者はいるが、立ち上がっているのは移動速度に自信がある者たちなのだろう。

 

 統率が取れているのかどうかはわからないが、誰も彼もが好戦的な顔をしていた。




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次回更新は、10/4を予定しております。
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