ダンジョンから帰ったら五十年経ってたんだが。~え?昔の仲間が今や大手ギルドの代表?なにそれ知らん……こわ……~   作:蝉時雨

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第三話は帰還と共に

 少女たちのすすり泣く声が響く。

 

「牡丹……っ、よかった……っ、本当によかった……っ!」

 

「野薔薇ちゃああああんこわかったよおおおっ!!!」

 

 うむ、実に微笑ましい場面である。

 歳をとったからか、もらい泣きしそうになるくらいには感動している。

 

「よかったなぁ……」

 

 : まじでよかった

 ; 野牡丹てぇてぇ

 : あの……先程の戦闘は……

 : 牡丹ちゃんを心配した『光姫』のお茶目だ、ゆるせ

 : おっさんがヤラれかけてましたけどそれは

 

「ん? ああ、気にしてはいないさ。あんなものただのじゃれあいだろう」

 

 このコメント欄と話をするというのはなかなか面白い。少し違和感は残るが、向こう側に人間がいると思えば気にならなくなる。

 仲間たちと話をしていた頃を思い出すというものだ。

 

 : じゃれあい is なに

 : そりゃおめー、じゃれあいったらじゃれあいよ

 : じゃれあいのレベルがやばいんよ

 : そっかー……じゃれあいだったのかー……

 : あの……現役探索者なんですけど……見えなかったっていうかその……

 

 なんと、配信というのは実際にオレのような冒険者仲間もいるのか。

 なんだか本当にかつての仲間たちと話している気分になってくるな。

 はじめての中ボスを倒したあの時、まだ全員が生き残っていた頃に簡易的な祝勝会をやったときを思い出すというものだ。

 

「現役というキミ、安心したまえ。誰でも最初は初心者だ。鍛錬さえ積めば、出来るようになるし見えるようになる。精進したまえよ」

 

 : なぜだ、パパみを感じた

 : もしかして……パパ……?

 : はいっ! ありがとうございますっ!

 : くっ! 俺は騙されないぞ……! ぱ……パパ……!

 : ↑これが即落ち二コマちゃんですか

 

 さて、いつまでもコメントの者たちと戯れていても良いのだが、そろそろ少女たちは戻ってくるだろうか。

 

「うぅ……ごめんねぇ……私が一緒に行けてれば……っ! 牡丹を一人にしなければ……っ!」

 

「仕方ないよおおおおでもよかったよおおおおぉぉぉぉっ!」

 

 どうやらまだかかるようだ。

 どうやって時間を潰そうかと思っていたが、ちょうど良いものがあったと思い出す。

 『光姫』、あるいは野薔薇と呼ばれた少女が使っていたレイピアが、今オレの手元にある。自分のでも、人のでも、武器を見るのは結構好きなんだ。

 

 ふむ、これは……。

 ほぉう、魔導鉄鋼を使っているような模様が入っているな……。

 オレたちの頃から、やはり良い武器には魔導鉄鋼という定石は変わらないか。

 ううむ、装飾は最小限に魔力の伝導率を出来る限り上げているように思うな……。

 なかなかに名工の手が入った逸品のように見えるな。

 

 : えー、伝説のおっさん改め俺らのパパが『光姫』の武器を舐めるように見ています

 : えー、事案です

 : お巡りさんこのおじさんです

 : これは言い逃れができないね

 

 む、これはっ!?

 なるほど、細かい魔石も仕込んでいるのか。

 このレイピアを作った名工と一度話をしてみたいものだな……。

 

 振り心地はどうだ?

 レイピアは不得意だが、ふむ。

 軽く振っても手になじむな。

 なるほど、使い手のことも隅々まで考えられている、良いレイピアだ。

 

 : なんかレイピアを振り始めたかと思ったら高速突きしてて草

 : なにあれ……? アニメの世界か……?

 : 知り合いのレイピア使いよりもレイピア使いしてるぞおっさん

 : これには『光姫』ちゃんもにっこり

 : 探索者ってみんなこうなの?

 : ↑頼むからやめてくれ

 

 うむ、しなやかさも文句なし。

 耐久性についても問題なさそうだな。

 いったいどこの名工の作品なのか、実に気になるな。

 最後に魔力を流して――。

 

「あ、あの……?」

 

「むっ、おお。すまないな、すっかり熱中してしまった」

 

 花依殿に声をかけられ、ようやく自分が周りを見えていなかったことを思い知らされる。

 やはりダンジョンの中で武器を眺めるのは攻略後、あるいは脱出後だな。

 趣味に没頭してしまうとは、オレもまだまだ青い証拠だ。

 

「いえ、大丈夫、です?」

 

「うむ、そちらは落ち着いたかな?」

 

「あ、はいっ! ご心配おかけしましたっ!」

 

「頭を下げる必要はないさ」

 

 彼女の隣に目を移せば、そこにはどこか不満そうな少女が。

 

「……ほら、野薔薇ちゃん」

 

「……ごめんなさい」

 

「もうっ! ちゃんと謝るって約束したでしょ!?」

 

「うぅ……牡丹ん……」

 

「そんな顔してもダメですぅ」

 

 なんだこれは、天国か。

 はっ、いけないいけない。

 一時期、イチローが女の子同士が絡むとそこには理想郷が広がると言っていたが、今なら少し気持ちがわかる気がしてしまうな。

 

 : 野牡丹てぇてぇ

 : 野牡丹てぇてぇ

 : これよこれぇ!!!

 : てぇてぇ

 : すっかり平和なコメに戻っておっさん嬉しいよ

 : コメ欄おっさんも落ち着きを取り戻しています

 

「はは、構わんさ。それより、ほら」

 

 レイピアの持ち手を差し出し、怪我をしないように慎重に手渡す。

 野薔薇という少女は手を伸ばし――たかと思えば、ものすごい速度で奪取してから納刀していた。

 うむ、やはり相当な鍛錬を積んでいるな。

 将来が非常に楽しみだ、オレよりも強くなるだろう。

 

「のぉばぁらぁちゃぁん?」

 

「う、うぅ……」

 

 : いつの間にかおっさんの手から武器がなくなっていたでござる

 : 現役探索者ニキ、解説頼む

 : 任せろ。ふっ、あれはな……ひとっつも見えなかったんだけどなにしたの?

 ; はー、つっかえ

 : 解散解散

 

 なぜだろうな。

 もう、五十年後の世界であろうここに、自分の居場所などないのかもしれないが。

 この光景を見れて良かったと思っている自分が、たしかにいる。

 

「ふっ……」

 

「ほらっ! ジローさんも笑っちゃってるよっ!?」

 

「だ、だってぇ……」

 

 その時、階下から人の話し声が聞こえてきた。

 気配自体はずっと前からしていたが、ついに廃墟に入ってきたらしい。

 少しだけ臨戦態勢を取るも、敵意は感じないためあまり意識しすぎない程度で良いだろう。

 

「あっ、牡丹っ! みんな来たよっ!」

 

「えっ、あーっ! この声っ!」

 

 部屋というには頼りない場所の入口から、階段のあるほうを見れば。

 一人の白髪の男が最初に目に入ってくる。

 その男は、少女たちをひとりひとり見つめて――。

 

「牡丹さん、ご無事でなによりです」

 

「はいっ! ご心配おかけしました、教官っ!」

 

「我々が間に合わなくて申し訳ありませんでした。そして――」

 

 野薔薇の近くまでいくと――。

 

「――独断専行した上、牡丹さんの命の恩人になんたる不敬をっ! 戻ったら説教じゃ済みませんよ!」

 

「うぐぅっ!? ご、ごべんなさいいぃぃ」

 

 ――特大のげんこつを振り下ろしていた。

 

 しかし、なんだ?

 この声、しわがれてしまっているが……どこかで聞いた覚えがある。

 

「さて、牡丹さんの恩人様……いや、ここはこう呼んだほうがいいですかね――」

 

 顔も、どこか面影が――。

 

「……次郎先生……ご帰還を……心からお待ちして、いました……っ!」

 

 皺のあるその顔、しかして若くも見える、その顔。

 そして、オレを先生と呼ぶ、その声

 ああ、ああ。

 忘れるものか。

 

「……お前は……まさか……っ!」

 

「ええ、ええ……っ、五十年前の日本で……貴方に教えを受けていた――」

 

 そうだ、オレが政府直接の依頼で指導をして、その後も選抜隊に選ばれるまでは何度か交流のあった――。

 

「――益田清吾です……っ! 覚えて、おいでですか……?」

 

「ああ……っ! ああ……っ! 忘れるものか……っ!」

 

 そうか。

 まだ、まだ。

 生きているのか。

 

「お前、生きていたんだな……っ!」

 

「当然ですともっ! 先生が帰還されるまで、死んでも死に切れませんっ!」

 

 ああ、なぜだろうな。

 ダンジョン、それも洞窟の中だというのに。

 雨が、降っているな。

 

 傘は……いや、そんなもの必要ないか。

 

 : セイゴ教官! セイゴ教官じゃないか!

 : え、セイゴ教官の先生????

 : ちょっと待て、これマジかよ

 : なぜだろうな、むさくるしい男同士だってのに目から汗が止まらん

 : ↑奇遇だな、俺もだ

 : ↑わたしも

 

 その後も、総勢十名の者たちが部屋に入ってきていたが、オレと清吾は互いに抱き合い泣き続けた。

 こんなもの、我慢など出来るはずがないだろう。

 オレは本当に、帰ってきたのだな。

 今、ようやく。

 実感が湧いた。

 

 

 

 ■■■

 

 

 

「すまない、取り乱した」

 

「いいんですよ先生。貴方には泣く権利がある」

 

 しばらくして、ようやく雨が止んだあと。

 オレと清吾は、廃墟の別部屋でふたりきりで向き合っていた。

 ほかの者たちは、少しばかり席を外してもらっている。

 

「それで、詳しく話を聞きたいのだが」

 

「ええ、構いません……と言いたいところですが、あまり時間もかけられなくてですね」

 

「ふむ、それは救出任務に関係しているのか?」

 

「それもあります」

 

 清吾は、少し逡巡するように頭を掻いて。

 

「実は、牡丹さんの配信の影響が少なからず地上で起きていてですね」

 

「ふむ、続けてくれ」

 

「今はうちのギルド――途中配信を確認してましたから、ご存知だとは思いますが」

 

「ああ、ショウ……なんとかというギルドだろう? すまない、相変わらず物覚えが悪くてな」

 

「ふふ、変わりませんな」

 

 互いに笑い合う。

 五十年の月日が流れたというのに、とても落ち着いて話ができることに感謝をせねばならないな。

 

「で、今はうちのギルドが押さえ込んでおりますが、後々爆発するやもしれません」

 

「なるほどな、つまりオレは身を隠したほうが良いと?」

 

「いえ、そんなこと絶対にさせませんし、なにより――」

 

 清吾はそこで言葉を区切ると、若い頃のように笑って。

 

「――我がギルドの代表が、すべての力を使ってでも貴方を認めさせるでしょう」

 

「ほう? すごい御仁なのか?」

 

「ある意味ですごい方でもあり、貴方の旧友ですよ」

 

「ふむ……?」

 

 はて、オレにそんな旧友がいただろうか。

 まぁ、それはすべてダンジョンを出てから考えるべきことなのだろうな。

 今はとにかく――。

 

「相分かった。それで? ここからはどう出る計画だ。ボスでも倒しに行くか?」

 

「はっはっはっ! あなたは本当に昔のままだ。今の状態でボスなど倒しにいけませんよ」

 

「む、そうか? あの野薔薇という少女はかなりの実力者と見たが……」

 

「たしかに実力はありますが、今は昔と違って国に申請をせねばならぬのですよ」

 

 なるほど、そのあたりもかなり整備が進んだのか。

 昔の好き勝手にあちこちの『扉』に潜っては閉じていたころが懐かしく思えて来るな。

 

「そういうわけですので、通常通り入口の『扉』まで戻ることとなります」

 

「承知した。オレはどうすればいい?」

 

「お好きに……と言いたいところですが――」

 

「ああ、みなまで言うな。先陣を切るのは慣れている」

 

「ふふふ。『第八の英雄』のおひとりにそう言って頂けると、心強いですな」

 

「『第八の英雄』?」

 

 聞き捨てならない言葉が聞こえたため、聞き返して見れば。

 清吾は皺の入った顔をどこか誇らしげに染めて。

 

「ええ、あの日『NY・第八扉』を閉じた五名の勇者たちの呼び方ですよ」

 

「……本人たちがそう言ったのか?」

 

「……いいえ、民衆が勝手に呼び始めたのです」

 

「……そうか。ならば、今後その呼び名でオレを呼ばないでくれ」

 

 オレは。

 いや、オレたちは別に英雄になりたくて、あの選抜隊に入ったわけじゃない。

 ほかのみなも、オレと同じ想いのようで安心した。

 

 なにより――。

 

「オレは、守護りきれなかったからな。英雄などと呼ばれる義理はないさ」

 

「次郎先生……」

 

 当然、全員を守護りきるつもりで戦っていた。

 だが、それはかなわなかった夢だ。

 散っていった者たちの想いを、背負っていくべきものであり。

 英雄などと美化されるのは、虫唾が走るというもの。

 

「さて、いつまでもここで爺同士話していては、若者たちが退屈してしまう」

 

「……そうですな。そろそろ、行きましょうか」

 

「うむ。……だがしかし」

 

 今一度、清吾を上から下まで見れば。

 髪はたしかに白髪になり、過ぎ去った年月を感じるものの。

 顔に刻まれているのは思ったよりも少ない皺の数々で、なによりその肉体。

 鎧の上からではあるが、七十を過ぎたものとは到底思えない仕上がりをしているように思う。

 

「思ったよりも、歳を取っていないな」

 

「はっはっはっ! 鍛え方が違いますからなっ!」

 

 鍛え方か、なるほど。

 さすがは清吾だ。俺の教えたことを、守り続けてくれているらしい。

 

「……まあ、本当は魔力のおかげなのですがね」

 

「……お前……見栄を張ったな?」

 

「はて、なんのことやら」

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 ダンジョン内を、さまざまな装備の者たちを引き連れて歩く。

 

 風景は洞窟の中と代り映えはしないが、周囲の魔力はだいぶ薄くなっている。

 

「次郎先生、間もなく出口です」

 

「もうそんなに歩いたのか」

 

 : あっという間だったんだよなぁ

 : なんでやろなぁ

 : ……出て来るやつを片っ端から葬ってる前衛がいましてね

 : ……誰なんやろなぁ

 : ほかの人まじで見てるだけだったからな

 

 配信は変わらず続けられているらしく、集団の真ん中で守られている花依殿がずっと話を繋いでいるようだ。

 時折、そこに別のメンバーも加わって面白おかしく継続していたらしい。

 

 オレはずっと前線にいたから、清吾から聞いた話だ。

 後方にいるよりも、こうやって前線で戦うほうが性に合っている。

 

「疲れなどはありませんかな?」

 

「誰にものを言っているんだお前は……」

 

「あっはっはっ! 愚問でしたな!」

 

 まったく、こいつはオレをなんだと思っているんだ。

 あと十時間だろうが一日中だろうが戦えるに決まっている。

 

「あの……失礼ですが……」

 

「うん? キミは?」

 

「あ、申し遅れました。私は『Snow』のAグループに所属している鹿野鏡花です」

 

「ああ、聞いているかもしれないが田中次郎だ。よろしく頼む」

 

 今度は別の少女から話しかけられた。

 いや、背格好からして大人の女性か。

 これ以上は失礼にあたるだろうから、余計な思考は切って捨てておこう。

 

「それで、オレになにか聞きたいことでも?」

 

「あ、はい……その、教官の先生というのは本当なのですか?」

 

「ああ、そのことか」

 

 ふむ、なんと説明すべきか。

 ちらりと清吾を見れば、周囲を警戒しつつも頷いてくれている。

 

「うん、そうだ。昔に少しだけ縁があってな」

 

「なるほど……その、応えづらかったら断っていただいても良いのですが……」

 

「うん、なにかな?」

 

 彼女――鹿野殿は言いづらそうにもじもじと手を合わせていて。

 

「教官って……昔から強かったりしました?」

 

「ふむ、なるほど。鹿野殿は自分の強さに疑問を抱いているのか」

 

「あ、えっ! そ、そんなんじゃっ!」

 

「ははは、隠さずともいい」

 

 向上心のある若者だ。

 やはり、冒険者――探索者はこうでないとな。

 

「奴、清吾も昔はひどかったぞ。太刀筋ですら安定していなかった」

 

「……ごほんっ」

 

「ほれ見ろ、ああやってごまかそうとするレベルだ」

 

「そ、そうなんですね……」

 

 本当に酷かったものだ。

 道中で少しだけ太刀筋を見る機会があったが、見違えたものだ。

 

「鹿野殿、不安かもしれないが一歩一歩確実に歩みを進めていけばなにも問題はない」

 

「そう、なんでしょうか……」

 

「ああ、オレもそうだった。なにより、オレが鹿野殿くらいの頃はもっとひどかったからな」

 

 思い出すのは、鼻が伸びきっていたあの頃。

 強くなった自分に過信し、到達が現実的ではない階層まで進み、危うく死にかけた。

 今思い出すだけでも、恥ずかしいものだ。

 

「昔はソロで活動していてな。あれはたしか――」

 

「――おふたりとも、出口が見えましたぞ」

 

「むっ、そうか。鹿野殿、また機会があれば話そう」

 

「あ、はいっ! ありがとうございますっ!」

 

 鹿野殿はオレから離れ、また隊列に戻っていく。

 といっても、そこまで大々的なものではないが。

 

 目の前、少し離れたところに白の『扉』。

 あれを通れば、ようやく地上に出ることが出来ると思うと、感慨深いものがある。

 

 だが、また別の場所に飛ばされたら――。

 いや、一度やったのだ。

 次もきっと、なんとかなる。

 

「さて、次郎先生」

 

「ん、良いのか?」

 

「ええ、もちろんです。時の経った世界を一番に、その目で見てくだされ」

 

「……恩に着る」

 

 まったく、こいつは。

 なかなか、わかっているじゃないか。

 

 『扉』に手をかけ、ひき開ける。

 そこには、白が広がっていて。

 

 ふぅ、と一息ついてから一歩を踏み出した。




もう無いって言ったよね!?!?
こんなに伸びるなんて誰も考えもしないんだよ!?!?!?
次は本当に、本当にないからね!?!?
いいね!?!?!?

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