ダンジョンから帰ったら五十年経ってたんだが。~え?昔の仲間が今や大手ギルドの代表?なにそれ知らん……こわ……~ 作:蝉時雨
白い冷気と、黄とも赤とも取れる人の温かみが広がる。
先程まで近くで作業していたであろう支援隊の者たちはすでに離れ、毛布に包まれたふたりと外気に晒されるひとりがいる。
「……聖女……と、狂盾……いや……」
カルチャーショックを受けてしまったのであろう楢原殿は独り言を呟き続ける置物のようになってしまった。
こちらに向けていた人の良さそうな笑顔はなくなり、髪の毛で隠れているが真剣な表情をしていることに違いない。
「楢原様は大丈夫でしょうか」
「そのうち戻ってくるだろうさ」
アリアは心配そうに見守っていたが、すぐにはっとなってオレの方を見る。
その小さな手は口元に添えられ、こちらを見つめる瞳には焦りの色。
「……もしかして、私が聖女であることは伏せた方がよかった……とかですかね……?」
「……なに、それこそ知るのは時間の問題だろう。ローズもジェイも公表すると話していたからな」
浮かんでくるのは、白い歯を輝かせてサムズアップするジェイの姿と、その隣で怪しげに微笑むローズの姿。
政治的な話はオレと同じくからっきしなジェイは良いとして、ローズがどうやって公表を考えているのかは気になるところだ。
「それなら良いのですが……」
そう話してもどこか不安げな表情を零し続けるアリア。
「なにか気になるのか?」
「……思い返せば、私の聖女という名は軽いものではないのかな、と」
「ふむ」
黎明期、あまり『扉』の外の出来事には興味がなかったのもあって、オレがアリアを知ったのは『NY・第八扉』のためにアメリカへと渡ったあとのことだった。
なにやら凄い癒し手がいる、聖女と呼ばれているらしい。
それこそ、『死んでさえいなければ』どんな傷ですら癒す、と。
「当時のアメリカ政府の求めるまま、あるいは私の意思でもってたくさんの人を癒したり癒さなかったりしました。それこそ、大陸中ですね」
考えながら言葉を零す彼女へと耳を傾ける。
「腕をなくした方には新しい腕を、足をなくした方には新しい足を。いつしか、私という聖女は神の使いだと言われたこともあります」
「……随分と大きな話だ」
「本当ですよ! 私なんて普通の家で生まれたんですよ!? ……んんっ、それもあって私は聖女って呼ばれ方はあんまり好きじゃないんですけど」
唐突に声を荒らげた彼女に、少しばかり面食らってしまう。
だが、彼女の語る癒しの行為は事実だ。
共に潜った『NY・第八扉』で、これでもかと目撃したことであるし、なによりオレも何度だって彼女に救われてきた。
「……なんというか、歴史の教科書にでも載ってしまっているんじゃないかと……」
「……それで済んでいればいいんだがな」
「……手が届かなった方もいるというのに、複雑すぎて笑えてきますけどね」
アリアの話す手の届かなかった方というのは、彼女が明確に救いたいと思った人間のことだ。
『NY・第八扉』で散っていったエルドをはじめとした仲間たち。
彼女がまだ『扉』に入る以前に犠牲になってしまった両親。
そして、そんな彼女の支えであったであろう兄。
オレも彼女も、民衆に持ち上げられるほどの大人物ではないのだ。
「それはそうと、楢原様が呟いた狂盾というのはジロー様の二つ名ですか?」
「……はて、覚えは無いが……」
「ふふ、ジロー様はご自分のことでも無頓着ですもんね」
オレに対するユニーク名、あるいはネームド――二つ名は無いものと思っていたし、なにより呼ばれたことがない。
どこかの物好きが言い始めたことだろうことはわかる。
「……まさか『T.KoA』は聖女が目覚めたことを公表……それはアメリカ政府も――いや、アメリカ政府は実質『T.KoA』の犬だったわ。やっぱりあのギルド――つうか、あの一族やばいな?」
楢原殿からなにやら物騒な呟きが聞こえたかと思えば、急に冷静な声となった。
「そんなとこと戦友で親友で家族ぐるみの付き合いがある誠一郎さんもやばいな? かーっ、冷静に考えれば考えるだけ無駄なことだと思えてきちまうな」
「……冷静になったか、楢原殿」
「んっ、おうよ。何度目かになる世界の闇を垣間見たわ」
先程までの生気の抜けたような呟きではないあたり、しっかり頭を切り替えたようでなによりだ。
難しいことは考えれば考えるだけ迷走してしまうものだからな。
「やっぱりジェイ様とローズ様はすごいんですね」
「……あー、すごいってもんじゃねえんだけどな。実質、その手に世界を持ってるようなもんだぜ?」
「ふぅむ、規模のでかい話だ」
「…………興味なさそうだなぁおい」
興味がない、というのとはまた違うような気もする。
オレとしては、かつての仲間――というよりも、今でも変わらない誠一郎やジェイ、ローズの肩書きがどうなろうとも知ったことではないのだ。
たしかに時の流れで彼らの見た目には多少なりとも変化はあった。
しかし、その本質――根っこの部分はなにひとつとして変わっていないと思っている。
己の仲間――そして家族をなによりも大事にし、使えるものは使えるだけ使い倒す。
楢原殿の語る世界の闇というものも、彼らが必要と考えて手中に収めたのであろうことは容易に想像できる。
「そんなことよりも、オレの二つ名についてなんだが」
「……そんなことって……はぁ、あんたらに常識的に対応しないほうが良いってことはわかったわ」
おかしいな、オレもアリアも常識的な人間であるはずなのだが。
楢原殿が肩を竦めているのを見ると、なぜだか不安になってくる。
「常識云々は置いておくとして――」
「――狂盾、聖壁、狂将――あとは鮮血盾あたりか? ほかにもあったようには思うが、俺が知ってんのはこんくらいだ」
「随分と物騒なものが多いが……」
「んー、まぁ俺も聞いただけだしな。誠一郎さんが言うには――」
大方、話したのは誠一郎だろうとは思っていたが、あいつめ。
帰ったら詳細を詰める必要がありそうだな。
それよりも、楢原殿の口からオレの二つ名の由来が語られる。
曰く、狂ったように盾を構え続け、倒れることなく前線に居座る。
故に、狂盾。
曰く、彼の背後には一切の攻撃が漏れることはなく、世界で唯一の安全地帯。
故に、聖壁。
曰く、時には盾を捨てて、前線で敵を薙ぎ払いながらも味方を鼓舞する。
故に、狂将。
曰く、たとえ血の海に沈もうが立ち上がり、敵を排除するまで盾を手放さない。
故に、鮮血盾。
聞けば聞くほど、身に覚えがないこともない話。
少なくとも、相当に盛られていることはわかった。
「……まさか、スティーブ殿もこの話を聞いてオレに憧れたのではないか……?」
「スティーブっつうと、次期『T.KoA』のトップを張るとかいうクロフォード家の跡取りか。あいつはあいつで蒼壁とかって呼ばれてたはずだな」
思い出すのは、アリアの氷を割っていた際に炎の壁を包むように立ち現れていた壁。
盾役のスキルのひとつである円環ノ碧壁であろうそれ、その蒼さが彼の誇りのひとつなのではないかと思う。
「どれもこれも物騒ですけれど、たしかにジロー様らしいものですね」
「おっ、アルデルテさんもそう思うってえことは、実際そういう戦い方なわけか」
「そうとも言えますし、違うとも言えるというか……嘘とほんとがごちゃまぜというか……」
アリア苦笑とともに言葉を落とせば、広がったのは楢原殿の大きな笑い声。
「わっはっはっ! 俺の雷帝もそうだが、二つ名なんざ根も葉もない話が豪華な尾ひれと一緒にこれでもかと着いちまうもんだわな!」
「……誠一郎のやつがどれ程話を盛ったのかは推察できるというものだ」
「ふっふっ……まあ、あの人も伝聞だって言ってたぜ。大元がどこかにいやがるんだろうさ」
どこの物好きなんだ、まったく。
こうして伝聞になってる分光栄なのかもしれないが、複雑な気持ちだ。
といっても――。
「――どれもこれも、オレが完全にソロで活動していた頃のものではないことも、よくわかった」
「おっ、その辺の話も気になるじゃねえか」
「そんなに深い話でもない。『扉』に誘われた無謀な若者が、己の腕っ節ひとつで血みどろに戦って、死にそうな時にさらに若いやつらに救われただけだ」
「ほーん、物好きもいたもんだな」
アリアと腹の底を打ち解けあったあの日、彼女に話しきれていないことがある。
「ああ、そうだな。……どこまでも純粋で、物好きな、少年少女たちだったよ」
どうして、オレが仲間と言うのも過言だと思っている彼ら彼女らを守護りきれなかったのか。
一番は己の――オレ自身の慢心であるが、だが――。
――あの時、そう。『岩手・第二扉』の深淵。
その、第九層だ。
よく、覚えている。
夢に見る程、鮮明に、克明に、明瞭に。
目の前に現れた、黒ずくめの人型の異形――推定、未確認の特別禁忌――いや、それ以上の『ナニ』か。
記憶の中のヤツは、黒ずくめなこと以外で突出したことは――魔物の群れを退け、その日の野営地を探していたオレたちの前になんの脈略も無く現れたことくらいだ。
魔力の起こりも、気配も、空気の揺れひとつすら、なかった。
そんなヤツが現れてからは、あっという間だった。
魔力の余波だけで魔法使いの勝気な少女は血を吹き出し、それを介抱しながら距離を取ろうとした癒し手の穏やかな少女共々首を断たれた。
激昂した――してしまった、心優しく物好きな少年は心臓を一突きにされた。
その死に顔は――ただ己の優しさと蛮勇とも取れる好奇心の塊、育てば英雄ともなれたやもしれない彼の顔は、怒りと絶望と、そして無力感に歪みきり、最後にオレを映した瞳に光はなかった。
オレは、そのナニかに――『死』に、抗った――抗おうとした。
それと同時に、オレの心はどこまでも凪いでいたことを覚えている。
抗い、否定し、拒絶を続け――。
――どれだけの時間が過ぎたのか、そいつを倒せたのかは記憶にない。
気がついた時には、己の剣と盾を投げ出して『扉』内の壁際に背中を預けて座っていた。
記憶に残っているものといえば、『扉』の中、それも深淵の世界に広がった雲一つない青空だ。
そこには、『無』が広がっていた。
そこには、己への闇よりも深い失望が残っていた。
そこには、なにも、『なにひとつ』なかった。
よく、よくよく、憶えている。
思い出すことも、ましてや人に――たとえそれが、唯一無二の存在であろうが話したくもない、オレにとってひとつの原点。
それは脳裏に――魂の、その根底に張り付いて、焼き付いて離れることも忘れることも――目を逸らすことすらも赦さない。
世界に『扉』が現れた時をオレの生の原点とするならば、これはオレが死ぬまで――否、死してなお背負わざるを得ない、罪であり、『死』の原点。
なぜ、ヤツの目の前に立っていたはずのオレではなく、輝かんばかりの未来に満ちていた若者たちが先立たなくてはいかなかったのか。
なぜ、オレの盾は――オレの足はあの時縫い付けられ、動くことすら許されさなかったのか。
なぜ、オレひとりが――ただただ戦うという原始的な、闘争本能でしか生きることが出来ない者が、生き残ってしまったのか。
オレは――オレには、答えが――。
「――ジロー様」
名を呼ばれてはじめて、自分が俯いていたことに気がつく。
顔を上げれば、そこには光を宿した藍色の瞳。
「……と、すまないな。少し、考え込んでしまった」
「……無理を――」
「――していないさ。問題ない」
彼女と言葉を交わしながら、そういえばと楢原殿へと視線を向ける。
そこには――。
「この通りだ」
――ベンチの上で綺麗な土下座を敢行している、これまた不器用な男の姿。
「楢原殿、やめてくれ」
「申し訳ない。誰しも触れられたくない過去のひとつやふたつ、あるもんな」
「……そんなものではない。ほら、話が出来んから土下座など早々にやめてしまえ。なにより、オレは望んでいない」
これは、誰かに謝ってもらうようなことではない。
ましてや、己で己を赦すようなことでも、誰かに話すことで赦されるようなことでもない。
こうして会話の途中で思考を遮られるのも考えものだが、久しくなかったものでもある。
アリアを氷から救えたのもあって、オレの心に緩みが生まれてしまったのかもしれない。
「……はぁ……自分が馬鹿らしくてしょうがねぇ」
「そんなことはないだろうに」
土下座から渋々といった様子でベンチに腰かけ直す楢原殿。
広くは無いベンチの上で一度も体勢が崩れないあたり、体幹の鍛え方が違うのだろう。
「次郎さん、あんたの過去に踏み込むような質問になっちまうが、ひとつ確認させてくれ」
「なんだろうか」
「俺は探索者になってから何度か今回みたいなスタンピード未遂の現場に立ち会ったことがある。多くは秘密裏ではあったがな」
オレへとより一層身を寄せるアリアを抱き寄せ、彼の言葉に耳を傾ける。
「あんたや……あんまり深くは考えてくないが、アルデルテさんに誠一郎さんもだが、黎明期の頃に比べてどうだ? 今回のスタンピード未遂の現場を見た感想が聞きたい」
「ふむ……アリア、どうだ?」
「……そうですね……」
顎に手を当て、思案するアリア。
彼女の口から出てくるであろう言葉は、考えなくとも想像がつく。
「……第一印象で言うとするならば、静か、ですね」
「ほう、その心は?」
「私たちの頃、と敢えて言葉を置きますが、浅層と言えど異形の脅威度としては深淵と同レベル、あるいはそれ以上でした。しかし、ここに入ってからというものの、楢原様や皆様の活躍はあったにしろ魔力で感じる異形は良くても中層の後半から深層の前半程度と言えます」
「……広範囲の索敵ができる魔力量には目を瞑るとして、たしかにあんたの感じる通りだな」
見解を語るアリアと、それに相槌を打つ楢原殿。
『NY・第八扉』に突入していた頃も、こうした作戦会議のようなものをやっていたなと思い出す。
「これは現代の技術の進歩なのかもしれませんが、スタンピードというものは一種の蠱毒のようなものです。異形が外に出るのは、『扉』がその蠱毒を抑えきれなくなった時。それだというのに、言い方は良くありませんが――」
「――あまりにも雑魚ばかりってことか」
楢原殿へとアリアと共に頷きを返す。
「補足としてだが、オレはこういった異形暴走――スタンピードの現場を経験したことはある」
「ふむ、それは過去の日本でってことか?」
「ああ、そうだ。あれはたしか……『鳥取・第一扉』だったか……」
広がる砂丘の中央に、ぽつんと浮かび上がるかのように出現した『扉』だった。
内部は外の砂丘よりも広大な砂漠であり、鎮圧するのに骨が折れたのを覚えている。
「まじで最初の頃の『扉』じゃねえかよ。そんなとこまでスタンピードが起こってやがったのか」
「調べれば記録くらいは……いや、時代が時代だけに残っていないかもしれないか。とにかく、あの時は今よりは多少なりとも異形たちは強かったが、似たような雰囲気だった」
熱砂の中、即席で集まった探索者――冒険者の者たちと死に物狂いで奥まで突き進んだ。
幸いなことに深淵ではなく深層までの『扉』であったが、装備もロクなものがなかったのもあって今とは雲泥の差がある。
「最深部で、粗方の異形を食い荒らした大物がいたな」
「……そいつぁ――」
「――大丈夫だ。少なくとも、殺しきった」
未だ『扉』に対する情報も、装備も、なにもかもがたりなかった。
オレもソロで向こう見ずにあちらこちらの『扉』へと出入りし、その先にあるロマンと血湧き肉躍る戦いに没頭していた頃だ。
思い出したくもない悲劇的な思い出ではなく、積極的に思い出したい輝かしい思い出というわけでもない。
色あせ、しかし確かに自分はそこにいたという、ある種の存在照明のような記憶なのかもしれない。
「記憶が正しければ、あの時は肥え太った豚のような獣型の異形であったはずだ。ああ、たしか厄介な尻尾も生えていたな」
「ほーう? 危険度としてどうなんだ?」
「……今の時代に対する知識が不足しているから正確にはわからんが、そうだな……良くても深淵の異形、あるいは深部にいる個体くらいではないか?」
「なるほどなるほど、特別禁忌ってほどじゃないわけか」
当然の事ながら、苦戦はした。
共に寄り集まった傭兵のような者たちと共に、狂ったように剣を振り回したのを覚えている。
「いや、それを結論づけるのは危険だろう。あくまでも、黎明期の頃の話だ」
「そらそうか。どっちかってーと、今回の場合は特別禁忌級って考えた方が良いな。清吾さんの見解とも一致してるあたり、さすがってとこか」
「なんだ、清吾にも聞いていたのか」
「おう。こういうのは意見が多いに越したことはないからな」
さて、と言葉を切った楢原殿。
こちらを向く彼の顔は真剣なものではなく――。
「あとで辰巳のヤツにも意見聞かねえとな。今回の件、あくまでトップはあいつだからな」
――人懐っこく、どこか清々しいまでの笑顔が浮かんでいた。
■■■
「き、貴様! 神聖な特級審判場で――っ!」
「――神聖? はっ、法的に正当だと定まってもいない場所を神聖とは、恐れ入るじゃねえか」
ダンジョン庁の地下、コンクリートと『扉』産の特殊な素材が用いられた円形の箱。
はじめは俺のことを嵌めようと無い頭をフル回転させたであろう老害共は、すでに怒鳴り散らすだけの置物とかしていた。
「みんな、少し煩いよ。今は先生のターン――あの紙束に書かれてることを、声高に演説してくれるんじゃないかな?」
「声高かどうかは知らないし、その期待に答えるのは虫唾が走るが、面白いのは保証しようじゃねえか」
紙束――旦那からついでとばかりに渡された、『『扉』内生物の活用法と人工特別禁忌種の製造について』――教団の悍ましい計画の一端。
旦那の配信に映り、その後アリアを氷から助ける時に現れた継ぎ接ぎだらけの巨躯を誇るタイタン。
そして姫野の嬢ちゃんの言動からして、旦那が野薔薇ちゃんと牡丹ちゃんを逃がして単独で屠った――彼女が調整したのであろう竜。
それらを生み出すため――生み出すまでの、研究の記録。
その致命傷になるであろう紙束を掲げ、佐枝の坊主よりも下段に座る老人を射抜く。
「こいつぁとある異常集団の資料なんだが――」
少し距離はあり、少し暗いがそれでも俺の目にはよく視える。
「――ここに、不思議なことにあんたの名前があった。説明してもらおうじゃねえか、橋岡長官?」
細かく震え、今にも倒れそうな、しかして肥え太る。
死に体とも言える、害しか及ぼさない老人の姿。
「わぁ、それはとんでもないことだぁ。国家反逆罪級の話じゃないかぁ」
「……おい坊主、今は俺のターンなんだろ? わざとらしい棒読みやめろ」
「えー、先生は酷いなぁ。ま、そんな先生が好きなんだけどさ。さて――」
最壇上から降り注ぐのは、軽薄で、しかし絶対的な力を宿した男の言葉。
「――橋岡長官、そんなに震えてどうしたんだい。後暗いことがないなら、堂々と言い返してやればいいじゃないか」
そして――。
――どこまでも冷徹で、感情のこもっていない――欠落したかのような響きと。
暗い中で怪しく光る、ふたつの青い瞳の輝きであった。
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