機動戦士ガンダム 不死鳥戦記 作:だいたい大丈夫
ガルマは親友の無事を喜ぶが、カリスはその言葉の裏に潜む危険な意図を感じ取っていた。
白い悪魔を迎え撃つため、不死鳥隊は新型機グフを用いた決死の作戦を立てる。
マリア
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宇宙世紀0079、9月下旬。
俺たち不死鳥隊は現在、北米大陸におけるジオン軍の最大拠点であるここ『カリフォルニア・ベース』に駐留し、つかの間の休息と機体のオーバーホールを行っている最中だ。
司令官室に、俺は呼び出されていた。
モニターには、サイド7から大気圏突入に至るまでの、荒い映像とノイズが混じった戦闘データが、繰り返し再生され続けている。
連邦軍が極秘裏に開発したという『白い新型モビルスーツ』が放った、一閃の光の映像だって!?
その光が画面を横切った直後、ザクの装甲が、紙切れでも引き裂くかのように一撃で消し飛ぶ様子が映し出されていて、思わず目を疑った。
「……冗談でしょう。これは……想像していた以上に凄まじいですね。戦艦の主砲クラスであるメガ粒子砲を、モビルスーツが持てる携行兵器レベルにまで小型化して実現させるとは……。連邦軍の技術力は、我々の予想を遥かに超えていると見るべきですね」
「この映像のデータ、命からがら持ち帰ってきたのは、シャア少佐ですか?」
マーク、珍しく険しい表情を浮かべているな。お前も冷や汗かいてるだろ!
「ああ。シャアの部隊は、サイド7での最初の遭遇から、大気圏突入に至るまであの白いモビルスーツと新造戦艦を追撃したらしい。だが、惜しくも撃墜には至らず、逃がしてしまったと報告を受けている」
へえ……連邦軍の新型とはいえ、まんまと逃げられるとは、どういうことだよ。
俺としては、あの時の腹いせも込めて「いい気味だな、ざまあみろ」くらいに思うが……いや、ちょっと待てよ?
あのシャア・アズナブルの腕前は、シャクだが俺も認めているんだ。
その彼が、単なる機体性能の差だけでここまで完璧に逃げ切られるものだろうか?
いかに連邦の新型が化け物じみていようと、操縦しているパイロットがただのド素人や訓練兵だとしたら、シャアなら大気圏の摩擦熱を利用してでも確実に仕留めているはずだ!
だが、映像を見る限り、あの白いモビルスーツの動きには、戦場特有の『ためらい』が全く見られないじゃないか!
まるで百戦錬磨のベテランか、あるいは……。
シャアを退けるほどの実力者が、連邦軍にも現れたということかよ。
◇◇
ズキッ。
意識的に張っていたはずの『心の防壁』を、気配が一直線に駆け抜けた!
「…………ちっ、油断したか」
この気配……間違いない、あの男だ!
最近、防壁の訓練の副作用か、どうにもこういう『悪意』に対してだけ、過敏になってきている気がしてならない。
『ガルマ大佐、シャア少佐がこちらへお越しです』
「通してくれ!……待ちわびたぞ、来たか、シャア」
「久しぶりだな、ガルマ。……いや、地球方面軍司令官ガルマ・ザビ大佐、とお呼びすべきかな?」
マスクの奥の瞳で大佐を見据えながら、芝居がかった嫌味のないトーンで挨拶を口にしている。
「ハハハ……よしてくれ。士官学校時代と同じガルマで良い。君と私の間に、階級の壁など必要ない」
「大佐。お言葉を返すようですが、ここは軍の司令官室です。周囲の護衛兵や、我々部下も見ています。司令官として、公私のケジメはしっかりとつけるべきかと存じます」
「おっと……そうだな。忠告ありがとう、フロートニック少佐。シャア少佐、そういうわけだ。公の場では階級で呼んでくれたまえ」
俺の横槍に対して、マスクの奥の鋭い視線が、ゆっくりと獲物をねめ回すようにこちらへ向けられるのがわかった。
「……フロートニック少佐か。君たち『不死鳥隊』の目覚ましい活躍の噂は、宇宙にまで届いているよ。戦場で君が叩いた大口は、伊達じゃなかったと言うわけだ。感心したよ」
表面上は称賛しているように聞こえるが、その奥底には間違いなく俺を見下しているニュアンスが含まれているからな!
「今回は俺もアンタと同じ階級(少佐)に昇進させてもらった。これからは、無駄な敬語は省かせてもらうよ、アズナブル少佐」
「おい……カリス……。頼むから、大佐のお気に入りに、初対面から喧嘩を売るなよ……。後でどんな報復があるかわからないぞ……俺の頭が痛くなる……」
マーク…。ふん、無視してやる!
「おいおい、どうしたんだ二人とも?ルウムで一度会ったと言っていたが、仲が悪いのか?」
「そういうわけではないですよ、ガルマ大佐。……そうですな。これも若さゆえの過ち、ということにしておいてくれたまえ。まだ十六歳の彼には、こういう血気盛んで反抗的な時期が、どうしても必要なのだろう。私は一向に気にしていないよ」
余裕かよ! 腹立つ野郎だ!
「……いちいち人の神経を逆撫でするような、癇に障る言い方しかできないんだな、アンタは。俺としては、現状アンタと『仲が悪い』という認識で一向に構わないがね。どうにもアンタは、軍の規律を守れない質のようだしな。部隊長としては、そういう独断専行の輩とは反りが合わないだけだ」
苛立ちを隠すことなく、真っ向から睨みつけてやった。
「まあまあ、二人ともその辺にしておけ。同じジオンの大義を背負う同志じゃないか。……で、私になんの用かな?赤い彗星」
「その名は……残念だが、返上しなければならんようだよ」
「連邦のあの白いやつに手も足も出ず、見事にしてやられたからな。……今日からは『赤い彗星』なんて大層な名前は捨てて、『赤い大根』とでも名乗れば良いんじゃないか?そっちの方が、地を這う今のアンタにはお似合いだぜ」
「カリス……!!す、すいません、アズナブル少佐。うちの隊長は、ストレスが溜まると口を開けば毒を吐くという不治の病に罹っておりまして……どうかお気になさらず……」
「気にせんよ、ギルダー大尉。君もなかなか優秀な副官だと聞いている。……ああ、そうだったな、ガルマ。用件の話だ。例の連邦の『V作戦』についてだ。彼らが開発していたのは、強力な新型のモビルスーツ数機だけでなく、それを運用するための全く新しい新造戦艦の建造も含まれていたらしい」
シャアは俺の挑発を軽やかに受け流し、大佐に向かって事も無げに報告を続けている。
「ほう……。モビルスーツの単独運用だけでなく、母艦となる新造戦艦までもか……。それは厄介だな」
「ああ。そのおかげで、私は部隊を率いて地球まで彼らを追って降下するハメになったというわけさ」
「あの『赤い彗星』と呼ばれる君が、宇宙空間で仕留めきれなかったとはね」
「わざわざ、地球方面軍司令官である君が出てくることもなかった……と言いたいのか?」
「よくわかってるじゃないか、大根。上官であるガルマ大佐には、しっかりと敬意を払って言葉を選べよ。ルウムで、俺に向かって『上官への態度はいただけないな』と、アンタが上から目線で偉そうに説教を垂れたことだろうが。自分の言葉は自分自身で守ったらどうなんだ?」
言葉尻を捕らえ、仕返しとばかりに鋭く指摘してやったぜ!
◇◇
「フロートニック少佐、頼むからこれ以上、話の腰を折らないでくれたまえ。君の部隊長としてのプライドは十分に理解しているつもりだが、今はそういう次元の話をしているのではないのだ」
おいおい大佐。完全に親友を庇う気満々じゃないか。こっちは軍の規律と生存確率のシビアな話をしてるってのに、友情パワーで俺のド正論を封殺する気かよ。
「……シャア。部下が失礼な口を利いて本当にすまない。だが、悪気があるわけではないのだ。私はただ友人である君を無事に迎えられただけで、心から嬉しいと思っているんだ。よくぞ無事で降りてきてくれた」
無邪気すぎる。疑いや打算が微塵もないのは素晴らしいが、相手が悪い。その眩しすぎる信頼を向けられたってシャアの野郎は、絶対に仮面の奥で「こいつチョロいな」って嘲笑ってるに決まってるだろ。
「フフ……。気にするな、ガルマ。君が優秀な部下たちに慕われ、そしてしっかりと守られていることがわかって、私も安心したよ」
わざとらしいんだよ。舞台役者気取りの薄っぺらいセリフを吐きやがって。「優秀な部下」ってのは絶対に俺への皮肉だ。
「この北米大陸におびきこむことには成功した。大気圏突入の軌道を計算し、連邦の連中が逃げ込む先をここへ誘導したのだ。この手柄は君のものにするといい。あの木馬と白い悪魔を仕留めれば、ジオン十字勲章ものの大戦果になると、この私が保証するよ」
ハッ、冗談だろ。宇宙で自分が仕留め損ねたバケモノを、地球方面軍に押し付けに来ただけじゃないか。それを「手柄を君にする」だの「十字勲章ものの大戦果」だの、よくもまあそこまで都合よく包装できたもんだな。詐欺師のセールストークかよ。
「…………で? お前が宇宙で仕留めきれなかった獲物を、ここでおとなしくガルマ大佐に譲ると? 自分ができなかったことが、大佐にはできるとでも言いたいのか?」
だが止まらない。こんな見え透いた罠、黙って見過ごせるか。
「ずいぶんと友人には寛大で、お優しい心をお持ちじゃないか。だがな、ルウムで自分の戦果のために先陣を切って連邦の艦隊を沈めまくっていた『赤い彗星』のアンタが、そんなおいしい手柄を、他人にホイホイと譲るような殊勝な人間だとは、俺には到底思えないね」
言ってやったぜ。さあどう言い訳する。赤い彗星さんが自己犠牲のボランティア精神に目覚めたとでも言うつもりか。
「フロートニック少佐! 言い過ぎだぞ! いくら君がルウムの英雄であり、私の信頼する部下であるとはいえ、私の大切な友人に対して、そのような根拠のない誹謗中傷や無礼な態度は絶対に許さん! 直ちに発言を撤回し、シャアに謝罪したまえ!」
怒られた。しかもガチギレだ。そりゃ大佐にとっちゃ無二の親友だもんな。
どんだけ惚れ込んでるんだよ。
「ありがとう、シャア……。わざわざこの北米に敵を誘導してくれたのは、君から私への、何よりのプレゼントというわけだな。キシリア姉さんにも、地球方面軍の司令官として立派にやっているという実績を見せつけ、男を少しでも上げてあげようという、心遣いかい?」
何よりのプレゼント、ねえ。敵の新型バケモノ兵器を押し付けられたのにプレゼント扱いかよ。キシリア姉さんへのアピールだとか、どこまでポジティブシンキングなんだ。
「フフ……フハハハ、ハハハハハハ!」
笑いやがった。絶対に大佐の人の良さを腹の底で嘲笑ってる笑い方だ。なんで大佐はこれに気づかないんだ。
「笑うなよ、シャア。兵が見ている」
威厳がなくなるどころの話じゃないっての。
「大佐。……ご歓談中のところ誠に申し訳ありませんが、感傷に浸っている時間はありませんよ。敵はすでに、我々の目と鼻の先に降り立っているのですから。とりあえず、私があの白いモビルスーツと木馬に一当てしてきましょうか」
とりあえず俺が先陣を切って、シャアの目論見をぶっ潰す。シャアの奴、俺がしゃしゃり出たのが計算外だったのか、ピタリと笑いを止めやがった。さあ、どう出る。
「……フロートニック少佐。あまりあの白いモビルスーツを甘く見ないことだ。ルウムで戦艦を沈めた程度の経験で、勝てる相手ではない。先ほど君も見たはずだ。あのモビルスーツの装甲の材質と、携行しているビーム兵器の火力は、我々ジオン軍の持つ現在の常識を完全に超えている代物だ。君たちが頼りにしているザク・マシンガンなど、ただの豆鉄砲に等しい。無駄死にをしに行くようなものだぞ」
忠告のフリして、俺たちが無謀な突撃をして勝手に死ぬよう煽ってきているのが透けて見える。
「フロートニック少佐。シャアの言う通りだ。いくら君たち不死鳥隊が精鋭中の精鋭だとはいえ、君たち一個部隊だけで行くのはあまりにも危険すぎる。
ここはセオリー通り、我々地球方面軍の本隊も大々的に参加して、包囲網を敷きガウからの重爆撃で敵を削りながら、数の暴力で圧倒したほうが確実だ」
大佐の教科書通りの堅実な戦術。軍事教練なら百点満点の大正解だ。だが相手はバケモノなんだよ。通常兵器の数の暴力じゃ、かえって被害が拡大するだけだ。
「大佐。先ほどの映像で、あのビーム・ライフルの威力を見たでしょう。あれは戦艦の主砲が、そのままモビルスーツのサイズに圧縮されて歩いているようなものです。『当たらなければどうということはない』なんていう、操縦技術を過信したエースパイロット特有の精神論もありますが……。一発かすりでもすれば、機体もパイロットも一撃で蒸発して終わりです。文字通り、骨の欠片も残りませんよ」
目の前の赤い人に思い切り喧嘩売ってる自覚はあるけど、事実だから仕方ない。
「ましてや、旋回性能に限界があるドップや、マゼラ・アタックの部隊など、無駄に兵士の命を散らすだけで話になりません。さらに、万が一上空から支援を行うガウが落とされでもしたら、我が軍の被害は計り知れない甚大なものになり、このカリフォルニア・ベースの防衛そのものが危うくなります。的が大きすぎるんです」
「では、どうするつもりだ? 指をくわえて敵が来るのを待つわけにはいかないだろう」
よし、食いついた。
「簡単なことです。遠距離からの砲撃戦や、物量作戦では被害が拡大するだけ。ならば――機動力のある近接特化の機体で、敵がビーム・ライフルを構える隙すら与えずに、超高速で懐に急襲をかけるんですよ。相手のパイロットは猛者です。決して素人やアマチュアではない。シャア少佐の追撃を振り切るほどの技量を持っているバケモノだと想定すべきです。だからこそ、遠距離からのチマチマした攻撃はすべて見切られる。一気に間合いを詰めるしかないんです」
シャアの追撃を振り切ったバケモノなら、アウトレンジで撃ち合っても勝ち目はない。インファイトでビーム・ライフルを封じ込めるしかないだろ。
「なるほど……。君たち不死鳥隊の練度と連携の深さなら、中途半端な大部隊を動かすよりも、少数精鋭で一気に強襲をかけたほうが、結果的に味方全体の被害を抑えられるという計算か。……わかった、君の判断を信じよう。この作戦、君たちに任せる」
説得完了。あとは俺たちが現場で何とかする。
「ありがとうございます。敵は常識外れのモビルスーツです。中途半端な距離を保ったままの中距離の火力戦では、間違いなくこちらがジリ貧になってすり潰されます。……大佐、申し訳ありませんが、先ほど格納庫で見せていただいた、あの新型機『グフ』を、俺たちの部隊に今すぐ、もう三機都合してください。なんとしてでもです」
ここからが本題だ。ザクじゃどう足掻いてもパワーが足りない。新型のグフをカツアゲさせてもらうぜ。
「もう三機だと? グフはまだロールアウトしたばかりで、実戦配備できる機体は限られているんだぞ。それを一個部隊に四機も集中させるというのか?」
「ええ。俺たち不死鳥隊で、グフを合計四機揃えます。そして、四方向からの同時攻撃で、あの白い悪魔の懐に飛び込んでの、超接近戦(インファイト)に持ち込みます。あの機体がビーム・ライフルをこちらに向ける前に、グフのヒート・ロッドで四肢を絡め取り、ヒート・剣で強引に叩き斬る。それしか、勝機はありません」
これが俺の考えた対ガンダム特攻戦術だ。一歩間違えれば四機まとめてビームで消し飛ばされる特攻だが、これしかない。
ほら見ろ、シャアの野郎、俺の提案を聞いて「こいつら勝手に自滅しそうだな」とでも言いたげに目を細めやがった。完全に面白がってるだろ。
「……なるほど。四機のグフによる近接飽和攻撃か。面白い戦術を考える。……連邦軍から恐れられる『紫電の不死鳥』のお手並み拝見……といこうか。せいぜい、あの白いモビルスーツの足止めくらいはしてくれることを期待しているよ」
出たよ。「足止めくらいは期待してる」って完全に捨て駒扱いだ。高みの見物を決め込む気満々じゃないか。怒る気も起きないわ。こいつの顔を見てるとストレスが溜まるだけだから、とっとと退出させてもらう。
「……行くぞ、マーク。モタモタしている暇はない。早く格納庫へ戻って、部隊の連携をグフ仕様に変更するぞ」
そうだ、エルフリーデの暴走を止める方が今の俺には重要課題だ。ヒート剣が三本増えたら、あいつ絶対に両手と口に咥えて三刀流とか言い出すぞ。
「ああ、了解した。だがカリス……本気でやる気か? 相手はシャア少佐を退けたバケモノだぞ」
マークの奴、珍しく声が震えてる。相手はシャアを退けたバケモノだ。命がいくつあっても足りないってのは同感だ。
「当たり前だ。俺は本気以外の戦い方を知らない。……安心しろ、マーク。俺の最優先事項は、あの白い悪魔を倒すことじゃない。俺自身の生存と、お前たち部下の全員の生還だ。俺はまだ死ねないし、お前たちを死なせるつもりも毛頭ない」
そう、俺の最優先事項は部隊の生還と俺自身の生存。そして、胸ポケットに押し込んだハマーンの『新しい匂い袋』だ。
紫電の不死鳥の意地を見せてやる。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回は、シャアの再登場と、白い悪魔への対策を描きました。
カリスとシャアのやり取り、ガルマの反応、グフ四機による作戦案など、印象に残った場面があれば感想をいただけると嬉しいです。