機動戦士ガンダム 不死鳥戦記 作:だいたい大丈夫
カリスはグフ四機による近接戦闘を軸に、木馬撃沈作戦を立案する。
そして出撃直前、ガルマからカリス専用の特別なグフが届けられる。
紫電の不死鳥は、ついに白い悪魔の気配を捉える。
グフ(カリス専用)
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ガルマ大佐との極秘会談を終えた俺は、その足で自分たちの部隊の待機室へと戻り、緊急ブリーフィングを開始していた。一息つく暇すら与えられない。これが中間管理職のリアルというやつだ。
無機質なコンクリートに囲まれた地下深くだというのに、部屋の照明は限界まで落とされている。おかげでひんやりとした人工的な冷気が、やけに肌を撫でまわしてくる。演出としては上出来だが、少しは居住性というものを考えてほしいものだ。
画面の向こうで踊っているのは、シャアが持ち帰ってきた、連邦軍の『V作戦』のデータだ。そこには、新型モビルスーツの姿が克明に記録されている。
「……以上が、現在判明している敵の新型モビルスーツの、推定性能だ。むろん、連邦の工業力と資金力を考えれば、あの白い悪魔が一機だけとは限らん。別の映像ファイルを見ればわかる通り、下半身が巨大な戦車のキャタピラになっている戦車もどき(ガンタンク)やら、赤い装甲に身を包んで両肩に大砲を二門も乗せているやつ(ガンキャノン)の姿も、しっかりと映っているしな。連邦はモビルスーツという兵器体系の本格的な運用に乗り出してきたと見るべきだ」
努めて冷静な声を意識する。ここで指揮官である俺が焦りや恐怖を見せれば、それは瞬く間に部隊全体へと伝染し、士気の崩壊を招く。だからこそ、機械のように淡々と絶望を突きつける必要があった。
メインモニターに表示された規格外の火力データと、ザクが一瞬で蒸発する光景。それを目の当たりにしたシェルドが、喉を鳴らして唾を飲み込んだ。その音が、静まり返った部屋の中にやけに大きく響く。若者を怯えさせるには十分すぎる。
「……いつかは、来ると思ってましたからね。我々ジオンだけがモビルスーツを独占できる時代は終わって、連邦も必ず同じ兵器をぶつけてくるって。これでいよいよ、モビルスーツ同士の、本格的な戦闘が始まるんですね……。でも、あの火力は反則すぎますよ。かすっただけで終わりじゃないですか……」
自分たちを遥かに凌駕する怪物と正面から殺し合う恐怖など、彼にとっては未知の領域だろう。優位性が崩れた瞬間の脆さは、新兵の特権のようなものだ。
そんなシェルドの怯えを振り払うかのように、マリアがわざとらしく腕を勢いよく回し始めた。これ見よがしな空元気を装い、声を張り上げてくる。
「まあまあ、シェルド! そんなに悲観的にならないの! いくら敵の火力がすごかろうと、所詮はデクの坊でしょ! なあに、なんとかなりますって!」
その明るい振る舞いは、部隊の空気を少しでも軽くしようという彼女なりの優しさだ。同時に、自分自身の中にある恐怖を覆い隠すための必死の防衛本能だということも、俺にはよくわかっていた。健気だが、見ているこちらがヒヤヒヤする。
「マリア、その意気込みは買うが、まあ、そう単純にもいかんのが現実というやつだ。よく聞け。情報部が解析したデータによれば、あの白い機体の装甲材質には、我々のザクとは根本的に異なる、未知の特殊な超硬合金……が採用されているという話だからな。
現に、あの機体には、我々の主兵装であるザク・マシンガンの直撃弾が通じず、弾き返されているという報告すら上がってきている。安易な突撃は、文字通り死を招くぞ」
「わくわく……。素晴らしい、実に素晴らしい! 敵が強大であればあるほど、我が騎士としての誉れは高まるというもの! で、少佐。その圧倒的な性能を誇る連邦の新型モビルスーツを打ち倒すために、ついに、『グフ』の出番が回ってくるという認識で、よろしいのだな!?」
興奮のあまり荒くなった鼻息が、こちらまで聞こえてきそうだ。今にもテーブルを飛び越えて掴みかからんばかりの勢いである。彼女の頭の中には、すでにグフのヒート・剣を振り回し、白い悪魔を叩き斬る自分の勇姿しか存在していないのだろう。
おめでたい脳細胞が少し羨ましくもある。
「……お前なぁ。そうやって、狂犬みたいな、期待に満ちた目で見つめられても、こっちは対応に困るんだがな。……まあ、お前のその推測の通りだ」
額を押さえながら、首を縦に振る。俺の肯定を受け、エルフリーデは両手を天高く突き上げ、歓喜の声をあげた。
「よっしゃーー!!! ついに来た、私の時代が!! カリス少佐、必ずやご期待に応えてやってみせますぞ!! 連邦のモビルスーツとやらがどれほど未知の装甲で身を固めていようと、我がグフの灼熱に燃え盛るヒート・剣の前に断てぬものなどなし!! 白い悪魔だろうが何だろうが、このエルフリーデが真っ向から一刀両断に斬り捨ててくれるわ!!!」
勝手にテンションを最高潮まで引き上げ、エア剣術の素振りを始める狂犬。
「おい、そこの剣バカ。少しは頭を冷やして俺の話を聞け。大佐との交渉の結果、俺たち不死鳥隊には、特別に『グフ』が合計四機、優先的に配備・用意されている。その四機に搭乗するのは、エルフと俺、カリス少佐と、ジュナスの四人だ。この四人で隊を組み、機動力を最大限に活かして、白いやつを包囲し、ビームを構える隙すら与えずに格闘戦のレンジに引きずり込んで抑え込む。あるいは、複数の敵機が同時に出てくれば、その時の戦況に応じて臨機応変に各個撃破の対応をする。
これが対モビルスーツ戦の基本戦術だ。……そして、エリス、エターナ、マリア、シェルドの残り四人は、引き続きザクⅡに搭乗して出撃し、我々が敵モビルスーツの注意を引きつけている間に、敵の母艦、通称『木馬』をバズーカで狙撃、あるいは死角から取り付いて撃沈しろ。母艦を沈めれば、敵モビルスーツは補給線を絶たれてただの鉄の塊になる」
理路整然とした作戦説明に、全員が真剣な表情で頷く。
「マーク副長。作戦の意図は十分に理解いたしました。ですが、相手は連邦軍が総力を挙げて建造したという未知の新造戦艦です。我々のザク・マシンガンは、その戦艦の装甲に対しても、有効なダメージを与えることができるのでしょうか」
極めて現実的で的を射た質問。マークは少しだけ口元を曲げて、難しい顔を浮かべていた。
「正直なところ、やってみないとわからんな。装甲についての詳細なデータが不足している。実戦で試しに撃ち込んでみてもいいが、ザク・バズーカを全員が標準装備として持っていくのが、一番確実で手っ取り早いだろう。それに、もし弾が尽きても、甲板に接近して取り付くことさえできれば、ヒート・ホークを使えば、どんな装甲だろうと強引に切り裂いて内部に侵入することは可能なはずだ。戦艦相手の近接戦闘は、お前たちの得意分野だろう?」
「ふふっ。面倒な装甲の計算なんて必要ないわよ。戦艦の動きなんて、モビルスーツから見れば止まっている標的みたいなものなんだから。照準を絞って、戦艦の心臓部であるブリッジをダイレクトに狙撃してやれば、それが確実な方法よ。外の装甲がいくら硬くても、人間たちはただの肉の塊だもの。中の連邦兵ごと、綺麗に吹き飛ばしてあげるわ。それが一番美しい勝ち方よ」
相変わらず、うちの女性陣はモビルスーツに乗せると完全にタガが外れる。頼もしい限りだがな。
「よし、作戦の全容と各自の役割は頭に入ったな。敵は規格外のバケモノだが、俺たち不死鳥隊の連携と練度をもってすれば、打ち破れない相手ではない。全員、気を引き締めてかかれ! ブリーフィングは以上だ。直ちに格納庫へ向かい、各自の搭乗機体の最終チェックを行え!」
俺の号令とともに全員が勢いよく立ち上がり、一斉に敬礼を交わした。そのまま扉を開けて、ブリーフィングルームを足早に後にする。さあ、命がけの鬼ごっこの始まりだ。
◇◇
指定された区画へと足を踏み入れると、すでにそこには『グフ』が、整備用ハンガーに固定され、威風堂々と並んでいた。
深い青色の装甲は水銀灯の光を鈍く反射し、両肩にそびえ立つ鋭く巨大なスパイクアーマーが、ザクとは次元の違う威圧感を周囲に放っている。新型の威光というやつは、いつ見ても大したものだ。
「おおおっ! これが私の新たな愛機、グフ! なんて猛々しく、そして美しいフォルムなのだ! この青き鎧を身に纏い、戦場を駆ける己の姿を想像するだけで、血が沸き立つようだぞ!」
「よし、総員、自分の指定された機体に搭乗して最終確認を……って、おい、ちょっと待て。俺の乗るはずのグフは一体どこにあるんだ? 一、二、三……どう数えても機数が一機足りないじゃないか。整備班の連中、まさか発注数を間違えたのか?」
――ゴオォォォォォォォォォッ!!!
地下格納庫の上部、開け放たれた地上ハッチの方角から、空気を直接切り裂くような爆音が轟き渡った。
何事かと上を見上げれば、開いた天井から太陽の光とともに、見慣れた双胴の戦闘機が姿を現した。公国軍の主力局地戦闘機、ドップ。しかも、地球方面軍司令官であるガルマ・ザビ大佐自らが操縦桿を握る特別仕様機だ。
ガルマ大佐のドップが、まるで先導するかのようにゆっくりと降下してくる。その後方から、複数の輸送ヘリが、太いワイヤーを何本も使って防塵シートに厳重に覆い隠された一機のモビルスーツを慎重に吊り下げていた。
格納庫内の全員が、作業の手を止めてポカンと口を開けて見上げている。本当に、目立ちたがり屋には困ったものだ。
『フロートニック少佐! 待たせて本当にすまない! 君の専用機の最終調整と搬入が、想定以上に遅くなってしまった!』
「ガ、ガルマ大佐!? なぜ司令官であるあなたが、自ら戦闘機に乗って輸送の直接護衛なんて危険な真似を……!? いや、それよりも――総員、司令官閣下に対し敬礼!!」
「はっ!!」
慌てて姿勢を正し、周囲の部下たちに向けて声を張り上げる。俺の号令に合わせて、マークもエルフリーデもジュナスも、そして格納庫にいたすべての兵士たちが、空から降りてくるドップに向かって踵を鳴らした。これで少しは、こちらの動揺が隠せただろうか。
『ハハハ、よしてくれ。今はそんな堅苦しい挨拶は抜きだ。……それよりも少佐、待たせたな。これが、私から君へと贈る、君だけの特別なグフだ! 受け取ってくれたまえ!』
機体が完全に固定されたのを確認すると、整備兵たちが一斉に取り付き、固定具を次々と外していった。
そこから姿を現したのは――
他のグフが持つ、落ち着いた深い青色とは、全く、根本的に異なる色合いだった。
見事に、そして目が痛くなるほどにド派手でけばけばしい『紫』の塗装を全身の基調とし、さらにあろうことか、肩のスパイクアーマーや胸部の装甲の縁、シールドの表面に至るまで、輝く金色の塗料を使って、雷光(紫電)を模したギラギラのファイヤーパターンのような模様がこれでもかとあしらわれている。
…………な、なんだこれは。冗談だろ。いくら俺の二つ名が『紫電の不死鳥』だからって、ここまで文字通りに、直球ストレートに絶望的なデザインにしなくてもいいじゃないか。まさか、俺の機体だけこんなクソ目立つ塗装を施すために、搬入に時間がかかったというのか!? これじゃあ連邦の白い悪魔に狙われる前に、味方から『悪趣味だ』と後ろ指を指されて精神的に死んでしまうぞ!!
あまりのショックに、胃液が喉の奥まで逆流してきそうだ。ガルマ大佐の美的センスには、常人には理解できない深淵があるらしい。
『どうだい、少佐。その機体のカラーリング、気に入ってくれたかな? 実は、君のその勇名を轟かせるにふさわしい、納得のいく紫色の塗りと、金色の雷光の装飾のバランスがなかなか上手く出来なくてね……何度も塗装班にやり直しをさせていたら、すっかり時間がかかってしまったのだよ。ハハハ!』
マジでそれが遅れた理由かよ!? どんだけ暇なんだよこの地球方面軍司令官!! 自分の部下にこんな罰ゲームみたいな機体を押し付けて、何が『ハハハ!』だ! 俺は今すぐ、この紫色の機体ごと自爆スイッチを押して、この理不尽な世界からログアウトしたい気分だ!!
『……というのは、半分冗談だ。少佐。カラーリングに時間がかかったのも事実だが、本当に時間がかかった理由は別にあるのだ。機体の細部をよく見てくれたまえ』
「え……?」
言葉に促され、目を細めてその紫色のグフの全身を、改めて観察し直す。どうやら、単なるお色直しだけではなかったようだ。
『少佐、君は先日、初めてグフを見た際、左腕の【フィンガーバルカン内蔵型のマニピュレーター】の仕様について、強い懸念を、私に進言してくれていただろう?』
「は、はい。確かに、あの場で作戦行動における戦術的なデメリットとして指摘させていただきましたが……それが、どうしたというのですか?」
『その指摘を受けて急遽ではあるが、この基地の技術部の連中に三徹させて、特別に君の専用機だけ、フィンガーバルカンを取り外し、ザクと同じように武器を握ることができる【通常のマニピュレーター】へと換装させたのだ。これで、君の懸念していた汎用性の問題はクリアされたはずだ』
「……なっ!?」
確かに、紫色のグフの左腕には、あの不格好なバルカンの砲身ではなく、ザクと同じような武器をホールドできる五本指の通常マニピュレーターが装着されている。
本来、モビルスーツの腕部構造というものは、動力パイプや伝達系の配置が極めて複雑に絡み合っており、それをたった数日で別の規格のパーツへと換装するなど、技術的にはほぼ不可能に近い、狂気の沙汰とも言える突貫工事であるはずだ。それを、このお坊ちゃん司令官は本当にやってのけたというのか。
『それだけではないぞ。左手のバルカンを失ったことによる火力の低下を補うために、代わりの遠距離武器として、バックパックにマゼラトップ砲をモビルスーツ用に改造・流用した『連装カノン砲』を、特別に懸架して接続してある。この大口径なら、あの白いモビルスーツの装甲に対しても、多少なりともダメージを与えることができるはずだ。そして、右腕のヒート・ロッドに加えて、両手で振るうことができるように、近接用のヒート・剣(サーベル)も二本用意してマウントしてある。……どうだい? エースパイロット向けのカスタム機としては、なかなかの仕上がりになっているだろう?』
このド派手なカラーリングと金色の模様は、確かに見た目的には最悪の罰ゲームかもしれない。だが、その中身のスペックと実用性は、俺の生存確率を飛躍的に跳ね上げてくれる、正真正銘の傑作だ。
「大佐……! これほどの無茶な要求を、短期間で見事に実現してくださるとは……! なんとお礼を申し上げてよいか……本当に、本当にありがとうございます!! このカリス・ジークフリード・フロートニック、このご恩とご期待には、必ずや戦果をもって報いてみせます!!」
『ハハハ! 気にするな少佐! 君たちのような優秀な兵士が、不安なく、自らの命を懸けて戦えるように、あらゆる手を尽くして環境を整えることが、司令官たる者の最大の役目であり、義務だからな。君のその紫電のグフが、連邦の白い悪魔を打ち倒す姿を楽しみにしているよ。武運を祈る!』
ガルマ大佐はそう爽やかに言い残すと、ドップの機首を翻し、再び大空へと颯爽と飛び去っていった。
……大佐。最初は、ただザビ家の威光を笠に着た、人が良いだけの世間知らずの坊ちゃんかと思っていたが……俺の認識は間違っていたかもしれん。現場のパイロットが抱える不満や懸念を汲み取り、解決するために技術部に徹夜させてでも、これほどまでに実戦的なカスタム機をたった数日で用意させる、その行動力と決断力。そして、部下のために労力を惜しまない、懐の広さ。……この人、もしこの戦争を無事に生き残ることができれば、本当にジオン公国の未来を双肩に背負って立つ、途方もない大物になるかもしれないな。
◇◇
連邦軍の新造戦艦、我々が便宜上『木馬』と呼称している忌まわしいターゲットは、この荒野のどこかに潜んでいる。
パラメーターの数値をチェックしていると、インカムからエリスの声が飛び込んできた。いつも通り冷静だが、どこか不安の混じった響きだ。
『少佐。一つ質問よろしいでしょうか。なぜ今回は、ガウ攻撃空母を、上空からの爆撃支援に使わないのですか? メガ粒子砲と爆撃能力があれば、敵の木馬がどこに隠れていようと、焙り出すことができるはずですが』
軍事教本に載っているような真っ当な疑問だ。だがここは状況が違う。
「却下だ、エリス。お前の言う戦術は、相手が通常の戦車部隊やトーチカ群であれば百点満点だ。だが、今回の相手は違う。ガウは、上空に浮かんでいる巨大な的だ。目立ちすぎるんだよ。お前もあの白い悪魔のビーム・ライフルの威力を確認しただろう? 戦艦の主砲クラスのビーム兵器だぞ。もし上空にのこのこガウを引き連れていって直撃を受けでもしたら、簡単に落とされる。
そんなリスクは絶対に犯せない。あの化け物を相手にする以上、的を大きくするのは自殺行為だ。今回は俺たちモビルスーツ隊による、敵のレーダーを潜り抜ける地上スレスレからの超高速急襲に的を絞る。俺たちだけでやる」
土煙を上げながら、予測ポイントへと肉薄していく。
『……………カリス』
左斜め前方を並走するジュナスからだ。
「なんだ? 索敵に異常でもあったか? あらかじめ言っておくが、俺の尻は絶対にやらんぞ。戦闘中に発情期の続きを始めようとするなら、連邦の木馬よりも先にお前のグフのコックピットを、この連装カノン砲で粉砕してやるからな」
あいつは油断も隙もない。少しでも気を抜けば、すぐに見えない触手を伸ばして俺の後ろを取ろうとしてくるのだから、全力の拒絶と威嚇は必須だ。
だが、通信越しに聞こえてきた声は、俺の低俗な警戒など意に介さない、ひどく真剣で切羽詰まったものだった。
『……先だけでもいいから、今度、ゆっくりお願いするとして。……いや、今はそんな冗談を言っている場合じゃない。カリス、真面目な話だ。今回は、君がいつも実践している例の、意識的に精神を閉ざす『心の壁』は、作らないほうがいい』
「…………どういうことだ? 心の壁を解けだと?」
どういう風の吹き回しだ。
「ジュナス、お前も分かっているはずだろ。心の壁を解くという行為が、どれほど俺たちの精神を削り、ぶっ壊す危険な行為か。冗談じゃない、そんなことをすれば、敵と交戦する前に俺たちの精神が摩耗して、操縦ミスを引き起こすのがオチだぞ」
『……わかっている。でも、この荒野の先で僕たちを待ち受けている相手は……これまでのとは違う。油断したら、反応すらできずにやられる。僕の直感がそう叫んでいるんだ』
『…………つまり、それほど次元の違うバケモノが相手ということか』
マークが言葉の真意を的確に汲み取った。
『ええー……。また悪意とかを受信しなきゃいけないんですか……。私、精神的にすごいやる気が削がれて、しんどいんですけどね……。お肌にも悪いし……』
彼女の言い分もわかる。あの感覚は、人間の心を内側から食い破る劇毒そのものだ。
「仕方ない。マリア、泣き言は後でいくらでも聞いてやる。総員、俺の命令を聞け! 今すぐ、心の防壁を解け! 精神の摩耗や恐怖は、この戦闘を生き延びた後で、基地に帰って美味い酒でも飲んで忘れろ! 今回ばかりは、第六感を総動員して挑むぞ! 少しでも敵の殺意を感じたら回避行動を取れ! いいか、お前ら、絶対に誰一人欠けることなく生き残れよ!!」
『はい!!!』
刹那。
――ズドォォォォォォォォン!!!
なんだこの気配は。本当に一人の人間が発しているプレッシャーなのか。
全身から冷や汗が噴き出すのを感じながら、プレッシャーの発信源を探ろうとメインモニターの彼方を凝視する。
視界の先。土煙がうっすらと晴れかけた地平線の彼方。メインカメラが、陽炎が揺らめく大地の上に巨大な影を捉えた。
両腕を突き出したような奇妙なフォルムの巨大な白い艦影――連邦軍の新造戦艦『木馬』
俺はまだ死なない。絶対に死なない。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回は、白い悪魔との決戦前の準備回でした。
グフ四機作戦、ガルマから贈られたカリス専用グフ、そして木馬発見の場面など、印象に残ったところがあれば感想をいただけると嬉しいです。