機動戦士ガンダム 不死鳥戦記 作:だいたい大丈夫
圧倒的な物量を誇る連邦艦隊に対し、ジオン公国軍はモビルスーツによる強襲を仕掛ける。
初陣のカリス・フロートニックは、ザクを駆り戦場へ飛び込む。
だが、彼がそこで得たものは、勝利の栄光だけではなかった。
マーク
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【ルウム宙域】
連邦軍はレビル将軍の第一・第三連合艦隊。おまけにティアンム提督の第二艦隊まで引っ張り出してきている。この決戦で、ジオンの反乱をさっさと鎮圧する気らしい。ティアンム艦隊だけで俺たちの総戦力と同等。レビル本隊を合わせれば三倍以上の戦力差だ。
輸送艦のコロンブス級まで改造空母にして航空戦力を展開してくるんだから、連邦の物量には呆れる。
対するジオン上層部が立てた作戦は、全戦力でティアンムとぶつかり、その隙に特別強襲大隊でレビルを叩くというもの。もちろん、これは連邦の諜報網に流した偽情報だ。本命は手薄になったレビル本隊の直接強襲。
連邦はこの見え透いた嘘に引っかかり、ルウムを空にしてジオン本国へ向かった。ジオンはその隙を突き、ルウムへモビルスーツ部隊の強襲をかけた。
最初のうちはティアンム艦隊の凄まじい砲火が宇宙を焼き尽くしそうだった。俺も後方から見ていて背筋が凍った。だけど、この宙域に撒かれたミノフスキー粒子が連邦の目と耳を塞いだ。長距離射撃なんてただの盲撃ちだ。追撃してくる高速戦隊も振り切り、ジオン艦隊は闇の中へ消えた。
その頃、レビル本隊にはルウムからの悲鳴が届いているはずだ。慌てて艦隊を二分するだろうが、それが連邦の戦力を削る致命的な悪手になる。
こうして、モビルスーツによる艦隊殲滅戦が幕を開けた。
メガ粒子砲の光条と対空実弾の軌跡が交差して、宇宙を狂ったように染め上げている。
俺のザクのコックピットじゃ、アラートと駆動音が鳴り止まない。ペダルを踏み込んで機体を急旋回させる。
「おいおい!次から次へと……いくらなんでも数が多すぎるな!おっと、こっちにもか!」
眼前に連邦のセイバーフィッシュの編隊が迫る。一機に狙いを定め、レティクルが重なった瞬間にトリガーを引く。
放たれた百二十ミリ弾が、戦闘機の装甲を紙のように引き裂く。内部の燃料に引火したのか、闇の中に無音の赤い花が咲く。だけど、感傷に浸る余裕なんてない。
背後から別の機体が機関砲を撃ち込んでくる。シート越しに感知した瞬間、反射的にフットペダルを踏み込む。機体がわずかにスライドして射線を躱す。
慣性で反転し、すれ違いざまに至近距離から弾をねじ込む。敵機が粉砕されるのを見て、ようやく一息つく。
『カリス少尉!初陣にしてはものすごくいい腕をしてるじゃないですか!さっきからセイバーフィッシュをもう何機も落としてますよ!これなら俺のサポートなんて必要ないくらいだ!』
「おだてるなよ、マーク!こっちだってシミュレーション通りに動かしてるだけなんだからな!でも、連中は、手足のある兵器を相手にするのに慣れてないみたいだ。動きが単調で読みやすい。そっちの状況はどうだ!?無事か!?」
『ええ、ご心配なく。ただの的当てゲームみたいで少し退屈なくらいだわ。坊ちゃんこそ、あまり前に出すぎて被弾しないように気をつけることね』
エターナは、部隊の中でも群を抜いて肝が据わっている。美人なのも相まって羨ましい限りだ。
モニターの端に映るのは、実家の財力で揃えた私兵たちの姿だ。ムサイ級の母艦を含む二隻から発進した十二機のザクⅡ。正確な陣形を維持しながら、群がる連邦の航空戦力を徹底的に削り取っていく。
やれる。誰一人死なせずに、切り抜けてみせるさ。
『各機に作戦通達!これより我がモビルスーツ隊は、航空戦力を突破し、連邦の艦隊本陣へ直接強襲をかける!各自、対艦攻撃用のザク・バズーカへの換装を絶対に忘れるな!遅れた者は置いていくぞ!』
「いよいよ本命のお出ましってわけだ……よし……それじゃあ行きますか!」
コンソールを操作し、マニピュレーターを動かし、マシンガンを腰にマウントし、背部のバズーカを右肩に構える。シミュレーション通りだ。
『カリス様!お願いですからあまり突出しないでください!!弾幕が濃すぎます!もしあなたのお体に傷一つでもつくようなことがあれば、私は己の心臓を即座にくり抜いて、大旦那様にお詫びせねばなりません!どうか後方へ!』
エリスは優秀だが、俺への過保護っぷりが度を越している。怖いわ。
「エリス、お前のその重すぎる忠誠心で、被弾する前に俺の胃に穴が空きそうだ……!気持ちは嬉しいが、今は目の前の敵に集中してくれ!だが――」
それにしても‥‥味方は優勢だが落ちていくやつもいるんだな。
「……なんだ……?なぜ、あんな弾幕に当たるんだ……?敵の砲座の駆動角も、連邦の射手の焦りを含んだ無駄な弾道も……ここから全部、丸見えだろうに……」
「……そこか……!」
直感の赴くままに操縦桿を倒す。スラスター噴射で、弾幕の狭間を滑るようにすり抜けていく。行けるな。ザクはいい機体だ。
『流石ですね、カリス少尉。敵の射線が手に取るようによくわかっている。あの弾幕の中を無傷で抜けるなんて、シミュレーション以上の動きですよ』
「ん?ああ……なぜかは自分でもよくわからないんだが、敵の動きが見えるんだよ。……おい、あれを見ろ!」
真紅に塗装されたザクが、弾幕を嘲笑うように突き進んでいる。
破壊されて漂う残骸やデブリを次々と蹴り、尋常ではない加減速と三次元機動で敵艦へと肉薄していく。スラスターの推進力だけでは不可能な、質量移動を利用した機動だ。
『…………化け物ね。控えめに言って頭がおかしいわ。あんな動きをしてたら、中のパイロットはおめめが回って自分のゲロで溺れちゃうわよ』
エターナは呆れた声でぼやきつつ冷静だ。バズーカを流れるようなモーションで構え、照準を合わせ、サラミスの艦橋を二隻立て続けに正確に撃ち抜いてやがる。
「……あんな化け物じみた機動を見て呆れながら、自分はバズーカで二隻も沈めるなんて、冗談キツイですよ、エターナ曹長?」
『あら、坊ちゃんは、あんな跳ね回る、目立つだけなマニューバがお好みかしら?お姉さんのエレガントな狙撃じゃご不満?』
「猿芝居とはひどい言い草だな……でも……あの機動、俺にもやれる気がする……やってみるか!!」
キックの反動を利用して、進行ベクトルを直角へ変化させる。旋回Gが内臓を圧迫し、視界の端が赤く染まるが、気合いで意識を保つ。いい感じだねえ!!
マゼランが慌てて砲座を旋回させるが、まったく追いついていない。そのまま敵の死角へと滑り込む。
「ほい、ほい、ほい!!!……そこだ……そして……そらぁっ!!!」
ブリッジの上方へ回り込み、至近距離からバズーカの引き金を引くと、船体が真っ二つに折れる。
「……よし、出来たか。次行くぞ!!」
『やれやれ……。お付きとしては、ご主人様にばかりいい格好をさせるわけにはいかないな!俺の仕事がなくなっちまう!』
対空防御の意識がこちらへ向いた別のマゼランへ、マークの機体が横合いから突入する。機関部へ向けて至近距離から三連射を叩き込む。まったく…やるじゃないか俺の副長は。
◇◇
『フロートニック隊各機へ通達します!現在、敵艦隊は完全な撤退に移行中!もう陣形なんてあってないようなものです!なお、先ほど総司令部から全軍に電文が入りました!なんと、ガイア中尉率いる部隊が、敵の総司令官であるレビル将軍の座乗艦アナンケを捕捉し、これを拿捕!レビル将軍を捕虜として確保したとのことです!』
トップを捕らえたとなれば、そりゃあ浮き足立つ。
「連邦の総大将が捕まったか。……これで、この馬鹿げた戦争も終わるかもしれないな」
総大将が捕虜になれば、連邦の士気は底をつく。うまくいけば早期の講和に持ち込めるはずだ。俺が思い描いていた最善のシナリオが現実になろうとしている。
だけど、まだ目の前には足掻く残存艦隊がうようよいる。少しでも敵の戦力を削っておくことが、戦争を一日でも早く終わらせるためのダメ押しになるはずだ。
「気を抜くなよ、みんな!少しでも敵の戦力を削って、連邦の偉いさんたちに二度と戦争しようなんて気を起こさせないようにしてやるんだ!完全に戦域を離脱するまでが遠足だぞ!」
『カリス少尉、油断しないでください!その前方に、まだデカいのが一隻残ってます!今、足を止めますから、少尉がトドメを!落ちろっ!』
マークの機体が飛び出していく。逃走を図るサラミスの後方へ回り込み、マシンガンを的確にバースト射撃する。
オレンジ色の炎が噴き上がり、サラミスの巨体が完全に停止する。機動力のない戦艦が推進力を失えば、ただの的だ。
「ナイスアシストだ、マーク!……あれが連邦のしんがりか。デカい獲物だ。……これで最後にしてやる、落ちろ……!」
モニターの倍率を最大に引き上げる。
映し出されたのは、最後尾で味方の撤退を援護しようとしている旗艦、マゼラン級戦艦だ。
各部の砲座から必死の弾幕をばら撒いている。だけど、敵の射線が見える奇妙な感覚は、まだ鮮明に持続している。
「これで、チェックメイトだ!」
残弾すべてを吐き出す連続射撃だ。強烈な反動が機体を何度も揺さぶる。弾頭が装甲を貫き、艦橋へ吸い込まれていく。
ネレイドの撃沈を見届け、連邦の残存艦隊が後退していくのを確認する。とりあえずここで終わりか。
大きく息を吐き出し、張り詰めていた緊張を解こうとシートに深く背中を預けた。
その時だった。
「……っ!?あ……ぁっ……!?」
唐突に、脳に直接、強烈な精神の濁流が奔る。
「……!な、なんだ……!?」
『熱い……熱い……!助けて……!』
『酸素が……息ができない……!』
『母さん……!嫌だ、死にたくない……!』
『ジオンの悪魔め……!呪ってやる……!貴様らも同じ目に遭え……!』
「あぁぁっ!!」
耳を塞ぐが、声は鼓膜を揺らしているわけじゃない。脳に直接響いているんだから、防ぎようがない。
今、俺が沈めたネレイドから。マゼランから。サラミスから。
燃え盛る炎の中で、あるいは真空の宇宙に放り出されて塵となって消えていった数千の兵士たちの、生々しすぎる絶望、恐怖、そして俺への怨嗟の断末魔が直接流れ込んでくる。
「なんだ……これ……!これが……これが宇宙戦闘だって言うのか……!?」
「この……呼ぶなよな……!死人のくせに……!終わったんだ……もう死んでるんだろ……!」
「うるさいよ……!」
『おい!カリス!どうした、何を一人で叫んでいる!?バイタルサインが異常な数値を示しているぞ!機体に損傷でも受けたか!?応答しろ、カリス!!』
マークの声に意識を集中すると、脳内に響く死者の呪詛が、ゆっくりと遠ざかっていく。なんなんだ一体。
「っ……!はぁ、はぁ……はぁ……!」
『カリス少尉!大丈夫ですか!?返事を!』
「……いや……大丈夫だ、マーク。心配をかけたな」
「……少し、激しい機動Gで目が回って、幻覚でも見ただけだ。機体のシステムに異常はない……作戦は完了した。帰投する」
のちにジオン・ズム・ダイクンが提唱したニュータイプという概念。宇宙環境に適応し、他者と理解し合える新人類。
だけど、初陣を終えたばかりの俺にとって、この感覚は人類の革新なんて高尚なものじゃない。
ただの、精神を内側から食い破る呪いでしかなかった。
◇◇
ルウム戦役は、戦術的にはジオンの歴史的な大勝利に終わる。
連邦宇宙軍の主力を壊滅状態に追い込み、宇宙での絶対的な優位を確立した。
だが、歴史の歯車は俺の期待通りには回ってくれなかった。
一月三十一日。
南極で休戦条約の交渉が行われる直前。黒い三連星に捕らえられていたレビル将軍が、連邦の特務部隊の手引きであっさりと救出され、地球へ帰還してしまう大失態が起きる。
そして、全世界に向けてあの大演説を敢行するのだ。
ジオンに兵なし、と。
国力で連邦に劣るジオンの疲弊を暴露する演説。それに勇気づけられた連邦の上層部は態度を硬化させ、ジオンの降伏勧告を完全にはね除けた。
結果として南極条約は、大量虐殺兵器の使用やコロニー落としを禁止するだけのものに留まった。
戦争は俺が望んでいた早期終結とは真逆に、果てしのない泥沼の長期戦へ突入することが確定してしまったのだ。
◇
俺はというと。
一月二十日。
ズム・シティの式典ホールにいて、壇上の前に直立している。纏っているのはジオン公国軍の正装軍服だ。
胸元には戦艦六隻撃沈の功績を示すグラナダ星章をはじめ、いくつもの勲章が飾られている。
壇上には、総帥ギレン・ザビが座っている。傍らの将校がマイクに向かって声を張り上げる。
「カリス・ジークフリード・フロートニック!!前へ!」
「はい!!」
「貴官のルウム宙域における、敵戦艦六隻撃沈という多大なる武勲は、まさに我が公国軍の至宝たるものなり!その圧倒的な功績と公国への忠誠を深く讃え、軍最高司令部は貴官を――少佐に任ずるものとする!」
十六歳。民間上がりの少年が初陣の戦功だけで三階級特進した。これはフロートニック家の意向もあるのだろうな。くそったれ。
「光栄の至りであります!公国の勝利と、大義の完遂のために、この命を惜しみなく捧げる所存です!ジーク・ジオン!」
少佐、ね。いくらなんでも冗談が過ぎるだろ。
階級が上がれば上がるほど、生存率の低い地獄に放り込まれるのが軍隊の常だ。こんな若造を英雄扱いして、プロパガンダにされるのは嫌だな。
これで俺は部隊を率いて、最前線へ嫌でも付き合わされることが確定したってわけだ。
だけど、やることがあるんでね。死なない程度に勝ってやる。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回はルウム戦役本戦と、カリスの初陣を書きました。
戦闘描写やカリスの覚醒、戦後の任官シーンなど、印象に残ったところがあれば感想をいただけると嬉しいです。