機動戦士ガンダム 不死鳥戦記   作:だいたい大丈夫

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シェルドが仕掛けた発信機を追い、不死鳥隊は補給中の木馬へ夜襲を仕掛ける。

八機のドムは敵モビルスーツを分断し、木馬本体へ迫っていく。

だが、一人の女性の死をきっかけに、白い悪魔の少年は凄まじい怒りを解き放つ。



白い悪魔の怒り

宇宙世紀〇〇七九年、十一月六日。深夜。

 

シェルドが仕掛けた発信機のデータを頼りに、俺たち不死鳥隊は荒野の闇をホバーで疾走している。

 

夜では黒い部分が闇に溶け込み、紫の装甲もほとんど見えない。こちらが土煙を上げても、暗闇がかなり隠してくれる。

夜の闇に乗じて、停泊中の敵艦へ急襲をかける。卑怯だと言われるかもしれないが、知ったことか。

 

正々堂々と正面から名乗りを上げ、準備ができるまで待ってやるほど暇ではない。

一人だけ、それを本気でやりたがりそうな奴はいるけどな。

 

『中佐』

 

そのエルフから通信が入る。

 

『このまま踏み込むのであれば、私が先陣を務めます!』

 

「却下だ。今の隊列を崩すな」

 

『しかし!』

 

「一機だけ飛び出したら、敵に教えてやるようなものだろ。騎士道精神は今夜だけ操縦席の下にでも置いておけ」

 

『ぐっ……承知しました!』

 

素直に引いたように聞こえるが、声がものすごく不満そうだ。

 

『安心なさい、エルフ』

 

エターナが通信へ入ってくる。

 

『敵が見えたら、嫌でも前へ出ることになるわ。それまで大切な剣を折らないようにしまっておきなさい』

 

『私は剣そのものです! しまわれるわけにはいきません!』

 

『そういう意味ではないのだけど』

 

「二人とも、通信は必要な内容だけにしてくれ」

 

通信回線を全機へ開く。

 

「全員、聞け。ここから先は敵のレーダーに捕捉される。相手にニュータイプがいるなら、殺気にも気づかれるだろう」

 

もう肌がひりついている。遠くにいる誰かが、こちらへ意識を向け始めている。前よりもずっと強く、ずっと鋭い気配だ。眠っている相手を一方的に叩くような展開にはなりそうもない。

 

『つまり、ここからは……僕たちが激しく交じり合う時間だね?』

 

ジュナスのねっとりした声が耳へ入る。背中に悪寒が走った。

 

「そうじゃなくて! 最大戦速でかかる! 各機、俺に続け!」

 

『おう!』

 

八機が一斉に速度を上げれば、さすがに静かとは言えない。エンジン音とホバーが巻き上げる砂の音が、夜の荒野へ大きく響く。

隠れる時間は終わりだ。ここからは、相手が迎撃態勢を整える前にどこまで踏み込めるかの勝負になる。

 

「前方、もうすぐ目標地点だ! 散開準備!」

 

『了解!』

 

暗視映像の倍率を上げる。

見えた。暗闇の中に浮かび上がる巨大な白いシルエット。木馬だ。

しかも一隻ではない。

 

「輸送機だと!?」

 

木馬の周囲には、見慣れない輸送機が複数止まっている。形状からして連邦軍のミデアだ。車両や作業員らしき熱源もある。

どう見ても補給と修理の最中である。

 

「冗談じゃないぞ。オデッサの前に、あの化け物どもへこれ以上の補給をさせるな!」

 

『やはり、ここで仕掛けて正解だったな』

 

マークが落ち着いた声で答える。

 

「ああ。予定通り役割を分ける! エターナ、エリス、俺に続け! 白い奴……ガンダムと言ったか。ガンダムの相手は俺たちが務める!」

 

『了解!』

 

『任せて』

 

エリスとエターナの声が続く。

 

「マークは両肩キャノン! エルフはタンクもどきを頼む! 敵に厄介な中距離射撃を使わせるな! ニキさんは二人の援護だ!」

 

『了解した』

 

『戦車もどきなど、我が剣の敵ではない!』

 

『了解しました。エルフリーデ中尉、くれぐれも単独で突出しないように』

 

『善処!』

 

「それは飛び出す奴の返事だぞ!」

 

釘を刺している時間はない。木馬の周囲で複数の熱源が動き始める。敵もこちらに気づいている。格納庫らしき部分が開き、白い機体が急速に上昇した。

 

「シェルドとジュナスは木馬を直接狙え! 今日こそ、あの目障りな艦を落とすぞ!」

 

『了解!』

 

『木馬も、僕たちの愛を受け止めてくれるかな?』

 

「受け止めきれないくらい撃ち込んでやれ!」

 

『いい命令だね』

 

頭の中に鋭い警告が走った。

上だ。

 

反射的に操縦桿を倒す。ピンク色の閃光が暗闇を切り裂き、ついさっきまでいた地面をえぐる。焼けた砂と土が高く噴き上がり、装甲へ細かな破片が当たった。

 

「来た! ガンダム!」

 

上空から白い悪魔が降下してくる。

白い装甲が月明かりと爆炎を反射し、暗闇の中でも嫌になるほど目立つ。ステルス性という概念がないのか。

 

以前に戦ったときとは雰囲気がまるで違う。動きに迷いがない。こちらがどこへ避けるかを最初から知っているように、二射目の銃口が俺の進路へ向く。

 

「上から狙い撃ちとは、舐められたものだ! このっ!」

 

上半身をひねり、ジャイアント・バズを上空へ向ける。狙いはガンダムの胴体。

 

だが、当たらない。

ガンダムは大きく避けることすらせず、スラスターを細かく吹かして軌道をずらす。砲弾は白い装甲のすぐ横を通り過ぎ、暗い空の向こうで爆発した。

 

そりゃあ、当たらないよな。分かっている。あのエイムボット(自動照準チート)じみた反応速度だ。普通に狙ったところで、発射を察知してからでも避けられる。

 

だが、今の一発は当てるためだけに撃ったわけではない。

 

『ふふっ……着地の瞬間をもらうわ』

 

エターナの声が聞こえる。死角へ回り込んでいた彼女のドムが、ジャイアント・バズを構えている。

砲撃を避けたガンダムは間もなく地面へ着く。空中で姿勢を変えられても、着地点までは大きく変えられない。エターナはその地点へ、すでに照準を合わせている。

 

「撃て!」

 

『言われなくても!』

 

ジャイアント・バズが火を噴く。砲弾は着地寸前のガンダムへ向かって一直線に飛ぶ。避けるには遅い。シールドで受ければ、爆発の衝撃で姿勢を崩せる。

 

『そこっ!』

 

「何っ!?」

 

ガンダムは地面へ足を着けると同時に、ビーム・サーベルを引き抜いた。一瞬だけピンク色の光が伸びる。迫っていた実体弾の弾頭が、空中で真っ二つになった。

直後に爆発が起こり、周囲へ炎と煙が広がる。だが、直撃ではない。白い装甲に爆風が当たっただけだ。

 

「バズーカの砲弾を斬ったのか!?」

 

『無茶苦茶ね。射線は完璧だったのよ?』

 

エターナの声からも余裕が少し消えている。

 

『凄い! できるようになったのね、アムロ君!』

 

エリスのドムが突っ込む。トップスピードを維持したまま、ガンダムの懐へ一気に潜り込む。手にしたヒート・サーベルが赤く熱を帯びる。

 

『でも、私のヒート・サーベルまでは避けられないでしょう!』

 

『エリスさんか! 手加減はしませんよ!』

 

『くっ! 大人の女に本気を出してくるなんて、それでこそ!』

 

「エリス、遊ぶな!」

 

ガンダムはビーム・ライフルを地面へ捨て、シールドでヒート・サーベルを受ける。

真正面から止めない。斜めに受け、力を横へ逃がし、そのままエリスのドムへ肩からぶつかっていく。

 

体当たりで懐へ入っただと?

エリスを押しながら機体の向きを変える。その延長線上にはエターナがいる。ここで撃てばエリスまで爆発へ巻き込まれる。俺が撃っても同じだ。

 

「こいつ、そこまで読んで!」

 

『舐めるな!』

 

エリスの声が響く。胸部が強く光り、拡散ビーム砲がガンダムの至近距離で炸裂する。

殺傷力はほとんどないが、暗闇に慣れたカメラへ叩きつける目眩ましとしては十分だ。ガンダムの頭部がわずかにのけぞる。

エリスはその隙に機体をひねり、ホバーを全開にして離脱した。距離ができる。

 

「さすがはエリスだ! ここで俺が!」

 

俺はガンダムの背後へ回り込んでいる。押し合っている間にジャイアント・バズを捨て、ヒート・サーベルへ持ち替えていた。目を焼かれている今なら、後ろからの攻撃へ反応できないはずだ。

 

「落ちろー!」

 

『この敵もやる!』

 

ガンダムは振り返らない。こちらを見てすらいない。

それなのに、背中へシールドを回した。

 

ヒート・サーベルがシールドへ突き刺さり、表面を赤く焼く。だが、本体まで届かない。

 

「後ろに目でもついているのか!」

 

前へ踏み出しサーベルを引き抜く。そのまま急速に反転し、ビーム・サーベルを横へ振る。

 

機体を後方へ滑らせる。ピンク色の刃が胸部すれすれを通過する。あと少し反応が遅ければ、コックピットごと焼かれていた。

 

機体の力だけならドムも負けていない。だが、ガンダムは押し合う前に力の向きを変え、こちらのサーベルを横へ流す。

動きがうまい。以前より明らかに近接戦闘へ慣れている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、木馬の反対側ではマークのドムがガンキャノンと交戦している。

両肩から砲弾が連続して放たれ、荒野の地面を次々に吹き飛ばす。爆発によって大量の砂が舞うが、マークのドムは速度を落とさない。砲身の向きと射撃の間隔を見ながら、最小限の軌道変更で砲弾の間を抜ける。

 

「俺を足止めするには、まだ機動力が足りないな!」

 

周囲を大きく回り、側面からジャイアント・バズを放つ。ガンキャノンは腕で頭部を守りながら地面へ身を伏せる。砲弾は肩の装甲をかすめ、背後で爆発した。

 

『なんて俺はドジなんだ……! 足止めすらできないなんて!』

 

パイロットの思念が弱く漏れる。

マークの目的は撃破だけではない。木馬へ向かうシェルドとジュナスへ、キャノンを撃たせないことだ。ガンキャノンが木馬の方向へ向こうとするたび、正面へ回り込み砲撃を自分へ引きつける。

 

「こちらを見ろ。お前の相手は俺だ!」

 

さらに離れた場所では、エルフがガンタンクへ一直線に突っ込んでいる。

キャノン砲が火を噴き、左右へ着弾する。土砂が装甲へ降りかかっても速度を落とさない。

 

「戦車もどきに遅れは取らん! 騎士の戦いを見よ!」

 

『エルフリーデ中尉、正面から行かず回り込んでください!』

 

ニキの警告が飛ぶ。

 

「敵が正面にいるのに、騎士が背中を向けられるものか!」

 

『これは騎士の試合ではなくモビルスーツ戦です!』

 

「承知している!」

 

返事だけは立派だが進路はまったく変わらない。お前、本当にブレないな。

ニキは斜め後方を走り、側面へジャイアント・バズを撃つ。砲弾は外れるが、砲撃が一瞬だけニキへ向く。その隙にエルフリーデは距離を詰めた。

 

「この間合いなら!」

 

ジャイアント・バズを大きく振りかぶる。

 

『何をするつもりですか!?』

 

「我が道を切り開く!」

 

ジャイアント・バズをガンタンクへ向かって勢いよく投げつけた。

 

『エルフリーデ中尉! 貴重な装備を!』

 

『必要な犠牲です!』

 

「壊す前提で支給してないぞ!」

 

投げつけられたジャイアント・バズへ砲弾が命中する。大量の弾薬を残したバズーカが誘爆し、目の前に大きな炎が広がる。

 

爆炎と煙の中へ、ドムが迷わず飛び込む。手にはヒート・サーベル。赤熱した刃を両手で上段へ構え、推進力を落とさないまま突進する。

 

「チェストォォォォ!」

 

重量と速度がすべてサーベルへ乗る。刃は正面へ食い込み、キャタピラから胴体まで一気に斬り裂いた。ガンタンクの機体が左右へ割れ、内部から爆発が起こる。

 

「よし! まず一機!」

 

『まだです! 頭部が分離しました!』

 

爆発する寸前、ガンタンクの胴体中央からコア・ファイターが分離し、炎を突き破って飛び出した。

 

「脱出装置……? マゼラ・トップみたいなものか!」

 

ヒート・サーベルを盾のように構え、機銃弾を受けながら後退する。

 

『リュウさんと二人で乗っていたら、一人死んでいた……こんなことって!』

 

エルフリーデはその感情に気づいた様子もなく飛び去る小型機を見上げる。

 

「一騎討ちの最中に逃げるか!」

 

『追わないでください。タンクの排除という任務は完了しています』

 

「しかし!」

 

『中佐から、単独で突出するなと命じられているでしょう』

 

「ぐっ……!」

 

悔しそうにサーベルを下ろす。

 

 

 

 

 

 

 

 

その間にも、ジュナスとシェルドは木馬へ肉薄している。

対空機銃が一斉に火を噴き、暗闇の中へ無数の曳光弾が伸びる。ジュナスは弾幕の隙間を最初から知っているように滑らかに軌道を変え、着弾地点の間を抜けていく。

 

「いくら機銃の弾幕があっても、僕の愛からは逃げられないよ!」

 

『そんな愛、誰も欲しくありませんよ!』

 

シェルドは同じように弾幕を避けているが、ジュナスほど余裕はない。機銃弾がドムの肩をかすめ、表面で火花が散る。

シェルドの脳裏には、町で出会った少女の顔が浮かんでいる。フラウ・ボウ。あの少女もこの白い艦に乗っている。

 

「可哀想だけど……」

 

「マリア姉さんのためにも、落ちてもらう!」

 

格納庫から新たな機体が飛び出す。機体下部へ追加ユニットを装備したコア・ブースターが一気に上昇し、ミサイルを放つ。

 

「まだ機体が!?」

 

機体を左右へ振り最初の二発を避ける。残るミサイルは進路を修正しながら追ってくる。

 

「んん? 相手のパイロットもニュータイプかな? 気をつけて、シェルド!」

 

ジュナスの声に、肩が一瞬だけ跳ねる。

 

「はい! ……えっと、殺気を感じます!」

 

ジュナスは追及しない。対空砲火を避けながら、ジャイアント・バズを艦の側面へ撃ち込む。砲弾が装甲へ命中し、白い船体に黒い傷を作った。

 

シェルドもミサイルを引きつけたままホバーで急旋回する。二発が地面へ突き刺さり、残る一発をサーベルで切り払う。爆発に押されても機体を倒さず、そのままコア・ブースターへ向き直る。

 

シェルドの反応が一瞬遅れたように見えたが、うまくミサイルをさばいている。ジュナスもすでに木馬のすぐ近くまで入っている。このままなら防衛線は長く持たない。

 

「仕掛ける!」

 

ガンダムのシールドへヒート・サーベルを叩きつける。エリスが反対側から踏み込み、エターナが逃げ道へ砲弾を撃つ。

 

三方向からの攻撃に、ガンダムは初めて大きく後退した。このまま押し込める。

そう思うのと同時に、ガンダムから伝わってくる意識の向きが変わった。

俺たちではない。木馬の方だ。

 

『ホワイトベースが! 先にホワイトベースを守らないと!』

 

サーベルをシールドで弾き、背中のスラスターを吹かす。

 

「下がる? させるかよ!」

 

『アムロ君、つれないわね! 私ともう少し激しくしてちょうだい!』

 

「お前までジュナスみたいな言い方をするな!」

 

『少し違うでしょう?』

 

『エリスも大人の女の誘い文句ができるようになったわね』

 

エターナが呆れたように言いながら、後方でジャイアント・バズを構える。

 

『でも、それは通らない。狙い撃つわ!』

 

ガンダムの進路へ砲弾が飛ぶ。横へ跳び砲弾を避ける。その分だけ木馬へ戻るのが遅れる。

冷静に背後から狙撃しているエターナさんも、大人の女としてどうなんだと思うが、今は助かる。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

シェルドとジュナスが目前まで迫っている。コア・ブースター一機では止め切れない。ガンキャノンとガンタンクも、マークたちに押さえられている。

 

それなのに、木馬は動かない。

あれほど追い詰められているのに、浮上する様子すらない。

 

「妙だな。なんで木馬は飛ばないんだ?」

 

『そうね』

 

『木馬が飛ばない。何かマシントラブルでも起こしているのかしら』

 

「補給中に不具合が出たか?」

 

『罠の可能性は?』

 

エリスが聞く。

 

「この局面で罠はないだろ! ニキさん、シェルドたちへ加勢を!」

 

『了解! エルフリーデ中尉、マーク少佐の援護へ回ってください!』

 

『分かりました!』

 

ニキさんがガンタンクの残骸から離れ、木馬へ向かう。

 

シェルドの前では、コア・ブースターが再び機首を向けている。機銃とミサイルが同時に放たれる。

シェルドは機銃弾を横へ滑って避け、ミサイルの下へ潜り込む。コア・ブースターがすぐ上を通過する瞬間、ドムのヒート・サーベルを振り上げた。

 

「でも……ここ!」

 

赤熱した刃がコア・ブースターの片翼を斬り裂く。

機体は大きく傾き、煙を噴きながら地面へ向かう。完全に墜落する直前、パイロットが機首を上げ、荒野へ不時着させる。

シェルドは追撃しない。動けない戦闘機をわざわざ撃ち、パイロットまで殺す必要はない。

 

「もらった!」

 

ジャイアント・バズを持ち上げ、艦橋へ照準を合わせる。ここからなら外さない。ブリッジを撃ち抜けば、木馬の指揮機能は止まる。

 

『シェルド! 左! 避けて!』

 

ジュナスの声が飛ぶ。

闇の中から、大きな影が低空で突っ込んでくる。木馬のそばへ停泊していたミデアだ。

シェルドへ正面から体当たりを仕掛けてきている。

 

『ホワイトベースを傷つけさせてなるものか!』

 

シェルドはブリッジへの照準を外し、ドムを逃がそうとする。だが、ミデアは近すぎる。翼が目前まで迫る。

 

『それは通らない……狙い撃つわ!』

 

エターナのジャイアント・バズの砲弾が、暗闇の中を一直線に飛ぶ。シェルドのドムへ激突する寸前、ミデアのコックピットへ命中する。

機首が爆発し、続けて内部の燃料へ火が回る。ミデアは空中で火の玉になり、シェルドをかすめて墜落する。

 

『ううっ!』

 

エターナの苦しそうな声が聞こえる。

 

「エターナ?」

 

『お、女……? 今のパイロット……』

 

『フレイル大尉、応答してください!』

 

エターナから返事がない。機体の反応は残っている。撃墜されたわけではない。だが、ドムの動きが急に止まり、ジャイアント・バズの砲口が地面へ下がる。

 

死の直前に放たれた、女性パイロットの強烈な思念。エターナは撃ち抜いた本人だからこそ、それを真正面から受けてしまったのか。

 

「大丈夫か、エターナ!」

 

『だい……じょうぶ。少し、頭の中へ……』

 

言葉が途中で切れる。俺はエターナの位置へ向かおうとする。

その瞬間、全身を強烈な力で押さえつけられた。

 

『このおおおおお! マチルダさぁぁぁぁん!』

 

少年の声が頭の中で響く。

声だけではない。悲しみと怒りが、まとめて戦場へ叩きつけられる。

 

コックピットの中にいるはずなのに、体へ直接圧力をかけられているように息が詰まる。操縦桿を握る手へ力が入らない。ドムの反応まで急に鈍くなっているように感じる。

 

「ぐっ……なんだ、これ……!」

 

ガンダムから放たれている。

ただ怒っているだけではない。人の精神を押し潰そうとするほどの濃密な殺気だ。

 

『かはっ……息が……!』

 

エリスのドムも速度を落とす。

 

『何という気当たりか! 身体が縛られたように……!』

 

エルフリーデまで動きを止めかけている。

 

『精神で押されるなど、鍛錬が……足りない!』

 

強がっているが、声が震えている。

ニュータイプの素養が高い者ほど、この殺気を強く受け取っている。エリス、エルフリーデ、俺、エターナ。全員のドムが目に見えて鈍る。ニキさんも完全に無事ではない。

 

ガンダムだけが、その中で速度を上げる。白い機体がビーム・サーベルを振りかざし、一直線に木馬へ向かう。

いや、木馬ではない。ミデアを狙っていたシェルドだ。

 

「くそっ! これでは動け……シェルド! 逃げろ!」

 

『え?』

 

シェルドの声は、俺たちと比べて妙に普通だ。

 

『ガンダム……来ます!』

 

シェルドのドムがすぐに動く。

ガンダムがビーム・サーベルを振り下ろす直前、ホバーを吹かして斜め後ろへ滑る。刃がドムの胸部すれすれを通り、地面を深く焼く。

 

ガンダムは止まらず、横薙ぎの二撃目を放つ。

シェルドは機体を必要な分だけ後退させる。大きく逃げない。サーベルの先端が届かない距離を保ち、次の斬撃へ備える。

 

『逃がすものか!』

 

『僕だって、やられるわけにはいきません!』

 

怒りに任せたガンダムの攻撃は速い。だが、今までのような細かい読み合いがない。シェルドは斬撃の軌道を冷静に見て、最小限の動きで避け続ける。

 

あの殺気の中で、どうしてあいつは普通に動ける? 俺たちは息をするだけでも苦しいってのに、シェルドはいつもとほとんど変わらない。こいつ、本当に大物になるぞ

 

『中佐!』

 

ニキさんの鋭い声が聞こえる。

 

「なんですか! 今まさにガンダムを……!」

 

『作戦の限界時間です!』

 

「何っ!?」

 

『これ以上ここに留まれば、オデッサ作戦の防衛配置に間に合いません! 即時撤退してください!』

 

「しかし、このままでは!」

 

シェルドがガンダムに狙われている。エターナは女性パイロットの死を受けて動けない。木馬もまだ健在だ。ここで背中を向ければ、追撃を受ける可能性が高い。

 

だが、ニキさんの言うことは正しい。俺たちの本来の任務はオデッサ防衛だ。木馬へこだわって配置に遅れれば、キシリア閣下の命令へ完全に違反する。

 

決めなければならない。

ここで切り上げるのか。あと少しだけ攻撃を続けるのか。

俺が答えるより先に、大きな爆発音が響いた。

 

木馬の後部、左右のエンジン付近から激しい炎が噴き上がる。

 

「なっ!?」

 

白い艦体が大きく揺れ、推進部から黒煙が上がる。

 

『ハァ……ハァ……俺とジュナスでやった』

 

マークの声が通信へ入る。ガンキャノンをエルフへ任せたマークは、殺気に押されながら木馬まで移動している。ジュナスと左右に分かれ、推進部へ撃ち込んだのだ。

 

『これで木馬は動けん』

 

『拿捕する時間はなくても、これで彼らはオデッサ作戦には間に合わないね』

 

ジュナスの声は普段と変わらない。だが、そのドムも装甲の何か所かに機銃弾を受け、黒い煙を上げている。

 

「よくやった!」

 

最低限の目標は達成した。木馬を撃沈できなくても、両方の推進部を壊せばすぐには動けない。修理には時間がかかる。オデッサへの合流も遅れる。

 

ガンダムのパイロットは、怒りで完全にオーバーヒート状態だ。これ以上、この化け物に付き合うのは危険すぎる。

 

「全機、撤退する! オデッサへ向かうぞ!」

 

『中佐、シェルドが!』

 

エリスが声を張る。ガンダムはまだシェルドを追っている。

 

「エリス、俺と挟む! 最後に一発だけ目をくらませるぞ!」

 

『了解!』

 

体の重さを無理やり押し返し、ドムを加速させる。エリスも反対側からガンダムへ近づく。

 

『この!』

 

「こっちを見ろ、白い悪魔!」

 

俺とエリスはほぼ同時に胸部拡散ビーム砲を放つ。二方向から強烈な閃光を浴び、ガンダムの動きが一瞬止まる。

 

「シェルド、下がれ!」

 

『はい!』

 

シェルドがホバーを全開にし、ガンダムとの距離を一気に広げる。

 

『エターナ大尉は私が連れていきます!』

 

ニキさんがエターナのドムへ近づく。

 

『動けるわ……一人で動けるから』

 

エターナの声はまだ弱いが、ドムは再び前進を始める。

 

『エルフリーデ中尉、後衛を!』

 

『承知! 追撃する者は、我が剣で斬り伏せます!』

 

「追ってくる敵を止めるだけだぞ! そのまま反転攻勢に出るなよ!」

 

『ぜ、善処します!』

 

「またそれか!」

 

マークとジュナスが木馬から離れ、俺たちへ合流する。ニキさんはエターナのそばにつき、シェルドも隊列へ戻る。

八機いる。損傷はあるが、一機も欠けていない。

 

「全機、機体番号を報告!」

 

『二番機、問題ない!』

 

『三番機、軽微な損傷です!』

 

『四番機……動けるわ』

 

『五番機、健在!』

 

『六番機、問題ないよ』

 

『七番機、無事です!』

 

『八番機、エターナ大尉を援護しながら後退します!』

 

全員の声を聞き、ようやく少しだけ息ができる。

背後では、木馬が炎と煙を上げている。ガンダムは追ってこない。木馬と墜落したミデアの方へ残っている。

 

作戦目標は木馬の撃沈だ。それは達成できない。

だがこれだけやれば、オデッサへの足止めとしては十分だ。

こちらも無傷ではない。何より、ガンダムの少年が見せた怒りは危険すぎる。あれと最後まで戦えば誰かが死ぬ。そんな勝負に付き合う理由はない。

 

「進路をオデッサへ! 速度を落とすな! ガンダムが追ってきても、絶対に足を止めるなよ!」

 

『了解!』

 

「不死鳥隊、最大戦速を維持! 次はオデッサだ!」




ここまで読んでいただきありがとうございます。

今回は、不死鳥隊による木馬への夜襲と、マチルダの死によって激昂するアムロとの戦いを書きました。

八機の役割分担や、エターナとシェルドの反応、木馬への攻撃など、印象に残った場面があれば感想をいただけると嬉しいです。
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