機動戦士ガンダム 不死鳥戦記   作:だいたい大丈夫

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ジャブロー攻略に失敗し、宇宙へ戻る準備を進めるシャアと再会したカリス。

ザンジバルの格納庫には、新型モビルアーマー・ビグロと、そのテストパイロットが待っていた。

そしてホワイトベースもまた、地球を離れようとしていた。



赤い彗星と紫電の不死鳥

宇宙世紀〇〇七九年、十二月二日。

 

ザンジバル級機動巡洋艦は、遠目にもすぐ分かった。

昨夜の極秘通信では、ジャブローで大失敗したと殊勝に報告していたくせに、今日はもう次の戦いへ出る準備を整えているらしい。

 

「シャア! 画面越しでは昨日も会ったが、こうして顔を合わせるのは久しぶりだな。ジャブローで大失敗した割には元気そうで安心したよ」

 

「再会早々、傷口へ塩を塗るとは、君も立派な大佐になったものだ。そういう君こそ、オデッサで木馬のエンジンを潰したと聞いて期待していたのだがね。修理を終えた木馬は、間もなく宇宙へ上がってくるそうだよ」

 

「あれだけ壊しても戻ってくるのか。連邦軍は、よほど修理と悪運に恵まれているらしい」

 

口ではそう返したが、再会できたことには素直に安堵していた。

 

シャアは、肩書だけなら他部隊の大佐であり、これからはキシリア閣下の麾下へ移る軍人でもある。だが、そんなものは友人かどうかを決める理由にはならない。

東南アジアで共に戦い、ララァのことで忠告を交わし、昨夜は失敗まで隠さず伝えてきた。少なくとも俺は、この赤い男を戦場で背中を預けられる友人だと思っている。

 

だからこそ、冗談を言える程度には無事でいてくれたことが嬉しかった。

 

もっとも、シャアが持ってきた木馬の情報まで、笑って聞き流すつもりはない。

 

シアトルでは追い込みながら仕留め損ね、オデッサへ向かう途中では足を止めるだけに終わった。

 

アムロ・レイという少年は、会うたびに別人のような動きを見せる。三度目も同じ相手だと思ってかかれば、今度こそ取り返しのつかない代償を払わされるだろう。

 

「白いヤツのパイロットは、ジャブローでも強くなっていたのか?」

 

「少なくとも、北米で会った頃よりはるかに手強い。こちらの攻撃を見てから避けるのではなく、撃つ前に射線から消えることさえあった。君が見たアムロ・レイを基準にしない方がいい」

 

シャアが強いと言うのなら、本当に強いのだ。自分の失敗を誤魔化すため、敵を過大評価するような男ではない。

 

「嫌な成長の仕方をしてくれる。だが、木馬が宇宙へ来るなら好都合だ。不死鳥隊も宇宙戦へ移るよう申請している。総帥府と地球方面軍の承認が下りれば、お前と同じ戦場へ出られるはずだ」

 

「ガルマの麾下から離れることになるが、よいのかね。君は先日の式典で、総帥からも随分と目をかけられたそうではないか。フロートニック家は、いよいよ総帥派として立場を固めるものと思っていたよ」

 

「親父が総帥を支持していることは否定しない。だが、俺まで何も考えず、同じ相手についていくと決めた覚えはないよ。宇宙へ出るのも木馬を追うためであって、キシリア閣下の派閥へ鞍替えするためではない」

 

誰につくかを決めろと、ギレン総帥から直々に迫られたばかりである。

それでも、戦場まで派閥の都合だけで選ぶ気にはなれなかった。

地上にはガルマ様がいる。オデッサで勝利した今、連邦が宇宙へ戦いの重心を移すなら、不死鳥隊まで地上へ残る意味は薄い。

 

「おい、カリス。総帥から考えろと言われたばかりだろう。まだ出撃許可さえ下りていないうちから、ザビ家の力関係へ首を突っ込むな。お前が口を滑らせるたび、俺とニキ少佐が後始末をすることになるんだぞ」

 

「分かっているさ。俺は誰かへ喧嘩を売りたいわけではない。キシリア閣下の麾下へ入らずとも、木馬を追う方法はあると言っているだけだ。シャアも総帥と対立するのが嫌なら、ガルマ様のところへ戻ればいい。あちらにはランバ・ラル大尉も黒い三連星もいる。赤い彗星まで加われば、地球方面軍の顔触れとしては贅沢すぎるくらいだ」

 

「なるほど。ガルマは、本当に良い友人に恵まれたようだ」

 

「何を他人事のように言っている。お前だって、ガルマ様の大切な友人だろう。俺たちが何人増えたところで、士官学校からの付き合いには敵わないさ」

 

「……そうだな。君の言うとおりだよ、カリス」

 

シャアとガルマ様の間に、俺の知らない何かがあることくらいは分かる。

綺麗な思い出ばかりではないだろう。

だが、ガルマ様の危機を知った時、シャアは自分から救援へ来た。言葉より、あの時の行動を信じればいい。

 

俺がシャアを友人だと思うように、ガルマ様にとっても、シャアは今なお大切な友人なのだろう。二人の間へ余計な理屈を差し挟む必要はない。

 

「それより、この艦へ不死鳥隊の八機を積むと言い出すのだけはやめてくれよ。ビグロ一機を収容するだけでも、格納庫は随分と窮屈になっている」

 

「安心しろ、マーク。不死鳥隊の母艦は別に手配してある。俺たちはシャアの艦隊と合流して出るだけだ。いくら俺でも、トルネードガンダム八機を荷物のように詰め込めるとは思っていない」

 

「お前なら言いかねないから先に止めたんだ。俺の信頼を取り戻したければ、せめて正式な命令が下りるまでは、おとなしくしていてくれ」

 

「まだ取り戻せるだけ残っていたのなら安心したよ」

 

少なくとも、宇宙へ出るという判断には反対されなかった。そこは同意していると、勝手に解釈しておこう。

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

ザンジバルの格納庫へ入ると、見慣れない機体が中央を占領していた。

 

機首に突き出た大出力ビーム砲と、左右へ広がる巨大なクロー。人型へ収める気など初めからない形は、宇宙で速度と火力を叩きつけることだけを考えている。美しいとは言い難いが、何をさせたいのかは一目で分かる。

 

俺は、こういう割り切った兵器が嫌いではない。

 

「シャア大佐、ビグロの最終点検は予定どおり終わります。それで、そちらの若いのは新しいパイロットでありますか?」

 

「紹介しよう、トクワン大尉。こちらはカリス・ジークフリード・フロートニック大佐。不死鳥隊を率いる『紫電の不死鳥』だよ」

 

「このガキが……大佐?」

 

軍服の階級章より俺の顔を信じたらしい。まあ、少年を見て大佐だと考える者の方が、よほど軍の常識から外れている。

 

「し、失礼いたしました! まさか本当にフロートニック大佐とは知らず――」

 

「俺を見て、すぐ大佐だと思えという方が無理だ。今回は気にしなくていい。それより、なかなか正直な部下を持ったな、シャア」

 

「君の部隊のリアム大尉やシュルツ大尉に比べれば、これでも常識人の部類だと思っている。少なくとも、試作機の足や膝から勝手にビーム刃を生やしたりはしないのでね」

 

「膝は却下した。足だけでも十分すぎる。あいつらと比べれば、初対面の上官をガキ呼ばわりする程度は可愛いものだよ」

 

気心の知れた相手と、自分の部下を困った者扱いしながら笑う。

俺たちは、明日にはまた別々の戦場へ出るかもしれない。

だから再会を喜ぶ時間くらい、少し長くても罰は当たらないだろう。

 

「大佐、このビグロをご存じなのでありますか? まだ量産どころか、実戦投入さえされていない機体ですが」

 

「資料だけは読んだ。推力も出力も、そこらのモビルスーツとは比べものにならない。正面から大出力ビーム砲を受ければ、戦艦でも無事では済まないだろう。こいつを、お前が動かすのか?」

 

「もちろんであります! 高速試験では、追いつける機体など一機もありませんでした。連邦のガンダムとやらが出てきても、この爪で捕まえて握り潰してみせます!」

 

シャアが実戦投入を任せるのだから、腕も確かなのだろう。

気になったのは、トクワンの腕前ではなく、使い道の方だった。

 

「ガンダムを狙うのは、やめておいた方がいい。ビグロが弱いからではないぞ。これだけの加速力を持つ機体で、ガンダム一機を相手に旋回戦を始めるのがもったいない。相手の動きへ付き合って何度も向きを変えれば、せっかくの速度を自分から殺すことになる」

 

「しかし大佐、ビグロの速度ならガンダムにも追いつけます! 最初の一撃で捕まえれば、反応が速かろうと関係ありません!」

 

「その最初の一撃で捕まえられるなら、確かにな。だが、シャアでも仕留め損ねた相手が、正面から素直に突っ込んでくるとは思わない方がいい。それより木馬を狙え。ガンダムより大きく、動きは遅く、避けられる方向も限られている。ビグロの速度なら護衛が迎撃位置へ入る前に懐へ飛び込み、ビーム砲を叩き込めるはずだ」

 

シャアでも、という言葉に嫌味のつもりはなかった。俺が知る限り、白いヤツを倒せる可能性が最も高いパイロットの一人だからこそ、基準にしただけだ。

 

トクワンも、そこは理解してくれたらしい。すぐに反論せず、木馬へ接近する経路を頭の中で組み立てている。血気盛んなだけなら、俺のような若造の意見など聞かなかっただろう。

 

「木馬を沈めれば、ガンダムが残っても帰る場所を失う。反対に、ガンダムを落とそうと追い回している間、木馬には逃げられるかもしれない。敵の強い駒を倒すことと、戦いに勝つことは同じではない。ビグロは白いヤツとの一騎打ちより、木馬そのものを食い破るために使った方が怖い」

 

「では、ガンダムがビグロを止めに来た場合はどうするのでありますか?」

 

「俺たちが引き受ける。白いヤツを木馬から引き離し、その間にお前が本体を叩く。もっとも、作戦の指揮官はシャアだから、俺が勝手に決めることではないがな」

 

「悪くない。ビグロを囮としてガンダムへ差し出すのではなく、木馬攻撃の主役にするわけか。ガンダムが護衛へ戻ろうとすれば不死鳥隊が背後を取り、君たちへ向かえば木馬を失う。連邦にとっては、どちらも愉快な選択ではないな」

 

シャアなら、俺が言いたいことを余計な説明なしに拾ってくれる。

戦場で同じ敵を見てきた友人と作戦を考えるのは楽だった。

俺一人なら見落とす穴も、彼がいれば別の角度から塞いでくれる。

 

できるなら、今度の戦いでは同じ艦隊にいたい。

 

「ビグロを囮にするつもりはないよ。木馬を沈めることが目的なら、一番速く到達でき、一撃の重い機体を先頭へ置くのは当然だ。トクワン曹長には、そのまま突き抜けてもらう。ガンダムと鬼ごっこを始めず、次の攻撃へ移れるだけの距離を取ってから反転するんだ」

 

「了解であります! ガンダムを追い回すより先に、木馬を沈めてみせます。まだ白いヤツが飛んでいたとしても、功を焦って一人で仕留めようとはいたしません。不死鳥隊がどれほどのものか、この目で見せていただきます!」

 

「なるほど。君は機体を見る前から、自分たちの新型でガンダムを討つ役目まで決めていたらしい。よほどトルネードガンダムに自信があると見える」

 

「そのために造った機体だからな。俺たちは機体の差を言い訳にはしなかった。だが今度は、その言い訳すら必要ない。白い悪魔がどれほど強くなっていようと、トルネードガンダムで必ず仕留める」

 

今度の俺たちは、ドムでガンダムへ食らいついていた頃とは違う。同じガンダムの名を持つ新型で慣熟訓練も終えた。それでも負けたなら、もう機体の差などという逃げ道はない。

 

恐ろしくないと言えば嘘になる。

 

だが、シャアとなら戦える。不死鳥隊の仲間たちと、赤い彗星が同じ戦場にいる。アムロ・レイがどれほど強くなっていても、今度こそ追いつける。そう思える程度には、俺は友人の腕を信じていた。

 

「カリス。威勢のいいところを悪いが、まだ宇宙戦への参加は正式に決まっていないぞ。総帥に目をつけられた直後なのだから、余計な政治工作まで始めるつもりなら先に俺へ相談しろ」

 

マークはいつも、一番気持ちよく話している時に現実を持ってくる。

副長としては正しい。友人としては、もう少し夢を見させてくれてもよいと思う。

 

「分かっている、マーク。だから承認させる。総帥府が俺を英雄として使いたいなら、国民が一番期待する相手へぶつければいい。連邦の白い悪魔を、ジオンのガンダムが倒す。宣伝としても申し分ないだろう?」

 

自分を英雄だとは思わない。勲章と大佐の階級は、胸へ飾っておくだけでは重いばかりだ。総帥府が俺を英雄として利用するのなら、こちらもその看板を使わせてもらう。

 

「次は宇宙だ、シャア。今度こそ、俺たちの手で木馬との決着をつけるぞ」

 

「ああ。だが、ガンダムを譲るつもりはない。私にも赤い彗星の面目というものがあるのでね。どちらが先に白い悪魔へ届くか勝負といこう」

 

「受けて立つ。俺たちは八機で行くから、追いつけなくても文句は言うなよ」




ここまで読んでいただきありがとうございます。

今回は、宇宙へ戻るシャアとの再会と、ビグロを交えたホワイトベース攻略について書きました。

カリスとシャアの関係や、ビグロの運用案、トクワンとのやり取りなど、印象に残ったところがあれば感想をいただけると嬉しいです。
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