機動戦士ガンダム 不死鳥戦記 作:だいたい大丈夫
一方、不死鳥連隊にも新たな艦艇と戦力が到着する。
そしてカリスの前には、ニュータイプという存在に独自の思想を抱く、一人の研究者が現れようとしていた。
宇宙世紀〇〇七九年、十二月四日深夜。
さて。ブライト大尉には恩を売ってきたが、こちらの仕事はまだ終わっていない。
コンスコン少将には、是非とも俺の助力を断っていただかなければならない。
できれば、自分たちだけで木馬を撃沈するから邪魔をするな、と。その辺りまで言ってくれれば、ドズル中将に何を聞かれても通信記録を差し出すだけで済む。
政庁の通信設備を借りたのも、そのためだ。俺の艦にしか記録がないのでは、後からいくらでも難癖をつけられる。
「コンスコン少将。サイド6の領空境界まで、わざわざお越しいただき、ありがとうございます。もしや、あの木馬を我々と共同で挟撃・殲滅しようというお誘いでしょうか?」
「ふん! ドズル閣下からは、我々コンスコン艦隊のみで木馬を殲滅せよと厳命を受けておる!」
おお。こちらから頼む前に欲しい言葉をくれるとは。
「貴官には、本国と突撃機動軍が鳴り物入りで進めておる部隊再編成があるのだろう? 我らの華々しい勝利を、コロニーの中から指をくわえて見物していていただきたいものだな!」
そこまで丁寧に言ってくれるなら、こちらも遠慮なく見物できる。
しかし、ドズル中将もずいぶん露骨なことをする。俺たちが木馬と同じ港にいると知っていながら、共同作戦の打診すらなしに直属艦隊を差し向けるとは。
ガルマ様やキシリア閣下に手柄を渡したくないにしても、もう少し取り繕ってはいかがか。
まあ、俺が心配することではないか。
「そうですか。ですが少将閣下、派閥争いに深く入り込みすぎると、長生きできませんよ?」
「ふん! 若造が生意気な口を利くな!」
通信終了。
……もう少し長く話してもよかったのだが。
協力の申し出はした。要らないとも言われた。おまけに、ドズル中将直々のご命令ときた。
俺から申し上げることは、もう何もない。
あとは明日の夜、ブライト大尉がどうするかだ。
◇◇
十二月六日未明。
「……政敵をわざわざ葬るような真似は、君は嫌いだと思っていたのだがね、カリス」
艦橋まで来て、わざわざその話をするか。
ホワイトベース出港の報告から、まだ大して時間も経っていない。
コンスコン少将もご健在だというのに、もう葬った扱いとは。
俺以上にあちらを信用していないじゃないか。
「いや、嫌いだぞ? だから共同作戦を申し出た。断ったのは向こうだ」
「断ると分かっていて申し出ることもできる」
「人の善意を疑うのはよくないな、シャア」
「ブライト艦長にも同じことを言うつもりかね?」
まったく、可愛げのない男だ。そこは俺の政治的な手腕を褒めるところだろう。
「少将閣下には、生き延びる道も残っている。ホワイトベース隊に真正面から勝てばいい。ドズル中将への顔も立つし、俺たちは手柄を指をくわえて眺めることになる。ご本人のお望みどおりだ」
「違わないがね。あのアムロという少年の実力を知っている身としては、少々残酷ではないかね?」
「俺はこれでも優しい方だぞ。親父なら、勝てば助かるような余地まで丁寧に塞ぐ」
あの人なら、艦隊を送り出す前に補給担当者と司令部の人事から手をつける。
帰還できても責任を取らされ、勝っても別の失点を突きつけられる。
そこまで用意して、何食わぬ顔で武運を祈るくらいはやるだろう。
その同じ口で、俺には欲しいものはないかと聞いてくるのだから困る。
息子への甘さを、少しでいいから他人にも分けてやれないものか。
「……フロートニック家の当主を敵に回すのは、連邦軍以上に恐ろしいということだな」
「そう思ってくれると助かる。身内の俺ですら、仕事の方には関わりたくない」
通信を聞く限り、戦闘はもう始まっている。
さて、十二機のリック・ドムか。
普通なら、それで足りる。普通の艦と普通のパイロットが相手ならな。
「敵モビルスーツとの交戦を確認。コンスコン隊、損耗が拡大しています」
分かってはいる。それでも、もう少し粘ると思うだろう。出撃したばかりではないか。
「……リック・ドム十二機、全機撃墜」
隣から何か言われる前に、こちらから口を開く。
「勝つ道はあったぞ」
「実に狭い道だったようだ」
うるさい。
こっちにだって都合というものがある。勝手に横から獲物を奪おうとした相手へ、護衛までつけて送り返してやる義理はない。
やがて旗艦チベの撃沈まで報告に加わる。
結局、結末は変わらないか。予測通りだ。
ブライト大尉。俺からの忠告は役に立っただろう?
こちらも大いに助かったよ。
「合流部隊より入電。予定座標への到着を確認しました」
ようやく来たか。
五日ほど足止めを食うと聞いた時はうんざりしたが、早まる分には大歓迎だ。ブライト大尉にも五日は残ると言ってある。
嘘をつくつもりはなかったのだが、補給も増援も揃うなら話は別である。
「出港する。合流後、ソロモンへ向かうぞ」
◇◇
ザンジバルが二隻も増えるのはありがたい。
アサルムにシャアの艦、それに新着の二隻。モビルスーツとモビルアーマーも合わせれば三十機以上になる。ようやく連隊と名乗っても看板負けせずに済みそうだ。
その代わり、こいつまで受け取らなければならないのか。
「ふぅん……ここが僕の配属される連隊ですか。フロートニック家の看板を背負っている割には、随分と軟弱な連中ばかりですね」
その銀髪も、そばかすも、最後に会った時のままだ。口の利き方まで変わっていないとは、ご実家では何を教育しているんだ。
「せいぜい、僕の完璧な指揮の足を引っ張らないでほしいものです」
帰していいか?
ザンジバルは置いていけ。お前だけ帰れ、ユリウス。
「ユリウス、口を慎め。この艦隊には、少なくともお前より過酷な死線を潜り抜けてきた強い奴がゴロゴロいるぞ」
「はい、ギルダー中佐。貴方の指示には従います」
その素直さを、どうして俺に向けられない。
いや、マークの言うことを聞くならまだ助かるか。
十四歳に着任早々営倉を用意するのも、あまり景気のいい話ではない。
「しかし……カリス様のような温室育ちの御曹司が、本当にこの大連隊を率いる器なのですかね?」
よし、営倉だ。
「戦場で怖くなって、ニキ様の腕の中で泣き濡れて震えているのではありませんか?」
断じて違う。
震えてなどいないし、泣いてもいない。
あそこは温かいし、安心するし、できれば仕事を全部忘れてそのまま眠りたいだけだ。
大体、ニキさんに抱き締めてもらって安心することと、連隊を指揮する能力に何の関係がある。別々に評価しろ。
「ユリウス。いくら身内とはいえ、カリス連隊長を悪く言うものではありませんよ」
「へいへい。お坊ちゃまの愛人様はお優しいことで」
「私にとっては身に余る光栄なお話ですが、事実とは違いますね」
……光栄。
そうか。光栄なのか。
いや、今そこを喜んでいる場合ではない。ユリウスの前で頬を緩めたら、あと三日はこの話をされる。
「挨拶はそのくらいにしておけ。搬入の確認が先だ。エルメスは予定どおり完成したのか?」
「はっ! フラナガン機関の突貫作業により、予定よりも早くロールアウトいたしました。現在、収容作業を進めております」
よし。それなら多少、生意気が混ざっていても釣り合いは取れる。
「なお、搭載サイコミュの調整に当たる特別顧問が、フラナガン機関より帯同しております」
……特別顧問?
頼んだのは機体だぞ。変な学者までつけてくれとは言っていない。
戦闘に投入して数値を測れだのと言い出す奴だったらどうする。今のうちに診療区画へ近づけないようにしておくべきか。
「貴方がカリス・ジークフリード・フロートニック大佐ですな」
白衣か。
痩せているし、髪には白いものが交じっている。その割に、目だけは妙に元気だな。
何日寝ていないのか聞いてみたくなる。
「フラナガン機関特別顧問、クルスト・モーゼス博士です。よろしく」
◇◇
この博士、思ったより話が分かる。
いや、非常によく分かる。フラナガン機関にも、まともな問題意識を持つ人間がいるじゃないか。
「いやあ、博士! まさかここまで話の通じる相手に会えるとは思わなかったぞ!」
「私もです、大佐! 公国軍でこのようなお話ができる日が来るとは!」
乾杯のたびに酒がこぼれるが、少しくらい構うものか。どうせ食堂の連中も飲んでいる。今夜くらいは、俺にだって楽しく飲む権利がある。
「ニュータイプなんてものは百害あって一利なしだ! 戦争をオカルト思想で語るなど、クソ喰らえだよ!」
「その通り! 人類の革新などという狂気を止めねばなりません! ニュータイプを根絶やしにするのです!」
うんうん。……いや、待て。そこは少し違う。
「博士、その意気やよし。だが、狙う相手を間違えてはいかん」
「と、申しますと?」
「ニュータイプなんてものは幻想だ。俺たちが潰すべきなのは、現場にいるニュータイプもどきじゃない。ニュータイプという危険な選民思想そのものだよ」
せっかく話が合うのに、そこで人殺しへ走られては困る。
「あいつらをわざわざ選んで殺すのは、特別な存在だと認めてやるのと同じだろう? 新人類が怖いので先に殺します、では、君たちは人類を脅かすほど優秀ですと言っているようなものじゃないか」
「……なるほど」
「特定の脳波が出る。遠くの相手と何かが通じる。見えない敵の位置が分かる。結構なことだ。だから人として上等だという話にはならんだろう」
射撃が上手いから偉い。足が速いから支配者になるべきだ。
そんな話なら馬鹿にするくせに、脳波が変わると急にありがたがる。
どういうことなんだ。
「ニュータイプと呼ばれている連中だって、腹も減るし、機嫌も悪くなるし、くだらんことで喧嘩もする。ちょっと勘がよくて、脳波の出力が普通と違うだけだ。そんなものを人類の行く先にされてたまるか」
「おお……! 能力を否定するのではなく、その優越性を否定するのですな!」
「そういうことだ! 所詮は、ちょっと特殊な電波さんにすぎん!」
「……マーク。私、あのクソ博士とカリス様を一度殺してくる」
聞こえているぞ、エリス。
ほら見ろ。分かり合う力があるはずなのに、気に入らない意見を聞いた途端これだ。
「待て待て! 銃を抜くな! お前、話を聞いていたか!? カリスはお前たちを殺すなと言ってるんだぞ!」
「その前に、こっちが殺したくなることを言ってるでしょうが!」
マーク、頼んだ。俺は今、大事な話をしている。
「……ニュータイプを集めた独立連隊の特別顧問と最高指揮官が、揃ってニュータイプ否定派とはな。喜劇にも程がある」
シャアまで何を呆れている。
お前も酒を持ってこっちへ来い。一番聞かせたいのは、お前なのだが。
「ふふっ。良いではないですか、大佐。考え方は人それぞれです」
「カリス大佐が、誰よりも深く澄んだニュータイプであることは、間違いのない事実なのですから」
全然分かっていない。
今の話のどこを聞いて、その結論になるんだ。俺がどれほど否定しても、そうやって頷かれると何を言えばいいのか分からなくなる。
「ララァ。俺の話を聞いていたか?」
「はい。ちゃんと聞いています」
「俺はニュータイプではない」
「はい」
……その『はい』は何だ。
納得したなら、なぜそんなに嬉しそうなんだよ。
「大佐!」
ああ、博士。助かった。こちらの会話に戻ろう。このままでは、俺が否定すればするほどララァを喜ばせることになりそうだ。
「お考えはよく分かりました。しかし、現実に通常の人間ではなしえない力を示す者が存在する以上、思想だけを否定しても、信奉する者は絶えますまい。そこをどう打倒なさるおつもりです?」
「簡単だ。あそこのジュナスを見てくれ」
あいつ、よくこの騒ぎの中で平然とパスタを食えるな。
こちらは命まで狙われているのに。少しくらい巻き込まれても罰は当たらんだろう。
「あいつは脳波測定ではニュータイプの数値が一切出ない。それなのに人の心を読み、気配だけで相手を金縛りにする。博士の分類では普通の人間だぞ。あれが」
「ほう……?」
「特別な脳波が出るから新人類だと言うなら、出ないのに同じようなことをするあいつは何なんだ。しかも上官の尻を夜な夜な狙っている。人類の革新より先に、俺の部屋の鍵を革新しなければならん」
「……カリス」
聞こえたか。いや、聞こえるように言ったのだが。
「宇宙の声を聞くまでもなく、僕が今、君の討伐対象に指定されたのは何故だい?」
「話の流れだ。気にするな」
「気にするよ。随分な紹介じゃないか」
「博士、分かるか? 我々が本当に警戒すべきは、こういう奴だ。ニュータイプという枠に収めようとするから、かえって見落とす。測定器に何も出ない、本物のバケモノが目の前にいるんだぞ」
「興味深い……。実に興味深いですな。できれば改めて検査を――」
「本人に聞いてくれ。俺を立ち会わせるなよ」
「ひどいな、カリス。君のことなら、こんなに分かってあげられるのに」
俺はお前と分かり合うより、自室で安心して眠りたいんだ。
「あははははっ! 私もニュータイプ!」
「私も! 私もカリス様を守る、最強のニュータイプなんだからぁっ!」
マリア、お前も聞いていたのか。
頼むから、最強になる前に座ってくれ。椅子の上に立つ必要はないし、その笑い方では博士の持論を補強することにしかならん。
「マリア姉さん、落ち着いて……! 座ってください、危ないですから!」
シェルド、すまん。そちらは任せる。
「聞きましたか、大佐。やはり、あのような精神状態に至ること自体が――」
「博士。そこから先は、しらふで話そう」
さっきまで気持ちよく飲めていたはずなのだが。
これを全部連れて、ソロモンへ行くのか。
……俺もニキさんのところへ行こう。
腕の中で震えているのではない。そこは、くれぐれも間違えないでいただきたい。
少しばかり、安心して飲み直したいだけだ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回は、コンスコン隊の顛末と不死鳥連隊の本格的な集結、そしてクルスト・モーゼス博士との出会いを書きました。
カリスとクルストのニュータイプ論や、ユリウスの登場、完成しつつある不死鳥連隊など、印象に残ったところがあれば感想をいただけると嬉しいです。