機動戦士ガンダム 不死鳥戦記 作:だいたい大丈夫
その中にホワイトベースの姿を確認したカリスだったが、彼が真に警戒していたのは、別の艦隊が運ぶ謎のコンテナだった。
不死鳥連隊は、独自の判断で動き始める。
宇宙世紀〇〇七九年、十二月二十二日。
「その映像は残しておいてくれ。先に哨戒網の報告から始める」
箱の周りに、これだけの軍艦か。
俺でも、あそこまで丁重に運んでもらったことはない。中身に手足がついているなら、さぞ偉そうな降り方をするだろうな。
だが、そちらを眺めている前に、木馬の話を済ませねばならん。
「集まってくれたな。これより作戦を説明する。哨戒網からによれば、接近する連邦軍の先鋒は、あのホワイトベースを含めた艦隊とのことだ」
「ほう……。つくづく、因縁があるな。サイド6を出てから、またすぐに顔を合わせることになるとは」
「お前の顔を見せて、帰ってもらえないか、シャア」
「私の顔には、そこまでの効き目はないよ」
「そうか。では、今回はその因縁にはお引き取り願おう。木馬とまともにやり合うつもりはない」
仮面の下で、どんな顔をしているかね。
あの少年へ一発返したくなるのは、俺も同じだ。
目の前へ出てきたなら、何とかするつもりでもいる。
だが、わざわざ向こうの指定した場所まで会いに行くのは、少しばかり熱心すぎるだろう。
ブライト艦長も、俺たちに好かれたくて来たわけではあるまいしな。
「どういうこと? あんなに苦労して追撃してきた相手を、この大決戦でわざわざ見逃すつもり?」
「エターナ。あいつを追いかけている間に、こちらの後ろへ別の艦隊が来ても?」
「……別の艦隊?」
「あれはおそらく、敵の陽動だ。そうだな、エリス」
「ええ。木馬のいる第三艦隊の方向からは確かに強い気配を感じますが、それ以上に濃密な殺気をあちらの方角に感じます。そして高速偵察機を先行させた結果……ティアンム中将率いる第二艦隊を捕捉しました」
「両方の航路を出してくれ」
俺たちが木馬へ向かえば、ちょうど背中を見せることになるな。間にソロモンまで挟める。あちらの艦尾を追いかけている間に、要塞から帰ってこいと呼ばれるわけだ。
間に合わなければ、敵の場所へ誘われた俺が悪い。
間に合っても、戻るために使った推進剤は返ってこない。
「なるほど……。第三艦隊は派手な囮、陽動ですか。白いモビルスーツを擁する木馬は、敵の注意を引きつける囮としてはうってつけですからね」
「ドズル中将にも、その映像を送っておこう。木馬へ突撃する前にご覧いただけるといいが」
「すでに送信の手配をしています」
先に済ませてくれていたか。助かる。
こちらで同じ電文を作らせずに済むし、返答も早くなる。ドズル中将のお言葉を俺一人で聞かずに済めば、なおいい。
「それと、第二艦隊の輸送物を」
「多数のマゼランやサラミスの護衛下で、巨大なコンテナを大量に牽引しています。中身はまだ確認できていません」
また、この箱か。
縮めた映像では軍艦の間へ紛れるのに、拡大すると、ずっとこちらを見ていたような気がする。艦砲の影さえ見当たらんものから、目が離せない。
もう少し横から見たいな。
牽引している艦が動いてくれれば……駄目か。
「ふうん……。通常の補給物資……というわけではないだろうね。あんな前線へ突入する決戦部隊の真ん中に、わざわざ抱え込むなんて。……核ミサイルとか? 要塞ごと僕たちを吹き飛ばすつもりかい?」
ユリウスの口から出ると、ずいぶん手軽な品に聞こえるな。
あの大きさなら、何発入る。いや、数えたところで意味がないか。一発でも当たれば、この問題ごと片づけられる。
「南極条約で禁止されている兵器だ……と、教科書通りに綺麗事を返すわけにもいかんな。連邦軍が何を仕掛けてくるか分かったものじゃない」
「条約違反を覚悟してまで?」
「違反者が勝てば、後から立派な理由が出てくるさ。こちらがその説明を聞ける状態で残るかは別だがな」
連邦にも公国にも、文章の上手い人間はいる。俺の消し炭を前にしても、必要な犠牲と書くくらいはしてくれるだろう。
そんな有り難い仕事を増やしてやる気はない。
「宇宙は、核とは違う光だと言っているけどね。もっと冷たくて、無機質で、広大な熱の集積……みたいな声が聞こえるよ」
「……熱か?」
「うん。今、燃えているわけじゃないけど」
ジュナスの言葉を聞いてから、箱の輪郭が妙に白く見える。
映像の具合だろう。さっきから同じものを映しているのだから、急に変わるはずがない。何かが始まるような感じはする。
「核ではない、でいいんだな」
「そう聞こえるよ」
「その宇宙に、もう少し具体的に教えていただけると助かるんだが」
「君のことなら、もっとよく分かるんだけどね」
「俺は攻撃目標ではない。箱に集中してくれ」
ほかの連中の前でも、遠慮なくこれを言う。
先に打ち切るべきか。だが、肝心の箱については、こいつが一番何かを掴んでいそうでもある。
実に頼りになる男だ。できれば、もう少し仕事だけで頼りたい。
「近づかない方がいいか?」
「開いてからは、ね」
誰もまだ、中を見ていない。なのに、こいつはそう言う。
「開く前なら?」
「君は、そこで壊すつもりなんだね」
質問したのはこちらなのだが。
俺が何をしようとしているかは随分とよく分かるらしい。測定器で脳波が出ないから普通の人間だと、博士はまだ言い張るだろうか。
ぜひ、この男と二人きりで一日過ごしてから、もう一度測っていただきたい。
「ほかに何か聞こえたら、すぐ言え。俺の頭の中の話ではなく、あの箱の方だ」
「分かっているよ」
ああ、分かっているとも。
こちらが口にする前から、余計なところまで。
「カリス。第二艦隊を攻撃するつもりか」
「そのために集まってもらった、マーク」
「コンテナの正体が何であれ、敵の切り札であることに変わりはない。だから俺たちの手で直接叩く」
今なら、こちらから近づける。
向こうが何をするのか眺めるためだけに、待ってやる必要はない。
「不死鳥連隊はドズル中将の要塞守備命令には従わず、全艦艇と全MSで外縁から迂回、第二艦隊を急襲してそれを撃滅する。これが今回の作戦だ」
……返事がない。
命令の方か。相手の方か。
どちらも気になるなら、まず聞いてくれればいい。ここで黙ったまま、出撃してから違う場所へ向かわれても、俺にはその相談に乗れん。
「……私たち独立連隊の戦力だけで、連邦軍の主力艦隊の一つを正面から叩く、と……?」
「正面からなら、ここで全員を集めて決めることもないでしょう、シャリア大尉。俺が先に出て、全艦ついてこいと言えば済む」
「それでは損害が大きすぎます」
「ええ。ですから、そうしないために相談している」
言い方が悪かったか。
こちらの数が足りないことは、俺にも見えている。
「ここを回る。第三艦隊へ近づく必要はない。敵がこちらへ向き直る前に、コンテナへ届く位置を取りたい」
「……なるほど。ドズル中将の正面決戦を横目に、我々が敵主力を横合いから叩き潰して、連邦軍全体の士気を根底から挫く……か。悪くない策だ」
「気に入ってもらえたなら、木馬は忘れてくれ、シャア」
「君も気にしているのではないかね」
「気にはしているさ。だから、こちらから会いに行かずに済むようにしている」
アムロ君の腕前を、もう一度確かめたいわけではない。
今までの報告だけでも、十分に高く買っている。その値段に俺の機体まで上乗せしてやらなくても、評価を改めるつもりはない。
「先に第二艦隊を叩ければ、第三艦隊にも影響は出る。ガンダムがいくら強くても、あちらにいながら、この距離の艦を守ることはできん」
「向こうが引き返してきたら?」
ユリウスも、木馬が気になるか。
さっきの箱の方が、よほど大きいのだがな。こちらの目に映るものまで、あの少年一人に選ばせることはないだろう。
「その時は、こちらも進路を変える。追ってきたから止まって撃ち合わねばならん、という規則はない」
「ずっと逃げ回るつもりかい?」
「向こうが来るまでに、こちらの用を済ませるつもりだよ。俺はアムロ君を待つために出撃するのではないからな」
こちらへ来るために木馬が第三艦隊を離れれば、置いてきた艦は自分で身を守らねばならん。第二艦隊を助けようと急げば、着くまでに使うものも増える。
その上で俺と戦いたいと仰るなら、会う場所くらいは選ばせてもらおう。
「白いヤツだって永久には動けん。エネルギーも推進剤も有限だ。アムロ君の気合いで補給まで済むのなら、今頃は木馬の方を処分しているだろうよ」
「では、敵艦を優先するのですか」
「ええ、シャリア大尉。ガンダム以外にも、撃つものは大量にあります。わざわざ一番面倒な相手の前へ、順番に並ぶ必要はないでしょう」
「コンテナの周囲は、護衛が集中しているな」
「シャア、そこはお前に意見を聞きたい」
「まず、輸送物を狙うと見せる。守るために艦を寄せれば、別の方向が空く。実際に撃てるなら、もちろん撃つがね」
「先に護衛へ仕掛けて、その後ろから狙わせるか」
「逆でもいい。こちらの狙いを知れば、敵も動かざるを得まい」
あの箱を、どこまで大事にしているか。
艦を庇わせるほど惜しいなら、こちらにも撃つ相手を選ばせてくれる。捨てて逃げるなら、箱だけをいただけばいい。
その時になって急に惜しくなくなるような品を、ここまで運んできたとも思えんがな。
「牽引している艦も狙え。敵がコンテナを切り離したら、護衛艦を追うより、残った方を優先する」
「僕なら、見捨てるふりをして反撃を狙うけどね」
「結構だ、ユリウス。そのつもりで見ておけ」
見捨てたかどうか、お前が見てくれるなら助かる。
「気づいたら、まず報告だ。先に一人で追いかけて、こちらへ答え合わせをさせるな」
「信用がないなあ」
「信用していない相手に、敵の動きを見ろとは頼まんよ。お前が黙って飛んでいかないことまで、信用できるようにしてくれ」
俺の指示よりいい案を思いついたなら、聞かせればいい。
俺が耳を貸さなかった後で、好きなだけ不満を言え。まだ一言も話していないうちから、理解されない天才になっていただくのは早い。
「連隊長。エルメスの発進位置を決めたいのですが」
「ああ、ニキ少佐。母艦もこちらまで寄せる。ビットだけを遠くへ出すつもりはない」
「三機とも?」
「三機ともだ。ただし、疲労が強い時は回収を優先する。届くと言うだけで、限界まで使わせるな」
「直掩は残します」
「頼む。モビルスーツを全部出して身軽になりました、では帰る先が先に燃える」
「分かっています。収容時の援護も含めて組みます」
返事が早い。
そこへ甘えて、もう一つ二つ頼みたくなるな。出撃前に何か腹へ入れたいとか、艦橋へ戻る前に少しだけ顔を見たいとか。
……それは、ほかの連中がいなくなってからにしよう。
ここで頼めば聞いてくれるだろうが、その後、ユリウスに何を言われるかまで想像がつく。
「ふん。ガンダムのような手応えがある相手がいなさそうなのは、騎士としては甚だ残念ではあるが……」
「何、相手は連邦の誇る大艦隊だ。手応えなら数だけは大量にいるさ。食い放題だぞ、エルフ」
「それならば、先陣はもらおう」
この答えだけは、頼もしいな。
帰りまで同じ調子なら、言うことはない。敵の中へ行ったきり、まだ足りないと居残られるのはいただけないが。
「コンテナへ向かう部隊の前を空けてくれ。出てきた護衛は任せる」
「承知した」
「追撃は命令を待てよ。食い放題とは言ったが、全員の帰りを遅らせるまで食えとは言っていない」
「そこまで見境がないつもりはないぞ、カリス」
「それなら安心して任せられる」
ただ、強い奴を見つけたからと、横へ逸れられては困……いや、先に役目を渡しておけばいいか。エルフなら、任せた道を空けずに別の相手へ向かうことはあるまい。
「後ろから入る連中が通り切るまで、そこを押さえてくれ」
「任せておけ」
「カリス大佐。中身が核である可能性を残すのでしたら、近接攻撃は避けるべきでは?」
「ええ。コンテナへ密着する必要はありません。撃つ位置まで取れないなら、牽引している艦を先に叩きます」
「輸送物だけが残ることになりますが」
「そこで止まっていてくれるなら、ありがたい。敵の予定にまで付き合ってやることはありません」
得体の知れないものほど、後から触る方がいい。最初の一人がどうなったか見てからでも、勇気は十分に発揮できる。今回、その最初の一人をこちらから出す気はないが。
「エリス、偵察を続けられるか」
「交代機を出せます。接近して撮り直させますか?」
「いや、距離はそのままでいい。箱が開く、護衛が離れる、牽引を切る。そういう動きがあったら、すぐ報告させろ」
「了解しました」
「よし、わかった。ではみんな、聞いての通りだ。俺たちの役目は生き残って勝つことだ。木馬に無駄にこだわる必要はない。それぞれ、出撃までに自分の機体の整備には細心の注意を払うように!」
『了解!』
マークに締めてもらえて助かる。
俺が続けていたら、最後は全員へ小言を言う会になるところだ。もう、話すより先に確かめることがある。俺も整備班へ顔を出そう。
「カリス。要塞司令部への電文だが」
「ああ、マーク。こちらの攻撃予定も送っておけ」
「命令の変更を求めるのか?」
「行動の報告だ。許可を待つなら、まだ誰も出撃準備を始められん」
「戻れと言われたら?」
「その時に聞く。第二艦隊へ、代わりにどの部隊を出していただけるのか」
「出せる部隊があるなら、その方がいい。こちらも連携できる。ないのなら、今すぐ向かえる俺たちを止める理由はないだろう」
「そのまま書けと?」
「もう少し礼儀正しく頼む。俺に書かせるな」
親父なら、この程度の話でも相手の機嫌を取って通すのだろうか。
いや、先に別の誰かから言わせるか。俺が通信を開いた時には、閣下御自ら提案なさったことになっているかもしれん。
そこまで手を回す時間はないな。こちらは、聞かれる前に出てしまう方でいこう。
「ニキ少佐。各艦の準備状況は?」
「確認しています。揃い次第、艦橋へお呼びします」
「頼む。出せない機体があれば、今のうちに言わせてくれ」
数だけ立派に並んでいても、出撃できなければ格納庫の飾りだ。
動かんものは動かんと言ってもらいたい。整備班が俺の顔色を見て、直っていない機体を送り出す方がよほど高くつく。
俺の機嫌など、機体一機と比べれば安いものだ。食事を取って、ニキさんの顔を見れば大抵は戻る。部品まで同じように戻ってくれるわけではない。
「君は、あの輸送物がよほど気になるようだな」
「シャア。何か見落としがあったか?」
「いや。君がまだ見ているのでね」
……本当だ。
ほかの話をしている間も、目だけはそちらへ戻っている。
「中身が分かれば、もう少し話が早いんだが」
「ジュナスの言うことだけではなさそうだ」
「お前も俺の頭を覗く気か?」
「顔を見ているだけだよ」
便利な言い訳が、揃っていることだ。
何もないと言っても、納得すまい。こちらも、そこまで言い切れるほど鈍い感じではない。
「使うところを見てからでは、遅い。そんな気がする」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回は、ソロモン攻略戦を目前にした不死鳥連隊の作戦会議を書きました。
ホワイトベースとの再戦よりも第二艦隊への攻撃を優先するカリス。
その判断や、ジュナスの言葉、連隊の作戦内容などについて、感想をいただけると嬉しいです。