機動戦士ガンダム 不死鳥戦記   作:だいたい大丈夫

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ついに始まったソロモン攻略戦。

連邦軍第二艦隊への奇襲を敢行した不死鳥連隊は、敵の切り札を破壊するべく攻撃を開始する。

だが、いざ戦闘が始まると、カリスには思いもよらない問題が発生していた。


不死鳥、太陽を砕く

宇宙世紀〇〇七九年、十二月二十四日。

 

「緊急電報!! ソロモン要塞正面にて、連邦軍第三艦隊の先鋒より艦砲射撃を確認!! 守備隊と交戦状態に入ったとのことです!!」

 

来たな!

 

木馬に目を向けてくれるのはありがたいが、こちらまで忘れていてくれるか、ティアンム中将。もう少しだ。あと少し近づけば、あの箱へ手が届く。

 

……ん? 何をざわついている?

 

今の電報で? せっかくここまで回り込んだのに、挨拶だけして引き返してどうする。

 

「うろ……」

 

「うろたえるな。囮がいる以上、正面での交戦が先になることなど最初から当然のことだ。我々が横合いから敵主力を撃滅すれば、全体の形勢など瞬く間に覆る」

 

……お?

 

俺も、今、まさに、それを言おうとしていたのだが。

 

いや、結構! 静かになったし、言っていることも正しい! 副司令が頼もしいのは大変よいことだ。あの仮面も、こういう時には役に立つ。

仮面も俺より落ち着いて見えるのだから、不公平な装備ではあるがな!

 

よし。では、格納庫の連中を乗せよう。待機を解いて、発進準備を――。

 

「モビ……」

 

「第一および第二格納庫のモビルスーツ隊、待機を解除! 全員ただちにコクピットへ搭乗し、発進シークエンスへ入れ。いつでもカタパルトから飛び出せるように準備を急ぎなさい!!」

 

…………そうです。それです、ニキさん。

 

流石だなあ! 俺が言うより細かく、しかも速い! どこにも文句のつけようがない!

 

……だからといって、俺が「モビ」だけで終わっていいのか?

 

これでは、意味もなく口を開いただけではないか。せめて「モビルスーツ」まで言わせてくれれば、何について話そうとしていたかくらいは伝わるのに!

 

「光学照準器にて敵艦隊を完全捕捉!! 距離、二万二千!!」

 

おお、見えた!

 

あの艦の間を抜けばいい。回頭し始めた艦もあるが、まだ揃っていない。今のうちにマークを――。

 

『全機、カタパルトデッキへ接続完了! よし、モビルスーツ隊、発進するぞ!! カリス! シャア大佐! 本隊の出番をなくしてやるから覚悟して見ていろ!! マーク・ギルダー! トルネードガンダム、出るぞ!!』

 

よし、行け、マーク!

 

……行けと言う前に、行ったな。

 

機体が、あっという間に小さくなる。後続も詰まっていない。あれなら前へ出るまでに味方同士で進路を奪い合うこともなさそうだ。

 

実に頼もしい! 副長として百点だ!

 

ただ、本隊の出番をなくす前に、俺の出番がすでになくなりかけているのだが、そこは気にしてくれないのか!?

 

「敵前衛部隊と接敵しました!! 敵モビルスーツ部隊……ジム、およびボールの大群を確認!!」

 

出てくる、出てくる!

 

それだけ並べてくれれば、先に撃つ相手にも不自由しないな。だが、そのサラミスは回し方が悪いぞ。後ろの艦へ艦尾を押しつけてどうする。横へ避けたところで、隣も同じことを考えているではないか。

 

ふふ……いいところへ来た!

 

まだこちらへ向けられない砲口がある。そこへ全艦の火力を重ねれば――。

 

『アサルムおよび僚艦各艦、敵前衛は恐慌をきたしている!! ここは攻撃の手を緩めず一気に圧殺しますよ!! 全艦砲、最大出力で斉射用意……てぇぇぇぇっ!!!!』

 

…………。

 

今のは、まだ口に出してさえいなかったぞ。

 

ユリウス! そこまで先回りできるのなら、普段からもう少し従順であってくれてもよかろうに!

 

ああ、だが、いいところへ入った!

 

艦腹を見せていたサラミスを光条が貫く。爆発したところへ、もう一発。後ろの艦まで巻き込まれている。

 

撃ち方は容赦ないが、間違ってはいない。実際、俺も撃たせるつもりだった。そこは認める。認めるとも!

 

……俺の仕事を奪ったことまで、褒めてやる気にはなれんがな!

 

その火球の向こうで、白い面が増えていく。

 

あれは?

 

箱の側面が開いたのか。いや、一枚だけではない。隣も、その後ろも……ずいぶん広がるな。映像が眩しい。反射しているのか?

 

鏡。全部、鏡なのか!

 

その先にあるのはソロモンだ。太陽光を集め、要塞へぶつけるつもりか!

 

ははっ、なるほど! 核ではない! 条約の文言に触れずに焼き殺す方法を、よくもまあ考えついたものだな!

 

感心している場合ではないが!

 

あの距離なら、エルメスから届く。護衛が正面を塞いでいても、横や上から回せるはずだ。シャリア大尉へ――。

 

「エル……」

 

「エルメス隊各機! ビットによるオールレンジ攻撃を敢行し、敵コンテナおよび展開されたミラーらしき物体を最優先で破壊せよ!! 連邦は全戦力であれを守っている、敵の決戦兵器と思われる!!」

 

……………………。

 

大尉まで。大尉まで、俺より先に言ってくださるか!

 

正しい。狙うものも、使う部隊も、何一つ間違っていない。ここで止めるなど論外だ。むしろ急いでもらわねばならん!

 

だが、俺は!?

 

さっきから口の開け閉めしかしていないぞ! 艦橋の空気を吸うためだけに、専用の椅子を用意された覚えはないのだが!

 

「……なぁ、連隊長ってさっきからずっと一言も喋らず黙ってないか……?」

 

「うん……誰かが指示を出すたびに、小さくビクッと身体を動かすだけで、ずっと仏頂面で腕組みしてるよな……」

 

仏頂面にもなるだろうが! 何か言おうとするたび、ほかの誰かが全部言い終えているのだぞ! 俺がゆっくりしているのではない。周りが速い! 速すぎる!

 

……まずい。

 

あいつらから見れば、俺は何も喋らず、時折口を開き、何か言われると黙り込むだけの男か。

 

それでは無能な置物ではないか! 親父が値札だけ立派にして据えつけた飾り物だ!

 

いかん。これ以上黙っていては、俺の役職が家具になってしまう!

 

「に……ニキさん、俺も自分のトルネードガンダムで前線に出て指揮を……」

 

「なりません」

 

速い!!そこだけは、俺に最後まで言わせないという確固たる意思を感じる!

 

「この規模の艦隊戦において、最高指揮官が軽々しく前線へ飛び出すタイミングではありません。ご覧なさい、シャア大佐だって冷静にこの艦橋におられるでしょう」

 

あちらは仕事をしているからでしょう!?

 

さっき艦橋を静かにさせたのも、俺ではなくシャアだ! あいつがここにいるのは大いに結構だが、俺はあいつの横で見物するためにいるのではないぞ!

 

「し………しかしだな、ニキさん……!」

 

……あっ。

 

頭に手が。

 

近い。ニキさんの顔が近い。両側から抱えられると、その、言い返すには少しばかり目のやり場が……。

 

いや! 今は違う!

 

ここは俺の部屋ではない! 皆がいる! さっき俺を置物扱いした連中が、揃ってこちらを見ている!!

 

「カリス様……激しい砲火を前にして、恐ろしいのはよくわかります。ですが、どうか落ち着いてください。貴方のその知恵と存在は、この連隊に絶対に必要不可欠なのですから」

 

違う、恐怖で震えてるんじゃないんだニキさん……!

 

俺は自分の仕事を探しているだけだ! 立派なところへ仕舞い込まれては、ますます出番がなくなるではないか!

 

……ああ、だが、手が温かい。

 

そんなに優しく撫でられると、まあいいかと思ってしまうだろう。俺がここにいて、皆が勝ってくれるなら、それで……。

 

違ぁう!!

 

よくない! 今はよくない! せめて人のいないところでお願いしたい!

 

「……おい見ろよ、やっぱりただの甘やかされたお坊ちゃんじゃないか……」

 

「あの美人艦長、やっぱり噂通り大佐の愛人兼お世話係らしいぜ……」

 

「まあ副長や艦長たちが飛び抜けて有能だから勝ててるけど、これ完全に貴族の道楽だな……」

 

ぐっ……!

 

演習で何のためにビットを避けたと思っている! お前たちが一機を相手に苦労しているところへ、俺は三機まとめて付き合ったのだぞ!!

 

それが、頭を撫でられただけで帳消しか!?

 

随分と厳しい採点だな! あちらで何をやろうと、ここでニキさんに撫でられたら零点になるのか!

 

……いや、撫でるのをやめろという意味ではない。

 

違う! そうではなくて! ああ、もう、言い返したいことが渋滞している!

 

「……いや、それだけじゃないぜ。確かな筋の情報筋から聞いたんだが、あのお坊ちゃん連隊長、本国で12歳のちっこい女の子に公開告白した筋金入りのロリコンらしいぞ……」

 

「は……マジかよ、超絶ロリコンかよ……」

 

「しかも、もう完全にその子に尻に敷かれてて、パンツをもらって匂いをかいで家宝にするって大喜びしたらしいぞ……」

 

くそォォォォッ!!

 

誰だ! 誰が漏らした!?

 

そんな……根も葉もな………………くもない極秘情報を、戦線のど真ん中にまで漏洩させた大馬鹿野郎はッッ!!!

 

そこだけ妙に正確なのが、何より性質が悪い!! どうしてこの瞬間に、この場所で、その話になるのだ!!

 

ニキさん、撫でながら聞かないでくれ!

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

「各機! 敵の数に圧されるな、フォーメーションを絶対に崩すなよ!!」

 

盾を掲げたジムが、マークの射線へ割り込んだ。

 

腕部ガトリングの弾が盾を叩く。マークは噴射を絞り、敵が盾の陰からライフルを出す瞬間に、機体を下へ滑らせた。腹部から拡散ビームを浴びせ、その脇を抜ける。

 

振り返る前に、次の照準警報が鳴った。

 

正面にも、上にもいる。撃ち込んだ先から、新しい機体が出てくる。マークは味方の位置を確かめ、突き出た一機へ火線を集中させた。

 

「ふん、数ばかり揃えていても、正面から勝てるような奴は一人もいないようだな!!」

 

砲口を向けてきたボールが三機、マークの上方を占めた。散開しようと噴射する一機へ、横からビームが突き刺さる。

 

「ひとつ…………ふたつ……………みっつ!!」

 

二機目の球体が割れ、最後の一機も逃げる途中で光に呑まれた。エリスのトルネードガンダムは、その火球を見届けることなく次へ照準を向けている。

 

「流石だなエリス……敵の未来位置が視えている以上、当然の射撃精度というわけか」

 

マークはエリス機の下を抜け、こちらへ寄せられる火線を避けた。

 

逃げる先へ、先に撃つ。自分にもできる。だが、あれほど迷いなく銃口を動かし続けることはできない。敵の噴射を待たずに引き金を引き、撃った時にはもう次を見ている。

 

横へ出かけたリック・ドムが、ジムのビームを避けて急制動をかけた。そのまま敵を追おうとした機体を、ジュナスの声が止める。

 

「リック・ドム隊、焦って突っ込まないで。落ち着いて隊列を維持して。いくら装甲が厚くても、ジムのビームを直撃で食らえば一瞬で蒸発しちゃうよ。焦らずに、面で空間を制圧するんだ」

 

一機が戻ると、隣も間隔を取り直した。

 

バズーカの砲弾が横へ広がる。マークの側へ流れかけたジムも、そちらへ引き戻されていった。

 

ジュナスへ任せた側は崩れない。マークは照準を前へ戻し、敵の防御が薄くなったところへ機体を押し込む。

 

「ぬおおおおおおッッ!! 良いか貴様らッ!! ゲルググの真骨頂とは、圧倒的な推力による機動力、実体弾を弾く巨大な盾、そしてこのビーム・ナギナタの斬撃にあるのだッッ!!! 誇り高き騎士の突撃、私に続けぇぇぇぇい!!!!」

 

「シュルツ大尉!! どこまでもお供いたしますッッ!!」

 

ゲルググ隊が、マークの側方を抜けていく。

 

その先頭で、エルフリーデのトルネードガンダムが敵の盾を蹴り上げた。足の甲から伸びた刃が盾と腕をまとめて断ち、膝を曲げたところで、さらに別の光刃が敵の胴へ食い込む。

 

マークは、その膝を見た。

 

足だけではなかったのか。

 

腕だけでなく脚から伸びた刃が使われる。ジムがサーベルを差し込もうとするたび、別の箇所から斬り返された。

 

機体の四肢が光を引いて回る。その外側を、ゲルググたちはきっちり空けていた。

 

あの突撃についていく連中も、たいしたものだ。

マークは苦笑しかけ、迫る射線を避けるために噴射を強めた。

 

「あははははははッッ!! 落ちろ!! 落ちろ落ちろ落ちろォォッ!! 落ちレレレレレレェェェェッッ!!!!」

 

赤い射線が、味方の前を横切った。

 

マリアの機体がジムの一群へ突っ込む。左右へ火線を振り回しながら、敵の間へ身体をねじ込むように進んでいく。

 

速い。だが、出すぎだ。

 

ニキから聞かされた薬の量が、その動きを一瞬鈍らせる。

本人が報告している分だけではない。日に日に、増えている。

 

今の声を聞けば、カリスも気づくのではないか。

 

「はあぁぁぁッッ!! この野郎ッ!! マリア姉さん、お願いだから一人で突出しないでッッ!!」

 

シェルドが、マリア機の背後へ割り込んだ。

 

ジムのサーベルを弾く。その衝撃で敵の腕が開いたところへ銃口を押し込み、胴体を撃ち抜く。爆発を避けて噴射した時には、もうマリアの進路へ向き直っていた。

 

マリアが上へ抜けると、シェルドも上へ追う。横から来る一機を撃ち、盾を差し出して、もう一機を近づけない。

 

マークは二機の間へ入ろうとした敵を撃った。

 

追いついている。

 

マリアが次に向かう方へ、シェルドも間に合っている。

逃げるだけではない。マリアの背後を空けずに、こちらの隊列へ近づけようとしていた。

 

以前のシェルドなら、あそこで何度、助けを求めただろうか。

 

後方から、太いビームが抜けた。

 

敵の頭上を越え、その奥のマゼランへ届く。艦橋を失った艦の上部に爆発が続き、そこから撃たれていた砲火が止まった。

 

エターナの射線だった。

 

マークは敵の護衛位置を見て、自機を横へ振った。次の射撃を妨げないよう、味方もそこを空けていく。

 

「エターナ!! いい仕事だ!! 全機、さらに前進しろ!! このまま敵主力を殲滅するぞ!! 我々の戦果は歴史の教科書に太字で残るぞ!! 気合いを入れ直せッ!!」

 

「はっ!!!!!」

 

その前進を追い越して、小さな光が散った。

 

ビットが、鏡の群れへ向かっていく。

 

迎え撃つジムの正面から一機が外れ、上へ回る。敵がそちらへ銃口を向けた時には、下から来た別のビットが鏡面を撃っていた。

 

大きな一枚が割れた。

 

砕けた部分が隣の面へ衝突し、連なっていた反射光が崩れる。その奥でも、左右でも、別の鏡面が次々に穴を開けられていく。

 

ララァ、クスコ、マリオン。三機のエルメスから出たビットが、敵の視界を三方向へ引き裂いている。

 

「よし……!! 状況はどうなっている、戦果を報告しろ!!」

 

『はっ! 敵の巨大ミラー群、およそ七割の破壊に成功しています!!』

 

「よし、このまま残存する鏡面もすべて叩き割――ッ!?」

 

首筋が粟立った。

何かが来る。照準警報とは違う。正面に残った鏡が、まだ角度を変えている。

 

あれを撃たねば。

違う。避けろ。

 

「全機、直ちに最大推力で軸線を離脱しろォォォォッッ!!!!」

 

白い光が、正面を埋めた。

 

警報が重なり、減光した画面からも色が失われる。マークは操縦桿を倒したまま、足を踏み込んだ。自機がどこまで抜けたか、画面では分からない。

 

味方の声が一つ、途中で切れた。

 

もう一つ。

 

「くっ…………!! 残った鏡だけで照射を強行してきたというのか……!? 被害状況を報告しろ!!」

 

『ぐ……前衛のモビルスーツ隊、二機が光軸に巻き込まれ消滅!! 本隊艦隊への直撃は回避、損害なしです!!』

 

「……すまない、俺の判断が遅れた……。だが、これで敵の奥の手は潰えたぞ! いくぞ野郎ども、敵旗艦へ突入だ!!」

 

敵の護衛が、奥の大型艦へ戻ろうとしていた。

 

マークはそちらへ機首を向ける。握り直した操縦桿が、手袋越しに硬かった。

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

見えん。

 

白いままだ。減光をかけて、これか。こちらを狙ったわけではないはずだが、艦隊は無事なのか。

 

……ニキさんの声が聞こえる。応答もある。

 

よし。まず、こちらは残っている。

 

だが、今の光はどこへ抜けた!?

 

「ソロ……」

 

「ソロモンへの被害はどうなっているかッ!!?」

 

ああ、そこだ! それを早く!

 

今は俺より先でもいい! ルナ、返事をくれ。司令部と港は、まだ残っているんだろうな!?

 

「は、はい!! 観測班より入電!! 要塞正面への熱線照射を確認するも、威力が大幅に減衰していたため、ソロモン側の被害は軽微!! 宇宙港および内部の重要司令設備に被害はありません!!」

 

よし……!

 

残った! あの鏡を全部並べさせなかった分は、確かに効いた!

 

「よし!! 敵の切り札は完全に失敗したぞ! このまま第二艦隊を包囲し、一気に畳み掛けろ!!」

 

……………………。

 

もういっそ、俺が何か一文字言ったら、続きはシャアが担当することにしたらどうだ。

……いや、今はふざけている場合ではない。

 

「報告!! マーク中佐らの突入部隊が、敵第二艦隊の旗艦タイタンを拿捕しました!! 連邦軍司令官ティアンム中将を拘束するため、白兵部隊が艦橋へ突入しましたが……中将は直前に拳銃で自決したとのことです!!」

 

取ったか!

 

……中将は、死んだのか。

 

実に惜しいな。生きたままこちらへ迎えられれば、ドズル中将も文句のつけようがなかっただろうに。連邦との交渉へ出すにしても、これ以上ない名前だった。

 

最後まで、こちらの好きにはさせてくれんか。

 

敵ながら見事だ、と言いたいところだが、俺としては生きていてほしかったよ、ティアンム中将。武人としての最期より、捕虜としての値段を先に考えてしまう辺りは、どうか諦めていただきたい。

 

……さて。

 

今度こそ、俺だ。

 

皆が勝報を聞いた。敵旗艦も落ちた。次の行き先を命じるなら、ここしかない!

 

「……よくやってくれた、我が不死鳥連隊の勝利だ!! だが、戦いはまだ終わっていない!! 各艦および各MSは直ちに最低限の補給と部隊再編を行い、反転しろ!! 我らはこれより、正面で戦うソロモンのドズル中将の救援へと向かう!!!」

 

言えた!!

 

最初から最後まで! 誰にも遮られず、全部だ!

 

どうだ! これが連隊長の号令だぞ! 勝利を宣し、次の戦場を示し、補給まで忘れない! 

 

……うむ。

 

…………うむ?

 

反応が、薄くないか?

 

返事はある。命令も伝わっている。だが、こう、もう少しあってもよいのではないか。よし、次も行くぞという、そういう勢いが!

 

「……おいおい、戦闘中は一言も指示出さなかったくせにさ……」

 

「全部終わって美味しいところだけ、最後に出てきて持っていこうとするよな……」

 

「あんな号令、誰だって言えるよなぁ……?」

 

くっ……!!

 

貴様ら! さっきから俺の声は聞こえていないのに、聞かせる声だけは達者だな!!

 

では、代わってやろうか!? ドズル中将へ逆らうところから、やっていただこうじゃないか! 

 

さぞ気持ちがよいだろうな! 責任もなく、口だけ出せるなら!!

 

……駄目だ。言うな。

 

今、振り向いて怒鳴れば、最後の最後に部下へ八つ当たりしたという話までつく。

 

「まあまあ、カリス。兵士たちに恐れられる冷酷な司令官よりも、これくらい親しまれていた方が、軍の統率としては良いじゃないか」

 

お前、笑っているな!? さっきから何もかも先に言っておいて、最後は俺を宥める役まで持っていくのか!

 

「シャア……お前にはこれが、部下から『親しまれている』ように見えるのか!? どう見てもただ侮られているだけだろうがッッ!!!」

 

ああ、もう!

 

次こそは一番に言ってやる。艦隊が反転し、木馬が見えて、全機を出す時には、誰より先に俺が――。

 

……いや、待て。

 

俺が言うまで待たせて、一機でも余計に撃たれては本末転倒ではないか。

 

くそっ! 優秀な部下を持つというのは、こんなに口惜しいことなのか!!




ここまで読んでいただきありがとうございます。

今回は、不死鳥連隊による第二艦隊への奇襲と、ソーラ・システムを巡る戦いを書きました。

大戦果を挙げる不死鳥連隊ですが、肝心のカリスは優秀すぎる部下たちに出番を奪われっぱなし。

戦闘の展開や各隊員の活躍、カリスの受難など、印象に残った場面があれば感想をいただけると嬉しいです。

トルネードガンダムエルフリーデ仕様

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