機動戦士ガンダム 不死鳥戦記 作:だいたい大丈夫
新たな隊員を迎え、ガルマ・ザビの期待を背負った彼らは、カリフォルニア・ベース攻略作戦へ参加することになる。
だが、宇宙での勝利に慣れた不死鳥隊を待っていたのは、戦車と歩兵が牙を剥く、泥臭い地上の戦場だった。
エターナ
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地球降下作戦。
プロパガンダ映像で耳にタコができるほど聞いた単語だが、いざ自分がその渦中に放り込まれるとなれば話は別だ。
公国軍上層部が立てた侵攻スケジュールは、物量と計画性の暴力としか言いようがない。
三月一日の第一次降下作戦で地上の重要拠点を力任せに押さえ込み、三月四日には資源採掘部隊が大量の重機を抱えて地表へ降りていく。そして三月十一日、俺たち第二次降下部隊が大気圏の摩擦熱を気合いで抜けて突入した。テレビの前の本国市民は大喜びだったろうが、現場の苦労を少しは考えてほしいものだ。
で、俺は今、待ちに待った地球の地表に立っている。
ぶっちゃけ、居心地は最悪だ! 愛機ザクⅡは陸戦仕様のJ型に改修され、フロートニック家の財力で足回りの防塵処理も完璧に仕上がっている。スペック面は文句なしだ。
だが問題は機体じゃなく、俺自身の肉体の方にある。俺にとって、地球の『常時1Gの重力』という目に見えない枷は凶悪すぎる。ただ立っているだけで全身の筋肉が下へ引っ張られ、シートに座っているだけでも内臓が下にずり落ちていくような不快な圧迫感が絶え間なく襲ってくる。寿命がマッハで削れていくぞこれ。
◇
「カリス様。地上という場所を、どうか宇宙の延長線だと思わないでください。歩兵が担ぐ対戦車ミサイルや、時代遅れの旧式な戦車が放つ実弾の砲火すら、モビルスーツにとっては十分に致命傷になり得る脅威になります。くれぐれも、ルウムの戦いで得た宇宙での余韻に任せて、油断なさらぬようお願いいたします」
降下前は、忠告を頭では理解しているつもりだった。だけど実際に地面を踏みしめ、自分の体が重力というストレスに悲鳴を上げている今になって、その言葉がリアルに身に染みている。
宇宙空間ならミサイルなんてアンバック機動でひょいと避ければ済む。
だけど、この重力下じゃ自重を支えるだけでバーニアの綿密な計算がいるし、地面の凹凸に足を取られれば格好の的だ。
中佐の言う通り、地上はモビルスーツにとって無敵の楽園なんかじゃない。安全地帯なんてどこにもない無理ゲーだ。
で、そんな無理ゲー環境の地球へ一緒に降りてきた我がフロートニック隊。いや、軍の広報が勝手に『不死鳥隊』なんていう痛すぎる名前で呼び始めた我が部隊の面々だが。
マーク、エリス、エターナの三人はルウムから引き続き直衛として健在だ。気心も知れているし操縦技術も一級品だから心強い。マークの軽口もエリスの過保護もエターナのからかいも、この過酷な地上ではある意味で清涼剤になっている。それに前回、俺の財布事情や性癖に悪意のない痛烈な正論ツッコミを入れてくれた真面目系エリートのジュナス少尉もいる。
ここに加えて今回はなんと、ルウムの地獄を生き抜いたという三人の新任士官が合流することになった。
戦艦を沈めまくった我が隊の勇名にあやかり、上層部が『若き精鋭を集めて強力なプロパガンダ部隊を作ろう』と画策した結果らしい。ルウムの生き残りと聞けば、歴戦の戦闘狂を想像するだろう。俺だってどんな猛者が来るのかと身構えていた。
だけど、目の前に広がる光景は、俺の妄想を木端微塵に打ち砕くものだった。
◇
強風で土煙が舞う過酷なロケーションの中、実家が手配した最新の陸戦仕様ザクⅡがズラリと並んでいる。
その足元で、俺の前に並んでいるのが噂の新人三人組だ。体に馴染んでいない真新しい軍服で、直立不動の敬礼を捧げている。
「第二宇宙艦隊所属、シェルド・フォーリー少尉です!この度、ルウムでの武勲高きフロートニック少佐の部隊に配属されることとなり、誠に光栄に存じます!自分、全力で隊長のお役に立てるよう、身を粉にして働きます!」
十五歳。俺より年下で、敬礼する手が小刻みに震えている。見てるこっちがハラハラするわ!
「あ、あの……マリア・オーエンス少尉です!ルウムの時は後方での通信サポートがメインだったんですけど、今回はモビルスーツのパイロットとして配属されました。ええと、その……が、頑張ります!足手まといにならないように、一生懸命ついていきます!」
十七歳。戦場に連れてくるにはベタすぎるドジっ子属性のオーラが漂っていて、ザクの操縦桿を握らせて本当に大丈夫なのかと不安しかない。
「突撃機動軍所属、エルフリーデ・シュルツ少尉であります!カリス・ジークフリード・フロートニック少佐の、ルウムにおける神がかった戦いぶりは本国にまで轟いておりました!このエルフリーデ、本日よりこの身を隊長の鋭き剣とし、公国の大義と隊長のために、その命をすべて捧げて戦い抜く所存であります!」
十八歳。やたらと騎士道精神を拗らせたカタブツキャラだ。俺を見つめる瞳にキラキラした崇拝の光が宿っていて、エリスとは違うベクトルで重たいぞ。
……冗談だろ。ルウムの過酷な生き残りっていうからどんな猛者が来るのかと思えば。緊張で声が裏返る気弱少年、泣き出しそうなドジっ子、騎士道精神を拗らせたカタブツ少女。アニメの初期パーティかよ!個性が強すぎるだろ!我が部隊はいつから属性盛り盛りのキャラを受け入れる施設になったんだ。
本当にこれでルウムを生き残ってきたのか?
「いやあ、カリス少佐。これはまた、ずいぶんと賑やかで可愛らしい新兵さんたちが補充されましたねぇ。少佐の好みに合わせて、軍の上層部がわざわざ若い女の子を多めに配備してくれたんじゃないですか?ほら、エルフリーデ少尉なんて、少佐に命を捧げるって言ってますよ。良かったじゃないですか、モテモテで」
「マーク大尉、お前は後でザクのスコープを素手で百回磨く刑に処すからな。俺の個人的な趣味嗜好を、新兵歓迎の場で邪推するんじゃない。俺はただ、部隊の生存率を心配しているだけだ。こんな子供たちを最前線に立たせて、もしものことがあったら寝覚めが悪いだろ」
「シェルド少尉、マリア少尉、エルフリーデ少尉。あなたたちがどのような経緯でこの部隊に配属されたかは知りませんが、我が不死鳥隊において、カリス様のお体に傷一つでもつけるような不手際があれば、私がその場であなたたちの機体のコックピットをハッチごと溶接して、二度と外に出られないようにしてあげますからね。カリス様へのお仕えの精神を、地上の戦場の中でたっぷりと叩き込んであげます」
エリスの放つ過激すぎる警告に、シェルドとマリアがヒッと悲鳴を上げて身を縮める。エルフリーデだけは「素晴らしいお覚悟です、エリス中尉!」となぜか感銘を受けているのがさらにタチが悪い。カオス空間かよ。
「ほらほら、エリスちゃんも新入りをあんまり脅さないの。怖がってザクの操縦桿を逆に引いちゃうかもしれないじゃない。それより少佐、こんな可愛い子たちが入ってきたんだから、歓迎の意味を込めて、今夜は盛大にご馳走でも奮発してくれないかしら?ほら、実家からの仕送りで、極上の肉とか届いてるんでしょう?」
「肉、か。確かに、地上の最初の戦闘を前に、みんなで美味いもんを食って英気を養うのは理にかなった作戦だな。よし、新兵歓迎会を兼ねて、今夜は特製の焼肉パーティーと洒落込もうじゃないか。実家から送らせたグラナダ産の高級牛の冷凍肉が、保冷コンテナに山ほど眠っているからな。残さず平らげて、地上の重力なんて撥ね退けるだけのスタミナをつけるんだ!」
俺の提案に、シェルドとマリアの顔が一気に明るくなる。
「えっ、焼き肉ですか!?しかもグラナダ産の高級牛……!自分、宇宙にいる時は合成肉しか食べたことがなかったので、本物の肉なんて夢のようです!」
「わぁ、焼き肉……!私、地上の野菜とかも一緒に焼いて食べたいです!隊長、ありがとうございます!」
「少佐の温かいお心遣い、痛く感銘いたしました!このエルフリーデ、その肉を血肉に変え、明日の戦場では必ずや敵の戦車を十両は撃破してみせます!」
エルフリーデが一人だけ物騒な決意を語っているが、まあ部隊の士気が上がったなら結果オーライだ。
◇
歓迎会の約束を交わした数時間後、俺たちは基地の中心にある作戦ブリーフィング用の巨大テントへ移動していた。
「よし、全員集まったな。これから、我が不死鳥隊が地球で最初に行う、大規模な作戦のブリーフィングを始める。よく聞いてくれ」
「現在、公国軍が地上で展開している大戦略の主眼は、この北米大陸の広大な穀倉地域、および主要な軍事拠点をに制圧し、連邦の継戦能力を叩き潰すことにある。そして俺たちが参加を命じられたのは、北米最大の連邦軍軍事施設であり、重要拠点中の重要拠点、すなわち『カリフォルニア・ベース』の攻略戦だ」
そこを落とせば、海軍基地や航空宇宙施設に至るまで、すべての利権がジオンのものになる。実家にとっても絶対に手に入れたい最上級の獲物だ。
「どうやら今回の攻略戦は、我が部隊単独での突撃ではなく、上層部が新規に結成した、プロフェッショナルを集めた特殊部隊……『闇夜のフェンリル隊』との合同任務になるようだ。奴らは夜間戦闘やゲリラ戦において、非常に高い評価を得ている猛者たちらしい。だが、俺たちだってルウムを生き抜いた誇りがある。不死鳥隊の勇名をこの地上の戦場にも轟かせ、新参のフェンリル隊の奴らに後れを取るんじゃないぞ!」
「はい!!」
気合の入った良い返事だ。これなら地上の慣れない重力戦であっても戦っていける確信が持てる。
その時だった。
テントの入り口の幕が勢いよく開く。
逆光の中に浮かび上がったのは、軍服にシワ一つ、ホコリ一つすらついていない完璧な美しさを維持した青年だ。どんな洗剤使ってるんだよ。
「地球方面軍司令官、ガルマ・ザビ大佐だ。ブリーフィング中、突然驚かせてすまないね、諸君」
プロパガンダ番組からそのまま飛び出してきたかのような極上の爽やかな微笑みを浮かべながら、テントの中へ歩み寄ってくる。背後には護衛の将校たちが付き従っている。
全員が慌ててテーブルから離れ、最敬礼の姿勢をとる。
「ガルマ大佐!侵攻軍総司令官自らのご視察、フロートニック隊一同、心より光栄に存じます!」
挨拶を述べると、大佐は「楽にしてくれ、少佐」と言って優しく手を振り、緊張を解いてくれる。
「ルウム宙域において、士官学校の教育を経ずして戦艦六隻を単機で撃沈せしめたという我が公国の若き至宝、フロートニック少佐。そして、その精鋭たる諸君ら『不死鳥隊』と、こうして陣営を共にし、戦うことができること、私は一人の指揮官として、そしてザビ家の一員として、心から嬉しく、そして頼もしく思っているよ。この地球におけるジオンの未来は、まさに君たちのその双肩にかかっていると言っても過言ではない。カリフォルニア・ベースの攻略、大いに期待させてもらうよ。頼むぞ、諸君!」
一人一人の目をしっかりと見つめながら、熱のこもった声で語りかける。その言葉には、お偉いさんがよく使う中身のない建前や政治的な計算といったニュアンスは一切ない。
本気でジオンの正義と兵士たちの力を信じている。その瞳は一点の曇りもないほど真っ直ぐで純粋だ。
……こういう誰も疑うことを知らない、育ちの良い真っ直ぐすぎる奴ってのは、正直言って嫌いじゃない。
本気で国のためだと信じ込んでいる、ある意味で可哀想なくらい綺麗な瞳だ。
よし、これだけ信頼されてるんだ、やってやりますかね!
「はっ!ガルマ大佐のその気高き御心に、我が不死鳥隊、必ずやカリフォルニア・ベースの陥落という戦果をもってお応えしてみせます!」
大佐の姿が見えなくなった後、大きく息を吐き出してマークを振り返る。
「……なぁ、マーク。ガルマ大佐、本当に良い人だよな」
「ええ、本当に。お育ちが良すぎて、こっちの心が洗われるくらいですよ。でも少佐、ああいう綺麗な人ほど、戦場という現実の中では、誰よりも早く足元を掬われてしまうもんですけどね」
「わかっているさ。だからこそ、俺たちが地上の戦闘で圧倒的な戦果を上げて、ガルマ大佐の地位を盤石なものにしておく必要があるんだ。……よし、作戦の詳細は頭に入ったな!今夜は約束通り、最高級グラナダ牛の焼肉パーティーだ!新兵ども、肉を焦がさずに食う訓練から始めるぞ!」
◇◇
三月十二日。
俺たち不死鳥隊の八機のJ型ザクは、強烈な1Gの重力に足を取られながら土煙を上げて進んでいる。操縦桿から伝わるゴツゴツした感触は、宇宙育ちの俺には新鮮すぎて不快指数マックスだ!
シミュレーションじゃ、モビルスーツの機動力の前に連邦軍なんて瞬殺の予定だった。本国のプロパガンダ番組でも「戦車や歩兵なんてザクの敵じゃない!」って面白おかしく放送してたよな!?
現実はそんな甘口じゃなかった! 連邦軍の防衛戦力、ガチの組織抵抗すぎて次元が違うんですけど!?
地平線を埋め尽くす61式戦車の二連装砲塔が一斉に火を噴く! 凄まじい初速で飛んでくる百五十五ミリ実弾が、尋常じゃない衝撃音でザクの分厚い装甲をゴリゴリ削ってくる!
それだけじゃない。塹壕や岩陰に隠れた歩兵たちが、対戦車ミサイルを雨あられと撃ち込んでくるんだよ! ミノフスキー粒子下だっていうのに、視覚誘導や有線誘導でザクの関節部や動力パイプの急所をピンポイントで狙ってきやがる! 連邦の歩兵、エイム力高すぎだろ!
「全機、慌てるな!陣形を崩すんじゃないぞ!火力を集中して一機ずつ確実に潰していけ!いいか、お前たち、宇宙の戦闘とは違うんだ!地上戦では、いくら高度をとったところで『下』へは逃げられないんだぞ!三次元の立体機動に頼るいつもの悪い癖を、今すぐ頭から叩き落とせ!」
宇宙なら下方にスラスターを吹かして一気に離脱できる。だけど、この地球には絶対的な地面が存在するんだ! ジャンプしたって重力で同じ場所に落ちてくるから、ただの空中の的になるだけ! この見えない枷のせいで、思った通りの回避運動が全然できない!
『わかってますよ!!敵の戦車、一両撃破!!……って、きゃあああ!!ちょっと待って、左の岩陰からも別の戦車が来てるんですけどー!!』
マリアのザクがマシンガンを乱射して戦車を爆発させたと思ったら、秒で悲鳴を回線に響かせる! 死角から、もう一両の61式戦車が砲塔を急速旋回させてるじゃないか!
『マリア姉さん!!危ないから後ろに下がって!このっ、僕の目の前でチョロチョロするなァァッ!!』
すかさずシェルドが猛スピードで前に飛び出してきた! マリアの機体を庇って、戦車に至近距離からマシンガンを連続掃射!
戦車の上面装甲をハチの巣にして大爆発! シェルドの奴、気弱少年のくせにマリアのことになると妙に男気スイッチ入るな!
『ええい、鬱陶しいわ!このヒート・ホークは、リーチが短すぎてすごく使いにくい!!もっとこう、バサッと一太刀で一網打尽にできるような剣とかないのか、剣は!!私はモビルスーツサイズの両刃のロングソードが欲しい、技術部は何をやってる!!』
エルフリーデのザクが、ヒート・ホークをブンブン振り回して不満を爆発させてる! 敵が小さすぎて斧の刃が当たらないって、お前はファンタジーRPGの戦士か!
『そんな注文は、俺じゃなくて、本国のエリート技術部の偉いさんたちに直訴してくれよ!!今は手元にあるもので戦うしかないんだからさ!ほらよっと!』
マークのザクが、眼前に迫った戦車をサッカーボールみたいに強烈なキックで蹴り飛ばした! 数十トンの鉄の塊がゴロゴロ転がって大爆発! マークの地上適応力、どうなってんだよ!
おいおい、大丈夫かよ、うちの新入り部隊! さっきから会話が全然噛み合ってないぞ! 本当に精鋭か!? ただの運極素人集団じゃないだろうな!?
だが……俺たちは操縦スキル以前に、作戦指揮上の致命的な大ポカをやらかしていた。
俺たち不死鳥隊は、実力への過信と新結成の『闇夜のフェンリル隊』への対抗心から、連携をガン無視して連邦の防衛ラインに単独突撃してしまったんだ!
結果、どうなったか。
連邦軍のヘイトが、一番目立っている我が不死鳥隊の八機に百パーセント集中しやがった!
連邦軍が全火力をこっちに投入してきたせいで、足止めどころか四方八方からの激しい砲火の檻に完全ロックオンされたってわけだ。
皮肉なことに、俺たちが身を挺してヘイトを稼ぎまくったおかげで、本来のルートを通っていたフェンリル隊の前からは敵が綺麗に消え失せたらしい。奴ら、手薄なルートを鼻歌交じりで突破して、今頃は基地へ悠々と進軍してるはずだ!
◇◇
戦闘開始からどれくらい経った?
ここは荒野のど真ん中に切り立つ岩山の狭間。
連邦の物量の前に、俺たちは弾薬を綺麗に撃ち尽くしてしまった!
動く鉄の標的と化したザクを岩山の陰で円陣に並べて盾にし、俺たちはハッチを開けて外へ這い出した。手にあるのは、コックピットから引っ張り出した気休めのアサルトライフルだけ。白兵戦を強いられるって、どんな罰ゲームだよ!
「くそっ!なんで最新鋭エース部隊であるはずの俺たちが、こんな状況でライフルなんて撃ち合ってなきゃいけないんだよ!!」
岩陰から身を乗り出し、迫りくる歩兵部隊に向けてヤケクソでトリガーを引く!
乾いた発射音が木霊するが、スコープ越しの敵の数は一向に減る気配がない!
『そんなの決まっているじゃないですか、少佐。あなたが調子に乗って、突出した結果ですよ。自業自得、因果応報って言葉、宇宙にはなかったかしら?まあ、幸いなことにザクの装甲が厚いおかげで、今のところ誰もやられてはいませんし……。ふふっ、これでまた一人、ビンゴ』
隣の岩陰から、エターナが極めて冷静なトーンで通信を入れてくる。ライフルのスコープを覗き込みながら、精密機械みたいな正確さで一人ずつ狙撃していく! トリガーを引くたびに敵の進軍が止まるって、この人、モビルスーツ降りてもチート級のスナイパーかよ!
『本当に喜ばしいことですね、カリス様!先ほど受信した広域通信によれば、フェンリル隊は、私たちがこうして敵を引きつけている隙に、すでにキャリフォルニア・ベースの司令部を占領しつつあるとのことです!カリス様の立てられた囮作戦が、見事に地上に平和をもたらしたのです!さすがは私のカリス様です!』
エリスなんて飛び交う銃弾の雨を避ける素振りすら見せず、堂々と歩きながらライフルを連射していやがる。放つ弾丸は正確に敵の胸をぶち抜き、飛んでくる敵弾は彼女のオーラを恐れるように不自然に逸れていく!見ていて恐怖すら覚えるわ!
『やはり、飛び道具よりも直接肉体を切り裂く剣はいい!!騎士として、非常にやりがいがあるというものだ!!ジオン公国の大義のために、その首を差し出せィ!!』
見れば、腰に提げていた軍用サーベルを引き抜き、猛スピードで敵の塹壕へ単身突っ込んでいくところだった! 敵の銃撃を紙一重で回避し、塹壕に飛び込んで次々と連邦兵を斬り伏せていく! 血飛沫が舞い上がってるのがここからでもハッキリ見える!
「お前ら……全員頭がおかしいのか!?思考回路が戦場仕様を通り越して狂犬になってるぞ!基地が占領されて作戦成功したところで、その前に俺たちの命が連邦どもに占領されてあの世行きになりそうなんだよ!!現実を見ろ現実を!」
『おいエルフリーデ!勝手に前に出るなと言っているだろ!騎士道精神だかなんだか知らないが、いくらなんでも突出が過ぎる!蜂の巣にされるぞ、戻れ!!』
マークがライフルを構えながら、エルフリーデをカバーするために必死に走り出す! 走った後の地面に機銃掃射の弾痕が穿たれていく! 副長の彼が一番まともに苦労してるのがよくわかるぜ!
『マリア姉さん!危ないから僕の背中の後ろにしっかり隠れてて!姉さんには指一本触れさせない!うおおおおおっ、死ね、死ね、死ねぇぇぇっ!!』
シェルドは、恐怖で半泣きになりながら、顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしてライフルを乱射している! だけど銃口は的確に敵の接近ルートを捉えていて、彼の必死の弾幕のおかげで防衛線はなんとか持ち堪えてる状態だ!
『え!う、嘘、どうしよう、どうしよう!!敵がすぐそこまで来てるじゃない!ええい、もうどうにでもなれ、これでも持っていけー!!』
パニック状態が頂点に達したマリアは、ライフルを投げ捨て手榴弾を次々と引き抜く! 安全ピンを引きちぎり、目をつぶったまま四方八方へ向けてヤケクソなフォームでバラマキまくる!
ドゴォン、ズガガガァンと凄まじい大爆発が連続! マリアが投げた手榴弾が偶然にも連邦軍の弾薬箱か燃料コンテナに直撃したらしく、連鎖爆発で接近していた敵歩兵中隊を一瞬で消し去ってしまった! 怪我の功名にも程があるだろ!
「誰か!誰でもいいから司令部に一刻も早い救援を呼べよ!!うちの部隊、モビルスーツを降りたらただの狂犬の集まりじゃないか!!敵より味方の暴走の方が怖いんだよ!」
『さっき通信を入れて、司令部に救援を要請してありますから大丈夫ですよ、カリス少佐。そんなに大声を張り上げなくても、ちゃんと聞こえています。……まあ、その救援が到着する前に、俺たちが死んでいなければ……の話ですけどね』
お前いつの間に俺の背後に立ってんだよ! 暗殺者か! そして新兵のくせに少しは焦れよ! なんだその『すべてを諦めました』みたいな悟りを開いた顔は!
俺のツッコミなどどこ吹く風で、ジュナスは静かに照準を合わせ直すのだった。
◇
結局、俺たちが全滅する前に、ガルマ大佐自ら率いる方面軍本隊のマゼラアタックの増援がギリギリで駆けつけてくれた。
連邦歩兵部隊は瓦解し、不死鳥隊は誰一人欠けることなく奇跡的に全滅を免れた。
「う……お、おえええええええええええっ……、げほっ、ごほっ……」
「大丈夫か?カリス。ほら、これで口をゆすげ。冷たい水だ」
マークが心配そうな顔で背中をさすりながら、水筒を差し出してくれる。
受け取った水を口に含んで吐き出し、ゆすぐ。それでも蒼白になった顔から血の気は戻らない。
「……はぁ、はぁ。ありがとう、マーク。……助かったよ。……宇宙での戦闘じゃさ、敵の戦艦もモビルスーツも、全部コクピットごと一瞬で爆発するか、きれいな光になって宇宙に漂うだけだったから、気づかなかったんだ……。だけど、地上は違う。地上じゃ、俺たちが倒した死体が、そのまま残るわけじゃないか……。あの、鉄と血の混ざった独特の匂いも、飛び散った生々しさも……っ」
「……はぁ、はぁ。……なぁ、マーク。うちの女の連中は大丈夫か?あいつらだってさっきの白兵戦で、直接自分の手で人間を……その、殺したわけだろ。ショックを受けて寝込んでたりしてないか……?」
十代の少女たちに殺し合いをさせてしまったのは、隊長として申し訳ない気持ちでいっぱいだったからな。
「あっちを見てみろよ、カリス。心配するだけ時間の無駄だって、一秒で理解できるから」
そこには、戦場に残されていたドラム缶に拾ってきた薪を放り込んで景気よく火を起こし、臨時の鉄板を乗せて、赤々と燃え盛る炎の中で豪快に肉を焼いている我が部隊の女性陣の姿があった!
『ほらエルフリーデ、この肉、ちょうど良い焼き加減よ!早く食べないと私が全部もらっちゃうからね!』
『素晴らしい戦果です、エターナ中尉!地上の肉は宇宙の合成肉とは比べ物にならないほど噛みごたえがあって、実に対空砲火のようにジューシーでありますな!ハハハ!』
エルフリーデに至っては、ついさっきまで連邦兵を血祭りにあげていたとは思えないタフさで、顔に返り血をつけたまま肉を貪り食っている!
『本当に喜ばしいですね!戦いの後の食事ほど公国の大義を感じられる瞬間はありません!カリス様にも早くこのお肉を届けて差し上げなければ!』
エリスも一切の精神的ダメージを感じさせず、優雅に肉を口に運んでいる!
さっきまで命がけの白兵戦を行っていたとは到底思えない、圧倒的な精神のタフさと獣のような力強さ! 繊細なセンチメンタリズムが入り込む隙なんて一ミリもないじゃないか!
『やっぱり、いつの時代も男の子より女の子の方が、こういう戦場じゃ遥かに強いもんなんですよ。……少佐も、早くメンタルを鍛えないと、いつかお姉様方に、綺麗に食い殺されちゃいますよ。色んな意味で、ね』
ジュナスが水を喉を鳴らして呷りながら、相変わらず無表情のままで的確すぎるアドバイスを投げてくる。
「………お前の言う通りかもしれないな。違いないよ。あいつらの前じゃ、連邦軍の戦車大隊すらただの肉の引き立て役だ。……ところで、シェルドとマリアはどこへ行った??」
『あ、あそこを見てくださいよ。あそこ、見てるこっちが恥ずかしくなるくらいだ』
マリアの豊かな胸の膨らみに真正面から顔を押し付けられ、あまりの感触と緊張から白目を剥きかけて硬直しているシェルドの無様な姿があった! 脳の処理能力が完全に許容量を超えて思考停止してるのが一目でわかるぞ!
「…………はあ」
俺も、あいつらの野生のパワーに当てられて頭がおかしくなる前に、ハマーンから貰ったパステルブルーの水玉模様のお守り……いや、匂い袋でも嗅いで、傷ついた精神を少しは落ち着かせるべきかね。
いや、待てよ。『ガチの本物の布』の存在を思い出すと、余計にいろんな意味で妄想が膨らんでストレスが悪化するような気がしてきたな。やっぱり開けるんじゃなかった! 安全確認なんてするんじゃなかったよ!
◇◇
俺たちの単独行動は、結果論だけで言えば、連邦軍の防衛線を完璧に崩壊させる最大の間接的要因となった。
軍上層部は、この勝利の裏で行われたフェンリル隊の隠密作戦を連邦の諜報網から完全に秘匿することを決定する。
そのための都合の良い目眩ましとして、本国のプロパガンダ放送は、大々的にこう発表したのだ。
「我が公国軍の誇る若き英雄、カリス・ジークフリード・フロートニック少佐率いる『不死鳥隊』は、わずかモビルスーツ八機という圧倒的な少数の戦力でありながら、連邦軍の防衛大隊の全火力を一手に引きつけ、これを完全に壊滅せしめた!彼らの超人的な活躍こそが、カリフォルニア・ベース無血開城の最大の立役者である!」と。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回は、不死鳥隊の地上戦初陣とカリフォルニア・ベース攻略を書きました。
新メンバー三人の印象や、地上戦の雰囲気、不死鳥隊の暴走とプロパガンダ報道の流れなど、感想をいただけると嬉しいです。